河童の里から移動して妖怪の山にある守矢神社へと続く索道を目指して早苗の後を北斗は付いて行く。その後に椛が監視するように後に続く。
「……」
北斗は赤く染まった木々の葉っぱを見渡す。
「綺麗ですか?」
早苗は歩きながら北斗に声を掛ける。
「えぇ。外の世界では、これほど綺麗な紅葉は見た事がありませんでしたので」
「そうですね。これも山に住む秋の神様のお陰です」
「秋の神様、ですか?」
早苗の言葉に、北斗は首を傾げる。
「はい。この妖怪の山には秋の神様の『秋静葉』さんと妹であり豊穣の神様の『秋穣子』さんが暮らしているんです」
「秋の神様に豊穣の神様ですか……」
北斗は当たり前の様に居る神様に、改めてこの幻想郷が常識の通じない所だと認識する。もう何度目の認識か分からないが。
ちなみにこの妖怪の山にはもう一人神様が住んでいるのだが、簡単に言及できないので、あえて早苗は触れなかった。
「この時期になるとこうして秋の風景をお姉さんの静葉さんが作り、妹の穣子さんが農作物の豊作を祈るんです。そのお陰で余程ことが無い限りは農作物が不作になることは無いんです」
「なるほど」
北斗はそれを聞いて声を漏らす。
「という事は、他の季節でもこういった神様が居るのですか?」
「そうですね。神様ではありませんが、冬に現れる妖怪や、春を告げる妖精は居ますよ。今の所夏に関わる妖怪や妖精は見たことありませんが」
「へぇ」
北斗は思わず声を漏らす。
それからしばらく歩くと、索道へと出て三人は守矢神社へと目指す。
道中山にある線路をちらほらと確認しつつ、三人は守矢神社へと到着する。
「ここが、守矢神社です」
早苗は神社の鳥居の前で北斗に見せ付ける。
「これが守矢神社……」
敷地の隅に聳え立つ四本の柱に立派な鳥居と社を見て、北斗は思わず声を漏らす。
(なんだか霊夢さん所の神社より立派かも)
と、かなり失礼なことを内心で呟く。
「っ!」
神社の境内で竹箒をはわいて落ち葉を集めていた霊夢はキッと妖怪の山のある方向を睨む。
「どうしましたか、ご主人様?」
近くで竹箒を持って落ち葉を集めていたる~ことが霊夢に問い掛ける。
「今とんでもなく失礼なことを言われたような気が」
「気のせいでは?」
「……」
「ここで私は持ち場に戻りますが、遠くからでも貴方達を監視しますので、下手な真似はしないように」
椛はそう言うと、飛び出して二人の元を離れて行く。
「……」
「椛さんは『千里先まで見通す程度の能力』を持っていますからね。どこからでも椛さんなら見えるんですよ」
「そうなんですか?」
北斗が椛の言葉に首を傾げていると、早苗が補足する。
「幻想郷では様々な能力を持っている方が多いですからね。ちなみに私は『奇跡を起こす程度の能力』があります」
「名前から凄そうですね」
「読んで字の如くです。まぁ起こす奇跡の規模次第で詠唱の長さは異なりますが」
「なるほど」
早苗の説明を聞き、北斗は頷きながら声を漏らす。
「今から神奈子様と諏訪子様をお呼びしますので、少々お待ちください」
彼女は北斗に一言言うと、社の中へと入る。
「……」
北斗は上着の右ポケットに手を入れて鉄道懐中時計を取り出すと、蓋を開けて時間を確認する。時刻は正午前だ。
「お待たせしました」
少しして早苗が社から出てくると、後ろから一人の女性と一人の少女が出てくる。
「ご紹介します。この御二方が私がお仕えしています、八坂神奈子様と、洩矢諏訪子様です」
(この二人が)
北斗は早苗が紹介した二人から放たれる人ならざる雰囲気に息を呑む。
「初めまして。幻想機関区の区長をしています、霧島北斗です」
北斗は姿勢を正すと、頭を下げる。
「君の事は早苗から聞いているよ、北斗君」
と、諏訪子は北斗に声を掛けるが、どことなく威圧的な部分が見られる。
今回は会談が目的だが、二人の裏の思惑としては霧島北斗がどんな人間であるかを見極めることである。
と言っても、諏訪子の場合は半ば私情が混じっているが。
「今日は我々の会談に応じてもらって、感謝する」
神奈子は頷くと、北斗を見る。
「立ち話もなんだ。客間で話をしよう」
「早苗。お茶を淹れて来てくれる」
「分かりました」
諏訪子が早苗にお茶を淹れてくるように頼み、二人は北斗を招いて社の中に入る。
客間に移動した三人はちゃぶ台を挟んで向かい合うように座る。
少ししてお茶を淹れた湯呑を載せたお盆を持った早苗が客間に入り、三人の前に湯呑を置き、そのまま三人の間に座る。
「今日はよく来てくれた。本来なら我々がそちらに赴くべきなのだがな」
「構いません。偶々こちらも山に用事があったので」
「早苗の話じゃ、午前中に河童達と話していたんだって?」
「えぇ。そこで河童の皆さんが見つけた蒸気機関車があったので、それの確認と回収に向かっていました」
「へぇ、山に蒸気機関車があったんだ」
「この間は確か三輌の機関車を見つけたばかりだったが、今起きている異変と何か関連があるのか……」
軽く会話を交わしてから神奈子は緑茶の入った湯呑を手にして一口飲む。
「それで、今日はどのようなご用件があるのでしょうか?」
改めて北斗は神奈子に問い掛ける。
「うむ。今日の会談の内容だが、そちらが計画している鉄道事業に、我々守矢も一枚噛ませて欲しいのだ」
「と、言うと?」
「早苗から聞いていると思うけど、私達は元々は外の世界に居たんだ」
「えぇ。確か信仰を得るために、この幻想郷に幻想入りしたとお聞きしています」
諏訪子の言葉を聞いて、北斗は以前早苗から聞いた話を思い出す。
「そうだ。我々神は信仰を得る事で力を強めることができる」
「そして逆に信仰が無くなれば、力を失い、やがて消滅する」
「……」
「外の世界に居た頃は信仰なんて殆ど無くて、私達の消滅は時間の問題だった」
「だから、私達は賭けとして、信仰を得る為に幻想郷に神社ごと幻想入りしたんだ」
「……」
「まぁ、最初は少しゴタゴタしていたが、早苗の布教活動のお陰で少しずつ信仰を得ている」
「でも、一つだけ問題があるんだ」
諏訪子の言葉に、北斗はすぐに彼女達が抱えている問題を察する。
「……参拝客が少ないんですね」
「そうだ」
「まぁ、場所が場所だからね。その上距離がある上に山道だから」
諏訪子は深いため息を付く。
「一応分社はあるからそこからでも信仰を得られるんだけど、やっぱり神社に来てもらうのとは得られる信仰は違うんだ」
「なるほど」
こういう類に詳しくないが、それでも大変そうであるのは分かって北斗は頷く。
「そこで、以前は河童と協力してロープウェーを作って参拝客を神社に招こうと計画していたのだが……」
「天狗達が建設に難色を示してね。まぁそれ以前に技術や環境的な問題があって、結局計画は中止になったんだ」
「そうなんですか」
二人の様子から大分苦労しているのを感じ取った。
「そんな時に、君達と蒸気機関車の幻想入りと、線路異変だ」
「……」
「早苗から聞いたけど、先日人里で会談を行ったんだよね。人里から離れた場所まで鉄道で繋ぐ計画を」
「えぇ」
「それに、我々守矢が計画に加わって、お前達の後ろ盾になる」
「つまり、スポンサーという事ですか?」
「そう思ってもらえても構わないよ」
「……」
「今北斗君の所で困っていることは無いかな? 例えば、燃料の石炭の調達をどうするか、とかね」
「……」
諏訪子の言葉に北斗は何も言えなかった。
幻想機関が抱える最大の問題は、石炭を何処から補給するかだった。
貯蔵量はまだあるものも、このまま補給が無ければ一年以内に底を突く可能性があった。
「石炭の事なら、私に任せてよ」
「それってどういう事ですか?」
胸を張る諏訪子に北斗は首を傾げる。
「つまり、こういう事だよ」
と、諏訪子は両手を間隔を空けて合わせると、両手とその間が光り輝く。
少しして光が収まると、ちゃぶ台の上に野球ボールぐらいの大きさの石炭が現れる。
「っ!?」
北斗は突然現れた石炭に目を見開く。
「こ、これは…・・・!?」
「これは私の『坤を創造する程度の能力』で生み出したんだよ」
「坤を創造する程度の能力?」
「坤は八卦で地を表す。まぁ簡単に言えば大地関連の物を創造し、操る能力だよ」
「……」
北斗はでかいスケールの能力に言葉が出なかった。
「諏訪子様の能力なら、物質を無から創造するのは容易いんです」
「まぁ、全盛期と比べると大分力は落ちちゃっているんだけどね」
(それでも凄いんですが)
苦笑いを浮かべる諏訪子に、北斗は内心で突っ込みを入れる。
だが、同時に北斗にとっては良い意味で誤算だった。
こんな短期間で石炭を手に入れられる手段を見つけられたのだから。
「さすがに十分な量は一度に作れないけど、それでも石炭を供給出来るようになるのは、助かるんじゃないかな?」
「え、えぇ」
「まぁ、石炭ならもしかしたら地底で見つかるかもしれんが」
「……?」
神奈子の呟きに北斗は首を傾げる。
「この幻想郷の地下には地底世界があるんです。その入り口はこの妖怪の山にあるんです」
「地底世界ですか」
ファンタジックな場所に北斗は思わず声を漏らす。
「はい。と言っても、そこに暮らすのは忌み嫌われた妖怪や怨霊が暮らしている危険地帯でもあるんですが」
地底に関しての早苗の説明に北斗は息を呑む。
「地底では様々な鉱石が見つかっていると言う噂がある。そこにもしかしたら石炭もあるかもしれんな。まぁ、容易に足を踏み入れる場所ではないが」
「そうですか……」
北斗は少しばかり残念そうな表情を浮かべる。
石炭を手に入れられるかもしれない場所が判明したが、簡単に向かうことができない場所とあって、少し残念だった。彼からすれば石炭の入手手段は多い方が良いのだ。
しかし、現時点で山に入る事が出来ないので、追々石炭の輸送方法を考えなければならないが。
「それで、どうする?」
神奈子はスゥと目を細めて、北斗を見る。
「……」
北斗はしばらく悩むが、ここまで来ると答えは一つしかない。
それに、この幻想郷で後ろ盾となる存在があるのは、新参者である幻想機関区にとっては心強い。
「……こちらとしては、断る理由がありません」
「……」
「こちらからも、ご協力をお願いします」
北斗は頭を深々と下げる。
「あぁ。よろしく頼む」
神奈子は右手を差し出すと、北斗も右手を差し出して握手を交わす。
「そういや、もうお昼か」
と、諏訪子が壁に掛けられている時計を見て呟く。
「ちょうどいい。休憩がてら昼食を取るとするか」
「早苗。お願い」
「分かりました」
早苗は立ち上がると、客間を出て台所へと向かう。
「あの、自分も良いんでしょうか?」
「あぁ。昼はまだだろ?」
「そうですが……」
「なら、ちょうどいい。会談内容以外で聞きたい事があるからな」
「は、はぁ」
北斗は戸惑いを覚えるも、神奈子達のご好意に甘えて昼食を取ることにした。
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