東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第34駅 姉妹の動向

 

 

「夢月。一体ここで何をしているのかしら?」

 

「ね、姉さん」

 

 ニッコリと笑みを浮かべる少女に、夢月は苦笑いを浮かべる。

 

「夢月さん。あの人は?」

 

「え、えぇと、それは……」

 

 北斗が夢月に問い掛けるも、彼女はとても言いづらそうにして視線を左右に揺らす。

 

 

「初めまして。私の名前は幻月。そこに居る夢月の姉よ」

 

「夢月さんのお姉さんですか?」

 

「えぇ」

 

 少女こと幻月は北斗に自己紹介をすると、再び夢月を見る。

 

「それで、どうしてこんな所に居るのかしら、夢月?」

 

「そ、それは」

 

「私と喧嘩しては急に家を飛び出して、その上何日も帰ってこないなんて」

 

「……」

 

「あの後どうなったか、知らないわけが無いわよね?」

 

「それは……」

 

 威圧感がひしひしと伝わる笑顔で問われて、夢月は苦笑いを浮かべる。

 

 

「あれ? 夢月さんお姉さんの過激なスキンシップが嫌で幻想郷に来たって言ってませんでしたっけ?」

 

「ちょっ!? それは!?」

 

 と、北斗の何気ない発言に夢月は姉にも見せた事の無いぐらいに慌てた様子で北斗に向き直る。

 

 夢月は最初こそ家出の理由を隠していたのだが、少しして北斗に家出の理由を伝えていた。内容は姉の過激なスキンシップに嫌気が差したから、との事だった。

 

「へぇ~」

 

 と、背筋が凍るほどの声を幻月が漏らすと、夢月は背筋が真っ直ぐに伸び、冷や汗が滝の如く溢れ出る。

 

「そんな理由で。ふ~ん?」

 

 夢月が再び姉の方に振り向くと、青筋が増えた幻月が引き攣った笑みを浮かべている。

 

「確かにちょーと過激な事はしていたけど、それを理由に家出したって説明するなんてねぇ」

 

(過激な点は自覚しているんだ)

 

 北斗は場違いにも納得する。

 

「でも、嘘を付いてここに仮暮らしをするのはどうかと思うわよ」

 

「い、いや、それは……」

 

「問答無用!! 覚悟しなさい!!」

 

 遂に怒りを露にした幻月の怒号が機関区に響き渡る。

 

 

 

 直後に夢月の悲鳴が響き渡る。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 しばらくして線路の上に「うぐー」と声を漏らしながら、頭にたんこぶを作ってうつ伏せに倒れている夢月の姿があった。

 

「全く……」

 

 腕を組んでご立腹な様子の幻月はうつ伏せに倒れている夢月を睨む。

 

「夢月さん……喧嘩して出て行ったんですね」

 

「えぇ。『私は悪くない!!』って言って飛び出したのよ」

 

「はぁ。しかしどんな理由で喧嘩したんですか?」

 

「しょうもない理由よ。聴く必要は無いわ」

 

 幻月はため息を付く。

 

 

 

 まさか楽しみに取っていたプリンを夢月に食べられて住んでいる館を全壊させるまでに大喧嘩したとは言えない。

 

 

 

「そうですか」

 

 北斗はそれ以上聞くことは無かった。余計な詮索は自分の首を絞めるだけだと言うのは身を持って体験しているからだ。

 

「ごめんなさいね。妹が迷惑掛けて」

 

「いえ、迷惑だなんて。短い間でも夢月さんは雑用とか掃除とか手伝ってくれましたし」

 

「……え?」

 

 すると幻月は信じられない事を聞いたような驚いた表情を浮かべる。

 

「夢月が、手伝った?」

 

「えぇ。清掃とか、雑用とか、その辺りを」

 

「嘘でしょ」

 

 幻月は夢月を驚愕の表情を浮かべると、彼女の傍に近づいてしゃがみ込む。

 

「本当なの、夢月?」

 

「ほ、本当よ、姉さん」

 

 夢月は頭に出来たたんこぶからの痛みで涙目で表情を顰めながらも顔を上げて短く答える。

 

「一応泊めて貰っているんだから、当然でしょ」

 

「……」

 

 と、夢月の言葉になぜか不審がる幻月だったが、北斗と見比べると僅かに口角を上げる。

 

「ふーん、なるほどねぇ」

 

 なぜかすぐに納得した幻月は立ち上がり、北斗を見る。

 

「ところで、あなたの名前は?」

 

「え? は、はい。霧島北斗です」

 

「霧島北斗……」

 

 幻月は顎に手を当てて一考すると、再び夢月の元に向かい、耳打ちをする。

 

 

 

 

 

「と言うわけで、私もここに泊めて貰っても良いかしら?」

 

「何が『と言うわけで』なんですかねぇ?」

 

 幻月は夢月を隣に立たせてそう言うと、北斗は突然の変わりように怪訝な表情を浮かべて思わずツッコむ。

 

「まぁ、正直な所ね、私達が住んでいた館は夢月との喧嘩で壊れちゃったから、今は元々住んでる住人に直させているのよ。元々夢月を連れ戻してこの子にも手伝わせるつもりだったけど」

 

「は、はぁ」

 

 北斗は不憫な館の住人に思わず同情する。

 

「だからね、住む場所が無いからちょうど良かったのよ」

 

「……ちょうどいいって」

 

「もちろん、夢月みたいに泊めて貰う代わりに働くわよ。働き手が増えるのは助かるんじゃない?」

 

「それは……」

 

「飲食に関してもさほど気にしなくてもいいわ。私達悪魔は必要な時に必要な分だけ摂ればいいから」

 

「……」

 

「それに、実力なら問題無いわ。夢月と合わせれば敵う相手は少ないわ」

 

「……」

 

 人の話を聞かずどんどん話を進める幻月に北斗はげんなりする。

 

(ホント幻想郷の人たちは人の話を聞かないないでどんどん話を進める……)

 

 彼はため息を付きつつ内心でぼやく。まぁ正確には人ではないのだが。

 

 しかし北斗は彼女の申し出を容易に断ることは出来なかった。

 

 最初見た時から彼は感じていたのだが、幻月から只ならぬ気配を感じ取っていた。

 まぁ夢月の姉である以上、当然と言えば当然なのだが。

 

 断ったら何をしでかすか、分からない。

 

「……分かりました。館が直るまでは、ここに泊まるのを許可します」

 

「あらそう? 許可してくれてありがとう!」

 

 幻月は笑みを浮かべると、夢月に向き直る。

 

「夢月も、改めてよろしくね」

 

「う、うん」

 

 笑みを浮かべる幻月に、夢月は引き攣った笑みを浮かべる。彼女からすれば姉の笑みが別の意味にしか見えないからだ。

 

(面倒ごとが無いのを祈るばかりか)

 

 彼は内心呟きながら深くため息を付く。

 

 多くの悪魔が住む機関区なんて、世界広といえどここだけだろう。まぁそれ以前に機関車の神霊や妖精が居る時点で、もはや普通じゃないのだが。

 

 

「また居候人が増えるのね」

 

「あぁ」

 

 休憩に入った七瀬が北斗に呆れた様子で声をかける。

 

「まぁ、別に手が掛からないなら問題は無いが」

 

「……」

 

 飲食についてはほぼ彼だけの問題なので、むしろ人手が増えるのでメリットが大きい。しかし悪魔なので、デメリットが少ないわけではない。

 いつか悪魔祓いが来ないのを祈るばかりだ。

 

「兎に角、15時に出発だ。それまでに補給整備を終えるように」

 

「了解」

 

 北斗はポケットから鉄道懐中時計を出して蓋を開け、時刻を確認して七瀬に出発時刻を告げる。彼女は敬礼してすぐに自身の半身(79602号機)の元へと向かう。

 

 その後彼は再び整備工場に赴き、しばらくにとりと会話を交わして宿舎の執務室へと戻り、時間を潰すのだった。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、夢月」

 

「な、何、姉さん?」

 

 それからして機関庫周辺で箒を使って掃除していた夢月の後ろから幻月が抱きつき、戸惑いを見せる彼女の耳元で声を掛ける。

 

「本当の所は、どうなのかしら?」

 

「ど、どうって?」

 

「そりゃ、ここに居続けた理由よ」

 

「それは―――」

 

「家出が理由、何て言うのは、居続ける為の建前よね」

 

「……」

 

 夢月が言おうとしたのを遮り、幻月は彼女が言おうとした言葉を口にする。

 

「面倒くさがりなあなたが掃除とか雑用とかするはずもないし、それ以前に人間の下に居続けるなんて、ありえないもの」

 

「……」

 

「それだけ、彼の違和感(・・・)が気になるのかしら?」

 

 幻月の指摘に、夢月は黙り込む。それが肯定の意であるのは明らかだ。

 

「まぁ、私もその点は気になっていたのよね」

 

「姉さんも?」

 

「えぇ。まぁ人間を多く見てきたってわけじゃないけど、それでも彼はどことなく、普通とは違う」

 

「……」

 

「それに―――」

 

 と、幻月は一旦間を置きつつ夢月から離れる。

 

「彼、彼女に似ているからね。あの瞳とか、ね」

 

「それは……まぁ言われてみれば、確かにそうよね」

 

 幻月の指摘に夢月は一瞬考えて、頷く。

 

「まぁ、どっちにしても館は修復中だから、しばらくここに居ないといけないのは事実。その間はこの幻想郷を楽しみましょう」

 

「楽しむ、か」

 

 夢月は浅くため息を吐く。 

 

 

 

 

 

 

 

 




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