東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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昨日投稿するはずでしたが、寝落ちしちまった……orz

そういえば東方の新作が出るようですね。地獄での異変が舞台らしいので、そうなると東方旧作一弾以来となりますね。あれも一応ルート次第では地獄での異変が舞台だったので。
色々と期待が持てますが、今後の情報に期待です。


第35駅 紅魔館へ出発

 

 

 

 その後紅魔館への出発の時刻となり、北斗は79602号機が牽く客車に乗り込んで紅魔館を目指した。

 

 

「……」

 

 ゆっくりと走る客車の中、窓を開けて肘を置く北斗は幻想郷の景色を眺めていた。

 

(吸血鬼か。一体どんな感じなんだろうな)

 

 森林を眺める中、彼はこれから会う紅魔館の主、レミリア・スカーレットのことを考えていた。

 

 正直な話、外の世界での吸血鬼のイメージが強く、良い印象を持っていない。

 

 ちなみに彼の中にある吸血鬼のイメージは、特徴的なポーズを取ることで有名な漫画に登場する吸血鬼や、ラスボスとしか思えないのに主人公と言う吸血鬼の旦那とか、よくあるイメージの吸血鬼とかである。

 

 とはいえど、名前からして女性である可能性が高いので、恐らくそれらとは限らないが。まぁそれでも様々な年齢の女性の姿をしている吸血鬼とかが連想されるが。

 

(何も無ければいいんだが……)

 

 一々考えるとキリが無いが、考えなくても不安なものは不安である。

 

 

「大丈夫ですよ、北斗さん」

 

 と、そんな不安な様子である北斗を見てか、向かい側に座る彼女が声を掛ける。

 

 守矢の風祝こと東風谷早苗である。

 

「レミリアさんは我が儘で高圧的なところはありますけど、優しい人ですよ」

 

「人間じゃありませんけどね……」

 

 彼女の言葉に北斗はかえって不安が増して、苦笑いを浮かべる。

 

 そもそも、なぜ夕食会のことを知らないはずの彼女がここに居るのか。

 

 なぜ夕食会のことを知っているのかを彼女に聞いたところ『明日香さん経由でにとりさんから聞きました』とのことだ。出発前に早苗が機関区を訪れて、同行したいと申し出があったのだ。

 

 なぜ同行したいのか彼女に問うと、『守矢が幻想機関区と協力体制を取っていると他に示したい』と神奈子と諏訪子の要請があったとのことだ。

 つまり守矢は幻想機関区の後ろ盾になっていると言うのを示す目的があるとのことだ。それには関係者を同行させるのが一番効果的である。

 

 それと同時に早苗自身が北斗の護衛を申し出たいとの意思があったのもある。

 

 北斗は早苗がレミリア・スカーレットと知り合いであるのを聞いて、もしもの事を考えて彼女の同行を許可した。

 

「大丈夫です。もしものことがあったら、私が北斗さんをお守りします」

 

 不安な様子を見せる北斗に、両手を握り締めながら早苗は自信満々に語る。

 

(お守りします、か)

 

 しかしそんな早苗の厚意は逆に北斗からすれば、自分が無力であるのを改めて突きつけられるようなものだった。

 とは言えど今の自分に戦う為の力が無いのも事実だ。

 

「北斗さん」

 

 そんな無力な自分に苛まれている北斗に気付いてか、早苗が声を掛ける。

 

「頼る事は決して恥ずかしいことではありません。一人で出来ることなんて、高が知れています」

 

「……」

 

「ですから、困った時はいつでも私達を頼ってください。必ずお力になりますから」

 

「早苗さん……」

 

 彼女のやさしい姿に、北斗は何も言えなかった。 

 

「それに……」

 

 と、早苗は両手を組み合わせ、微笑みを浮かべる。

 

「私は、北斗さんのお力になりたいんです」

 

「……」

 

「だから、思う存分、私に頼ってください」

 

「早苗さん……」

 

 何だか重い早苗の好意に北斗は何だか逆に申し訳なく思えてきた。

 

(でも頼る、か……)

 

 彼は内心呟くと、外の景色に視線を向ける。

 

 

 

「……」

 

 その頃、79602号機の運転室機関士席に座る七瀬は肘置きに左肘を置いて身体の一部を窓から出し、前を見ながら右手に持つ加減弁を引いたり戻したりして機関車の速度を調整する。

 隣では機関助士の妖精が左手に焚口戸の蓋に繋がれた鎖を持ち、右手に持つ片手スコップを炭水車に積まれた石炭の山に突き刺し、掬い上げた石炭を左手に持つ鎖を持ち上げて焚口戸を開け、火室へと石炭を放り込む。

 

 それを数回繰り返して火室全体に石炭が行き渡るように投炭して片手スコップを置き、注水機のバルブを回して炭水車から水をボイラーへと送り込み、次に各バルブを捻って蒸気を各所へと送り込む。

 

(やっぱり、こうやって走るのは気分がいいわね)

 

 普段表情が乏しい彼女だったが、今は少しばかり表情が綻んでいる様に見え、ハイライトの無い瞳に少しばかり光が戻っている。

 

 今は殆ど入れ替え作業に従事しているとは言えど、元々は長距離を走る貨物列車用に設計された蒸気機関車だ。こうやって走っていると気分が良いのだろう。

 

(こうして自然の中で走っていると、あそこで走っていた頃を思い出すわね)

 

 森林を見ていると、彼女は緑が多かった場所で走っていた頃を思い出し、微笑を浮かべる。

 

 

 

 少しして少し霧が掛かった霧の湖付近に着き、視界不良のため79602号機は安全を考慮して速度を落とし、ゆっくりと前照灯と副灯を照らして時折存在を知らせる汽笛を鳴らしながら走る。

 

「この霧を抜けたら、もうそろそろ紅魔館に着きますよ」

 

「そうですか」

 

 窓から外の景色を見ていた早苗がそう言うと、北斗は霧掛かった景色を目を細めて眺める。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 それからして列車は霧を抜けると、湖の近くでゆっくりと速度を落とし、停車する。

 

「あれが紅魔館ですよ」

 

「あれが……」

 

 二人は窓から霧の湖の近くに建つ大きな館を見る。

 

 赤いレンガで出来た時計塔を持つ大きな館を囲うように同じ赤いレンガで出来た塀を持つ、何に至るまで赤いのが特徴的だ。

 

「それでは、行きましょう」

 

「えぇ」

 

 二人は席から立ち上がると、北斗が先に客車から降りて、早苗の手をとって彼女が降りるのを手伝う。

 

「七瀬。ここで待っていてくれ」

 

「了解」

 

 北斗は運転室に居る七瀬に一言声を掛けて、紅魔館を目指す。

 

 

 

「まさかこんな早くに来るなんて」

 

 と、窓から停車している列車を見るレミリアは少し困り気味な表情を浮かべる。

 

「どうしますか?」

 

 後ろに控えている咲夜が声を掛ける。

 

「まぁ、来てしまったものは仕方ないわ。案内してあげなさい」

 

「畏まりました」

 

 彼女は頭を下げると、一瞬にしてその姿を消す。

 

 

 

 

「……」

 

 そして紅魔館を囲う塀の門の前に二人は到着したが、北斗は首をかしげ、早苗は苦笑いを浮かべる。

 

「……zzz」

 

 二人の視線の先には、立ったまま眠っている門番と思われる女性が居たのだ。それもご丁寧に絵に描いたような鼻提灯を作ってだ。

 

 背丈は女性としては高く、腰まで伸びた赤い髪の一部を三つ編みにして側頭部左右に垂らしている。頭には龍と書かれた星の飾りをつけた帽子をかぶっており、華人服とチャイナドレスを足して割ったような淡い緑色を主体にした服装をしている。

 後身体のスタイルは女性としてはかなり良い方だったりする。

 

「……」

 

 北斗は無言のまま女性を指差しながら早苗を見る。

 

「いつもの事ですから、大丈夫ですよ」

 

「い つ も の ……」

 

 彼は「うーん」と唸りながら目頭を押さえる。

 

 居眠りしていて大丈夫なのか。

 

「この人は……正確には人じゃなくて妖怪なんですけど、紅魔館の門番をしている『紅美鈴』さんです」

 

「この人も妖怪なんですか」

 

 北斗は女性こと美鈴を見て首を傾げる。

 

(幻想郷の妖怪って、人の形ばかりだな)

 

 鴉天狗の文といい、河童のにとりといい、白狼天狗の椛といい、どの人物も彼のイメージにある妖怪とはかけ離れていた。

 それと夢幻姉妹とエリスの悪魔達もだ。

 

(それに、妙に女性が多いような気がする)

 

 彼はそんな些細な疑問を浮かべる。

 

 少なくとも彼がこれまで幻想郷で会ってきた者達は女性が殆どだ。といっても別に自分以外の同性を見た事が無いわけではなく、人里でも普通に男性は居るし、機関区を訪れている河童達の中に幼い見た目の河童の男子もちらほらといた。

 

 まぁ今はどうでも良いことだ。

 

 彼は疑問を振り払い、居眠りをしている美鈴を見る。

 

「にしても、仮にも門番なら、本当に大丈夫なんでしょうか?」

 

「まぁ、初めて見るとそう感じますよね。私もそうでしたし」

 

 早苗は苦笑いを浮かべる。

 

「でも、美鈴さんには『気を使う程度の能力』がありますので、一応これでも仕事はしているんですよ」

 

「気を使う程度の能力?」

 

「はい。気と言うのは、ぶっちゃけ言えば、ドラ○ンボ○ルみたいな感じと思っていただければ」

 

「あぁ、なるほど」

 

 早苗の非常に分かりやすい例えに北斗はすぐに理解し、納得する。

 

「じゃぁ、か○は○波とか○王拳みたいなことも出来るんですか?」

 

「後者は分かりませんけど、前者なら美鈴さんのスペルカードに似たような物がありますよ」

 

「へぇ……リアルか○は○波か。ちょっと観てみたいな」

 

 と、彼は小さくボソッと呟く。彼も男の子なので、そういう憧れはあるのだ。

 

「まぁ兎に角、美鈴さんは気を感じ取る事ができますので、動きとか殺意とかをすぐに察知して侵入者を排除するんですよ。それに武術に長けているようなので」

 

「なるほど」

 

 いよいよドラ○ンボ○ルじみてきたな、と北斗は呟く。

 

「それじゃぁこうしている間も俺達には気付いているんですか?」

 

「たぶん気付いていると思いますよ。ただ、眠り具合で気付かない場合もあると思います」

 

「はぁ……」

 

 早苗の説明に彼は半ば呆れたように声を漏らす。

 

「でも、このまま待っていても時間が」

 

 北斗は腕を組むと、そう呟く。

 

 ここで起こそうと言う選択が無かったのは、あえて選ばなかったというのがある。起こして逆切れでもされたらたまったものではない。

 

「大丈夫です。美鈴さんを起こすとっておきの方法があるんですよ」

 

 と、早苗は自信満々にニヤリと笑みを浮かべてそのご立派な胸を張る。

 

「とっておきの方法、ですか?」

 

「はい」

 

 北斗が首を傾げていると、早苗は深呼吸をして大きな声を上げる。

 

「こんにちは、咲夜さん!」

 

「わぁぁぁぁぁ!? 寝てません! 寝てませんよぉっ!?」

 

 と、早苗の声と言うか、名前に反応してか、美鈴は慌てて目を覚まし、姿勢を正す。

 

 

「って、あれ?」

 

 直後に美鈴は違和感を覚えて周囲を見渡し、自分の前に早苗の姿があるのに気づく。

 

「こんにちは、美鈴さん」

 

「あっ、はい。こんにちは、早苗さん」

 

 彼女は戸惑いながらも挨拶すると、周りを見渡してから小さい声で早苗に声を掛ける。

 

「あ、あの、咲夜さんは?」

 

「いませんよ。冗談ですから」

 

「じょ、冗談……」

 

 美鈴は苦笑いを浮かべつつ安堵の息を吐く。

 

「もう、心臓に悪いですよ」

 

「でも確実に起こすにはこれしか方法が無かったので」

 

「ちゃんと起こしてもらえれば起きますよ」

 

「でもこの間普通に起こしても起きなかったですよね」

 

「……」

 

 ジトッと睨みながら言う早苗に美鈴は冷や汗をかきながら視線を逸らす。

 

(本当に大丈夫なのか?)

 

 そんなやり取りを後ろで見ていた北斗は内心呟く。

 

「と、ところで、後ろの男の人は?」

 

 話題を変えようと美鈴は早苗の後ろで待っている北斗を見ながら彼女に問い掛ける。

 

「紹介しますね。幻想機関区の区長の霧島北斗さんです」

 

「霧島北斗です」

 

 早苗に紹介されて北斗は略帽を取って頭を下げる。この時早苗の視線が一瞬動いたのだが、美鈴は気付かなかった。

 

「あぁ。例の外来人ですね。新聞見ましたよ」

 

 美鈴は天狗の新聞の記事を思い出して頷く。

 

「お嬢様から話はお聞きしています。咲夜さんから手紙を貰いましたか?」

 

「はい。一応招待状を兼ねているようなので」

 

 北斗はポケットから咲夜より渡されたレミリアからの手紙を取り出す。

 

「では、拝見させて頂きますね」

 

 美鈴は北斗から手紙を受け取り、中身を確認する。

 

 

「お嬢様の手紙で間違いないですね」

 

 確認し終えた彼女は手紙を北斗に返す。

 

「でも、大分約束の時間より前に来ましたね」

 

「約束の時間より前に来るのは常識ですから」

 

「その割には随分前に来ましたね」

 

 美鈴は苦笑いを浮かべる。

 

 夕食会は夜行われるのだが、明らかに夕方より前ぐらいなので、普通に太陽が昇っていた。

 

「夕食会前にあれをレミリアさんに見せればと思って」

 

「あぁ、なるほど。お嬢様結構興味津々でしたからねぇ」

 

 北斗の視線の先にある79602号機を見て、彼女は納得する。

 

「それにしても、美鈴さん相変わらずでしたね」

 

「い、いやぁ、あれはですね」

 

 早苗が居眠りのことを指摘すると、美鈴は少し慌てる。

 

「今日みたいに天気が良いとどうしても眠気が出てくるんですよ」

 

 彼女は苦笑いを浮かべるが、その点は北斗も同情できた。心地よい環境でジッとしているとどうしても眠気が現れるからだ。

 

 でも堂々とと居眠りをするのはどうかと思うが。

 

 

「なら、こんな天気じゃなかったら起きていられるのかしら」

 

「いやぁそれはそれで起きれるかは……っ!?」

 

 と、この場に居ないはずの声がして美鈴の顔が真っ青に染まる。

 

「……」

 

 油の切れたブリキの人形の様に恐る恐る彼女は後ろを振り向くと、そこには笑みを浮かべた咲夜の姿があった。

 

 そう。イイ(・・)笑みを浮かべて。

 

「……あ、あの、咲夜さん?」

 

「何かしら?」

 

「いつからそこに?」

 

「早苗が霧島様の紹介をしている辺りかしら」

 

「……」

 

 美鈴はガクブルに震える。ちなみに早苗と北斗の二人は位置的に見えていたので普通に咲夜が現れている事に気付いていた。

 

 しかし咲夜からの無言の圧力に二人は何も言えなかった。

 

「それで、何か言い訳はあるかしら?」

 

「……」

 

 死刑宣告に等しい咲夜の言葉に、美鈴は視線を左右に動かして冷や汗を掻きながら、意を決して口を開く。

 

「お客様です♪」

 

 

 直後に美鈴の悲鳴が辺りに響き渡った。

 

 

 




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