東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第36駅 カリスマは壊すもの(笑)

 

 

 

 

 

「……」ヤムチャシヤガッテ……

 

 少しして紅魔館の門の前には、全身にナイフが刺さってうつ伏せに倒れた美鈴の姿があった。

 

「うわぁ……」

 

 その光景に北斗はドン引きし、思わず声を漏らす。

 

「美鈴が失礼な所を見せてしまって、申し訳ございません」

 

 咲夜は深々と頭を下げてお辞儀する。

 

「あ、あの、大丈夫なんですか?」

 

「美鈴は妖怪だから、これくらいはかすり傷程度です」

 

「えぇ……」

 

 扱いの雑さに北斗は思わず声を漏らす。

 

「ところで、どうして早苗が居るのかしら? 招待したのは霧島様だけなはずよ」

 

 と、咲夜の視線は北斗の隣に立つ早苗に向けられる。

 

「私は北斗さんの護衛で神奈子様と諏訪子様から派遣されましたので」

 

「……護衛ですって?」

 

 と、咲夜の視線が鋭くなる。

 

「と言うのはあくまでも建前です。私が北斗さんを護衛することで、私達守矢が幻想機関区と強い繋がりを持っている、というのを示す目的がありまして」

 

「……」

 

「私はあくまでも同行人ですので、お気になさらず」

 

「……はぁ。全く、貴方達何時の間にそんな関係に?」

 

 呆れたように咲夜は額に手を置き、ため息を付く。

 

「つい昨日です」

 

「……」

 

 ご立派な胸を張りながらドヤ顔で言う早苗に咲夜は再度ため息を付く。

 

「まぁ、いいわ」と呟くと、気持ちを切り替えて北斗に向き直る。

 

「改めまして、ようこそ紅魔館へ。お嬢様の元へ案内いたします」

 

 彼女は頭を下げると、門の扉を開けて二人を中へと入れる。

 

 

 

 

 早苗と北斗の二人は咲夜に案内され、館の中を歩く。

 

(外観も赤かったけど、中も真っ赤だなぁ……)

 

 北斗が中を見て最初に抱いた感想がそれだった。

 

 外見も真っ赤なら、中も真っ赤だった。名は体を表すと言うが、ここまで真っ赤だとかえって清々しい。

 

(と言うか、外観より広く感じるような)

 

 北斗はある違和感を覚えていた。

 

 紅魔館は確かに大きな館だが、それにしては中が妙に広く感じるのだ。

 

「中が広いと感じられますか?」

 

 と、早苗が周囲を見ている北斗に声を掛ける。

 

「はい。外観と比べると、妙に中が広く感じるので」

 

「それは咲夜さんが能力を使って空間を広げているんですよ。そうですよね」

 

「えぇ」

 

 早苗がそう言うと、振り向かず彼女が短く答える。

 

「咲夜さんの能力? 時間を操るだけじゃないんですか?」

 

 北斗がそう言うと、咲夜は立ち止まって驚いたように振り向く。

 

「気付いていたのですか?」

 

「あっいえ、夢月さんって言う機関区に居候している方がそう言っていたので」

 

「あのメイドの方でしょうか?」

 

「はい」

 

「そう……」

 

 彼女はそう言うと再び前を向き、歩き出す。

 

「霧島様の言う通り、私は『時間を操る程度の能力』を持っています。その能力の応用として、館内部の空間を広めているのです」

 

「なるほど。分からん」

 

 と、彼は納得したが、理解できなかった。 

 

「そういえば、紅魔館にも妖精が居るんですね」

 

 と、北斗が周りを見ると、背中から半透明の羽を生やしたメイド服を着た妖精が館のあちこちで各々の仕事をしていた。

 

「えぇ。と言っても、真面目に仕事をしないので、実質9割の家事は私が行っています」

 

(ブラック過ぎるんですがそれは)

 

 自発的にとは言えど、ブラックな状況に彼は内心ツッコむ。人手があるのに役に立たない。人手不足より厄介な状況だろう。

 

「本当に、真面目に働いている貴方の所の妖精が羨ましいです。交換して欲しいし、鍛えて欲しいぐらいに。でも妖精がその程度で根本が変わるはずが無いし……」

 

「えぇ……」

 

 ブツブツと愚痴を零す咲夜に彼は若干引くのだった。

 

 

 しばらく咲夜に案内されて館内を歩くと、ある一室に案内される。

 

「お嬢様。霧島様をお連れしました」

 

「ご苦労様、咲夜。お茶の用意をしてきてくれるかしら?」

 

「畏まりました」

 

 窓から景色を見ている彼女がそう言うと、咲夜の姿が消える。 

 

「……」

 

「初めまして、外来人さん」

 

 と、椅子が回って後ろを向いていた少女が姿を現す。

 

「私がこの紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ」

 

 少女ことレミリアはカリスマ溢れる不適な笑みを浮かべる。

 

「……」

 

 北斗は一瞬間を置いてから、口を開く。

 

「初めまして。幻想機関区の区長をしています、霧島北斗と申します」

 

 自己紹介しつつ、頭を下げる。

 

「今回は夕食会にご招待していただき、ありがとうございます」

 

「あなたとあなたが持っている代物に興味があったから、話を聞いてみたいと思ったのよ。まぁさすがにこんなに早く来るなんて思っていなかったけど」

 

 と、レミリアは鋭く目を細める。

 

「約束の時間前に来るのは常識ですので」

 

「それにしては早過ぎよ。夕食会までまだ時間があるじゃない」

 

「それに関しては、機関車を早い内に見てもらおうと思ったので。一応手紙には機関車一輌を持ってきてもらえるように書かれていたので」

 

「それは、いやまぁそうなんだけど……」

 

「うーん」と彼女は静かに唸る。

 

「ところで、貴方を招待した覚えは無いんだけど、早苗?」

 

 彼女は北斗の後ろで控えている早苗に視線を向ける。

 

「それは招待されていませんから」

 

「違う、そうじゃない」

 

 あっけからんように答える早苗にレミリアは思わずツッコみを入れる。

 

「私が北斗さんに同行しているのは、我々守矢が幻想機関区と協定を結んだので、その繋がりを見せる為に私が派遣されたからですよ」

 

「そ、そうなの?」

 

「えぇ」

 

 北斗が返事を返して、レミリアは考えるような仕草を見せて黙り込む。

 

(これは、もういよいよ彼と敵対関係は取れないじゃない)

 

 彼女は内心呟く。

 

 仮にも幻想機関区と敵対した場合、必ず守矢陣営が付いてくるのだ。いくらなんでも神が三人も相手になるとレミリアでも勝てない。その上まだ他にも彼らと親しい間柄の関係を持つ者達が居る可能性があるので、いよいよ勝ち目が無いだろう。

 

 まぁ彼女自身そもそも彼との敵対関係を望んでいないが。

 

 

 レミリアは咳払いをして、北斗を見る。

 

「ま、まぁ気を使ってくれるのは人間にしては殊勝な心がけね。そこは褒めてあげる」

 

「ありがとうございます」

 

「……」

 

 ふと、彼女は怪訝な表情を浮かべて首を傾げる。

 

「……大抵の外来人は私を見ると子ども扱いするけど、あなたはそんな節が無いわね。別にそれはいいんだけど」

 

 レミリアは見た目こそ幼女の姿をしているが、これでも一応立派な吸血鬼である。しかし彼女を初めて見る者にはそれを知らないので、殆どの場合は彼女を子供扱いする。そして彼女の怒りを買ってしまうのだ。

 

「吸血鬼は外見不相応の年齢なのは外の世界では知られていますから」

 

 まぁ、主にラノベや漫画内での話だが。

 

「あら、よく知っているじゃない」

 

 納得してかレミリアは笑みを浮かべると、少しばかり悪戯心が出る。

 

「それで、あなたから見て私はいくつと思うかしら?」

 

 ここで彼女は北斗を試す。

 

 普通なら女性の年齢に関するネタは野暮なのだが、この幻想郷では年齢不詳、トンデモ年齢の者はいくらでもいるのだ。今更気にするものではないのだ。

 

「……」

 

 北斗は首を傾げ、偏った知識からレミリアの年齢を予想する。

 

「……500歳前後?」

 

「何でピンポイントで当ててるのよ」

 

 彼女は驚きと呆れが混じったように声を漏らす。まぁ初手から自分の年齢を当てられれば、驚いてしまうだろう。

 

「俺の知っている吸血鬼が大体そんな年齢だったはずなので」

 

「あぁ、そう……」

 

 レミリアは呆れたようにため息を付くと、彼に対する印象が決まった。

 

 

 この男……早苗の同類だ、と。

 

 

「まぁ、このまま話してもいいけど、折角いい天気だから、外でお茶でも飲みながら話しましょう」

 

 気を取り直して、レミリアはイスから立ち上がると、部屋の出口へと向かう。

 

「まだ日は昇っているのですが、大丈夫なんですか?」

 

 普通なら吸血鬼は太陽の光に晒されると灰になるのが常識だが、ここは幻想郷。そんな常識が通じないのかもしれない。

 

 ちなみに吸血鬼が太陽の光を浴びると灰になるという話は昔からあるわけではなく、近年の創作物の中で追加されたものである。

 

「日傘を差せば問題ないけど、まぁ私ぐらいの吸血鬼なら別に日の下に居てもなんとも無いわよ」

 

「おぉ……」

 

 北斗は思わず声を漏らす。

 

「そう言って、この間日の下に出たら顔色悪くしてキラキラを出した(ゲロった)じゃないですか」

 

「早苗ぇぇぇぇぇ!!?」

 

 ドヤっと決めていたところへ早苗の指摘にレミリアは顔を赤くして叫ぶ。

 

「あ、あれは別に気が緩んでいたからとかそんなんじゃなくて!」

 

 さっきまでのカリスマ溢れる雰囲気は何処へやら……こうなるとただの子供である。

 

 

 




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