ボックス動輪に取り換えられたC51形について調べていたら、ボックス動輪に取り換えられた8620形がごく少数ながらあったそうです。その上ハチロクに合うようにわざわざ動輪を新造してあるそうです。
その後三人は紅魔館のバルコニーに移動すると、既にそこには咲夜がお茶の準備をしており、パラソルの下では一人の少女が本を読んで待っていた。
「お待ちしてました、お嬢様」
咲夜が頭を下げて顔を上げると、首を傾げる。
「……顔が赤いですがどうしました?」
「な、何でも無いわよ」
さっきの事があってかレミリアの顔は少し赤かった。冷静を取り繕っているが、明らかに狼狽しているのは目に見えている。
「まぁ、大方早苗に何か彼にバラされたんじゃない?」
「ぐっ……」
と、本を読んでいる少女に言われ、図星だったレミリアは言葉を詰まらせる。
「あなたが噂の外来人ね」
「はいそうですが、あなたは?」
「私はパチュリー・ノーレッジ。紅魔館に住んでいる魔法使いよ」
本を下ろして少女ことパチュリーは北斗に自己紹介する。妙にガラガラ声なのが気になるが。
「魔法使いですか?」
「えぇそうよ」
「アリスさんや魔理沙さん以外にも魔法使いが居たんだ」
北斗がそう言うと、パチュリーは意外そうな表情を浮かべる。
「二人を知っているの?」
「えぇ」
「まぁ魔理沙なら分かるけど、アリスと知り合いだなんて、意外ね」
「出会ったのは偶々ですがね」
「ふーん」
咲夜に勧められて二人は椅子に座ると、彼女が紅茶を淹れたティーカップを前に置く。
「あれが例の蒸気機関車ね」
紅茶を一口飲んだレミリアはカップをソーサーに置いて紅魔館から少し離れた所にある線路上で停止している79602号機を見る。
「9600形蒸気機関車。その703番目に作られた車輌です」
紅茶を一口飲んだ北斗はそう答える。
「数字からすると、かなりの数が作られているのね」
「えぇ。全部で770輌が製造されています。といっても、これ以上の数を製造された機関車がありますが」
「ふーん」
レミリアは興味なさそうに声を漏らす。
ちなみに9600形蒸気機関車より多く製造された機関車と言うのは、D51形蒸気機関車である。その数は外地向けを含めれば1184輌である。この製造数は現在でも鉄道車両の製造数としては抜かれたことの無い数である。
「まぁあれでも、自分の機関区にある機関車の中では古い方です」
「あれでも古いの?」
「えぇ。一番というわけではありませんが」
まぁ純国産の機関車と言う点で言うなら、一番古いともいえる。
9600形蒸気機関車を完全に置き換えられるほどの後継機関車に恵まれなかったのもあるが、それ以上に9600形蒸気機関車の完成度が高かったと言うのが後継機関車が作られなかった要因とも言える。故に終焉まで使われ続けたのだ。
まぁ現実的な話を言うと、資材面がカツカツな当時の日本がそんなポンポンと後継機関車を作れるはずも無いが。
「ところで、あの蒸気機関車はどう動いているの?」
と、パチュリーが本を下ろして質問をする。
「蒸気です。火を起こして水を沸騰させ、発生させた蒸気の圧力で足回りの動輪と言う部品を動かします」
「名前の通りなのね」
パチュリーは納得したように頷く。
「でも、あれだけ大きなものだから、必要になる水と火は多いのでしょ?」
「えぇ。しかし水を沸騰させられる火を確保できるのなら、火を起こす燃料は選ばないのが蒸気機関車の強みです」
「なるほど」
以前にも説明したが、蒸気機関車は水を沸かして蒸気を発生させられるのなら、火を起こす燃料を選ばないのが強みだ。
「でも、ただ火を起こせるだけじゃ、駄目なのよね」
「えぇ。水を沸騰させなければ意味がありませんので、なるべく適したものを使うのが好ましいです」
火を起こせても、長い間燃え続けられて、尚且つ大量の水を沸騰させられる強い火力がいいので、薪や石炭といった最適な燃料を使うのが好ましい。
「意外と単純な構造をしているのね」
「聞くだけなら、ですがね。でも扱いが難しいので、思った通りに動かない時がある癖の強い機械です」
彼は肩を竦めてそう言う。
蒸気機関車はよく生き物に例えられる機械の代表格だが、その理由は毎回同じ状態じゃないところ、つまり機嫌が良かったり、悪かったりする所にある。
それに、製造元が同じであっても、同型の機関車でも一輌一輌癖が違うことが多く、それで評価が分かれていたりしてした。その代表格がかつて急行ニセコで重連で牽いていたゴールデンコンビ『C62 2号機』と『C62 3号機』である。
両車輌共同じ日立製作所で製造されたのだが、時間が経つと2号機は不調機となり、3号機は好調機となっていた。時間の経過も要因の一つだが、それでも同じ場所で作られたのにここまで差が出ているのだ。
といっても、この二輌の種車となったD52形の状態が異なっていたのもこの違いを生んだ要因かもしれないが。
その上、例え同一車輌であっても、乗務員によって評価がコロコロと変わる機関車は多く居た。その一例が今も走り続けている『C57 1号機』である。
この機関車は特に乗務員ごとに評価が大きく分かれていた機関車である。
これらのこともあって、蒸気機関車が生き物に例えられるのだろう。
「ところで、一つお聞きしても宜しいでしょうか?」
と、しばらく会話を交わしている中、北斗がレミリアに声を掛ける。
「何かしら?」
「今回の夕食会ですが、ただ自分と話がしたいというわけではないのでしょう?」
「あら? 手紙の通り、あなたに興味があって話がしたいだけよ」
「その割にはお茶会の時点で至れり尽くせりですね」
北斗は先ほど咲夜より出された洋菓子類を見る。
「まるで、機嫌をとっているような、なんて」
「……へぇ」
と、レミリアは視線を鋭くする。
「機嫌を取る? たかが人間に誇り高い吸血鬼が? 甘く見られたものね」
レミリアは席を立とうとすると、早苗はいつでも動けるように臨戦体制を取る。
「レミリアさん!」
「そんな事をして、私に何の得があるのかしら?」
彼女は鋭く尖った犬歯を見せ付けるように口角を上げ、鋭く尖った爪を見せ付け、背中の羽を広げて北斗を威嚇する。
「……」
しかしそんな威圧感を当てられても、北斗は何も動じなかった。しかし内心は焦っていた。
(夢月さん達が動かないといいんだけど)
この状況にあの
もしあの三人が動けば、事態はややこしいことになる。
と言うか心配する所が違う彼は、本当にどこかズレている。
「その辺にしたら、レミィ。全然似合わないわよ」
「ちょっ、パチェ!?」
パチュリーの言葉にレミリアは慌てて彼女を見る。
「正直に言えばいいじゃない。何でわざわざややこしいことにしているのよ」
「うぐっ」
パチュリーの指摘にレミリアは何も言い返せなかった。
(レミリアさんの演技だったんですね。どおりで咲夜さんが動かなかったわけですか)
二人の様子から状況を把握した早苗は頷く。
と言っても、咲夜の能力面からタイミングは直前でも問題ないのだが。
「私から話すわ。レミィが話すと面倒なことになるわ」
「うー」
と、レミリアはその場にしゃがみ込み、頭を抱えて静かに唸る。
「ごめんなさいね。レミィが拘るばかりに」
「い、いえ、大丈夫です。さすがに肝が冷えましたが」
「その割にはあまり慌てた様子は無かったわね」
パチュリーはそんな北斗を評価した。
まぁレミリアの威圧的な姿を目の当たりにして慌てなかった外来人は彼が初めてだ。だからこそ、彼に興味を持ったのだ。
「で、本題だけど、レミィがあなたと話がしたいのは本当よ。それと同時に、幻想機関区との関係についてもね」
「っ!」
パチュリーの最後の言葉に、北斗は息を呑む。
「あなたがやろうとしている事業に、私達にも一枚噛ませて欲しいのよ」
「えぇっ!?」
と、早苗が驚いた声を上げる。
「まぁ言ってしまえば紅魔館の労働力と資金の提供よ」
「それは、また随分と」
北斗は予想だにしなかった案に驚きを隠せなかった。
「どういう風の吹き回しなんですか?」
早苗は少し棘のある言い方でパチュリーに問い掛ける。
「まぁ、相変わらずのレミィの気まぐれよ」
「レミリアさんの?」
「そうよ!」
と、ようやく落ち着きを取り戻してか、レミリアが勢いよく立ち上がる。
「面白そうになってきたのだから、これに乗らないわけにはいかないでしょ?」
レミリアは不敵な笑みを浮かべる。
「それは、レミリアさんの能力で見えたのですか」
「まぁ、そうね」
早苗の質問にレミリアは短く答える。
「レミリアさんの能力ですか?」
「えぇ。私は『運命を操る程度の能力』があるの」
「……」
「と言っても、大層な名前だけど、大したものじゃないわ。次にあなたが『名前からして凄そうですね』って言えるのが分かるぐらいよ」
「名前からして凄そうですね……ハッ!?」
と、北斗はどこかで見た事あるリアクションを取る。
「つまり、未来予知の一種ですか?」
「そうともいえるわね。例えば館の外で外来人が倒れてそのまま死ぬ運命の未来を見れば、それを私が咲夜に命じて助けさせて死ぬ未来を避けさせる。そんなものよ」
「なるほど」
「まぁ、あくまでも私の気まぐれ次第だから」
「……」
「話を戻すわね」
と、タイミングを見計らい、パチュリーが口を開ける。
「つまり、私達紅魔館は幻想機関区のスポンサーとして、あなた達の事業に加わりたいのよ」
「ふむ」
北斗は声を漏らして、考え込む。
既に守矢神社が後ろ盾となって、石炭の補給も確約されているが、あくまでもそれだけで資金面や労働力は無い。
未だに線路脇の柵や電話線の敷設、ポイント切り替え所、踏み切りといった設備が整っていないので、本線運行するには不安が残る。しかし人手が不足しているし、資金だって有限なのだ。
もし紅魔館がスポンサーとなって資金と労働力を提供してくれれば、これまで以上に設備の設置が進む。
しかし、こういう話にタダなものなど無い。
「まぁ、当然これらをするには、条件があるわ」
と、レミリアがそれを告げる。
「条件ですか?」
「えぇ。この条件を呑めば、幻想機関区のスポンサーとして協力するわ」
「……」
すると早苗がレミリアを睨むように視線を鋭くする。
「それで、条件は?」
「難しいことじゃないわ」
レミリアは遠くで停止している79602号機を見る。
「蒸気機関車を一輌、私達に譲渡して欲しい。それだけよ」
「っ!」
レミリアから提示された条件に、北斗は驚く。
「機関車を持って、何をするつもりですか?」
「それはね―――」
「自分の機関車で館の周りを走らせたいだけよ。乗ってみたからって」
「パチェェェェっ!!?」
レミリアが言い終える前にパチュリーが言って彼女が顔を赤くして叫ぶ。
「そ、そうなのですか?」
「えぇ。興味があるからって、私に魔法で蒸気機関車を作らせようとしたぐらいにね」
「それは言わないでよぉぉぉっ!!」
パチュリーにばらされて彼女は再びしゃがみ込んで頭を抱えて叫ぶ。
「可愛らしいところもあるんですね」
と、早苗は苦笑いを浮かべる。
「そうですね」と咲夜が「うー」と静かに唸るレミリアを観ながら短く返す。
「まぁ、条件はそれだけよ」
「ふーむ」
北斗はため息に近い息を吐くと、立ち直ったレミリアを観る。
「譲渡するにしても、機関車を万全に運用できる設備を用意できるのなら、検討はします」
「設備?」
「えぇ。機関車を格納しておく為の機関庫に水を補給する為の給水塔、石炭を補給する為の石炭置き場、更に毎日機関車の整備を行い、火の番をする人員確保。最低でもこれらが必要となります」
「そ、それ全部必要なの?」
「えぇ。しかし場合によっては更に必要となる設備や人員が増えると思います。これらを準備できないのなら、譲渡の話は難しいですね」
「……」
あまりの必要なものの多さにレミリアは言葉を失う。
設備は何とかなるが、毎日機関車を整備するのは妖精メイドの性格を考えれば、とてもじゃないが実現は困難だった。
まぁ譲渡した後にその機関車が目も当てられないような状態にしたくないというのが、北斗がこの条件を出した理由だろう。
「だから言ったじゃない。その話は無理だって」
「うっ」
パチュリーに言われて彼女は俯く。
「まぁ、さっきの譲渡の話は無理だとして、機関車の所有権を持つことは出来ないかしら?」
「機関車の所有権、ですか?」
「えぇ。運用、管理はそちらに任せて、こちらが所有しているという事にすると言うのは」
「……」
「もちろん、所有権を持っている以上資金面は任せておいて」
「……」
パチュリーからの別の案に、北斗は一考する。
蒸気機関車の所有権は別の企業が持ち、運用管理は別の企業が行うのは今では珍しいことではない。
「まぁ、それならば、確かに」
「それじゃぁ……」
「しかし、今ある機関車の所有権は全てこちらにありますので、残念ですがそちらに所有権を渡すのは……」
「そう……」
するとレミリアが肩を落として見るからに落胆した様子を見せる。
「とはいえ、今後そちらで新しい蒸気機関車を見つけた場合、そちらにその機関車の所有権を与えます」
「良いの?」
「まぁ、見つけられたらの場合ですが」
「……」
(良いんですか? あんな事言ってしまって?)
早苗は北斗の傍に来ると耳元で声を掛ける。
(まぁ妥協するのも必要ですし、今後の計画遂行には紅魔館の援助は必要になります)
(それはそうですけど)
(まぁ、そう簡単に見つかるとは思えませんが)
今の所新しく蒸気機関車が見つかった情報が無いので、すぐには見つからないだろうと北斗は判断して妥協したのだ。
それに、譲渡より所有権を与える方がマシな条件だろう。
(まぁ、とりあえず今はこの場を乗り切ることを考えるか)
彼は内心呟くと、パチュリーとの話し合いを進めるのだった。
今回で平成最後の投稿になります。次回は令和になりますね。
令和になっても、本作をよろしくお願いします。
感想、質問、要望等がありましたら、お待ちしています。