所変わって、博麗神社。
「……」
神社のある場所まで伸びる階段の前に立つ博麗霊夢は腕を組み、険しい表情を浮かべていた。
あの奇妙な音が幻想郷に響き渡ったあの日から数日経つが、特にこれと言って何かが起きたという事は無かった。
彼女の友人の白黒の魔法使いは異変だと言って調べていたが、何も手掛かりを掴めずにいた。
彼女は一応警戒こそしていたが、結局何も起きなかったので気に留めていなかった。
そんな矢先に、異変は起きた。
「……」
険しい表情を浮かべる彼女の視線の先には、見た事のない物体が地面に敷かれている。
一定の間隔で設置された木材の上に二本の鉄の棒が固定されており、それが神社のある場所まで登る階段の前にあった。
左右見渡してみると、その物体は森の中まで伸びている。
彼女はそのままフワリと宙に浮くと徐々に高度を上げ、幻想郷を見渡せるぐらいの高さまで昇る。
「チッ」
思わず舌打ちをする彼女の視界には、少なくとも見える範囲に先ほどの物体と同じ物が地面に張り巡らされているのだ。
量が多い分、幻想郷の景色は昨日とは一変していた。
「全く。前の異変が終えたばかりだって言うのに。やってくれるわね」
霊夢は愚痴るように呟くと神社の境内へと降りる。
「ご主人様」
「る~こと。すぐに準備してちょうだい」
「了解です」
る~ことは霊夢の後に付いて行き、異変解決の準備に入る。
「おーい! 霊夢!!」
霊夢はる~ことに手伝ってもらって必要な物を持って神社から出た直後、空から声を掛けられて彼女は顔を上げると、箒に跨った白黒の少女が神社の境内に降りてきた。
彼女の名前は『霧雨魔理沙』。人間でありながら魔法を使う普通の魔法使いである。博麗霊夢とは幼い頃からの友人であり、共に異変解決をする仲である。
「魔理沙」
「ホラ私の言った通りだろ! やっぱりあの音は異変の前兆だったんだ!」
魔理沙は箒から降りて霊夢に詰め寄る。
当時彼女は家で夜遅くまで魔法の研究をしていて、気分転換に外の空気を吸っていたら、その奇妙な音を耳にしていた。
翌日彼女はその奇妙な音を異変の前兆だと霊夢に訴えていた。まぁ彼女はその程度では異変と捉えていないので動こうとしなかったが。
なので魔理沙は独自で調査に乗り出したのだ。
まぁ結果的には空回りに終わったのだが、音自体は知人達が聞いたと言うのは確認されている。
「あの時の音とあの変な物体が関係あるとは言い切れないわよ」
「けどそれ以外にあるかよ!」
「……」
まぁ彼女の言う通り、前兆らしい前兆はあれ以外無かった。あぁは言ったが、霊夢も関係が無いとは思っていない。なので霊夢は何も言えなかった。
「まぁ、どっちにしたって、異変が起きている事に変わりは無いんだ。そうだろ?」
「はぁ……。まぁ、そうね」
霊夢はため息を付き、癪ではあったが魔理沙の言葉を肯定する。
「霊夢さーん!!」
すると別方向から声がして二人が声のした方を見ると、神社の境内に誰かが降りてくる。
「あら、早苗じゃない」
霊夢は降りてきた少女の名前を口にする。
緑色の髪を背中まで伸ばし、左側だけに蛇の髪飾りで束ねており、こめかみ付近にはカエルの髪飾りをしている。格好はデザインと色こそ異なっているが、霊夢の着ている巫女服のように脇が開いた巫女服を身に纏っており、茶色のブーツを履いている。手には霊夢が持っている御祓い棒とは異なるデザインの御祓い棒を持っていた。
ちなみに彼女は博麗霊夢と決定的に違う箇所があったりするが、あえて言う事は無いだろう(ソラシメ
彼女の名前は『東風谷 早苗』。妖怪の山と呼ばれる場所にある『守矢神社』の巫女にして、現人神である。
そしてかつて外の世界で暮らしていた少女である。
「異変ですよ! 異変が起きているんですよ!」
「いや知っているがな」
魔理沙は若干興奮気味の早苗に突っ込む。
「と言うか、早苗も知っているのか?」
「はい。一夜にして幻想郷に出てきた物のことですよね!」
「そうだぜ」
「それと同じ物が守矢神社はおろか、妖怪の山にも現れているんですよ。お陰で天狗の方々は大騒ぎ。真っ先に私達が疑われましたよ」
「まぁ、そりゃそうだ」
天狗の性格や守矢神社の面々が起こしてきた事を考えたら、真っ先に疑われるわな、と魔理沙は内心呟く。
最近でも参拝客増加を狙って河童達と協力して色々と計画していた。まぁ天狗からの反発を受けて話は流れたが。
「と言うわけで、私も行きますよ!」
「何が『と言うわけで』よ」
霊夢は思わずため息を付く。
結構強引に話を進める早苗だが、彼女は元外の世界の人間とあって、幻想郷では若干ずれている。
まぁ、彼女はそういう少女なのだ。
「それにしても、まさか『線路』が幻想郷に現れるなんて。やっぱり幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね! でも線路だけ幻想入りしてもどうするんでしょうか?」
早苗はなぜか得意げにそう呟く。
『ん?』
しかしその中に重要なことを呟いたことに二人は気付く。
「ちょっと待て、早苗」
「もしかしてお前、あれの事を知っているのか!?」
二人は早苗に問い掛ける。
「え? あの線路の事ですか?」
「えぇそうよ。知っているならなんで言わないのよ」
「訊かれていませんから」
「あんたねぇ……」
あっけからんことを言う早苗に霊夢は眉間を押さえて呟く。
「で、その線路って言うのは何なんだぜ?」
「はい。線路っていうのは外の世界で鉄道を呼ばれる乗り物を走らせるための設備のことですよ」
「あれ外の世界の物なの?」
「えぇ。あの線路の上を列車って言う大きな乗り物が走るんですよ。多くの人や荷物を運んだりして大変便利なんですよ。私も外の世界に居た頃はお世話になりましたし」
「へぇ。外の世界は進んでいるわね」
「ホント、便利な世界だ」
早苗の話を二人はそれぞれ呟く。
「まぁ、鉄道だかなんだが知らないけど、やることに変わりは無いわ」
「だな」
「はい!」
「それで、早苗。他に何かないわけ?」
「そうですね。もしかしたら線路を辿っていけば異変の首謀者を見つけられるかもしれませんね」
「なんでだ?」
「鉄道って言うのは必ず一箇所に集める為の施設があるんですよ。そして鉄道は線路の上でしか移動できませんから」
「……そういうこと。なら、話は早いわ」
霊夢は御祓い棒を肩に担ぐように置くと、後ろを振り返って神社の入り口前で立って待っているる~ことを見る。
「る~こと。留守番頼むわね」
「了解です!」
る~ことが竹箒を片手にもう片方の手で敬礼するのを見てから、霊夢は宙に浮いて飛ぶ。
「お、おい、待てよ!」
霊夢の後を慌てて魔理沙が箒に跨って飛び出す。
「ま、待ってくださいよ、霊夢さん! 魔理沙さん!」
早苗も慌てて宙に浮いて二人の後を追う。
軽く流しているが、この幻想郷では人間が空を飛ぶという行為は別に能力や部位、器官が無いと不可能、というわけは無い。ただ、飛ぶための技術を会得するのは中々大変であるし、別に会得する必要性も無いので、飛べるのは一部の者だけだ。
話を戻そう。
三人は神社を飛び出して幻想郷に張り巡らされた線路を辿って、異変の首謀者の元へと向かった。
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所変わって霧島機関区。
「そうか。操車場にある客車と貨車、特殊車輌の車輌数は変わっていないか」
「はい」
機関区の敷地内を歩いている北斗は隣を歩く『D51 241』のバッジを付けた少女からの報告を受けていた。
あの後他に機関車が居ないか、操車場にある車輌を調べるついでに北斗は彼女達に調査を指示した。その際『B20 15』を機関庫から出して操車場に『79602』と『D51 465』のバッジを付けた少女達を伴わせて向かわせた。
残りの『D51 603』と『D51 1086』のバッジを付けた少女達に石炭の貯蔵量を調べてもらっている。
「結局機関車はここにあるやつだけ、か」
「……」
北斗の呟きを聞いて、241号機の表情が曇る。
霧島機関区に居たD51形は彼女達以外にも複数居た。焼失した彼女の代わりに保存された320号機。彼女と同じギースルエジェクタと呼ばれる煙突を装備した349号機と953号機。彼女が落成した苗穂工場製の237号機、560号機。
これらは彼女達と一緒に霧島機関区で働いていた。
彼女からすれば多くの仲間と姉妹が居なくなったのだ。気を落とすのは無理ない。
「まだいなくなったって決まったわけじゃない。ただ、今は居ないだけかもしれない」
「……」
「今は、待つしかない」
「……はい」
とは言ったものも、彼自身根拠のない事を言って少し罪悪感に苛まれていた。
(無責任だな。もっと気の利いたことを言えただろうに)
自分を叱責するように呟くが、「……出来る訳が無い、か」と次に呟く。
これまで他人を避けて、信じようとしなかった自分に、気の利いたことが言えるわけが無い……
「あ、あの、区長。これからどうするんですか?」
「どうする、か」
彼は『D51 241』のバッジを付けた少女に声を掛けられてボソッと呟きながら立ち止まり、遠くに見える機関庫に格納された機関車達を見る。
「まぁ、しばらくは様子見だな」
「様子見、ですか」
「あぁ。情報が不足している中で下手に動くわけにはいかないからな」
「……」
「それにしても、彼女達には助けられるな」
「そうですね」
と、二人は機関庫内に視線を向けると、そこには小柄な少女達が敷地内で各々の仕事をこなしていた。
二人と同じ紺色の作業服を身に纏っていたが、頭には黄色いヘルメットをかぶり、作業服の上からは黄色のベストを着ているといかにも作業者を彷彿させる格好をしている。
しかしその少女達の背中には普通なら生えていない、二枚二組の透明の羽が下に向かって生えていた。
「しかし、彼女達は何なんでしょうか?」
「さぁな。人間じゃないのは確かだが、そもそもあんなのは機関区に居なかったはずだ」
「そうですよね」
二人の言う通り、機関車を整備している少女? 達は本来機関区には居ないはずの存在である。
そもそもそんな少女? 達の存在を知ったのも少し前だが。
「……まぁ、彼女達が居るおかげで今後困ることは無いだろうが」
蒸気機関車の整備と言うのは現在の電車やディーゼル機関車、電気機関車と比べると整備箇所はかなり多い。一輌だけならまだしも、七輌もいると相当だ。その上七人しかいないとなると一輌を何とかギリギリ整備できるぐらいで、全ての車輌の整備など出来るはずが無い。
そこにあの少女達が現れたのだ。しかもここだけではなく、この機関区内に多く居る。
そのお陰もあって、機関車の整備どころか機関区の維持が出来る可能性が出てきた。
「……」
そんな少女? 達を見て北斗は浅く息を吐き出す。
「ここは、悪く無いな」
「え?」
北斗の呟きに少女は首を傾げる。
「何でもない。もう少し周るか」
「はい!」
二人はそのまま機関区巡りを続けた。
しかし、彼らは知る由も無い。
今ここに招かれざる来客が来ているという事を。