東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第41話 地下にあったのは古き者達

 

 

 

 少し降りた所で二人は彼女の部屋に到着し、部屋に入る。

 

(部屋は至って普通、ってわけでもないけど)

 

 部屋に入った北斗は館の外観や内装と変わらない赤い部屋に苦笑いを浮かべる。

 

 しかし作りは豪華であり、そこからでもレミリアがフランのことを思う気持ちが表れている。

 

「それで、フランが見せたい物って?」

 

 北斗は部屋中を見渡すが、特段変わった物は見当たらない。所々壊れているのが気になるが。

 

「うーんとね、ちょっと待っててね」

 

 と、フランは大きなクローゼットに近付くと、側面に両手を付いてゆっくりと前へと押し出す。

 

「……」

 

 彼女の怪力も驚きだったが、それ以上にその後ろの壁に大きな穴が開いているのに驚いた。

 

 小さい子なら立ったままでも通れるぐらいの穴だが、北斗ぐらいの背丈だと屈まないと通れそうに無い。

 

「フラン。この穴は一体?」

 

「えぇとね、少し前に寝ぼけて能力を使ってしまって、こんな穴を」

 

 と、彼女は恥ずかしそうに視線を逸らしながら両人差し指を合わせる。

 

(寝ぼけて穴を開けられるものなのか?)

 

 北斗は内心彼女にツッコむのだった。同時に何だかこの非常識に普通に適応している自分が居ると思うのだった。

 

「そういえば、フランはどんな能力を持っているの?」

 

「私? 私の能力は『ありとあらゆるもの破壊する程度の能力』だよ」

 

「それなんて破壊神?」

 

「え?」

 

「あっいや、ただの独り言だよ」

 

 思わず声が漏れてしまったが、北斗は咳払いをする。

 

(レミリアさんがこんな地下に閉じ込めるわけだ)

 

 今更ながら北斗はレミリアの気持ちを理解して、同時に結構危うかったというのを理解した。

 

(もうド○ク○のザ○系の能力やがあっても驚かないぞ)

 

 内心呟きながら、穴の中を覗き込む。

 

(奥に空間があるな)

 

 北斗は穴の奥に空間があるのを把握するも、真っ暗で何も見えない。

 

「暗くて見えないな」

 

 蝋燭を持ってきて来ないといけないか。

 

「それなら任せて!」

 

 と、フランは自信満々に声を上げる。

 

「パチュリーから教わった魔法で明るく出来るよ!」

 

 そういうとフランは何だか嬉しそうに北斗の前を歩いて穴の向こう側に向かう。

 

 直後に穴の向こうから光が差し込む。

 

「おぉ」

 

 北斗は思わず声を漏らし、屈んで穴を通る。

 

「どう? お兄様?」

 

 穴を通り抜けると、穴の横でフランが待っていた。

 

「魔法って便利だね」

 

「そうでしょ?」

 

 宙で球体状に光を放っている光景に北斗は遠くを見るように右手を伸ばして額に当てて覗き、彼女は笑みを浮かべ、背中の色とりどりの宝石がぶら下がる翼が嬉しそうに揺れる。

 

「……お兄様?」

 

 ふと、北斗はある事に気付く。さっきまで『お兄さん』と呼んでいたフランが、『お兄様』と呼んでいた。

 

「うん。そうだよ?」

 

 フランは首を傾げる。

 

「どうしてそう呼んでいるんだい?」

 

「私がそう呼びたいから」

 

「んん?」

 

 微妙に望んだ答えが返ってこなかったので、思わず変な声が漏れる。違う、そうじゃない。

 

「ダメなの?」

 

 フランは上目遣いで北斗を見る。

 

「ダメと言うわけじゃないけど、まぁ別に呼んでもいいか」

 

「うん!」

 

 まぁ別に呼び方が変わって何か問題が起きるわけではないので、北斗はそのままにするのだった。

 

 

「うわぉ……」

 

 そして周りを見ると、驚いて変な声を漏らす。彼の視界いっぱいに、物であふれていたからだ。

 

 しかもそれがどれも機械の部品、その上蒸気機関車の動輪とかが混じっているのなら尚更だ。

 

「何じゃこりゃ」

 

 思わず声が出る光景に北斗は呆然となる。

 

 そりゃ洋風な館の地下にこんな部品の山があれば、誰だって驚く。

 

 しかもよく見るとその機械の部品は蒸気機関車の各部品のようにも見える。

 

(なんでこんな物が大量に地下にあるんだ?)

 

 近くにあるコンプレッサー関連と思われる部品を眺めながら内心呟く。

 

(と言うか埃の被り具合から相当長く放置されていたみたいだな。でも湿気が少ないのか、腐食している様には見えないな)

 

 近くにある部品をそれぞれ見ても、少し厚く埃を被っているが、どれも腐食しているようには見えない。

 

(偶々とは言えど、予想外な収穫だな)

 

 もはや苦笑いを浮かべるレベルだ。

 

 北斗は頭の後ろを掻く。

 

 しかしこれらを持ち返る事が出来れば、今後機関車の修理の際に使用する事が出来る。

 

「フラン。君が見せたかったのは、これらなのかい?」

 

「ううん、違う。この向こう側にある物だよ!」

 

「この向こう?」

 

 北斗はちょうど向こう側を遮っている部品が収まった棚を見る。

 

「お兄様! こっちこっち!」

 

 フランは声を上げて北斗を呼ぶ。

 

(これは少し時間が掛かりそうだ)

 

 北斗はため息を付き、フランの後に付いて行く。

 

「お兄様! アレだよ!」

 

「うん?」

 

 北斗はフランが指差す方向に顔を向ける。

 

 

 

「は?」

 

 視界に入った光景に、彼は目を見開いてさっきよりも大きな驚きに包まれる。

 

 なぜならば、そこには埃塗れだったが、二輌の蒸気機関車が部品に囲まれるように安置されているからだ。

 

「まさか、こんな所に!?」

 

 北斗は二輌の蒸気機関車の近くに走り寄り、その二輌を見る。

 

 蒸気機関車二輌は前後に並ぶように安置されており、埃塗れで変色しているように見えるが、腐食がほとんど無く状態はかなり良さげだ。

 

 しかしその二輌は幻想機関区にある蒸気機関車とは雰囲気の異なるものだった。

 

 前にあるSLはいかにもアメリカンな風貌のテンダー形蒸気機関車で、ダイアモンドスタックと呼ばれる火の粉止め装置を持つ煙突にフロントに障害物避けのカウキャッチャーを持っている。

 

 後ろにある機関車はいかにも欧州な雰囲気のあるタンク形蒸気機関車であったが、その足回りは特殊で四つの動輪があるように見えるが、それぞれ二つの動輪に走り装置を持つ特徴を持っている。これは『マレー式』と呼ばれる関節式の足回りである。

 

「これはまた、マニアックなものが」

 

 北斗はテンダー式の蒸気機関車の運転室近くに寄りながら呟く。

 

「お兄様。これって外の世界のものなの?」

 

 彼の傍に付いてくるフランはそう問い掛ける。

 

「そうだよ。これは蒸気機関車といって、外の世界で鉄道と呼ばれる乗り物の一種だよ」

 

「そうなんだ」

 

「それも、結構古い代物だよ」

 

「ふーん」

 

 彼女は少しだけ興味を持って二輌の蒸気機関車を見る。

 

(マレー式のタンク形は……確か『4500形蒸気機関車』だっけな?)

 

 記憶の糸を手繰り寄せながら、後ろにある蒸気機関車を見ながら側面に付いた埃を手で落とす。

 

 

 4500形蒸気機関車とは日本が輸入したマレー式のタンク形蒸気機関車である。

 

 元はドイツのJ.A.マッファイ社が製造したマレー式タンク機関車で、1903年に大阪でとある博覧会が開催されて、そこを通じてこの機関車が出展された。但し納入先は決まっていなかったそうな。

 その後様々な区間にて試運転が行われて一応ながら成績は残しているものも、官設鉄道では購入せず、半ば日本鉄道が押し付けられる形で購入し、他の路線に投入された。そこでは輸送量自体それほど多くなく、その上キツイ勾配を持っていたのでマレー式タンク機関車には正に最適とも言える路線であった。

 ちなみにこの機関車、日本で初めて導入されたマレー式機関車である。

 

 

 そもそもマレー式とはどんなものなのか?

 

 事の始まりはヨーロッパで狭軌規格の路線にて輸送量が増加してその輸送量に対応すべく多くの貨物列車を牽かなければならなかった。これを解決すべく強力な大型機関車の増備が考えられたが、多くの路線にて許容される曲線範囲が小さく、それ故に大型機関車ではその急曲線を曲がれないのだ。ならば小型の機関車による重連運転が必然的に求められるが、当然車輌と運転人員の増加が重なり、現実的ではなかった。

 この問題を解決すべく、スイスの『ジュール・T・アナトール・マレー』と言う技術者が自ら開発した複式機関を取り入れた機関車が『マレー式機関車』と呼ばれる関節式機関車である。

 

 マレー式最大の特徴は複数の走り装置をボイラー下に備えており、後部にある走り装置は蒸気の圧力が高く台枠に固定され、前部にある走り装置は蒸気の圧力が低く後部の走り装置と左右に振れる関節に繋がれ、曲線に応じて前方の走り装置が動く仕組みとなっている。

 この複数の走り装置を持っているお陰で出力の大幅な向上に加え、必然的に動輪が多くなるので軸重を抑え、その上動輪数と関節式の動きでうまく動輪と線路を粘着させるので空転を引き起こしにくい。故に勾配が大きい区間では重宝されていた。

 但しこの関節式の走り装置が複雑な構造をしているので、保守点検がかなり厄介だったそうな。その上製造コストも高い。

 

 このマレー式機関車で有名なのが、ビッグボーイの愛称で知られるアメリカの世界最大の蒸気機関車である『4000形蒸気機関車』である。

 

 日本でもこのマレー式蒸気機関車は4500形以外にも少数ながら導入されおり、急勾配を持つ区間に投入されたが、前述した保守面が問題視され、特性面からマレー式は勾配の多い日本の地理と相性が良かったが、保守面では現場からの評判は良くなかった。

 その後9600形や9900形こと後のD50形の導入により、次々と廃車にされ、現在では9850形の一輌のみがカットモデルで現存している。

 

 

 話を戻そう

 

 

 そんな4500形蒸気機関車を一瞥してから、目の前の蒸気機関車を見る。

 

(それにしても、この機関車は何だろうな) 

 

 いかにもアメリカンな風貌のSLに彼は首を傾げる。

 

 日本でもこの類の機関車は多く輸入されており、一番有名なのは北海道で運用された『7100形蒸気機関車』であろう。

 

 そう考えながら埃を払うと、運転室横に描かれているローマ字が現れる。

 

「何々……『HI……RA……HU』?」

 

「ん?」と声を漏らして首を傾げる。

 

「っ!?」

 

 直後に北斗は何かに気付き、テンダーの方に走る。

 

「お兄様?」

 

 突然走る北斗にフランは首を傾げる。

 

 北斗はテンダー側面に付いた埃を払うと、その下に現れた文字に、目を見開く。

 

 

「……比羅夫」

 

 テンダーに書かれた文字を見て、声が漏れる。

 

「となると、これは7100形か」

 

 北斗は前にある機関車の正体を見抜く。

 

 

 7100形蒸気機関車とは日本が北海道初の鉄道の開業にあたりアメリカより輸入した蒸気機関車である。全部で八輌が輸入されている。

 

 この機関車は他に輸入されたアメリカンな蒸気機関車とはそこまで大きな性能の差は無いが、この機関車の特徴は歴史上の人物の愛称がが付けられている事で有名なのだ。

 

 その愛称が付けられたのは1から6で、1号車には『義経』2号車には『弁慶』3号車には『比羅夫』4号車には『光圀』5号車には『信廣』6号車には『静』と命名されている。

 彼の目の前にあるのが、3番目の比羅夫号なのだ。

 

 比羅夫号は廃車後は由仁軌道と呼ばれる鉄道会社に譲渡される予定だったが、譲渡先の路線開通工事が資金不足によって計画がキャンセルされた事で、以降の消息は不明となっていた。

 

 現在この7100形蒸気機関車は1号車の義経号と2号車の弁慶号、6号車の静号のみが現存しており、義経号は動態保存されている。

 ちなみにこの義経号だが、実は少しややこしい事情のある機関車で、この義経号の台枠が長らく行方不明になっていた信廣号の物である事が判明している。しかしボイラー自体は義経号のものであり、この場合は果たしてどちらになるのか論争した後、色々とあって義経号として復元している。

 

 

(これは、想像以上に凄い事になったな)

 

 北斗は内心呟きながら二輌の機関車を見比べた後、フランを見る。

 

(だが、他の機関車と違って長く放置されている感じがあるよな)

 

 北斗はこれまで発見した蒸気機関車と状況の違う事に首を傾げる。

 

 それに蒸気機関車に触れてみて分かった事だが、これまで見つかった蒸気機関車と違い、違和感があるのだ。

 

 

 明日香達と違い、何も感じないのだ。

 

 

「ありがとう、フラン。君のお陰で大きな発見が出来たよ」

 

「どういたしまして!」

 

 彼女は笑顔を浮かべると、背中の宝石がぶら下がった翼が揺れる。

 

「さて、もう少し見ていたい気はあるけど、そろそろ戻らないとな」

 

 さすがにこれ以上待たせると早苗が心配するだろうし。実際心配しているが。

 

「……」

 

「フランも付いて来るかい?」

 

「いいの?」

 

 一瞬気持ちが落ち込むフランであったが、北斗がそう言うとパッと明るくなる。

 

「レミリアさんには俺から説明するから」

 

「っ! うん!」

 

 フランが頷くと、二人は一旦機関車が置かれている場所を離れ、食堂へと向かった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「いくらなんでも遅過ぎます!」

 

 その頃食堂では早苗が声を荒げていた。

 

 さすがに北斗の帰りが遅過ぎるとあって、不安になっていたのだ。その不安のせいか、さっきまでの酔っ払いの様子はどこへやら。酔いが完全に醒めている。

 

「まぁ、さすがに帰りが遅いとは思うけど」

 

「思うじゃないですよ! やっぱり何かあったんですよ!?」

 

「落ち着きなさい、早苗」

 

 心配の余り思わず咲夜に詰め寄って怒鳴る早苗にレミリアが宥める。

 

 普段なら人間に対してこんな心配はしないのだが、今となっては彼は大事な事業のパートナーだ。見過ごすわけには行かない。

 

 まぁ本音としては、もし彼に何かあったら早苗の怒りを買うのは必至で、何をするか分からない。面倒ごとは避けたいのだ。

 

 しかしそれ以上に彼女が懸念しているのは、妹のフランにあった。

 

(もしもフランが彼に接触して、気を触れたりでもしたら……)

 

 その先の事は容易に想像出来た為、息を呑む。

 

「怒鳴っていても仕方ないわ。咲夜。すぐに探しに行きなさい」

 

「畏まりました」

 

「私、行って来ます!」

 

 レミリアが咲夜に捜索を指示すると同時に早苗が踵を返して走り出す。

 

「ちょっと、待ちなさい!」

 

 勢いよく走り出す早苗を止めようとレミリアが声を掛けるも、彼女の声を無視して早苗は勢いよく扉を開ける。 

 

 

 

 

 ゴンッ!!

 

 

 

 

「え?」

 

 扉を開けた直後、何やら鈍い音がして早苗は我に帰る。

 

 ちなみに紅魔館の食堂の扉は外開きのタイプで、ほぼ壁際まで開くようになっている。

 

 しかし扉は途中で鈍い音を発して、そこで止まった。

 

「……」

 

 早苗は一瞬首を傾げるが、直後に顔が青ざめる。

 

 恐る恐るとびらの向こうを覗いてみると……

 

 

 

「……」チーン

 

「……」ヤムチャシヤガッテ……

 

 そこには仰向けに倒れている北斗と、なぜか例のポーズでうつ伏せに倒れているフランの姿があった。

 

 運の悪い事に早苗が扉を勢いよく開ける直前になって食堂前に到着した北斗とフランであり、早苗が勢いよく扉を開けたことで二人はものの見事に正面から扉と衝突し、二人揃って吹っ飛ばされたのだ。

 

 二人の吹っ飛び具合から、相当強く勢いよく開けたのが解る。

 

「北斗さぁぁぁぁぁぁんっ!?!?」

 

「何があったって……フラァァァァァァンっ!?!?」

 

 早苗は悲鳴上げると同時に何事かと見に来たレミリアがうつ伏せに倒れているフランの姿を見て思わず叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻「何だか楽しそうね」

 

夢「そうね」

 

エ「あんな悲鳴聞いてよくそんな事が言えるわね」

 

 その頃、外で紅魔館を眺める三人の悪魔はそう呟くのだった。 

 

 

 

 

 




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