その後北斗達は再度話し合いを行い、比羅夫号こと7100形蒸気機関車の所有権を紅魔館勢が持つことで決定し、4500形蒸気機関車は幻想機関区側が所有権を持ち、運用する事が決まった。
現時点では4500形は明日香達の様な九十九神が存在していない以上、妖精達が使用する作業機関車として運用を予定している。
そして一番の問題である両車輌をどうやって地下から地上へと運び出すかであるが、それについてはパチュリーが考えるとの事。
まぁ天井から地上へ大きな穴を空けるのが手っ取り早く、より確実な方法らしいが、それでも準備に時間が掛かるとのこと。
とまぁ、どたばたした夕食会はお互い有意義な時間となって、無事終わった。
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夕食会から数日後。
紅魔館のバルコニーにてパラソルの下でレミリアとパチュリーがティータイムを楽しんでいる。その後ろでは咲夜が控えている。
「……」
「なんだか、腑に落ちない顔ね」
本を読んでいたパチュリーはティーカップを持ち真剣な表情を浮かべるレミリアに声を掛ける。
「……」
ため息を付いてティーカップをソーサーに置く。
「で、フランはどうしているの?」
「一生懸命魔法を覚えたり、力の制御の練習をしているわ」
「そう。進境は?」
「まぁまぁね。でも以前より良くなりつつあるわ。その上力だって以前よりも制御が出来ている」
「……」
「彼と一緒に遊びたいからって、頑張っていたわね。このままのペースなら、恐らく近い内にあの子は力を完全に制御出来るでしょうね」
「……そう」
「気に入らないのかしら?」
フランの成長を聞かされても、あまり嬉しそうにしていないレミリアに、パチュリーは声を掛ける。
「いいえ。姉としては、フランが元気になったことは嬉しいわ。その上、関係改善にも助言してくれていたそうだし、その点は彼に感謝しているわ」
ずっと妹を心配してきたからこそ、彼女が元気を取り戻してくれたことには、北斗に感謝している。
「まぁ、私が出来なかった事を赤の他人に出来たのは、少し癪だけど」
とは言えど、個人的には自分に出来なかった事を赤の他人が出来た事に、姉として嫉妬している。
「でも―――」
「でも?」
「唐突過ぎるのよ、何もかもが」
「……」
彼女の言葉に、パチュリーは何も言えなかった。
「私達がどんなに時間を、苦労を掛けて、犠牲を払ったのに、あの子の狂気を取り払えなかった」
「……」
「何度も、何度も、気の遠くなりそうなぐらいに時間を掛けたのに」
「……」
「なのに、ただの外来人の彼は、それを成し遂げてしまった」
どことなく悔しくも、怒っている様な雰囲気を醸し出して、歯軋りする。
「正確には今までに無いぐらいに狂気を沈静化させているって言うのが現状ね。完全に取り払われたわけじゃない」
「……」
フランの内側に潜む狂気だが、まだ完全に取り払われたわけではない。今は沈静化しているが、ふとした拍子でその狂気が活性化する可能性がある。
まだ安心できる状態ではないが、今までと比べると極めて安定している。よほどの事が無い限りは大丈夫との事だ。
「レミィ……」
「……」
フランが生まれて、彼女の中に潜む狂気の存在を知って、彼女はこれまで手段を講じていないわけが無い。
パチュリーと知り合ってからも、フランの中に潜む狂気を取り払おうといくつもの方法を試した。
だがどれも失敗に終わり、日に日にフランの狂気は強くなって来て、手に負えなくなっていった。だから地下に閉じ込めるしか方法が無かった。そして彼女の気を紛らわせるために、生贄を何人も彼女に与えた。
幻想郷に移り住んで、霊夢達と出会ってからは少しだけ安定してきたが、それもほんの少しだけで、大きな変化は無かった。
それなのに、会ったばかりの、それもただの外来人が、フランの狂気を鎮めた。自分達がどれだけの時間と方法を費やしたにもかかわらず、何も解決出来なかったのにだ。
確かにフランの抱える問題に解決の兆しを作ってもらえたのは感謝している。しかし、唐突にやられても、彼女達からすればとても解せないのだ。
そして逆に不信感を抱く。
「本当に、彼は何なの……どうしてただの外来人が、いとも簡単に……」
「……」
パチュリーは本を閉じて、テーブルに置く。
「あくまでも推測でしかないけど、もしかすれば彼の能力が関わっているんじゃないかしら?」
「能力ですって?」
レミリアは怪訝な表情を浮かべてパチュリーを見る。
「えぇ。可能性としては、それが一番ありえるわ」
「彼は外来人よ。そんな事―――」
「魔理沙の話じゃ、この間の異変を起こした外来人は元から能力を持っていたらしいわ。だとするなら、決してありえなくはないわ」
「……」
「尤も、彼が本当に能力を持っているかどうかも分からないから、何とも言えないわね」
「……」
そもそも確かめてもいないので、分かりようもないのだが。
「……」
ふと、レミリアは何かを思い出したように顔を上げる。
「どうしたの?」
「いや、昨晩見たのを思い出したのよ」
「見たっていうと、運命を見たの?」
「……だと思うけど」
「……?」
自信なく言うレミリアにパチュリーは首を傾げる。
「分からないのよ。見えたのは景色と、数字だけよ。今までこんな形で見たこと無かったわ」
「……」
「咲夜。紙と書く物を」
「こちらに」
するとレミリアの後ろに控えていた咲夜が一瞬姿を消して再び姿を現すと、一枚の紙とインク壺に差し込まれた羽ペンを手にしてテーブルに置く。
「確か、こういう風に数字が並んでいたのよ」
彼女は羽ペンを手にして紙に数字を書き始める。
「パチェ。これに何か心当たりがあったりする?」
「……」
パチュリーはレミリアが見せた数字の列を見る。
1 433 283 57 127 135
4 133 5 260 06 D→C+28
紙には数字と最後だけ妙な文字配列が書かれている。
「どう?」
「さっぱりね。数字に何の規則性が無いし、最後の文字配列だって、全く分からないわ」
「そう……」
羽ペンをインク壺に戻し、椅子の背もたれにもたれかかる。
「本当にこの数字を見たの?」
「えぇ。間違いないわ」
「……」
「ホント、彼に会ってからというものも、変わり事が多くなったわね」
「……」
レミリアは深くため息を付き、パチュリーは何も言わなかった。
「次は、何を見せてくれるのかしら」
しかし次に彼が何をするのか、それが楽しみであった。
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