東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第6区 火入れ式編
第45駅 久々の運転と同行者と人里への出発


 

 

 

 

 紅魔館での交渉兼夕食会から数日後。

 

 

 

 

 まだ日が昇らず真っ暗な幻想郷。

 

 

 

 そんな中でも薄っすらと明かりが灯っているのは相変わらず幻想機関区のみであった。

 

 

 

 幻想機関区の扇形機関庫では、火の入っていない機関車への火入れが行われていた。

 

 

 しばらく火が入っていなかったD62 20号機の隣に火が入ったD51 241号機が停車し、作業妖精達がD62 20号機のボイラーとD51 241号機のボイラーをパイプで繋ぎ、D51 241号機から熱せられた蒸気をD62 20号機へと送り込む。

 

 その間に運転室では機関助士妖精が火室へと木材を投入し、次に足回りの部品に注した際に溢れ出た潤滑油を拭き取った布切れにD51 241号機の火室から持ってきた火を付けて火室へと投げ込む。

 

 油が染み込んでいるとあってよく燃える布切れをいくつも投げ込んだ事で、先に投入した木材に火が付いて徐々に火の勢いが強くなる。機関助士妖精は更に木材を追加して火の勢いを強くする。

 

 完全に冷え切っていたボイラーはD51 241号機から送られる熱せられた蒸気で暖められ、その蒸気が火の勢いを強くする。

 

 少しして火室内は火が燃え盛り、それを確認して機関助士妖精がスコップを手にしてテンダーの石炭の山に突き刺して石炭を掬い上げ、燃え盛る火室へと放り込む。 

 

 自動給炭機(メカニカルストーカー)と併用して数回ほど石炭を投炭し、石炭が燃えて火室内の火力が更に上がってしばらく様子を見る。

 

 

 ボイラーはD51 241号機から送られる蒸気によって十分熱せられて、更にボイラーの水も火室で燃え盛る炎で熱せられて蒸気が発生し、圧力が上がっていく。

 

 それから少しして機関助士妖精は更に数回ほど石炭を火室へと投炭し、燃え盛る火床の位置と広さを整形する。

 

 

 

 しばらくして幻想郷に日が昇り始めて明るくなり始めた頃、D62 20号機のボイラーは十分に暖められ、呼吸するかのようにコンプレッサーが動き、シリンダー付近から蒸気が出ていた。

 集煙装置付きの煙突から煙が上がり、短く二回汽笛が鳴る。

 

 ちょうどその頃に起床した北斗は身だしなみを整えて機関庫へと訪れて、金槌を手に足回りの打音検査に入る。

 

 

 今日は人里にて体験試乗会の日程を決めるのと、博麗神社へと赴いて博麗霊夢に頼み事がある。ついでに北斗自身機関車の運転を行う為だ。

 

 博麗霊夢に頼み事というのは、近々整備を終えたC11 312号機とC12形蒸気機関車、C56形蒸気機関車の火入れ式を行う為である。

 

 火入れ式は一日に一輌で行う、計三日の予定で、明日C11 312号機の火入れ式を行う。一度に三輌やるのが面倒無くて良いのだろうが、火入れ式はとても大事な儀式なので、適当な事はできない。

 

 当然早苗には最初に火入れ式の神事を頼んだ所、二つ返事で了承した。霊夢にはその手伝いに来て欲しいのだ。

 

 

「異常なし、と」

 

 金槌を手にして打音検査を終え、部品に異常が見られなかったのを確認した北斗は頷く。検査をしている間にも作業妖精が足回りの可動部に潤滑油を注して、溢れ出た潤滑油を布切れで拭き取る。これが後々他の機関車の火入れ時に使う着火材になるのだ。

 この後に油壺に潤滑油を注ぎ込むと、作業妖精は油を注した箇所を指差して最終確認を行い、注し忘れがないのを確認して北斗に報告する。

 

 それを確認した彼は金槌を元あった所に戻してD62 20号機の運転室に入る。

 

 中に入ると機関助士妖精が手にしているスコップをテンダーの石炭の山に突き刺して掬い上げ、床のペダルを踏んで焚口戸を開け、炎が燃え盛る火室に石炭を放り込む。

 

「どうだ?」

 

「いつでも行けます」

 

「よし」

 

 彼は頷きながらスコップを炭水車の道具置き場に置いて各バルブを回して蒸気を送り込む機関助士妖精の脇を通って機関士席に座り、逆転ハンドルのロックを外してメーターを見ながら回して、適した所で止めてハンドルにロックを掛ける。

 

「……」

 

 顔を窓から出して転車台がD62 20号機の居る機関庫の向きに向いているのを確認して「出庫」と声を出し、汽笛を鳴らすロッドを短く引いて汽笛を短く鳴らし、加減弁のハンドルを引いてD62 20号機を前進させる。

 

 機関庫から数日振りにその巨体を出したD62 20号機はシリンダー付近の排気口から蒸気を出しながらゆっくりと前進し、転車台にその巨体を乗せて停車する。その後転車台はゆっくりと回り出してD62 20号機の向きを変える。

 

 転車台が向きを変えて停止すると、線路が固定されてずれていないかの安全確認を終えて緑色の旗を揚げてホイッスルを吹く作業妖精の姿を確認した北斗は汽笛のロッドを引いて汽笛を短く鳴らし、加減弁ハンドルを引いてD62 20号機は前進して転車台を降り、ゆっくりと進んでいく。

 

 

 

 いくつもの分岐点を通って本線上に着くと、そこにはB20 15号機とC10 17号機が運んできた『スハ43形』の旧型客車三輌と『マニ32形』の荷物車一輌の計四輌の客車が繋がれて置かれている。

 

「……」

 

 逆転ハンドルを回してから運転席の窓から頭と身体の一部を出して後ろを向く北斗は転轍機の向きがちゃんと変わっているのを確認して緑色の旗を振るう作業妖精の姿を確認し、汽笛を鳴らすロッドを二回短く引いて汽笛を短く二回鳴らすと、加減弁ハンドルを引いて機関車を後退させる。

 

 ゆっくりと後退するD62 20号機と客車の間は徐々に縮まり、炭水車と客車の連結器が連結する寸前で彼は加減弁を戻してブレーキを掛けると、炭水車と客車の連結器が連結すると同時にD62 20号機が停車するが、少しブレーキが遅れたので大きな衝撃が運転室に伝わる。

 

「……まだまだだな」

 

 北斗はため息を付くと、機関士席から立ち上がって運転室を降りる。

 

 

「北斗さーん!」

 

 と、彼が運転室から降りたタイミングで、空から声がしてその方向へ振り向くと、早苗がにとりを連れてこちらに向かって飛んできていた。今日も彼に同行してサポートである。

 

「?」

 

 しかし早苗の後ろにはにとりの姿の他に、もう一人見知らぬ顔がいた。遠くからでも背中に黒い翼が生えているので、以前博麗神社で会った文と同じ鴉天狗と思われる。

 

(誰だろう?)

 

 彼が首を傾げていると、三人は近くに着地したので、北斗は頭を切り替える。

 

「おはようございます、早苗さん」

 

「はい。おはようございます」

 

 彼が挨拶すると、早苗も頭を下げて挨拶する。

 

「おはよう、盟友。今日もよろしくね」

 

「はい。それで」

 

 と、北斗はにとりの後ろに居る鴉天狗の少女に視線を向ける。

 

 若干癖のある茶髪のロングを紫のリボンで結んでツインテールにしており、頭には紫色の天狗帽子を被っている。服装は襟に紫のフリルが付いた薄ピンクのブラウスに黒いネクタイを付けて、同色のソックスを着用している。膝が出ているぐらいのミニスカは紫と黒の市松模様が描かれ、天狗らしい一本下駄を履き、その下駄から紫のバンドの様な物をソックスに縛っている。

 そして彼女の背中には黒い羽の生えた小振りの翼が生えている。

 

「そちらの方は?」

 

「あぁ。彼女は鴉天狗の―――」

 

「『姫海棠はたて』よ」

 

 と、鴉天狗の少女こと姫海棠はたては軽く自己紹介する。

 

「姫海棠さんですか。自分はこの幻想機関区の区長で、このD62 20号機の機関士をしている霧島北斗です」

 

 北斗も自己紹介をして頭を下げる。

 

「はたてでいいわ。噂は聞いているわ、北斗さん」

 

「分かりました。それで、はたてさん。今日はどういったご用件で?」

 

「頼みたい事があるのよ」

 

「頼み?」

 

 北斗は首を傾げる。

 

「そう。今日一日あなたに密着取材をさせて欲しいのよ」

 

 と、はたては腰にあるポーチより愛用しているカメラを取り出す。どう見ても外の世界ではガラケーと呼ばれている携帯電話である。

 

「密着取材ですか?」

 

「はたてさんは『花果子念報』って言う新聞を作っているんです」

 

「新聞、ですか……」

 

 すると北斗の表情が微妙なものになる。

 

「いや、露骨に嫌そうな顔しないで! その理由は察せるけどさ!?」

 

 はたては慌てた様子で北斗に言う。

 

「確かに文と同じ新聞記者だけど、あいつみたいなふざけた新聞は書かないわ!」

 

「……」

 

「まぁ、はたての新聞は文の文々。新聞と比べると捏造記事は書かないから、いい方だよ」

 

「ふふーん。そうでしょ」

 

 にとりのフォローではたては薄い胸を張る。

 

「と言っても、はたてさんの花果子念報はどこか見たことあるような記事ばかりなんで、新鮮味がないんですよね」

 

 と、早苗の容赦ない言葉がはたての心に突き刺す。

 

「ま、まぁ、その新鮮味を私の花果子念報に加えるために、話題のあなた達に密着取材をするってわけ」

 

「要約したら文の文々。新聞に対抗してネタが欲しいんだよ」

 

「なるほど」

 

 咳払いをして調子を整えると、彼女は密着取材の理由を語ってにとりが補足して北斗は納得する。

 

「まぁこちらに迷惑を掛けなければ同行は許可します」

 

「もちろん。文みたいに図々しい事はしないわ。ただ付いていくだけだから。まぁたまに質問はするぐらいよ」

 

「分かりました」

 

 んでもって、北斗ははたての同行を許可した。

 

 

「あの、北斗さん」

 

「ん?」

 

 二人の会話が終わったの見計らって、早苗が北斗に声を掛ける。

 

「実は、とても嬉しいお知らせがあるんですよ」

 

「嬉しいお知らせですか?」

 

「はい。守矢神社まで繋がっている路線についてですが、神奈子様が天狗側と話し合いがあったのは知っていますよね」

 

「えぇ」

 

「長い会談の末、天狗側が守矢神社まで繋がっている線路がある場所を通っていいと了承してくれたんです!」

 

「そうなんですか!」

 

 北斗は思わず声を出す。

 

 これまで機関車で妖怪の山への立ち入りは麓の河童の里付近までで、その先の調査はおろか、守矢神社までの路線の調査は進んでいない。今後の鉄道事業の為にも、守矢神社への路線は確保したかった。しかし縄張り意識が強い天狗はそれを許さなかった為、殆ど手がつけられていない。

 

「そういえば、今朝天魔様からお達しが来ていたわね。まぁ哨戒する連中向けなんだろうけど」

 

 話を聞いていたはたては顎に手を当てて今朝に聞いた事を口にする。

 

「これで神社まで来れますね」

 

「えぇ。とてもいい吉報です」

 

 早苗の言葉に北斗は頷く。

 

「諏訪子様も毎日頑張って石炭を作っていますので、結構な量が出来ていますよ。神奈子様も河童の皆様に石炭を溜めて搬入する為の装置を作らせていましたから」

 

「そうなんですか?」

 

 北斗はにとりに聞く。

 

「そうなんだよ。神奈子様から大きな設備を作って欲しいって言われてさ。石炭を溜めておいて、それを落とすような装置だよ」

 

「なるほど」

 

 にとりの言葉から北斗はどんな装置か想像する。

 

「では、火入れ式後に調査を兼ねてそちらに機関車で赴きます」

 

「はい。お待ちしています」

 

 早苗は微笑みを浮かべる。

 

「それでは、出発しますので、客車に乗ってください」

 

「はい」

 

「分かったよ」

 

「分かったわ」

 

 三人はD62 20号機の後ろに連結されている客車に乗り込む。その後に蝙蝠に変身したエリスが客車と客車の間に入り込む。

 

 それを確認した北斗は運転室に戻り、機関士席に座る。

 

 そして線路脇にある腕木式信号機が赤から青へと切り替わり、出発の合図を出す。

 

「出発進行!」

 

 それを確認した北斗は号令を発し、ブレーキを解いて汽笛のロッドを引いて汽笛を鳴らし、加減弁のレバーを引いて機関車を前進させる。

 

 灰色の煙を煙突から吐き出しながら、D62 20号機が牽く列車はゆっくりと前進し、幻想機関区を出て人里へと向かう。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 幻想郷で唯一人間が暮らす人里。

 

 相変わらず賑わいを見せる里の各所にある門の一つ。

 

『……』

 

 そこには妹紅や慧音、小兎姫といった人里の治安を守る自警団の面々が居た。

 

 

 ―――ッ!

 

 

「来たか」

 

 遠くから響く汽笛の音に妹紅が顔を上げる。

 

 少しして煙突から煙を吐き出しながら走って来るD62 20号機の姿が現れ、人里付近の線路を通って走る。

 

 そして人里付近でゆっくりと速度を落としていき、近くで停車する。

 

 停車したD62 20号機や後ろに連結されている客車から北斗に早苗とにとり、はたてが降りてくる。

 

「河童に天狗の姿があるって……」

 

「メイドといい、早苗といい、変わった者に惹かれているのだな」

 

 小兎姫が苦笑いを浮かべると、慧音は半ば呆れた様子だった。

 

 

 それからしてにとりを除いた北斗達が慧音達の元にやってくる。

 

「おはようございます」

 

「あぁ、おはよう」

 

 北斗は略帽を脱いで妹紅達に挨拶する。

 

「今日はよろしくお願いします」

 

「あぁ。既に里長に団長が待っている」

 

 と、小兎姫の視線が後ろに居るはたてに向けられる。

 

「それで、そこの鴉天狗は?」

 

「私は彼の密着取材をしているだけだから、余計な心配は要らないわ」

 

「そうか」

 

 はたての言葉に小兎姫は彼女が文屋であると確認する。

 

 しかしどちらかと言うと、鴉天狗の文屋と言うと射命丸文の方が浮かび上がる。それだけ彼女の知名度が高いという事で、はたての知名度が低いという事を表している。

 

「付いて来てくれ」

 

 慧音は彼らを招き、人里へと入る。

 

 

 

 




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