東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第47駅 新たなる機関車はパシフィック

 

 

 

 

 

 霊夢から衝撃的な事を聞いた北斗達は慧音と霖之助、妹紅に一言断ってから、列車に乗り込んで博麗神社へと出発する。

 

 

 D62 20号機が牽く客車四輌の内、先頭の客車に早苗達が乗り込んでおり、各々の会話を交わしている。

 

 

「それで、霊夢さんが見た蒸気機関車ってどんな感じでしたんですか?」

 

 客車内の席に座る早苗は、向かい側の席に座る霊夢に彼女が見たという蒸気機関車の特徴を聞いていた。

 

「どうって言われても、大きかったわよ」

 

「いや、そうじゃなくて。どんな形でしたかを聞いているんですよ」

 

「そうねぇ。そんなにじっくりと見ていた訳じゃないからよく覚えていないけど、まぁ北斗さんが乗っている機関車より小さかったわね」

 

「そうですか」

 

「でも、一つだけは結構大きかった気がする」

 

「なるほど……ん?」

 

 ふと霊夢が呟いた言葉に引っ掛かった早苗は首を傾げる。

 

「あの、霊夢さん?」

 

「何よ」

 

「霊夢さんが見つけた蒸気機関車って、いくつなんですか?」

 

「確か二つ、だったかしら」

 

「何でその大切な事を言わなかったんですか!」

 

「だって、数なんて大したことじゃないと思ったから」

 

「大有りですよ!!」

 

 あっけからんように言う霊夢に早苗は大きな声を上げる。

 

 

 

 

「相変わらず、いい加減な巫女ね」

 

「だね」

 

 二人の巫女の言い争いを後ろから見ていたはたてとにとりは呟く。

 

「でも、気になるねぇ。博麗神社の前に現れたって言う蒸気機関車が。しかも大きくて二輌もあるっていうね」

 

「確か河童の里近くにもあったのよね」

 

「そうだよ。まぁその時の機関車は小さいやつだったんだけど。だから今回は楽しみさ」

 

「ふーん」

 

 興味無さげにはたては声を漏らす。

 

「まぁ、私は新聞のネタがあればそれでいいわ」

 

 はたてはカメラに新聞のネタになる情報を書き込んでいく。

 

 

 

(やれやれ、相変わらず靈夢はあんな感じなのね)

 

 その頃、後ろの客車と早苗達が乗っている客車の間に蝙蝠の姿に変身しているエリスが窓からこっそりと見ていた。その視線の先に霊夢が早苗と言い争っている。

 

(まぁ、急にお淑やかな感じになるのも、それはそれで変だけど)

 

 内心そう呟きながら上へと昇っていく。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 D62 20号機の運転室の窓から頭を出して前を見ている北斗は加減弁のレバーを握ったまま開閉を行って速度を調整する。

 

(そろそろ、か)

 

 少しだけ傾斜した線路を登り切り、そろそろ博麗神社付近に着いて北斗は加減弁のレバーを最初の位置に戻して加減弁を閉じる。

 

 森の中へと入り、ブレーキ弁ハンドルをゆっくりと閉めてブレーキを掛け、D62 20号機の速度を徐々に落として行く。

 

「っ!」

 

 そして木々の合間から少しだけ黒い巨体が見え始めてきた。

 

(あれが霊夢さんの言っていた……)

 

 その黒い巨体が霊夢が北斗が置いて行ったと勘違いした蒸気機関車であると、北斗は確信する。

 

 しかし木々に阻まれてか、その姿の詳細を確認できなかった。

 

「……」

 

 北斗は可能な限りその蒸気機関車の近くまでD62 20号機を進ませて、そこで全てのブレーキを掛けて列車を停止させる。

 

 完全に機関車が止まったのを確認してから機関士席を立って運転室を出る。

 

「っ! あれは!」

 

 そして近くまで来てその機関車の細かい所の確認が出来て、北斗は機関車に近付く。

 

「……」

 

 北斗はその機関車を端から端まで見て、運転室横に取り付けられたナンバープレートを見る。

 

「C55……57号機」

 

 彼はその蒸気機関車の名前を口から漏らす。

 

 

 

 C55形蒸気機関車は日本が設計して製造した国産の旅客用蒸気機関車である。

 

 丙線規格の路線に入線可能なC51形蒸気機関車の後継として『C54形蒸気機関車』が設計されて製造されたが、ボイラー圧力の高圧化に加え軸重を軽くし過ぎた結果、酷い空転癖が発生して乗務員から大不評を買い、わずか17輌で生産が打ち切られた。それにより丙線規格の路線で不足するであろう旅客用蒸気機関車の補う為に、このC55形蒸気機関車がC54形蒸気機関車の失敗を教訓としつつ設計され、製造された。

 

 基本構造はこれまで設計されて、代替・増備対象であるC51形、C54形の基本構造を踏襲しており、動輪はスポーク動輪が採用しているが、スポーク動輪は強度不足による変形や破損が問題となっていたので、本形式では新たに設計された補強付きのスポーク動輪が採用されている。その補強部分が俗に『水かき』と呼ばれており、本形式の大きな特徴の一つになっている。

 しかしこれがただの見た目倒しと思う無かれ。設計陣の思惑通り、動輪の変形や破損は殆ど起きなかったそうだ。

 スポーク動輪を採用した本形式だが、その後設計された機関車はアメリカ流のボックス動輪を採用するようになったので、本形式はスポーク動輪を採用した最後の機関車なのだ。

 

 ちなみにこのC55形蒸気機関車は流線形と呼ばれる流線形カバーが取り付けられた特徴ある姿で製造された時期があったが、殆ど効果が無いと判断され、早期にカバーが撤去されて最終的に全ての車輌が従来の仕様に戻された。

 

 C55形蒸気機関車は全部で62輌が製造され、各地で活躍した。ちなみに63号機からボイラー圧や動輪をスポーク動輪からボックス動輪に変更したりと、多くの箇所で改良が行われた。しかしその改良が多岐に亘ったことで半ば別物感があったので、新形式が与えられるようになった。それが『C57形蒸気機関車』である。

 

 特にこのC55形蒸気機関車は九州地方の蒸気機関車で見られた『門デフ』と呼ばれる除煙板(デフレクター)が日本の国産上機関車の中でよく似合うとして有名であり、この57号機もその門デフを装備している。ちなみにこの57号機はC55形蒸気機関車の中で、梅小路に保存された1号機を除いて最後に廃車となった車輌である。

 

 

 

(まさか、C55形が来るとはな)

 

 北斗は線路の上で静かに佇むC55 57号機を眺めながら内心呟く。

 

 いつかは何かが来ると思っていたが、意外な機関車が来たものだ。

 

(だが、旅客用の機関車が来てくれたのは助かるな)

 

 D51形やD62形、9600形でも旅客運用は可能だが、専門的に行える機関車が居てくれるのは心強い。それに旅客用でも、貨物列車を牽く例も数多くあった。

 

 そして彼の視線はC55 57号機の前にある機関車に向けられる。

 

(それに、あれは……)

 

 

「これが霊夢さんの言っていた」

 

「えぇ」

 

「へぇ、これはまた中々」

 

「結構違うものなのね」

 

 直後に早苗達がやって来て、C55 57号機を見てそれぞれの感想を口にする。

 

「幻想機関区にあるD51形みたいな構成だね」

 

「えぇ。テンダー式という点では同じですが、D51形は貨物用、このC55形は旅客用として設計されています」

 

「えぇと、確か荷物を運ぶのが貨物で、人を運ぶのが旅客だっけ?」

 

「そうです」

 

 にとりの疑問に北斗が答える。

 

「なんだが、車輪の数があなたの機関車と違うわね」

 

 はたてはC55 57号機とD62 20号機を見比べると、カメラを向けて撮影する。

 

「D51形は1D1のミカド形ですが、このC55形は2C1のパシフィック形です」

 

「車輪の数の違いでどう違うわけ?」

 

「大雑把に言えば速度と牽引力が違ってきます。その他にも重量を分散して規格の低い路線に入線可能になります」

 

「うーん。よく分かんないわね」

 

 北斗の説明を聞いても、はたては理解出来ないでいた。まぁ専門的な用語が多い上に、聞き慣れない言葉が多いのだ。理解できなくて当然だろう。

 

「それで、前にある機関車って」

 

「えぇ」

 

 早苗が北斗に声を掛けると、彼はその機関車に近付いて運転室横に付けられているナンバープレートを見る。

 

「……『C59形蒸気機関車』 その127号機か」

 

 北斗はボソッと声を漏らし、C55 57号機より大きな蒸気機関車を見上げる。

 

 

 C59形蒸気機関車とは、日本が設計製造した旅客用蒸気機関車である。C55形蒸気機関車と同じ旅客用だが、C55形は普通列車、たまに急行列車を牽くが、C59形は特急列車や急行列車といった優等列車を牽いていた。

 

 この機関車の誕生の背景は国産で尚且つ日本が独自に設計したと言う点では唯一の3気筒を持ち、構造面に致命的欠陥を持つC53形蒸気機関車の後継として設計された。

 

 基本構造としては、車軸配置はこれまでの旅客用機関車から続く2C1のパシフィック形で、ボイラーは設計時期が先行していたD51形のものを基本としてボイラー圧力を上げて、その上長煙管構造とした。

 

 C62形蒸気機関車が登場するまでは特急列車の花形として活躍し、その上お召し列車に本形式が充当されることからも、現場からの信頼は高かった。しかしそれでも、この機関車には欠点がいくつも存在した。

 

 ボイラーの大型化に加え、火室などの部位が後ろに集中して重心が偏った事により、従台車に大きな負荷が掛かって部品の磨耗が早く、亀裂が入る事が多かった。この問題は最後まで解決されなかったが、保守担当者ごとで部品の磨耗に伴う交換時期を他の機関車と比べてより厳しくする事で、かろうじて致命的な問題の発生を回避していた。

 

 そのボイラーも、時期が時期とあって、鋼板の品質の著しい低下により、天井板に膨らみが生じてしまう欠陥があった。戦後は状態の悪いボイラーを持つ個体のボイラーは交換されている。

 

 何よりこの機関車の最大の問題であったのは、長煙管による燃焼効率の低下であろう。これは長煙管と煙管断面積の不足により通風が悪くなり、石炭の燃焼が悪く未燃ガスが増大して熱効率が低くなるものである。

 元々この機関車の設計は燃焼室を付加して効率を引き上げるようになっていたのだが、保守面で難があると判断されて見送られてしまった。このことで先の問題が発生したと考えられる。

 戦後に製造されたC59形は設計を変更され、煙管を短縮して見送られた燃焼室を付加したことで、この問題は解決された。つまり設計陣が当初想定したとおりの仕様であれば、そもそもこの問題は起こり得なかったのだ。

 

 戦後に作られたC59形は他の国産蒸気機関車と比べると、全伝熱面積に閉める過熱面積の割合が最も高く、理論上は最高値と言われている。その為現場からは『他の機関車と比べて蒸気の上がりが良い』と言われていた。

 

 

(C59形か。これは随分と強力な機関車が見つかったな)

 

 北斗はC59 127号機を端から端まで見る。

 

 速度と言う点ではこれまで見つかった蒸気機関車の中で一番なのは確かだろう。

 

「今まで見つけた中で一番大きいですね、北斗さん」

 

「えぇ」

 

 早苗が北斗の隣に立って声を掛けると、彼は短く返す。

 

「それにしても、本当に分からないですね。タイミングと言い、場所と言い。全く規則性が無いです」

 

「そうですね。今後どこに現れるか……」

 

「……」

 

「……」

 

「北斗さん?」

 

 急に黙り込む北斗に早苗は首を傾げる。

 

「……何の為に、彼女達は幻想郷に現れるんだ」

 

 北斗はC59 127号機に近付きながら呟く。

 

「……」

 

「俺も、何の為に……」

 

 彼は右手を前に出して、C59 127号機の運転室側面に触れる。

 

 

「っ!?」

 

 その瞬間、北斗の頭に痛みが走り、後ろに下がりながらよろける。

 

「北斗さん!?」

 

 早苗はすぐさまよろめく彼を後ろから支える。

 

 するとC59 127号機とC55 57号機の前に光が集まる。

 

『っ!』

 

 それを見て霊夢達が身構える中、光は人の形を作っていく。

 

(これは、葉月(C10 17号機)の時と同じ……!)

 

 北斗はあの時の事を思い出していると、光は人の形を作り、直後に光が晴れる。

 

『……』

 

 そして光が晴れると、二人の女性が姿を現す。

 

 

 




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