東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

49 / 159
第48駅 特殊な機関車

 

 

 

『……』

 

 C55 57号機とC59 127号機の前に、二人の女性が姿を現し、霊夢達は警戒していた。

 

 二人の共通点は女性としては長身で、どちらも紺色のナッパ服を身に纏っている。

 

 C55 57号機の前に居る『C55 57』のバッジを左胸辺りに付けた女性は、艶のある背中まで伸びた黒髪を左側に纏めたサイドポニーにしており、キリッとした顔つきをしている。

 

 C59 127号機の前に居る『C59 127』のバッジを左胸辺りに付けた女性は『C55 57』のバッジを付けた女性より背が高く、腰まで伸ばした黒髪のストレートで、『C55 57』のバッジを付けた女性のようにキリッとした雰囲気を持っている。

 

「ここは……」

 

「……」

 

 二人の女性は目を開けると、辺りを見渡す。

 

「む? これは……」

 

「人間の身体だと?」

 

「それに、これは……」

 

 すると自分の身体を見て二人の女性は驚いた様子で見ていた。

 

 

「これって、もしかして明日香さん達みたいに?」

 

「恐らく、そうでしょうね」

 

「へぇ、こんな感じで出てくるのね」

 

「こりゃ貴重な場面に立ち会えたもんだね」

 

「これは良いネタになるわね」

 

 自分の身体に本来の身体がある事に戸惑っている二人の女性を北斗達が見て各々の感想を呟く。

 

「とりあえず、声を掛けてみましょう」

 

「だ、大丈夫なんですか?」

 

 早苗は不安な表情を浮かべる。

 

「葉月の時も同じようにやりましたし、何より彼女達を放ってはおけません」

 

「それは、そうですが……」

 

「大丈夫です。早苗さん達は後ろで見ていてください」

 

「……」

 

 早苗に支えてもらっている北斗は体勢を整え、二人の女性に近付く。

 

「少しいいか?」

 

「ん?」

 

 北斗が声を掛けると、二人の女性は彼の方を向く。

 

「誰だ、貴様は?」

 

 その内『C55 57』のバッジを付けた女性は警戒した様子で北斗を睨む。

 

「自分は幻想機関区の区長をしている、霧島北斗です」

 

「っ! 失礼しました、区長殿」

 

『C55 57』のバッジを付けている女性は北斗が機関区の区長であると知ると、威圧的な態度を改めて謝罪し、敬礼する。

 

「君達はC55 57号機とC59 127号機だね」

 

「はい。そうであります」

 

『C59 127』のバッジを付けた女性は北斗の問いに答える。

 

「我々幻想機関区は君達のような存在を集めて保護している」

 

「君達の様な? 私達以外にも罐があるのですか?」

 

「あぁそうだ」

 

「……」

 

「……」

 

 二人の女性は顔を見合わせると、再度北斗を見る。

 

「それで、私達はこれからどうなるのですか?」

 

「少ししたら君たちを機関区に移送するつもりだ」

 

 北斗がD62 20号機を見ると、二人もそっちを向いて見る。

 

「ところで、C59 127号機」

 

「何でしょうか?」

 

「君は、もしかして改装を受けた後なのか?」

 

「改装?」

 

 彼女は一瞬何のことか首を傾げるが、すぐに質問の意図を察する。

 

「はい。その通りです」

 

 そして『C59 127』のバッジを付けた女性が肯定すると、北斗は「うーん」と静かに唸りながら額に手を当てる。

 

「どうしたんですか?」

 

 悩んだ様子を見せる北斗に早苗は首を傾げる。

 

「これは、少し厄介な事になりました」

 

「厄介な事?」

 

「えぇ。あのC59 127号機ですが……」

 

 北斗はC59 127号機を見る。

 

「重油を燃料にした重油専燃式(・・・・・)の機関車です」

 

「重油って、油ですか?」

 

「はい」

 

 北斗は悩んだような表情を浮かべて、腕を組む。

 

 

 C59 127号機は国鉄の蒸気機関車の中で唯一、重油を燃料にした重油専燃式に改造された機関車である。

 

 重油専燃式とは、燃えるものなら理論上何でも良いという蒸気機関車のアドバンテージを捨てて重油のみを燃料にしたもので、石炭よりも燃焼率が高いので出力が上がっていたそうである。

 専門的な知識と技術を持つ機関助士が必要になるが、それでも石炭の投炭作業が無くなって重油を火室に送る為のバルブ操作のみになったので、機関助士の負担がかなり軽減された。

 

 この方式を採用した蒸気機関車は結構多く、今でもアメリカで動態保存されている『FEF3型』や最近復活したばかりのビッグボーイこと4000形蒸気機関車にもこの機構が搭載されている。

 ちなみにこのビッグボーイだが、これよりも前に違う形式の重油専燃式で改造された車輌があったが、構造上合わなかったのか不具合が頻発して、元の石炭燃焼式に戻された。

 

 このC59 127号機も炭水車の石炭庫部分を重油タンクを搭載し、火室も火格子を撤去して、その他諸々を重油専燃式に適した大規模な改造が施されて試験が行われた。賛否的な意見があるものも、乗務員の労働環境は圧倒的に楽なものになり、出力も向上したと試験結果は良好であり、その後何度か試験を繰り返してはその試験で露呈した不備を改善した。

 試験後は準急『ゆのくに』の専用機として運用された。

 

 確かに重油専燃式となったC59 127号機の性能自体は良かった。しかしたった一輌しかなく、その上専任の乗務員を養成するのは非効率であるというのもあって、先述の準急の専用機に割り当てられた経緯がある。

 しかも他の機関車とは異なる構造となったので、保守面では不評であった。

 

 その上時代は電化の真っ最中。そんな時代にわざわざ蒸気機関車を改造して使い続ける必要性が全く無かったので、国鉄で重油専燃式に改造された蒸気機関車はこのC59 127号機のみとなった。

 

 一時は技術革新の証人として保存の動きがあったものも、結局C59 127号機は解体されてしまった。

 

 

 そんな重油専燃式のC59 127号機があっても、一つ大きな問題がある。

 

 

「この機関車を動かす為の、重油がありません。それ以前に原料の石油すらありません」

 

「そう、ですよね」

 

 北斗の言葉に早苗は何とも言えない微妙な表情を浮かべる。

 

 この幻想郷では石炭ですら特殊な方法でしか手に入らないのに、重油の原料となる石油となるともっと無いだろう。あったとしても重油を作る為の製油技術だって無い。

 

 幻想機関区に備蓄の分は無いのかと思われるが、重油を石炭と共に燃やす重油併燃装置を持った機関車が現在機関区に無いので、最初から重油は無い。

 

 結論を言ってしまえば、現状ではこのC59 127号機は動かす事が出来ない。

 

(困ったな……)

 

 非常に強力な戦力故に、使いたくても使えないのは手痛い。

 

 今の状態から本来の仕様に戻すと言う方法はあるが、現状ではそこまでの大規模な改造が出来るほどの部品が無い。それ以前に必要な部品があるかすらも怪しい。

 河童の技術力次第ではどうにかなるかもしれないが。

 

 

「あの、どうしましたか?」

 

 深刻な表情を浮かべている北斗に『C59 127』のバッジを付けた女性は戸惑いの表情を浮かべる。

 

「その、非情に言いづらいんですが……」

 

 北斗は間を置いて、彼女に伝える。

 

「機関区に重油がありません」

 

「……え?」

 

 北斗の言葉を聞いて女性は思わず声が漏れる。

 

「で、では、私はどうなるのですか?」

 

「問題が解決するまでは、しばらく機関庫で待機になりますね」

 

「そ、そんな……!」

 

 酷な事実を聞かされて『C59 127』のバッジを付けた女性はあからさまにガッカリした雰囲気をかもし出して肩を落とす。 

 

「……」

 

 そんな彼女の姿を見て北斗は罪悪感に苛まれる。

 

「(どうすれば)……?」

 

 どうにか出来ないか考えていると、ふと北斗は何かに気付いて視線を右の方に向ける。

 

 機関車の脇を一人の少女が歩いていた。

 

(あれって……こいし?)

 

 北斗はその少女が前に機関区に突然現れたこいしであると思い出す。彼女は無表情で機関車の傍を歩いている。

 

「北斗さん?」

 

 早苗はどこかを見ている北斗の視線の先を見るが、首を傾げる。彼女にはこいしの姿が見えないのだ。

 

「こいしか?」

 

 北斗がそう言うと、こいしは立ち止まって彼を見る。

 

「あっ、お兄さんだ」

 

 こいしは笑顔を浮かべて手を振るうと、早苗はギョッと驚く。彼女からすればこいしが突然現れたようなものだ。

 

 霊夢達も突然現れたこいしに驚く。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 その後北斗はD62 20号機に戻り、一旦客車との連結を外して博麗神社前の側線を使い、C59 127号機とC55 57号機を連結してC55 57号機と客車を連結させ、その後本来の目的を果たす為に博麗神社へとやってくる。

 

 

「それで……」

 

 自宅の縁側に座ってる~ことより受け取った湯呑に入っているお茶を一口飲み、湯呑を傍に置いてから霊夢はジトッと北斗を睨みながら声を掛ける。

 

「その状況は一体どういう事かしら?」

 

「そうですよ! 説明してください!」

 

 彼女がそう聞くと、同調するように早苗が問い詰める。

 

「それは……」

 

 北斗は苦笑いを浮かべながら前を見る。

 

「~♪」

 

 そこには自身の膝の上に座る上機嫌のこいしの姿があった。

 

「そもそも、どうやってこいしを見つけたのよ」

 

「どうやってって、初めてにとりさんが機関区を訪れて、帰った後に彼女とぶつかって、その時に」

 

「それだけ?」

 

「はい」

 

「そだよ~」

 

 北斗が返事をすると、こいしもそれに乗じて答える。

 

「……」

 

 すると霊夢は前を向くと、真剣な表情を浮かべて顎に手を当てる。

 

「北斗さん。普通ならこいしさんを見つけることは難しいんですよ」

 

「そうなんですか?」

 

「はい。というか北斗さんって、小さい子に好かれる体質なんですか?」

 

 早苗はジトーと、睨みながら北斗に聞く。

 

「うーん。外の世界じゃそんなこと無かったんですけどね」

 

 自分の膝の上に座るこいしを見ながら呟く。

 

 

「それで、今日は何の用で来たの?」

 

 少しして霊夢は北斗に聞く。

 

「今日は霊夢さんにお願いがありまして訪問しました」

 

「お願い?」

 

「えぇ。明日整備を終えた蒸気機関車の火入れ式を行いますので、霊夢さんにはそのお手伝いをして欲しいんです」

 

「火入れ式?」

 

「機関車に火を入れて安全を祈願するとても大事な儀式です。これは神職の方にやってもらいたいんです」

 

「ふーん。それなら早苗でもいいんじゃない?」

 

「はい。既に早苗さんには頼みまして、二つ返事で承諾してくれました」

 

 すると彼の右側に座る早苗がドヤァとグッと右手の親指を立てる。

 

「だったら何で私に?」

 

「霊夢さんには早苗さんの手伝いをして欲しいんです」

 

「早苗の手伝い……」

 

 霊夢は露骨に嫌そうな表情を浮かべる。

 

 同業者とあって、博麗神社と守矢神社の関係は決して仲が良いとは言えない。その上霊夢からすれば参拝客を取られてしまうので、収入源の賽銭が無くなっては死活問題なのだ。 

 

「幻想郷には神職の方が少なく、自分が知っている限りじゃ早苗さんと霊夢さんしかいないので、お願い出来ませんか?」

 

「……」

 

 霊夢は腕を組んで静かに唸る。

 

 

「はぁ。全く面倒ね」

 

 少しして彼女はため息を付く。

 

「まぁ、この間の賽銭の一件もあるし、いいわ。今回だけ早苗の手伝いをしてあげるわ」

 

「ありがとうございます」

 

 北斗は霊夢にお礼を言う。

 

「では、三日間宜しくお願いします」

 

「えぇ……え?」

 

 ふと北斗の口から出たこと何霊夢は首を傾げる。

 

「三日?」

 

「はい。火入れ式を行う機関車は全部で三輌ですので、三日掛けて行います」

 

「一度にやればいいのに」

 

 面倒くさそうに彼女は呟く。

 

「ダメです。火入れ式はとても大事な儀式なので、そんな横着な事は出来ません」

 

「ぬぅ……」

 

 しかし北斗に大事な儀式であるのを強調して言われ、霊夢は反論できなかった。まぁ北斗自身もなるべく早く三輌の戦力化を進める為に一度に火入れ式を行おうと考えたが、やはり大切な儀式とあって一日一輌の計三日で火入れ式を行うことにした。

 

「分かったわよ。やれば良いんでしょ、やれば」

 

 結局霊夢は折れる形で承諾するのだった。

 

 

 

 

 

 




感想、質問、要望等がありましたら、お待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。