東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

5 / 159
第04駅 人間の身体を得て

 

 

 

 その頃幻想郷の上空では――――

 

 

 

「もうそろそろね」

 

 幻想郷の空を飛ぶ霊夢と魔理沙、早苗の三人は線路を辿って異変の首謀者の元へと向かっていた。

 

「なぁ、この先って何も無かったよな」

 

「うーん。そうですよね」

 

 魔理沙と早苗は飛びながらこの先の光景を思い出していた。

 

 この先にある平地はそれまで何も無く、彼女達にとっては常に通り過ぎる場所だったので記憶は薄い。

 

「じゃぁ、あれって、何だよ?」

 

 彼女が呟く視線の先には、長い間何も無かったはずの平地に現れたいくつもの建造物であった。

 

 そして自分達が辿っている線路もその建物へと伸びていた。

 

「どうやら、あれは外の世界から幻想入りしてきたようね」

 

「建造物ごとかよ。レミリア達の時を思い出すぜ」

 

「全くね」

 

 霊夢と魔理沙は知り合いが最初に幻想郷にやってきた時の事を思い出す。

 

 これまで幻想郷で起きた幻想入りの規模は小規模の物が多かったが、中には建造物ごと幻想入りするケースがあった。

 

 しかし、ここまで大規模な幻想入りは例が無い。

 

「凄いですね。あんな規模の施設、写真でしか見た事がありません」

 

 早苗はどこか懐かしそうに平地に現れた機関区を見つめる。

 

「それに、あれって、もしかして……」

 

 彼女の視線は施設の中央にある扇を広げたような建造物に向けられる。その眼差しは期待感に満ちていた。

 

 それに車輌が多く置かれている場所に、白煙を上げている物体が走っていた。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わって霧島機関区。

 

 

「操車場は相変わらず多いな」

 

「はいです」

 

 客車や貨車、特殊車輌が収められている操車場でB20形蒸気機関車の15号機が単機で煙突から白煙を出して線路の上を走っていた。

 

 その運転室に『B20 15』のバッジを付けた少女が窓から前を確認しつつ加減弁を操作して速度を調整し、その隣では火室の焚口戸に付いている鎖を片手で持って持ち上げ、もう片方の手に持つ片手スコップで石炭を掬い上げて放り込んでいる機関助士の妖精と、一緒に同行している『D51 465』『79602』のバッジを付けた少女達が運転室の出入り口から身体を出して周囲を見ている。

 

 操車場には各種旧型客車と貨車の他に、『国鉄ソ80形貨車』と呼ばれるクレーンを持った操重車他三輌ほどあった。

 

「しかし結局罐は私達だけか」

 

「寂しくなるわね」

 

『D51 465』のバッジを付けた少女はポニーテールを風に靡かせながら周囲を見渡し、『79602』のバッジを付けた少女はハイライトの無い瞳を周囲に向けつつ呟く。

 

「ところでさ、15号、79602号」

 

「何でしょうか?」

 

「何?」

 

「二人はさ、区長の事をどう思っているんだ?」

 

「どう、ですか」

 

「……」

 

『D51 465』のバッジを付けた少女の質問に、二人は黙り込む。

 

「ほら、今まで区長とは面と面を合わしたことは無かったじゃないか。区長の指示を聞いて、私達は働いていたし」

 

「今と違って、機関車の姿でね」

 

「まぁ、そうなんだけどさ」

 

『79602』のバッジを付けた少女の指摘に『D51 465』のバッジを付けた少女は苦笑いを浮かべる。

 

「逆に、あなたはどうなの?」

 

「私か? 別に私は区長の事が気に入らないとかそういうのは無い。むしろ、尊敬しているさ。指示だって毎回的確で、私達をよく理解して仕事を配分していたし」

 

「そうね。私はもっぱら入れ替え作業が主だったけど、たまにローカル線で貨物を牽く際に私が選ばれていたし」

 

「まぁ、私は入れ替え作業しか出来ないですけどね」

 

『B20 15』のバッジを付けた少女は苦笑いを浮かべる。

 

「ただな……」

 

 彼女は機関庫の方に視線を向けると、機関庫の中央に居座るD62 20号機の姿を視界に入れる。

 

「あの機関車の事ね」

 

「あぁ」

 

「あの機関車。機関区には無かったですもんね」

 

 機関車としての本来の記憶と同時に霧島機関区で働いていた時の記憶を持つ彼女達は、かつて霧島機関区で働いていた頃にD62形蒸気機関車が無い事も分かっている。

 

「あれがあるのが疑問だけど、最も気になるのは」

 

「あぁ。区長があの機関車の機関士だってことだ」

 

 彼女達は機関庫にあったD62形蒸気機関車とその機関車の機関士が区長である霧島北斗であることに疑問に思っていた。

 

 機関車の神霊である彼女達は同族と同じ波動に敏感である。

 

 だからこそ、彼女達は区長の北斗から自分達と同じ波動を感じ取っていた。

 

 しかし彼女達は北斗が人間であるのは知っている。だからこそ疑問に思っているのだ。

 

 

 人間だったはずの区長が、なぜ自分達と同じ波動を出しているのか。にも関わらず、普通の人間でもあるのか。

 

 それに区長の頭に出来たあの傷は一体どこで受けた物なのか……

 

 謎が謎を呼ぶとはこういう事だろう。

 

 

「まぁ、分からない事をいつまで考えたって、ヒントも無いのに分かるはずが無い、か」

 

 と、ため息を付いて呟く。

 

「私は区長がどっちでも構わないわ。私は与えられた仕事をこなすだけ。昔から変わらないことよ」

 

『79602』のバッジを付けた少女は淡々と喋る。

 

「私もです」

 

「まぁ、そうだよな」

 

 二人はそう呟くと、『B20 15』のバッジを付けた少女は汽笛のロッドを引いて汽笛を短く鳴らす。

 

「では、機関庫に戻るです」

 

『B20 15』のバッジを着けた少女は加減弁を引いて速度を上げ、機関庫へと向かう。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 その頃機関区内にある石炭の貯蔵庫。

 

 

「普段から見る事が無かったけど、こんなにあるのね」

 

「そうですね」

 

『D51 1086』と『D51 603』のバッジを付けた少女達はスコップを持って石炭の山の上を歩く。周りでは少女? 達がスコップを持って石炭の山を掻き分けていた。

 

 二人は先ほどまで作業していたのか、全身煤だらけだった。

 

「まぁ、後はあの子達に任せてどれくらいの量があるか調べてもらえばいいわね」

 

「……」

 

「どうしたの?」

 

「いえ、ただ、不思議だなぁって」

 

「何が?」

 

『D51 603』のバッジを付けた少女は石炭の煤で汚れた自分の手を見る。

 

「人間の身体で動くと言うのは」

 

「あぁ、確かに」

 

『D51 1086』のバッジを付けた少女は納得したように呟き、自分の手を見る。

 

「機関車だった頃は見るだけで、区長の機関区でも指示を聞いて動いていただけで、何も出来なかった」

 

「……」

 

「でも今は見るだけじゃなくて、自分の意志で動くことが出来る」

 

 少女は空に右手を掲げていっぱいに広げる。

 

「ホント、長い時間を過ごしていると何が起こるのか分からないわね」

 

「えぇ」

 

 二人は向かい合うと笑みを浮かべる。

 

 

「ん?」

 

 すると『D51 1086』のバッジを付けた少女は空を見上げる。

 

「どうしたの?」

 

『D51 603』のバッジを付けた少女は彼女の行動に首を傾げながら空を見上げる。

 

 すると彼女達の上を三つの人影が通り過ぎていく。

 

『……』

 

 その光景に二人は固まる。

 

「ねぇ、603号」

 

「何ですか?」

 

「人間って、空飛べたっけ?」

 

「そんなわけ無いです」

 

「じゃぁ、アレは何?」

 

「私に聞かれても」

 

 そんなやり取りをしながら三つの人影が飛んでいった方向を見る。

 

「と、兎に角! 追うわよ!」

 

「はい!」

 

 二人はスコップを持ったまま石炭の山から下りて後を追った。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。