「やれやれ。面倒な事になったわね」
北斗達が帰ってその見送りをした後、自宅の縁側に座った霊夢は深くため息を付く。
「でも、頼られているのはとても良い事ですよ」
「内容次第よ」
境内を箒で掃除している る~こと がそう言うも、霊夢はジトッと睨む。
「何だって同業者の早苗の手伝いをしなければならないのよ。これじゃまた向こうに参拝客が取られるじゃない」
不満げに彼女はぼやく。
参拝客が取られる=賽銭が減ってしまうのと同じ事なので、彼女にとっては死活問題になるのだ。
「でも、何だかんだ言っても手伝ってあげるのですから、ご主人様は優しいですね」
「ふん」
る~こと に言われて霊夢はそっぽを向く。
「……」
ふと、霊夢の視線が鋭くなって社の方を見る。
「ご主人様?」
急に雰囲気が変わった霊夢に る~こと は首を傾げる。
「いつまでも隠れていないで、出てきたらどうなの」
と、誰に向けてか、霊夢はそう呟く。
「おや、気付いていたのかい? さすがは靈夢だねぇ」
すると何処からとも無く声がして、 る~こと は驚く。
そして社の裏から一人の女性が出てくる。
緑色のロングヘアーに同色の瞳を持つ女性で、青を基調とした服装を身に纏っており、黄色い太陽が描かれた三角帽を被り、全体的に青く装飾が施された服装に青いマントを羽織っている。右手には三日月を模した飾りを先端に持つ杖を手にしている。
女性の名前は『魅魔』。かつて博麗の巫女の力を狙った悪霊であり、霊夢とは過去の異変を通じて敵対していたり、時には協力していたりと、妙な関係をしている。
最近は幻想郷に姿を現していなかったが……。
「魅魔様じゃないですか。お久しぶりですね」
「久しいねぇ、る~こと。相変わらず靈夢に仕えているんだね」
「それが私の作られた使命ですから」
「そうかい」
と、魅魔と呼ばれる女性は霊夢を見る。
「久しいねぇ、靈夢。随分変わったじゃないか。主に服装が」
「そういうあんたは変わらないわね、魅魔。あと一言余計よ」
霊夢は社から歩いてくる魅魔と言う女性を見ると、首を傾げる。
「あんた、足どうしたの?」
「あぁこれかい? まぁ世間体を気にしたやつさ」
彼女の視線の先には魅魔の足があり、記憶の中では魅魔の足は幽霊らしい足をしていたはずだが、今は茶色の靴を履いた足がある。
「別に気にする必要なんて無いわよ。あんたみたいな悪霊はいっぱい居るんだし」
「おやそうかい? でも動きやすさを考えるならこっちの方が良くてね」
「あっそ」
霊夢は興味無さげに返す。
「それにしても、しばらく居ない間に幻想郷は随分と変わったねぇ」
魅魔は鳥居の向こうに映る、薄っすらと線路が広がる幻想郷を見る。直後に汽笛が小さく響く。
「そうね。つい最近異変が起きて、幻想入りした外来人が大きく変えたんだけどね。まぁ彼が異変の首謀者ってわけじゃないけど」
「ふーん」
すると魅魔は何かを思いついたかのような表情を浮かべる。
「そういえば、靈夢にしては珍しく異変の解決がまだ出来ていないそうじゃないかい」
「……まだ解決中よ。ただ、異変の首謀者が見つかっていないだけで」
痛い所を突かれてか、霊夢はそっぽを向く。
「異変の首謀者、か」
すると魅魔は直後にこう呟いた。
「なら、霧島北斗を見張ればいいさ。異変の首謀者は必ず彼の元に現れる」
「……は?」
魅魔の発した言葉に霊夢は思わず声が漏れる。
「あ、あんた、何言って―――」
「なに、ただの御人好しの助言さ」
霊夢が言い終える前に魅魔が彼女の言葉を遮る。
「じゃぁ、近い内にまた神社に来るよ」
「ちょっ」
霊夢は魅魔を止めようと立ち上がって右手を伸ばそうとするも、彼女は一瞬にして姿を消す。
「……」
魅魔が消えた方向を彼女はただ見ることしか出来ず、しばらく立ち尽くす。
(北斗さんの元に、異変の首謀者が? 魅魔……あんた何を知っているのよ)
まるで何かを知っているかのような魅魔の口ぶりに、霊夢は息を呑む。
「というか、あんた悪霊じゃない」
「ツッコむ所そこですか?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
所変わって薄暗い雰囲気のある某所。
そこは『魔界』と呼ばれる、幻想郷の裏側に存在すると言われている場所だ。
多くの魔族が暮らしているとあって、瘴気が漂っており、普通の人間は暮らせない魔境だ。
その魔界はとある創造神によって、魔界と言う場所と、そこに住まう者達を全て創造したとされている。
そしてその創造神は魔界で一番大きな城に今も静かに住んでいる。
「……」
その城の一室で、一人の女性がティータイムを過ごしており、その傍に赤いメイド服を身に纏った給仕の女性が立っている。
女性は銀髪のロングヘアーの一部を左側に纏めて垂らしたサイドテールにしており、ドレスの様なデザインの赤いローブを身に纏っている。
彼女の名前は『神綺』。彼女こそがこの魔界を創造した神である。自称だが。
「神綺様。お客様がお着きになりました」
すると一人のメイドが部屋に入ってくると、報告する。
「そう。通してちょうだい」
「畏まりました」
メイドは頭を下げて部屋を後にする。
「夢子ちゃん」
「はい」
神綺が後ろに控えている女性こと夢子に声を掛けると、彼女はせっせとお茶の準備に入る。
少しして部屋の扉が開かれ、一人の女性が入ってくる。
「待たせたな」
「構わないわ、飛鳥」
女性こと飛鳥の姿を見た神綺は笑みを浮かべる。
飛鳥は神綺が着いているテーブルの向かい側にあるイスに座ると、夢子が手早くソーサーとティーカップを置き、ポットに入っている紅茶を注ぐ。
「これで貴方に言われた物は殆ど揃ったわ」
「感謝する」
神綺からある物を受け取った飛鳥は礼を言いながらそれをコートの懐に仕舞う。
「例のあれだが、進捗具合はどうだ?」
「大本は完成しているわ。後は調整だけよ」
「さすがだな」
「当然。私を誰だと思っているのかしら?」
「ふふん」と胸を張りながら彼女は言う。
「しかし、創造神の力も大したものだな。設計図と素材さえあれば科学の産物も作れるのだからな」
「生命を創造出来る時点で、無機物ならどんな物でも作れるわ。例えそれが科学文明の代物だとしてもね」
と、神綺は手にしているティーカップを口に近づけて紅茶を一口飲む。
「本当に、神綺には感謝しかないな。神綺がいなければ、蒸気機関車を作り出そうなんて出来なかったからな」
「気にしなくてもいいわ。興味深かったし、何より暇つぶしになったし」
「暇つぶし、か」
飛鳥は神綺の自由気ままな姿に苦笑いを浮かべる。
ここまで来れば分かるだろうが、幻想郷に現れた蒸気機関車は、全て神綺の創造の力によって作られた代物であった。
まぁ生命体を創造出来る彼女ならば、いくつもの部品で組み合わさった代物を創造するのは簡単なことだろう。
八雲紫が一瞬神綺が蒸気機関車を作り出したのではないかと疑ったのも彼女の力を知っていたからだ。だが、八雲紫がすぐに彼女を関係者から除外したのは、彼女の性格を考えてからであり、何より関係性が皆無であるからだ。
だが、彼女の予想に反して、神綺は蒸気機関車の製造に大きく関わっていた。それも異変の首謀者と結託して。
「それにしても、本当に良かったの? あれに調整する力は本来とは異なる力を得ることになるわ」
「構わない。後々必要になる力だから、このまま続けてくれ」
「……」
「それに、その力は北斗にも、必要になる」
「……そう」
何やら事情を知っている神綺はそれ以上何も聞かなかった。
「なら、あれの調整が終えたら―――」
「分かっている。その時には、北斗を連れてくる」
と、神綺は飛鳥に何かを話し掛けると、彼女は頷く。
「それにしても――――」
と、彼女はテーブルに置いている新聞に視線を向ける。
「北斗君、随分大きくなったわね。あの時はまだこのくらいだったのに」
新聞に載っている霧島北斗の写真を見て、神綺は懐かしそうに呟く。
「あぁ。本当に時が経つのは早いな」
「本当よね。まぁ時間の経ち方が違うっていうのもあるけど」
「……」
「で?」
「で……?」
「いつになったら、北斗君に会いに行くのかしら?」
「それは……」
神綺の問い掛けに飛鳥は視線を逸らす。
「そうやっていつまでも延ばすに延ばしてきたから、こうなっているじゃない」
「だ、だってな……」
飛鳥は顔を伏せる。
「どんな顔して会えばいいんだ」
「普通に行けば良いじゃない?」
「それが出来れば苦労はしない!」
彼女は顔を上げると、声を荒げる。
「止む得ない理由があったとしても、私はあの子を手放した。お腹を痛めて生んだ子供を、捨ててしまったんだ! そう易々と会いに行けれないだろう!」
「……」
僅かに涙目になる彼女の姿に、神綺は何も言わなかった。
この前幽香には会いに行く趣旨を伝えていたが、躊躇いがあったのであれ以降も彼に会いに行く事は無かった。
「でも、いつまでも会いに行かない理由にはならないわよ」
「っ……」
しかし神綺は気遣う言葉ではなく、厳しい言葉を言うと、彼女は口を閉じる。
「いつまでも逃げていないで、彼と向き直りなさい。そして玉砕しなさい」
「グハッ……」
そして辛辣な言葉を掛けられて、彼女は項垂れる。
「も、もう少し言葉ってものをだな」
「遠回しに言ってもあなたの為にはならないわ」
「……」
神綺の言葉に、さっきまでの悲壮な雰囲気はどこへやら。げんなりとした様子で飛鳥は項垂れるのだった。
その後二人は今後の計画について話し合いを行い、話し合いが終わったら世間話をして時間を潰すのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ここがあの女の言っていた幻想郷か」
幻想郷全体を見渡せる場所に、一人の少女が幻想郷の景色を見渡していた。
紺色のナッパ服を身に纏った凛とした雰囲気の少女で、腰まで伸ばした艶のある黒髪をポニーテールにしており、瞳の色は赤い。少女としては背が高く、身体のスタイルも整っている。
(昔懐かしい雰囲気の場所ね。こんな雰囲気の場所を走っていた頃を思い出すわ)
少女は幻想郷の雰囲気を懐かしく思いながら見ていると、汽笛の音が響く。
「話は本当だったのね」
少女の視線の先には、煙を吐いて走る蒸気機関車の姿があった。
(本当にまた走れるのね。あの日々みたいに)
そう思うと、彼女の胸中に込み上げてくる感情があった。そして彼女の脳裏に過ぎるのは走り続けた日々である。
(となると、あの女の話じゃしばらく同行者と一緒にここで待っていてくれって言ったけど)
彼女は腕を組んで静かに唸る。
「いつまで待っていれば良いのかしら?」
「私に言われても分からないわよ」
と、少女の後ろから声がして振り返ると、もう一人の少女が苦笑いを浮かべて立っていた。
ポニーテール少女と同じナッパ服を身に纏い、ショートヘアーの黒髪に赤い瞳をしており、背丈はポニーテールの少女より拳一つ分低い。
「まぁ、言われた通りしばらく待っていればいいんじゃない? そうすれば私達の身体も来るみたいだし」
「……そうね」
少女達は幻想郷を眺めていると、それぞれ左胸付近に付けている赤地の『C57 135』『C58 1』のバッジが太陽の光に反射して輝く。
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