その後北斗は『C11 312』のバッジを付けた少女に声を掛けて彼女に現状を教え、その後彼女と機関車を移動させて構内試運転に入った。
構内試運転はC55 57号機と共に行われ、前進から後退、微速走行や急加速による走行、急発進からの急停車等、様々な走行が行われ、その後足回りやボイラーが調べられた。
C11 312号機は軽快な走りを行い、C55 57号機は旅客用とあってD51形よりも速い速度で線路上を駆け抜けた。
試験走行後の調査の結果、二輌共走行に問題は無いと判断され、その日の火入れ式は終了した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そして翌朝。
朝日が登り始めて少しずつ周りが明るくなり始めている幻想郷。
幻想機関区では守矢神社への出発の準備が行われており、C10 17号機と復活したばかりのC11 312号機が重連状態でコンプレッサーが動き、一定の間隔で煙突後ろの排気管から蒸気を噴射しながら待機している。
その後ろには『セラ1形』と呼ばれる石炭を積む為の貨車を六輌連結しており、最後尾に車掌車『ヨ2000形』を二輌繋いでいる。車掌車を余計に一輌連結しているのは守矢神社で石炭を積む作業を行う作業妖精達が多く乗り込むからである。なら客車を一輌繋げればいいのではないかと思われるが、客車が必要なぐらいの人数を連れて行くわけではないし、何より石炭の煤で汚れた妖精達を客車に乗せると当然車内が汚れて、後で掃除する事になるので、車掌車二輌を繋げることにしたのだ。
C10 17号機とC11 312号機の運転室では、機関助士妖精が焚口戸を開けた火室に片手スコップに乗せた石炭を投炭して火の勢いを強くしている。
足回りにはC10 17号機の神霊『葉月』と、新たに名前を与えられたC11 312号機の神霊『睦月』が金槌を使って打音検査を行っている。
ちなみに睦月の名前の由来は
二人は指差しして検査箇所を確認した後、金槌を元あった場所に戻して運転室に入り、圧力計を確認する。
しばらくして北斗が護衛として幻月と夢月を連れてやって来て、葉月と睦月はすぐに運転室を降りて彼の元へと走る。
『おはようございます!』
北斗の前に来ると、二人は挨拶をして敬礼をする。
「あぁ、おはよう」
北斗も挨拶を返して、敬礼をする。
「睦月。復帰して早々に悪いな」
「いえ。こうしてまた仕事を得て走れるのですから、嬉しいです」
睦月は笑みを浮かべる。蒸気機関車の神霊である彼女からすれば、働く為に走る事は正に本望なのだろう。
「そうか」
彼は微笑みを浮かべる。
「それで、準備の方は?」
「はい! いつでもいけます!」
葉月の報告を聞き、北斗は頷く。
「今日走る路線は未調査の場所だ。線路の状態もどうなっているか分からないから、安全且つ慎重に走ってくれ」
『はい!』
「幻月さんと夢月さんは車掌車の方に。もしもの事があったら、お願いしますね」
「分かったわ」
「任せなさい」
夢幻姉妹はそれぞれ頷く。
「それじゃ、出発だ!」
北斗の号令と共に、葉月と睦月はすぐに自分の機関車の運転室に乗り込み、車掌車に作業妖精達と幻月と夢月が乗り込む。北斗もC10 17号機の運転室に乗り込む。
そして二輌の機関車の煙突から煙が多く吐き出される中、腕木式信号機の腕木が降りて信号が赤から青に変わる。
それを確認した葉月と睦月はそれぞれブレーキハンドルを回してブレーキを解き、汽笛弁を引くロッドを引き、C10 17号機の汽笛が鳴ると、続けてC11 312号機の汽笛が鳴る。
二輌の機関車は煙突から灰色の煙を吐き出しながらゆっくりと六輌の石炭車と二輌の車掌車を牽いて前進し、機関区を出発する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
二輌のタンク型蒸気機関車に牽かれた貨物列車は、守矢神社に向かって線路の上を走る。
守矢神社までのルートは、以前訪れた河童の里付近にある線路の先が守矢神社と繋がっているのを河童達に協力して貰って調査して分かった。なので以前の様に魔法の森の中にある線路を走っている。
C10 17号機とC11 312号機の
窓の外に顔を出して前を見ている葉月は、天井からぶら下がっているロッドを引いて汽笛を鳴らし、睦月に速度を上げるように合図を送る。汽笛の合図を聞いた睦月は、汽笛を鳴らして返事を返しながら逆転ハンドルを回してギアを上げ、加減弁のハンドルを引いて速度を上げる。
やがて列車は分岐点前に到着し、新たに設置した転轍機の向きを確認する標識が河童の里方面に向いているのを葉月と睦月は確認し、そのまま進んでいく。
「……」
C10 17号機の
(河童の里の先からは未知の領域。今回はもしもの事を考えてタンク型二輌の重連で来たが、もし今後の調査で線路下の地盤が弱かったら、タンク型でしか運用が出来ないな)
今走っている線路を見下ろしながら、彼は内心呟く。
(現時点でタンク型の機関車は四輌。内一輌は構内作業機械扱いで省くとして。他に軸重が軽いのはC56形か。今後石炭輸送が行われる事になると、少し厳しいか)
現時点で石炭の生産量は多く無いはずだから、それほど多くの頻度で石炭輸送を行うことは無いだろう。だからタンク型でも事足りる。
しかしそうなると、輸送する回数は減っても一度に運ぶ石炭の量は必然的に多くなる為、タンク型では量次第では重連運行が必要になる。そうなると石炭の消費量が多くなる問題が伴ってくる。
ただでさえ石炭の貯蔵量の問題があるのに、少量でも供給元が出来たとしても大量に消費しては意味が無い。
(石炭消費量を考えるなら、重い機関車でも入線出来るように軌道強化も考えないといけないかもしれないな)
今後の課題が出てきて、北斗は静かに唸る。
まぁ今後詳しく調査する時に問題が無ければ御の字なのだが、世の中そんな虫の良い事ばかりじゃないのだ。
しばらくして貨物列車は妖怪の山の麓に到着し、河童の里付近にある綺麗な水が流れる川の傍にある線路の上を走る。
その際近くを通り掛った河童達が貨物列車に向かって手を振ってきたので、葉月と睦月は汽笛を鳴らして応える。
(そういえば、ここにC10 17号機で来て、河童達によって見つけられたC11 312号機を持って帰ったんだよな)
北斗はついこの間の事を思い出して、少し口角が上がる。
そんな二輌が再び河童の里付近を走っている。何と言う縁か。
その後貨物列車はかつてC11 312号機があった場所を通って、まだ見ぬ線路へと入っていく。
「ここから先は未知の領域だ! 線路の状態も分からないから、空転に気をつけろ!」
「了解!」
大きな音がする
河童の里の先の線路へと進んだ列車は、山の緩い勾配を持つ斜面に敷かれた線路の上を走っていく。
緩い勾配であったので、機関車はスムーズに山を進んでいくが、予想以上に勾配距離が長い為か少しずつ速度が落ちつつあった。
機関助士妖精は火の勢いを落とさないように必死に投炭を続け、葉月は加減弁のハンドルを動かして蒸気の量を調整し、逆転ハンドルを回してギアを調整して速度を維持する。
同じように睦月も汽笛で葉月とやり取りをしつつ、速度を維持させる。
線路は案の定雨水によって落ち葉諸共濡れており、とても滑りやすい状態だった。重い列車を牽いているわけではないが、それでもこの線路の状態では空転する可能性がある。
「……」
葉月は空転しないように加減弁ハンドルを握り締めてピストンに送り込む蒸気の量を調整し、逆転ハンドルを回してギアを変えつつ、砂撒き機のレバーを前後に動かして空転防止の砂を線路に撒いて動輪に踏ませる。同じように睦月も砂を撒きつつ加減弁ハンドルを握り締め、加減弁を開いたり閉じたりして蒸気の量を調整する。
「……」
北斗も空転しないように祈りながら前を見る。
しかし途中で何回かC10 17号機の動輪が空転して速度が急激に落ちたが、葉月と睦月は加減弁の調整と砂を撒いて何とか持ち直した。
その後は何とか空転を起こす事無く、貨物列車は守矢神社へと近付いていく。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その頃、守矢神社では……
「……」
ソワソワした様子の早苗は、線路を見つめて北斗達が乗る貨物列車が来るのを待っていた。
守矢神社の傍にある湖近くの地面には線路が敷かれており、守矢神社付近に分岐点があってその内一本は守矢神社前に繋がっており、もう一本先にはいくつもの線路が敷かれた操車場みたいな構成になっている線路に繋がっている。
そこに神奈子が河童達に作らせた石炭を溜めて積み込む為の設備があった。石炭の貯蔵スペースには日に日に諏訪子によって創造された石炭が小さな山を作って溜められている。
「早苗。少しは落ち着いたらどうだ」
そんな彼女の様子に神奈子が呆れた様子で声を掛ける。
「そうだよ。ここまで繋がっている線路の安全は河童達に協力してもらって確認済みじゃないか」
諏訪子が早苗に優しく語り掛ける。
河童達によって守矢神社まで繋がる線路の調査は既に終えており、障害物等の危険物は確認されなかった。意外にも天狗側の協力もあって、あのあたりに妖怪が近づく事はない。というか、そもそも妖怪が線路になぜか近付こうとしていないのだが。
「で、でも、もしもの事があるじゃないですか。そう思ったら」
早苗はバッと後ろに居る二人へと振り返り、不安な表情を見せる。
「そんな事を一々考えていたら、キリが無いぞ」
神奈子はため息を付く。
「それに、機関車の汽笛もどんどん大きくなっているから、近づいて来ているのは確かだよ」
時折汽笛が妖怪の山に木霊し、それが回数を重ねるごとに大きくなっているので、彼らが近づいているのは確かだ。
「兎に角、大丈夫だから落ち着け」
「神奈子様……」
神奈子に言われて早苗は少し落ち着きを取り戻すも、完全に不安は拭え切れなかった。
「あっ、来たよ!」
「っ!」
すると諏訪子が声を上げると、早苗はとっさに振り返る。
山の斜面を登るように、C10 17号機とC11 312号機の重連が牽く貨物列車が守矢神社付近に近付いていた。
「どうやら、無事に上れたようだな」
「これで心配の種は殆ど無いね」
二柱の神は安堵の息を吐く。
これで神社まで列車が来れないとなってしまったら、彼女達にとってはどん詰まりな状況になるところであった。
すると早苗が地面を蹴って勢いよく飛び出す。
「やれやれ。ホント落ち着きが無いんだから」
「まぁ、それだけ彼が心配なのだろう」
「……」
二柱が見守る中、列車は操車場方面へと入って行き、そこで停車する。
C10 17号機の
その間に車掌車から作業妖精達が降りてきて早速辺りを調べ始める。その後に夢幻姉妹も車掌車から降りてくる。
「……あれが早苗の言っていた、機関区に居候している者か」
「なるほど。確かに早苗が彼を心配するわけだ。只ならぬ気配をしているね」
二柱は二人を見て視線を鋭くする。
そんな二柱の視線に気付いてか、幻月と夢月は二柱を一瞥して辺りを見渡す。
その後早苗に連れられて北斗は二柱の元に向かった。
「おはようございます、神奈子さん、諏訪子さん」
二柱の前に来ると、彼は略帽を取ってから頭を下げて挨拶する。
「あぁ、おはよう」
「おはよう!」
二柱も北斗に挨拶を返す。
「それにしても、設備が結構本格的ですね」
石炭車と切り離されてC10 17号機とC11 312号機が分岐点を使って線路の位置を変えているのを脇目に、石炭の給炭設備を見る。
給炭設備の構造は貯蔵スペースから石炭をベルトコンベアに乗せて運び、石炭を受け口が広く投入口が細い器へと落として石炭車へと入れる、と行った感じだ。
「まぁ、昔似た様な物を見た記憶があって、それを元に河童達に作らせたんだ」
「なるほど。しかし随分と作りましたね」
「でしょでしょ?」
貯蔵スペースにこんもりと盛られた石炭の山を見て北斗が呟くと、諏訪子が胸を張って自慢する。
「諏訪子様ったら、頑張って毎日石炭を創造していたら、たったの数日でこれだけの量が出来たんです」
「で、後で必ず疲れて寝込んでいたな」
「ちょっとぉっ!?」
神奈子と早苗のカミングアウトに諏訪子が声を上げる。
(何だか申し訳ないな)
一生懸命にやってもらったとあって、感謝と同時に申し訳なさがあった。
「しかし、張り切っていると言っても、数日でこの量となると……」
北斗は顎に手を当てて色々と考える。
予想以上に石炭が作られているとあって、北斗は首を傾げる。
「大体二週間に一回の頻度で石炭輸送を行うのが良さそうですね。無論、諏訪子さんが毎日石炭を創造すると言う前提ですが」
「うーん。そうだねぇ。まぁ疲れない程度に作ってもそこそこの量だから、その間隔で大丈夫と思うよ」
「では、そのように」
二人が石炭の創造量について話していると、さっそく石炭の積み込み作業が行われていた。
列車の後部に移動したC10 17号機とC11 312号機が一番後ろの車掌車と前面と連結して貨物列車を押し、先頭の石炭車を石炭の投入口の真下へと移動させる。作業妖精達がスコップで貯蔵スペースより石炭をベルトコンベアへと乗せていく。
ベルトコンベアによって運ばれる石炭は給炭口へと落ちていって、石炭車に積まれていく。
「そういえば、あのベルトコンベアって、どうやって動かしているのですか?」
「あぁ。河童に頼んで作らせたモーターで駆動している」
北斗はベルトコンベアの動力源を神奈子に聞くと、彼女はそう答える。
「モーターですか。でも、電気は?」
「電気なら、あそこで作らせている」
と、神奈子は煙が上がっている方向を指差す。
「そういえばさっきから気になっていましたが、あれは一体?」
「あの煙の下に、間欠泉センターがあるんです」
「間欠泉? という事は、火山が近くに?」
「火山と言うより、その下に高熱を発するものがあってな。その熱を使って電力を作っているんだ」
「つまり、地熱発電ですか」
「そうなりますね」
北斗が言った言葉を早苗が肯定する。
何だか随分近代的な……
「まぁ、そのお陰で毎日電気を作っていた、私の苦労も軽減されたと言うわけだ」
と、神奈子は左肩に手を置いて軽く肩を回す。
「それで、高熱を発しているものって? 間欠泉って言っていましたから、もしかしてマグマとか?」
「いや違う。八咫烏の力を宿した地獄鴉が居る」
「あの子の力を使って核融合を行っているんだよ」
「……」
北斗はスケールの大きい話に半ば付いて行けれず、目頭を押さえる。さりげなくとんでもないワードが混じっていたが、彼はあえて無視した。非常識な事を常識的に考えても無意味だからだ。
「でも、行きは良くても帰りはあの形になるんだね」
諏訪子は後面を前にしたバック運転状態のC10 17号機とC11 312号機を見てそう言う。
「まぁ、あの二輌でしたらバック運転自体は問題ありません。しかしテンダー型となりますと、一部を除いて難しいんです」
炭水車を持つ蒸気機関車は必然的に後ろの視界が悪い。その上構造上線路から脱線しやすいので、テンダー型でバック運転は推奨されない。
とは言っても、一部の機関車はバック運転を想定した構造になっていたり、バック運転自体を主にした構造の機関車も居る。
「ふむ」
すると神奈子が考え込むように顎に手を当てて声を漏らす。
「なぁ、北斗」
「何でしょうか?」
「もし必要とするなら、空いた場所に転車台を設置するが、どうだ?」
「えっ?」
思いがけない申し出に北斗は驚く。
「い、良いんですか?」
「北斗達幻想機関区の働き次第で我々の信仰の得られ方が変わってくる。このくらい必要経費だと思っている」
「神奈子さん」
「まぁ、さすがに機関区にある立派なものは作れないだろうが、期待に沿える代物は作れるはずだ」
「その材料を出すのは私なんだけど」
「それに、転車台を作るのも、河童の皆様ですよね」
「……」
二人からそう言われて、神奈子は視線を逸らす。
その後持ってきた六輌の石炭車に石炭を満載にしたが、それでもまだ残っており、残りは次回取り来るときにまとめて持ち帰ることにした。
しかし作業に時間が掛かったとあって、給炭設備の改良もしくは増備が検討されることになった。
その辺りを話し合った後、北斗はバック運転で先頭になったC11 312号機の
――――――――――――――――――――――――――――――――――
その頃幻想機関区。
「ふぅ……」
機関庫内にて、自身の機関車であるC55 57号機を『C55 57』のバッジを付けた女性こと『
ちなみに彼女の名前の由来だが、C55 57の最後の7、つまり七月の旧暦から来ている。
「整備は終わったのか?」
「あぁ」
文月に『C59 127』のバッジを付けた女性こと『
「それにしても、ここは規模が大きいな」
「あぁ。そうだな」
二人は短く言葉を交わすと、機関庫を見渡す。
機関庫にはD51形蒸気機関車の241号機に465号機、603号機、1086号機に9600形蒸気機関車の79602号機、B20形蒸気機関車の15号機、D62形蒸気機関車の20号機、C55形蒸気機関車の57号機、C59形蒸気機関車の127号機が格納されている。
今は居ないが、C10 17号機とC11 312号機、その上整備工場には二輌の機関車が火入れ式を待っている。それらを含めると全部で13輌の機関車が居る。
機関区の規模としてはそこそこ大きいだろう。
「それにしても―――」
と、文月は長月を見る。
「貴様のその格好は何だ?」
「何って、そりゃ掃除に決まっているだろ」
長月は不満げに返す。
彼女の格好だが、ナッパ服の上に
「これ以外にやる事がないのだからな」
「あー、そうだったな」
申し訳なさそうに文月は呟く。
燃料が重油のみでしか使えない重油専燃機のC59 127号機である為、重油が無い幻想機関区では試験走行を行う事ができず、機関庫に待機したままだ。
「……当時は蒸気機関車の新たな可能性として受け入れたが、今となってはこの改造が忌々しい」
グッと彼女は右手に持っている竹箒を握り締める。
「まぁそう言うな。ずっと動けないわけでは無いだろう」
「だがな……」
文月がそう言うも、長月は納得いかない様子だった。
「それに区長殿は言っておられただろう。いざとなれば元の仕様に戻すと」
「本当に出来るのかどうかも分からないのに」
「……」
ジトッと睨む長月に文月は何とも言えなかった。
―――ッ!!
すると汽笛の音が機関区に響く。
「ん? 区長達が帰って来たのか」
長月が顔を上げて汽笛の音がした方向を見る。
「いや、待てよ。汽笛の音色が違うぞ」
しかしすぐに文月は汽笛の違和感に気付く。
「何か、響き方が違うぞ」
「むっ、そういえば」
二人が短く言葉を交えていると、再び汽笛が鳴る。
「何だか、ただ事ではなさそうだな」
「あぁ」
二人は頷き合うと、すぐに機関区の出入り口付近へと走る。
二人が機関区の出入り口付近に着くと、既にそこには明日香達が居た。
「あっ、長月さんに文月さん」
水無月が二人に気付いて声を掛ける。
「お前達も気づいたか」
「はい。この汽笛は機関区にある機関車のどれでもありません」
神流がみんなを代表して答える。
「でも、区長達以外に機関車は出ていないわ。これは一体」
七瀬が表情を険しくする。
「もしかして、区長がまた新しい蒸気機関車を見つけたんじゃ?」
と、皐月がボソッと呟く。
以前にも魔法の森で見つかった新しい蒸気機関車を持って帰ろうとして、C10 17号機でC12形とC56形を持って帰って来た時のことを思い出す。
「何だか、ありえそうです」
さつきの呟きに弥生が苦笑いを浮かべる。
すると汽笛の音は大きくなり、その上煙がどんどん近付いてくる。
「あれは……」
姿を現したそれに、文月は目を細める。
それは連結して重連状態の二輌の蒸気機関車で、煙を吐き出して機関区を目指して走っていた。
先頭を走る機関車はC55 57号機に酷似しているが、動輪はスポーク動輪ではなくボックス動輪であり、前照灯の横にシールドビームの予備灯が取り付けられている。
その機関車の煙室扉には、赤地で『C57 135』と書かれたナンバープレートが取り付けられている。
その後ろを走る機関車は、先頭のC57 135と比べると一回り小さく、煙突には大きな集煙装置が取り付けられており、煙は上ではなく後ろ側へと流れている。
その機関車の煙室扉には、赤地で『C58 1』とその下に小さく『形式 C58』と書かれているナンバープレートが取り付けられている。
『……』
その姿に圧倒されて誰もが黙り込んでいる中、二輌の蒸気機関車は速度を落としつつ機関区へとゆっくり入っていく。
すぐに作業妖精達が線路のポイントを切り替えて側線へとC57 135号機とC58 1号機を入れる。そして二輌は側線で停車する。
明日香達はすぐに二輌の蒸気機関車に近付くと、それぞれの機関車の運転室から少女二人が降りてくる。
「あら、総出でお出迎えかしら?」
『C57 135』のバッジを付けた女性が明日香達を見る。
「あ、あなた達は一体?」
「見ての通り、あなた達の同類、と言えばいいのかしら?」
『C58 1』のバッジをつけた少女が明日香の疑問に答える。
「ところで、一ついいかしら?」
「……?」
「ここの区長は何処に居るのかしら?」
『C57 135』のバッジを付けた女性は明日香にそう質問した。
感想、質問、要望等がありましたら、お待ちしています。