東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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一番好きSLは何かと聞かれれば、C12形と答えます。あのシンプルなデザインが
最高なんです。
ちなみにテンダー型ならD51形やD62形です。


第52駅 火入れ式 C12○○○

 

 

 

 

 その頃守矢神社で石炭を貨車に載せて機関区に戻っている貨物列車は、山をバック運転で下っていた。帰りは下りになるので、細心の注意を払って山を下りている。

 

「……」

 

 C11 312号機の運転室(キャブ)で、機関車後面にある窓から外を見ている北斗は表情を険しくしていた。

 

(さっき聞き覚えの無い汽笛が鳴っていたが、どうなっているんだ?)

 

 先ほど山を下っている最中、聞き覚えの無い汽笛が彼の耳に届いていた。

 

 誰かが機関車を動かしているのかと思ったが、さっき聞いた汽笛は、少なくとも機関区にある機関車の汽笛とは響きが違っていた。

 

(俺の居ない間に、何かが起きているのか?)

 

 北斗は言いようの無い不安が胸中に渦巻く。

 

 

 その後山を下りた貨物列車はしばらく走り、機関区へと到着する。

 

「っ! あれは!」

 

 機関区に到着して、そこにあった物を見つけた北斗は声を上げる。

 

 貨物列車が停車すると、北斗はC11 312号機から降りてそれの元に走る。

 

「区長!」

 

 C11 312号機より降りて来た北斗に明日香が声を掛ける。 

 

「明日香! あれはどういう事だ!」

 

 北斗は側線で待機しているC57 135号機とC58 1号機を見る。

 

「それが、区長が守矢神社に行っている間に、機関区に現れたんです」

 

「何だって?」

 

 明日香から事情を聞いて、北斗は再度C57 135号機とC58 1号機を見る。

 

 機関車が自ら機関区にやって来る。今までに無い状況に、北斗は驚きを隠せなかった。

 

(まさか、最後の旅客列車を牽いたC57 135号機と、かつて動態保存されて山口線を走っていたC58 1号機とは)

 

 片や明日香達D51形241号機、465号機、603号機、1086号機と共に北の大地で、蒸気機関車として旅客列車を最後に牽いた蒸気機関車で、片やかつて動態保存されて、かのC57 1号機と共に山口線で走っていた蒸気機関車である。

 

(どっちも赤いナンバープレートか。C58 1号機に至っては山口線で走っていた頃に取り付けられていた集煙装置付きか)

 

 C57 135号機とC58 1号機はどちらとも赤地のナンバープレートを付けており、C58 1号機は不釣合いなぐらいの大きな集煙装置を煙突に取り付けている。

 

(だが、どちらとも外の世界で静態保存されている機関車のはず。何でこんな所に)

 

 二輌は共に外の世界で静態保存されている機関車だ。それもC11 312号機と違って、綺麗に整備されて保存されている。そんな有名な二輌がこの幻想郷に居る。

 

(一体何が……)

 

 

 

「あなたがここの区長かしら?」

 

 と、明日香達の合間を通って二人の女性と少女が北斗の前に姿を現す。それぞれ赤地の『C57 135』と形式入りの『C58 1』のバッジを付けている。

 

(この二人が、あの機関車の神霊か?)

 

 北斗は女性と少女に明日香達に似た感じを覚えて、C57 135号機とC58 1号機の神霊と判断する。と言っても、明日香達の様に紺色のナッパ服にナンバープレートを模したバッジを付けているのも判断材料だが。

 

「そうだ。この幻想機関区の区長をしている、霧島北斗だ」

 

「あなたが……」

 

 二人は北斗をマジマジと見てから、姿勢を正して敬礼する。

 

「私はC57形蒸気機関車の135号機です」

 

「C58形蒸気機関車、そのトップナンバーの1号機です」

 

 それぞれ自己紹介をして、北斗も敬礼を返す。

 

「それで、君達はどうしてここに? 記憶が正しければ君達はそれぞれ大切に保存されていたはずだが」

 

「えぇそうよ。でも、詳しくは言えないわ」

 

「えっ?」

 

『C57 135』のバッジを付けた女性が言った言葉に北斗は思わず首を傾げる。

 

「な、なぜ?」

 

「それが私達がこの幻想郷で走る条件だからよ」

 

「……」

 

 まさかの答えに北斗は唖然となる。今までこんなパターンは無かった。

 

「それは、つまり誰かによってこの幻想郷に連れて来られたというのか?」

 

「そうね。私達が言えるのは、そこまでね」

 

「それと、そこにあるもう一つの身体も、外の世界にある物とは別よ」

 

「……」

 

 北斗は彼女達の言葉を聞いてから、二輌の機関車を見る。

 

(やはり、誰かによってこの機関区と線路、機関車が作られたのか?)

 

 この幻想郷の常識でいう異変の首謀者と言うやつだ。

 

(でも、何の為に?)

 

 北斗は思わず首を傾げる。なぜ幻想郷に……

 

 

(いや、考えるだけ無駄だ)

 

 しばらく考えるも、彼は頭を切り替える。

 

 考えたって、結局分からないのだ。分からないのに考えたって、答えなんて出ない。彼女達から聞こうとしても、これ以上有益な情報を口にする事は無い。

 

「分かった。そこまで言うなら、これ以上の詮索は止そう」

 

 北斗はそう言うと、右手を差し出す。

 

「歓迎しよう。君達を」

 

「……」

 

『C57 135』のバッジを付けている女性は北斗の右手を見ると、自分の右手を差し出して彼の手を握る。

 

「今後の君達の活躍に、期待している」

 

「もちろん。その期待に応えてあげるわ」

 

 女性はニヤリと口角を上げる。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「それにしても、何だか分からない状況になってきましたね」

 

「あぁ。そうだな」

 

 C57 135号機とC58 1号機の二輌が機関庫へと向かい、C10 17号機とC11 312号機が牽く石炭車の列が石炭貯蔵スペースへと運ばれている中、北斗と明日香が言葉を交わす。

 

「これから、どうなるんでしょうか?」

 

「さぁな。もしかしたら、まだ機関車が増える可能性があるかもな」

 

「まだ増えるんですか?」

 

 明日香は驚いたような表情を浮かべる。

 

「もしかしたらって話だ。まぁ機関車が増えても困ることは無いがな」

 

 今後鉄道を走らせる際に、機関車一輌が故障しても別の機関車を走らせる事が出来るので、多く持っていても困る事は無い。まぁ当然整備や維持等の手間隙は掛かるが。

 

 最も、彼自身からすれば大好きな蒸気機関車が身近に多く見られるのだから、それはそれで構わないのだが。

 

「兎にも角にも、今は火入れ式を成功させよう」

 

 北斗は整備工場よりB20 15号機によって運び出されるC12形蒸気機関車を見る。

 

 結局C12形の車輌番号は分からず仕舞いだったが、個体の絞込みは出来る。

 

 なぜなら、このC12形の炭庫に、二つの通風孔が取り付けられている。この通風孔は九州地方に配属されたタンク型の機関車に見られた特徴だ。

 

 なので、このC12形は九州地方に配属されていた罐の可能性がある。

 

(まぁ、車輌番号については追々考えるとして)

 

 彼はピカピカに磨き上げられたC12形を見る。

 

(やっぱり、C12は良いな……)

 

 C12形を眺めながら、北斗の口角が上がる。

 

 一番好きな蒸気機関車と聞かれたら、彼は真っ先にC12形蒸気機関車だと答えるだろう。

 

 彼にとって、初めて生で動いている蒸気機関車を見たのは、このC12形蒸気機関車だ。それもかつて大井川鉄道で動態保存されていた164号機である。

 

 初めて生で動いている蒸気機関車を見て、彼の中に興奮が込み上げた。そして彼が蒸気機関車の虜になった一番の要因だろう。

 

 その事もあって、彼の中で一番の蒸気機関車は、C12形となったのだ。

 

 

 

「おーい! 北斗!!」

 

 C12形を見ていたら、空から声がして北斗は声がした方向を見ると、箒に乗った魔理沙が後ろにアリスを乗せて向かっていた。

 

 北斗は魔理沙とアリスの二人に手を振るうと、二人は彼の近くに降りる。

 

「お久しぶりです、アリスさん、魔理沙さん」

 

「おう!」

 

「久しぶりね、北斗さん」

 

 魔理沙は右手を上に上げてニッと笑みを浮かべ、アリスは微笑みを浮かべる。

 

 二人は霊夢や文屋の新聞で火入れ式の事を知り、今日訪れたのだ。ちなみに昨日は二人共用事があって来れなかった。

 

「おぉ、あの時見つけた蒸気機関車だな!」

 

 魔理沙は工場の前に出されたC12形を見て声を上げる。

 

「はい。時間は掛かりましたが、何とかここまで辿り着けました」

 

 北斗は整備妖精によって最終点検が行われているC12を見ながら魔理沙に言う。

 

「明日の火入れ式ではもう一輌の機関車の火入れ式を行います」

 

「これで、私達が見つけた蒸気機関車が動くのね」

 

「はい。機関車を見つけてくれた魔理沙さんと、C10 17号機の火入れを手伝ってくれたアリスさんのお陰です」

 

 北斗は二人にお礼を言って頭を下げる。

 

「良いってもんだぜ」

 

「えぇ」

 

 二人は北斗にそう言うと、魔理沙が思い出したように「あっ」と声を漏らす。

 

「そういや、パチュリーから聞いたぜ。紅魔館の地下にも蒸気機関車があったんだろ?」

 

「はい。パチュリーさんから話を聞きましたか?」

 

「えぇ。地下から蒸気機関車を運び出す為に、地上へと繋がる穴を空ける為に手伝って欲しいって言われたわ」

 

 どうやらパチュリーは既に二人に話していたようだ。

 

「しっかし、まさかあのパチュリーが私達に手を貸してくれって言うなんてな」

 

「そうね。まぁそれだけ大変な事なんでしょうけど」

 

 どうやら普段からパチュリーはこの二人に頼る事はしていないようだ。

 

「大変と言えば、パチュリーが言っていたぜ。何でもフランから懐かれているんだって?」

 

「懐かれている……まぁ、そうなるんですかね」

 

 これまでのフランの行動を思い出して北斗は首を傾げながら答える。

 

「何をしたら懐かれるんだ? 少なくとも初対面の人間に懐くようなやつじゃなかったんだけどな。むしろ逆に殺しに掛かるんじゃないかな」

 

「レミリアさんもそんな事言っていたような」

 

 と、半ば経験したような事を怪訝な表情を浮かべて呟く魔理沙に、北斗は首を傾げる。

 

「……本当に、貴方は不思議な人ね」

 

「え?」

 

 アリスの呟きに北斗は声を漏らす。

 

「いいえ、何でも無いわ」

 

 アリスは首を振るう。

 

 

 

 

 その後早苗と霊夢が機関区に来て、C12形の火入れ式の準備が進められる。

 

 基本的な火入れ式の流れはC11 312号機と同じで、早苗による安全を祈願し、罐に火入れを行う等、何事も無く式は進んでいく。

 

 

 火を入れて数時間後、C12形の運転室の圧力計の針は正常運行出来る数値までに達した。

 

  

 そして復活したかのようにC12形の汽笛から蒸気と共に勇ましい音色が機関区に響く。

 

 

 

「C12形も無事に復活しましたね」

 

「はい」

 

 C12形の近くで北斗と早苗が言葉を交わす。

 

「これで残りは一輌ですね」

 

「えぇ。これで既存の機関車の整備を行えます」

 

 以前から七瀬の79602号機の事もあるし、後々に紅魔館の地下の二輌の整備を行わないといけないので、なるべく整備を終えたいところだ。

 

「それにしても」

 

 と、早苗は後ろを振り返って機関区を見る。

 

「……増えてますよね、どう見ても」

 

「えぇ、まぁ」

 

 彼女の指摘に北斗は苦笑いを浮かべる。

 

 その視線の先には機関区に収められたC57 135号機とC58 1号機の姿があった。

 

「北斗さんが帰った直後に、遠くから汽笛がしたので、まさかと思いましたら、そのまさかでした」

 

 北斗が列車に乗って機関区に戻ろうとした直後、守矢神社にも汽笛の音が届いていた。しかしこの時まで機関区の機関車が試運転でもしているのだろうと思って気にしていなかった。

 

「どうやら、自分が守矢神社に行っている間に、あの二輌が機関区にやって来たそうで」

 

「やって来たって、自分からですか?」

 

「そのようです。彼女達の話によれば、少し前にこの幻想郷に現れたようで、その後自分自身を受け取って機関区に来たそうです」

 

「……」

 

 早苗は唖然となっていた。まぁ機関車が自らやって来たと言われれば、驚くのも無理は無い。

 

「本当に、幻想郷では常識に囚われてはいけませんね」

 

「全くです」

 

 お互い苦笑いを浮かべて短く言葉を交わす。

 

 

 

 すると突然、C12形の煙室扉と水タンク、後面の一部が光り輝き始め、機関車の前に光が集まり出す。

 

『っ!?』

 

 突然の現象に誰もが目を見開いて驚く。

 

「これは……!」

 

「睦月の時と同じ……だが」

 

 北斗は一部が輝くC12を見る。 

 

(昨日とは異なる感じだ。一体何が……)

 

 内心で呟いていると、光り輝いていた箇所が露わなり、機関車前に集まった光は人型を作り、やがて光が晴れる。

 

 

「っ! あれは!」

 

 C12形の車体の一部を覆っていた光が晴れた箇所に、無かったはずのナンバープレートが現れていた。

 そのナンバープレートに書かれていた番号に、北斗は驚きを隠せなかった。

 

「……」

 

 そして機関車の目の前に、一人の少女が現れていた。

 

 C12形に現れたナンバープレートは赤地で、背中まで伸びた黒髪に凛とした雰囲気を持つ赤み瞳の少女の左胸にも赤地のナンバープレート風のバッジが付けられている。

 

 そしてナンバープレートに書かれていたナンバーが――――

 

「C12……208号機だと」

 

 北斗はC12形の正体を知って、驚きのあまり声を漏らす。

 

 

 それは外の世界で、走る事が叶わなかった、動かぬ影の功労者であった。

 

 

 




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