『C12 208』
C12形蒸気機関車の中で、最後に廃車となった形式最終廃車機。その後静態保存されるも、後に大井川鉄道に引き取られてドナー機関車として部品の多くを他の機関車に渡した。
そのせいでスクラップ同然の状態になったものも、部品を提供した事で他の蒸気機関車が走り続けられるようになったのだ。決して無駄な犠牲ではない。
尚、最近では改装されて、某作品の有名キャラクターの姿になっている。
そんな機関車が、完全な形で目の前にあるのだ。
「まさか、C12形の正体が208号機だったとは」
北斗は完全な姿で現れたC12 208号機を見て思わず声を漏らす。
「そんなに、凄いんですか?」
208号機の事を知らない早苗は北斗が驚いている理由が分からず首を傾げる。
「凄いも何も……この機関車は睦月の312号機と同じで、外の世界では他の動態保存されている機関車の為に多くの部品を取られて、鉄屑同然で放置されていたんです」
「……」
北斗からC12 208号機の事を聞いて、早苗は唖然となる。
「まぁ、そのお陰で他の機関車が動き続けられたのですがね」
北斗はため息を付く。
今の動態保存されている蒸気機関車の整備は、作れる箇所は作り、代用出来る所は代用している。ある意味それが理想的な運用だ。
だが、それが無理なら他の保存機関車から必要な部品を取る。所謂共食い整備で動いているのだ。
C12 208号機も状態が良かったとあって、保存先から買い取られて、その後多くの部品を他の機関車に提供した。その姿はとても痛々しく、無残なものだった。
そして老朽化の為に再度廃車となった312号機も、部品取りにされて屑鉄同然の状態で放置されている。
そんな無残な姿を晒していた機関車が、綺麗な状態で、その上再び命を吹き込まれたのだ。とても感慨深いものだ。
ちなみに、今のC12 208号機のナンバープレートは赤地だが、現役時代は緑地のナンバープレートを付けていた。これはC12 208号機のみならず、緑地のナンバープレートを持つのは九州地方の機関車に多く見られたものである。
すると睦月が『C12 208』のバッジを付けた少女の元へと駆け寄る。
「312号機!」
「208号機! 貴方も来れたのね!」
二人の少女は手を取り合って再会を喜んでいた。
「やっぱり、あの話は本当だったんですね」
「そうね。これなら、
「私達がこうなれたんだから、必ず蘇るよ!」
と、二人は何やら気になる事を話している。
(何だか、気になる事を話しているんだが……)
『C12 208』のバッジを付けた少女が口にした『姐さん』に北斗はある憶測が脳裏に過ぎる。
いや、以前から気になっていた事が、C12 208号機の出現で半ば確信のものへと移行した。
(あのC56形。まさかとは思うが)
ここまで来れば、恐らくC56形の正体も想像が付く。しかし同時に矛盾する点もある。
(C56形には特にこれと言って特徴のある箇所は見当たらなかったな)
以前整備工場で整備を受けているC56形を視察した際、隅々までその姿を見ている。しかしこれと言って特徴ある箇所は見当たらなかった。
もし彼の想像通りの個体なら、その特徴があるはずだ。しかし回収したC56形にはそれが無かった。
(まぁ、それは明日になれば分かるんだ。今はそれよりも)
北斗は頭を切り替えると、二人の元へと向かう。
「睦月」
「あっ、区長」
北斗に呼ばれて睦月は振り返る。
「208号機。紹介するね。ここの機関区の区長さんだよ」
「区長? 貴方が?」
『C12 208』のバッジを付けた少女は北斗を見る。
「幻想機関区の区長をしている霧島北斗だ」
北斗は自己紹介をして敬礼する。
「C12 208号機です」
少女も名乗って敬礼する。
「ようこそ、我が幻想機関区へ」
「はい。こちらこそ、宜しくお願いします」
二人は右手を差し出して、握手を交わす。
その後C12 208号機は一番線路が長い場所まで自力で移動し、構内試運転が行われていた。
C12 208号機は本気の加速を見せ付けつつ前進したり、後退したり、様々な走りを見せ付けた。
次に機関庫へと移動させていたC57 135号機とC58 1号機の走行試験も行われた。
走行後の結果、三輌共に問題無しと判断され、後日改めて本線で試験走行を行う予定である。
新たに機関車が一輌復活と、予想外の二輌の追加とあったが、二日目の火入れ式も無事に終えたのだった。
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その日の夜。
「やれやれ。今日は大変だったな」
宿舎の自室兼執務室で北斗は呟きながらも、新たに配属となった三輌の機関車に関する書類を作成していた。
本当ならC12 208号機のみだったが、予想外に二輌の機関車の登場もあって、資料の作成に手間が掛かっていた。
(想定外だったが、旅客用の機関車に旅客貨物両用の万能の機関車が増えたのはありがたいか)
C12 208号機も列車牽引や入れ替えも行える万能機で、機関区への配属はありがたい。その上旅客用のC57 135号機と旅客貨物両用の万能機のC58 1号機の配属もありがたかった。
今後の鉄道の運用の幅が広がると言うものだ。
「……」
北斗は作業の手を止めて両腕を上に上げて背伸びをすると、椅子から立ち上がって窓から外の景色を見る。
各所に建てられた電灯が機関区を薄暗く照らしており、機関車達が納まっている扇形機関庫ではまだ光が灯されており、機関車の整備が遅くまで行われている。
(この幻想郷に来てから大分経つが、ここまで増えるとはな)
最初は七輌しかいなかった蒸気機関車だったが、今は倍近くの14輌以上の大所帯となった。そもそも機関車が増えるとは当初想定していなかっただけに、正に棚から牡丹餅な気持ちだった。
(まぁ、ここからだがな)
近日中に行われる体験試乗会の結果次第で、この幻想機関区と蒸気機関車達の今後が左右される。
一番気を引き締めなければならない時だ。
コンコン……
『区長。居るかしら?』
と、ノックの音がして女性の声がする。
「あぁ。居るぞ。入れ」
北斗が扉の方へ振り返りつつ言うと、扉が開いて『C57 135』のバッジを付けていた女性が入ってくる。風呂に入った後なのか、寝巻き姿でポニーテールだった髪型も今は下ろしている。
ちなみに、ナッパ服を着ていて目立たなかったが、結構大きかった(どこがとは言わないが)
「どうした?」
「いや、大したことじゃないんだけどね」
女性は執務机の傍まで近づく。
「ねぇ、一つ聞いて良いかしら?」
「なんだ?」
「区長は私達みたいな神霊に、名前を付けているのよね?」
「あぁ、そうだ。まぁ、俺の我が儘で名付けているが」
「我が儘、ねぇ」
女性は北斗を見ながら声を漏らす。
「それじゃぁ、私にはどんな名前を付けてくれるの?」
「急だな」
「だって、私だけ名前が付けられないのは嫌だもの」
「別に付けない訳じゃないぞ。まだ考えている途中なんだ」
「あら、そうだったの」
「あぁ。一気に三人考えるのは大変なんだぞ」
北斗は椅子に座りながらため息を付く。以前なら名前のネタはいっぱいあったから付けやすかったが、今となってはネタが少なくなって考えるのにも一苦労だ。
「でも、候補は考えてあるんでしょ?」
「……まぁ、候補はな」
まぁ一応名前の候補は挙がっているが、どれにするかで悩んでいた。
「だが、なんでそこまで名前を欲しがるんだ?」
「ん? さっきの理由じゃダメ?」
「そうだな。理由としては弱いな」
「うーん。そうねぇ」
「こういっちゃ何だが、名前自体ならもうあるじゃないか」
「あれはただの数字よ。作られた時のね。確かに以前の私達ならそれを名前と認識するでしょうね。でも今は違う」
女性は真っ直ぐな目で彼を見る。
「それは本当の意味での名前じゃないわ。あのシゴハチのトップナンバーも同じ事を言うんじゃない?」
「……」
この時、北斗はある違いに気づく。
(そうか。明日香達と違って、あの二輌は今日まで大切に保存されている機関車だったな)
保存前に火災によって消失した明日香達と違って、今日まで大切に保存されていただけに、抱える感情は違うのだろう。
(でも、睦月の時は違っていたが、どう違ってくるんだ?)
北斗は首を傾げる。
同じ機関車の神霊でも、廃車後保存されるか、廃車後解体されるか、保存後動態復活するか、保存後解体されるか、それで違いが出るのだろうか。
(まだまだ、彼女達の事は分からない事が多いか)
まぁ彼女達は非常識な存在である。そんな非常識な存在を常識的に考えても、理解など出来ないだろう。
北斗はそんな事を考えながら、常識的に考えない事にした。
こんな風に考えてくる辺り、彼も早苗に似始めているようにも思える……。逆に言えば幻想郷の雰囲気に順応しているともいえる。
「で、どうなの?」
「そうだなぁ……」
女性に問われて北斗は腕を組む。
「じゃぁ、『
「蘭?」
「あぁ。君が最後に走っていた室蘭から取った」
「……少し安直過ぎない?」
女性はジトッと目を細める。
「他に案があるのか?」
「……」
何も思い浮かばないのか、彼女は視線を逸らす。
「ヘックシッ!!」
「あら藍? 風邪でも引いたのかしら?」
「いえ、体調管理はしっかりとしているので、そのはずは……」
「ま、まぁ、別に悪くないから、蘭で良いわよ」
少しして彼女は、その名前を半ば渋々と認めるのだった。
「それじゃ、改めて宜しくな、蘭」
「えぇ。宜しく」
女性こと蘭は片目開けて声を漏らすのだった。
その後北斗は次に執務室に訪れた赤地で形式入りの『C58 1』のバッジを付けた少女に『津和野《つわの》』と名付け、次に訪れた『C12 208』のバッジを付けた少女に『
前者の名前はかつて走っていた区間の駅名からで、後者に関しては廃車になった場所の名前をもじってこの名前にした。
その後に北斗は資料の作成を終えて、眠りについたのだった。
感想、質問、要望等がありましたら、お待ちしています。