東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第54駅 更なる疑惑と発見

 

 

 

 

 幻想郷の某所

 

 

 

「これで良し、と」

 

 とある物を仕掛け終えた飛鳥は立ち上がって、両腕を上げて右手を左二の腕を掴ませて背伸びをする。

 

(これで全ての準備が整った。最初に仕掛けた二輌も間も無く現れる。後は順次時が来るのを待つだけだ)

 

 彼女は線路の上に仕掛けた物を一瞥して、コートのポケットから鉄道懐中時計を取り出して蓋を開け、時間を確認する。

 

(残りの二輌も外の世界から幻想郷に来るのも時間の問題。後は神綺が調整しているものだけか)

 

 鉄道懐中時計の蓋を閉じてポケットに仕舞うと、懐より一枚の写真を取り出す。

 

(北斗……もう少しだ。もう少しで、準備が整う)

 

 飛鳥は、一度だけ外の世界で幼い頃の北斗と一緒に撮った写真を見つめる。

 

「……」

 

 ふと、彼女の脳裏に、ある光景が過ぎり、無意識に左手に力が入る。

 

(もう少し、もう少しだけ、待って居てくれ……)

 

 視線を細め、悲しそうな表情を浮かべる彼女だったが、気持ちを切り替えて彼女は写真を懐に戻し、辺りを見渡す。

 

(それにしても、相変わらずここは不気味この上ないな)

 

 雰囲気と言い、空気中の冷たさや歪みがあるそこは、幻想郷にとってある意味闇の部分ともいえる場所だ。

 

 

 

『無縁塚』

 

 

 

 ここは、名も亡き者達が眠る場所であり、そして幻想郷と外の世界を隔てる博麗大結界の境界が曖昧な場所である。

 その為、この無縁塚には多くの外来人が迷い込む場所であり、同時に犠牲になる場所だ。

 

 外来人が多く迷い込むとあって、幻想郷に棲む獰猛な人喰い妖怪はここに集う。その理由は外来人がこの幻想郷の住人では無いので、博麗の巫女の加護外の外来人を殺害して喰っても、彼らに非は無く、退治されることもない。

 言い方はあれだが、これが幻想郷の抱える現実なのだ。

 

 聞いて良い話ではないが、そのお陰で獰猛な人喰い妖怪が無縁塚周辺に集まったので、人里周辺に出没する事が少なくなり、犠牲者も少なくなった。

 

 ある意味、幻想郷の均衡を保つ重要な場所とも言えるのだ。

 

 そして境界が曖昧とあって、ここには外の世界の他に、様々な所から流れ着く物がある。まぁ大半がガラクタが占めているが。

 

「……」

 

 飛鳥はため息を付くと、無縁塚を後にする。

 

 

 

 

「……なるほどねぇ」

 

 その姿を木の陰から魅魔がこっそりと見つめてた。

 

「……」

 

 そして飛鳥の姿が見えなくなったのを確認してから、彼女は木の陰から出てきて手にしている杖を無縁塚上空に向ける。

 

 すると宙に裂け目が現れて、そこから何か小さな物が出てきて地面に落ちる。

 

「折角楽しくなりそうなんだ。私からも少しはスパイスを加えさせて欲しいな」

 

 彼女はニヤリと口角を上げると、裂け目に杖の先端を突っ込んで、あるものを出す。

 

「アンタも、もう一度走りたいだろう?」

 

 魅魔は杖の先端にある禍々しい光を放つ人魂の様な発光体に声を掛ける。

 

 すると発光体は光を点滅させる。

 

「そうかい。いつかはあんたの好きにさせてやるさね。でも、まだあんたの身体が無いからねぇ」

 

 魅魔が顎に左手を当てながら困ったように言うと、発光体の点滅が激しくなる。

 

「そう慌てなさんな。急がば回れってよく言うだろう? 今は準備の為だと思って待っておくれ。その分、あんたには損はさせはしないよ」

 

 彼女がそう言うと、発光体の点滅が収まる。

 

「そうそう。良い子だ」

 

 そう言うと、魅魔は裂け目に発光体を納めて、裂け目を閉じる。

 

「あんたの身体は近い内に用意出来るさ。その時まで、その憎しみを蓄えるんだね」

 

 ボソッと呟くと、魅魔はその場から姿を消す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 様々な音が飛び交う中、運転室(キャブ)内では機関士と機関助士がそれぞれの作業を行っていた。

 

 機関助士はスコップを炭水車(テンダー)の石炭の山に突き刺して載せ、焚口戸を床のペダルを踏んで開けると、スコップに載せた石炭を炎が燃え盛る火室へと放り込む。

 それを数回繰り返してスコップを道具置き場に置き、各バルブを捻って各所へと送る蒸気の量を調整する。

 

 機関士は逆転ハンドルを回してギアを変えて、加減弁ハンドルを引いてピストンへと送る蒸気の量を調整して速度を上げる。

 

 

 今日は快調だな

 

 えぇ。今日のこいつは良い調子ですよ

 

 

 機関士と機関助士はそう会話を交わしながらも、作業の手は止めなかった。

 

 

 これなら予定通りに着けますね

 

 あぁ。調子良く、頼んだぞ

 

 

 そんな二人を後ろから見ていた()は微笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 まだ真っ暗な中、ベッドで寝ていた北斗は、直後に頭痛に襲われて目を覚ました。

 

 眠気がまだある中、彼は鈍く痛む頭を片手で押さえながら半身を起こす。

 

(何だ……今の光景は)

 

 鈍く痛む頭に表情を顰めながら、さっきの夢を思い出す。

 

 誰かの視線から、蒸気機関車の運転室(キャブ)内を観ている光景だ。機関士の声に何処と無く聞き覚えがあるような気がしたが。

 

 明らかに見覚えの無い光景なはずなのに、なぜか見覚えのあるような感覚がある光景だった。

 

(何だ、この感覚は……)

 

 身に覚えの無いはずなのに、まるでその場に居た様に覚えている。まるで他人の記憶が身を持って覚えているような、そんな感覚だ。

 

 北斗は何とも言えない気持ち悪い感覚に、吐き気を覚える。

 

「……」

 

 彼は壁に掛けられた時計を見ると、薄暗くて見辛かったが、まだ普段の起床時間より一時間近く早かった。

 

 ため息を付きながらベッドから起きて立ち上がり、片手で頭を押さえながらゆっくりと部屋を出る。

 

 

 

 その後食堂で水を飲み、気持ちを落ち着かせてから再び自室へと戻った。

 

(疲れが出ているんだろうか……)

 

 内心呟きながら、心なしか重くなった身体をベッドに腰掛けて横になると、まだ温かい布団を被る。

 

 まぁ確かにここ最近ゆっくり休んだ記憶が無いので、変な夢を見たのもただ単に疲れているだけだろう。

 

(一通りやる事が終わったら、ゆっくり休むとするか)

 

 大事な時期なので、ここぞと言う時に長である自分が倒れるわけにはいかない。

 

 北斗はそう考えながら、目を閉じて再び眠りに入った。

 

 

 

 

 ドンドンドンドンッ!!!

 

 

 

 

「……」

 

 しばらくして扉から激しくノックがされて、北斗は再度目を覚ます。

 

(こんな時間に、一体―――)

 

 

『北斗さん! 起きて下さい!!』

 

 眠りを妨げられて一瞬機嫌を悪くした北斗だったが、扉の向こうから早苗の声がして、彼はすぐに立ち上がって扉の方へと早歩きで向かい、扉を開ける。

 

 扉を開けた先には、余程急いでいたのか、所々髪がボサボサになって息を荒げた早苗の姿があった。

 

「ど、どうしましたか? こんな朝早くから」

 

 異様な状態の早苗に北斗は戸惑いを隠せなかった。

 

「こ、こんな朝早くから、すみません。ですが、すぐに守矢神社に来てもらえませんか?」

 

「それは、なぜ?」

 

「それが、さっき分かった事なんですが……」

 

 早苗は荒くなった呼吸を整えようと深呼吸を数回ほど行う。

 

 

「守矢神社に、蒸気機関車が現れたんです!」

 

「……え?」

 

「それも二輌もです!」

 

「……」

 

 早苗の口から衝撃的な事が告げられ、北斗は一瞬思考が飛んだのだった。

 

 

「ほ、本当ですか?」

 

 少しして北斗は落ち着き、早苗に問い掛ける。

 

「はい。一輌は炭水車付きの……えぇと」

 

「テンダー型ですか?」

 

「はい! それです!」

 

 北斗がそう教えると、早苗は思い出したかのように答える。

 

「もう一輌はタンク型なんですが……」

 

「なんですが?」

 

 北斗が首を傾げると、早苗は一間空けて口を開く。

 

「それが、とても大きいんです。それも、一緒にあるテンダー型に匹敵するぐらいに。あっ、炭水車を除いてですよ?」

 

「……」

 

 早苗からタンク型機関車の特徴を聞いて、北斗はある機関車が脳裏に過ぎる。

 

「兎に角、ついて来てください!」

 

「分かりました」

 

 北斗は頷くと、すぐに準備に掛かる。

 

 

 

 その後北斗は着替えを済ませて早苗と共に守矢神社へと向かった。

 

 

 ちなみにだが、早苗の来訪によって無理矢理起こされた明日香達が不機嫌そうな様子で早苗を睨んでいたそうな。特に幻月と夢月の二人に至っては物凄く機嫌が悪そうだったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 




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