東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第55駅 大正の名機と国鉄最後の蒸気機関車

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 早苗と北斗の二人は守矢神社へと急いでいた。

 

 しかしその雰囲気は何処と無く気まずそうで、先ほどから会話が無い。

 

 

 ちなみに二人の状態だが――――

 

 

 

 空を飛んでいる早苗が北斗の両膝の後ろと肩に両腕を回して抱えていると言う格好だ。所謂お姫様抱っこである。女性が男性をお姫様抱っこすると言う、何とも変わった光景である。

 

 

 北斗は相変わらず空を飛べないので、こうして早苗に抱えられるしかないのだ。緊急な用事なので、すぐに行かなければならない。もちろん歩いていくのは論外として、機関車で向かうにも時間が掛かる。なので早苗が北斗を抱えて飛ぶしかないのだ。

 

 当初おんぶして行こうと北斗は提案したのだが、早苗が飛びづらいとあって却下になり、次に北斗の両脇に腕を回して抱えて飛ぶと言うのもあったが、これも早苗が飛びづらいとあって却下になった。

 

 で、最終的に今の形になったのだった。北斗は最初は難色を示したが、結局代案がなかったので、半ば渋々と受け入れた。

 

 

(しかし、これは……)

 

 北斗はとても恥ずかしそうに早苗の腕の中に居た。

 

 飛ぶ事が出来ず女の子にお姫様抱っこされている自分が情けなかったが、それ以上に北斗が恥ずかしい事がある。

 

 なにせ彼にとって早苗は特別な存在なのだ。そんな彼女にお姫様抱っこされているのは、とても恥ずかしい。

 その上、お姫様抱っこされているので、彼女とは必然的に身体が密着しているのだ。恥ずかしくないわけがない。

 

「……」

 

 北斗はなるべく意識しないようにしているが、それでも彼の身体には女性特有の柔らかさが服越しに体温と共に伝わっており、その上早苗のご立派でやわらかーい双丘が触れている。

 これを意識するなという方が無理な話である。

 

 

(うぅ……勢いで言ってしまいましたが、これは……)

 

 そんな彼を抱えている早苗も、現状にとても恥ずかしさを覚えていた。

 

 仕方が無かったとはいえど、こうして北斗を抱えて飛ぶしかなかったが、勢いで言ってしまった事に少し後悔していた。

 

 やってみると、非常に恥ずかしい。

 

 彼女もまた、自分にとって特別な存在の北斗を密着して抱えているのだ。それが恥ずかしさに拍車を掛けている。

 密着しているとあって、彼女は普段味わえない北斗の身体をこの身を持って体感している。

 

 よく勢いで言えたものである。

 

「……」

 

 彼女もなるべく意識しないようにしているが、やはり身体が密着しているので、服越しに北斗の体温が伝わっているのだ。とても無理な話だった。

 

 

『……』

 

 お互い思春期の男女の様な、気まずい雰囲気があった。いやまぁ実際二人共思春期の男女でもあるのだが。

 

 

(それに、こんな所を文さんに見られたら……)

 

 早苗はある予想が脳裏に過ぎり、顔を真っ赤にする。

 

 文屋である射命丸文に、もし今の二人の状態を見られて写真でも取られたりすれば、当然彼女は一大スクープとして新聞の一面にするだろう。

 

 そうなれば彼女は恥ずかしくて表に出られなくなるし、北斗に迷惑を掛けてしまう。何より自分が仕える二柱に迷惑をかけてしまう。

 

 そう思った早苗は、飛ぶスピードを上げて守矢神社へと向かう。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

 

 

 

 その後ラノベや漫画でよく見るようなお約束(ラッキースケベ)が起こる事無く、二人は守矢神社近くまで着く。

 

 

「北斗さん! あれです!」

 

 早苗は北斗に声を掛けてそれがある方向を見る。

 

「っ! あれは!」

 

 北斗もそれに気付いて声を上げる。

 

 

 早苗が守矢神社近くの線路傍に着地して北斗を降ろすと、彼は早苗にお礼を言ってからそれに近付く。

 

「これは……」

 

 北斗は守矢神社付近の石炭の投入口に繋がっている、線路の上で鎮座している二輌の蒸気機関車を見上げる。

 

 

 一輌はC57形やD51形の様に近代的な外見の蒸気機関車と違い、まるで欧州の古典機を彷彿とさせる雰囲気のテンダー型蒸気機関車で、設計時には無い除煙板(デフレクター)を装備している。

 

「『8620形蒸気機関車』……その48633号機か」

 

 北斗はテンダー形蒸気機関車の名前を口にして、ゆっくり歩いてその姿を見つめる。

 

 

 8620形蒸気機関車は設計から製造までを国内で行われた、日本初の国産旅客用蒸気機関車で、貨物用の9600形とは対を成す蒸気機関車である。旅客用とあるが、貨物列車も牽引していたので、その万能さから蒸気機関車の終焉まで使われ続けられた。まぁ逆を言えば9600形のように完全に置き換えられるほどの性能を持つ後継機関車に恵まれなかったのもあるが。

 

 車軸配置は1C0のモーガル式で、スポーク動輪を持つ、大正時代の機関車に見られる特徴を持っている。ちなみにこの8620形だが、初期生産型だけ9600形の初期生産型の様にS字キャブ仕様となっているが、その後の生産分は乙字キャブへと変更されている。

 

 この8620形は日本の蒸気機関車の中で『絶対に空転しない』と乗務員達から評価されるほど空転を起こしにくい構造をしている。これは動輪の粘着力がシリンダーの出力より大きく上回っているのが大きく、本来の旅客高速列車運用から退いた後は軸重の軽さや汎用性の高さから勾配のあるローカル線で様々な列車の牽引を行っていた。

 もちろん、加減弁を雑に開いたりすれば空転を起こすし、余程線路が滑りやすかったり、勾配がきつかったりすれば空転を起こしていたそうである。

 

 しかし、空転は鉄道車輌において許容すべき現象である。確かに空転を起こせば動輪と線路を傷める原因になるが、空転を起こすことで足回り関連の部品への負担が軽減される。線路や動輪はいざとなれば交換出来るが、車輌の台枠関連はそう易々と交換できるものではない。

 逆に空転せずに発進すれば、足回り関連の部品に大きな負担が掛かるのだ。実際8620形は末期になると台枠に亀裂が走った個体が多かったそうだ。

 

 まぁもちろん、アメリカのT1型蒸気機関車の様なダイナミック空転を起こしたら、それはただの大問題である。

 

 

 ちなみにこの8620形の付番法だが、日本の蒸気機関車の中で一番ややこしいことで有名である(と作者は思っている)。

『8620』が1番目の車輌で、『8621』で2番目の車輌になるが、最もややこしくなるのは『8699』からで、この番号は80番目の車輌となる。本来ならそのまま『8700』になるのだが、この番号の形式機関車が既にあったので、81番目の車輌には万位に1をつけて『18620』と表記した。

 その為、下二桁を20から始めて99に達すると、次は万位の数字を1繰り上げて再び下二桁を20から始め、と言う非常にややこしい八十進法になっている。

 

 

 この48633号機は8620形の中でも特徴ある個体で、8620形は製造当初の時代の蒸気機関車に主流だったスポーク動輪を採用しているが、この48633号機は後にボックス動輪に換装された珍しい個体なのだ。その上このボックス動輪はわざわざ8620形用に新製したもので、流用ではない。

 ボックス動輪へ換装された8620形はこの個体以外にも極少数ではあったが、居たらしい。

 

 48633号機は他の8620形と共に国鉄時代急勾配で難所の一つで知られた花輪線で活躍した機関車である。

 

 そしてこの48633号機はお召し列車を牽引した事がある誇り高い機関車でもあるのだ。 

 

 

 

「北斗さん。この蒸気機関車って」

 

 早苗が北斗に近付きながら、48633号機を見る。

 

「8620形蒸気機関車。大正時代に作られた蒸気機関車です。

 

「8620形……あぁ、思い出しました!」

 

 と、早苗はポンッと右手拳を左掌に落とす。

 

「確か熊本県でこの蒸気機関車が走っていましたよね!」

 

「えぇ、そうですね。この機関車と同型です」

 

 北斗は九州地方の熊本県で走っている8620形蒸気機関車を思い出す。

 

 

 でもぶっちゃけな話、最初の復活時点でボイラーを含む殆どの箇所を新しく作り変えて、その後台枠を新製してしまっては、保存車輌と呼べるのだろうか by作者

 

 

「そして、もう一輌が」

 

 北斗は48633号機の後ろにある機関車を見る。

 

 機関車の構造はタンク型蒸気機関車であるが、その大きさは従来のタンク型蒸気機関車とは思えない大きな個体で、最大の特徴は何と言っても五つもある動輪であろう。

 

「大きいですね。それに動輪が五つも」

 

 早苗は物珍しそうに機関車を見る。

 

 確かに動輪を五つ持つ機関車は日本では珍しいだろう。

 

「『E10形蒸気機関車』。これは日本最大のタンク型蒸気機関車です」

 

 北斗はタンク型蒸気機関車こと赤地のナンバープレートを持つE10 5号機の事を呟く。

 

 

 E10形蒸気機関車は国内最大のタンク型蒸気機関車で、国鉄が最後に新製させた蒸気機関車であり、その中で5号機は実質的に国鉄最後の蒸気機関車である。

 

 

 E10形蒸気機関車は五軸動輪を持つ蒸気機関車で、日本のタンク型蒸気機関車の中では最大クラスの大きさを持つ。搭載しているボイラーは全長を短くしているだけで、D52形蒸気機関車と同じ直径のボイラーが搭載されている。その為か、汽笛が斜めに配置されているのも特徴的だ。

 

 この機関車最大の特徴は何と言っても五つの動輪を持つ事だろう。五つ以上の動輪を持つ機関車は日本ではE10形以外に二形式ほどあるぐらいだ。

 

 ここで疑問に思うだろうが、こんなに動輪を持った場合、曲線が曲がれないのでは? と思うだろう。確かにそのままでは曲線を曲がる事は難しい。それこそ関節式の足回りを持つ機関車で無い限り。

 

 しかしその問題を解決したのが『ゲルスドルフ式機構』と呼ばれる関節式機構を採用したからだ。

 

 ゲルスドルフ機構とはオーストリア国鉄の技術者カール・ゲルスドルフによって開発されたもので、五軸動輪を持つ機関車の誕生と共に誕生した機構だ。

 

 通常連結棒は一本で済ませるが、このゲルスドルフ式機構は複数の棒を組み合わせて横動の余裕を持たせ、更に動輪の一部に横動や上下動が出来る構造にすることで、曲線を曲がる事が出来る。単純な構造な割りに曲線通過性能が高い。

 

 この機構のお陰で動輪が五つ以上持っていても、曲線通過を可能としたので、世界には多くの五軸以上の動輪を持つ蒸気機関車が現れた。まぁ中には限度を超えた失敗作があったが。

 

 このE10形蒸気機関車もゲルスドルフ式機構を採用し、更に第二動輪のフランジを薄くして、第三、第四動輪のフランジを無くしているので、曲線通過能力を保ったのだ。

 

 

 そしてこのE10形の最大の特徴は炭庫側が前方と言う『キャブフォワード式』を採用していることだ。キャブフォワード式蒸気機関車とは、その名の通り前方に運転室がある蒸気機関車であり、世界各国ではいくつか作られ、中でもアメリカが開発した『AC12型』が一番有名だろう。

 

 元々キャブフォワード式蒸気機関車が開発されたキッカケは、蒸気機関車の構造上、視界が悪いと言うのもあったが、何より一番の要因はトンネル内で機関車が吐き出した煙が充満して乗務員を窒息させる事故が多発した。これは世界各国でも多く起きている。

 この煙害を防ぎ、視界を確保する目的で、キャブフォワード式蒸気機関車が開発された。

 

 このE10形蒸気機関車も煙害を防ぐ為にキャブフォワード式を採用した。とは言っても、E10形のキャブフォワードはAC12型ほどのダイナミックなものではなく、従来の設計に機関士席と機器類を炭庫側に向くように設置されている。そのせいで背後にあるボイラーからの熱で機関士の着ているナッパ服の背中の一部が焼き焦げたと言う逸話が残っている。

 

 そしてこの構造をしているとあって、この時代の蒸気機関車では設計時から標準装備である除煙板(デフレクター)が搭載されていない珍しい蒸気機関車であった。

 

 

 元々このE10形蒸気機関車は板谷峠の急勾配区間で活躍していた『4110形蒸気機関車』の代替を目的にした蒸気機関車である。大正時代の機関車とあって老朽化が激しく、更に戦時中の酷使も祟り、増え続ける輸送需要に応えられなくなりつつあった。そこで設計されたのが本形式だ。

 とは言ったものも、板谷峠自体の電化が進んでいた中だったので、そもそも造る必要があったのか怪しかったが、電化の工事自体が当時GHQによって一時中止命令が下されていた。後に命令は撤回されたが、その間に4110形の老朽化が深刻なものとなっていたので、電化までの繋ぎとして、E10形が作られた。

 

 当初十輌が製造予定だったが、後に五輌までに製造が縮小されて汽車製造に発注し、製造された。

 

 

 製造されたE10形五輌は板谷峠にある庭坂機関区に配属され、その性能を生かして急勾配区間で活躍した。

 

 しかしその性能は期待するほどのものではなく、4110形より扱いづらい機関車だったと言う評価が多かった。

 

 そもそもE10形の設計自体に様々な不備があり、シリンダーの牽引力の割りに動輪上重量が不足してうまく力を伝えづらく、その上労働軽減を目的に搭載した動力式逆転機だが、ネジ式逆転機より細かい調整が効き辛く、空転が多発していた。

 戦後に設計された蒸気機関車としては、あまりにもお粗末な設計だったと言う評価だったとかなんとか。

 

 更に追い討ちを掛けるかのように、板谷峠の電化がE10形の配属から僅か一年後に完了し、早速E10形は他の機関車と共に転属を余儀なくされる。

 

 

 次に急勾配を持つ肥薩線へと転属し、半年近くほど運用されたが、今度は大型の機関車だと言うのが災いして曲線通過の際の線路に掛かる横圧過大が問題になってその後不適となり、その後は別の区間に転属となり、勾配路線での列車を押す補機として活躍した。

 

 しかし今度はE10形の特徴であったキャブフォワードが災いし、炭庫側では列車と密着して視界を奪っていた。E10形はすぐにキャブフォワード式を解除する改造が施され、従来の蒸気機関車の仕様になった。

 ちなみに、この改造の際機関士席をそのまま前に向けたので、E10形は日本の蒸気機関車の中で珍しい運転室(キャブ)の右側に機関士席を持つ機関車になった。

 とは言っても、機関士席が右側にあるケースは、一部の9600形が走行区間の都合で右側に機関士席が来るように改造が施されているという一件もあった。

 

 しばらくE10形は列車の補機として活躍したが、その区間に勾配緩和の為に新線が開通したことで、E10形はお役目御免となった。

 

 次にE10形は交流電化区間と直流電化区間の接続の為の非電化区間を走る機関車として活躍した。

 

 本来の運用としては場違いな場所であったが、強力な牽引力に加え、方向転換が不要なタンク型のメリットを生かしてピストン運行を行っていた。

 

 しかし今度は製造時に使用した戦時規格資材による不良箇所の発生やボイラーの研修が構造上困難なこと、更に少数機な為に予備部品の確保が困難になってろくに整備が出来ず、不調機が続出していた。

 

 最終的にその区間は余剰となっていたD50形やD51形といった機関車を運用することで解決した。

 

 それを最後にE10形の営業運転は終了し、その後廃車となった。

 

 僅か14年と言う、蒸気機関車としてはあまりにも短い命だった。まぁ明らかに短い命で終えた機関車なんて世界にはいっぱいあるんだけど。

 

 とは言っても、廃車時期がちょうど鉄道90周年事業の時期であったので、E10形の保存が決定し、2号機が現在も大切に保存されている。ちなみに保存対象は本来1号機だったのだが、既にその頃には1号機が解体されていたので、2号機が選ばれたのだ。

 

 

 

 そんなE10形蒸気機関車の5号機が目の前にある。

 

 

「それにしても、ここ最近になって蒸気機関車が多く現れていますね」

 

「そうですね」

 

 北斗は顎に手を当てて静かに唸る。

 

 最初は少しずつだったのに、ここ最近は蒸気機関車が大量に現れており、これでもう六輌である。

 

「まるで蒸気機関車のバーゲンセールだな」

 

「え?」

 

「いえ、何でもありません」

 

 北斗は思わずボソッと呟くが、早苗の耳に届いて彼女は首を傾げるが、彼は咳払いをして再度二輌を見る。

 

(ハチロクにE10形か)

 

 内心呟いて二輌を見つめる北斗は一考した。

 

 空転しづらく万能な8620形に、若干設計に不備があるが、それに目を瞑ればタンク型では強力なE10形が来てくれたのは彼にとっては半ば嬉しい誤算だった。

 

 どちらとも勾配区間に強い機関車だ。この妖怪の山の路線にうってつけだろう。

 

 これで守矢神社から石炭を運ぶ列車の牽引機関車を確保できた。

 

 

 

「北斗か」

 

 と、神社側から声がして二人は振り向くと、神奈子と諏訪子の二人がやってくる。

 

「神奈子さん、諏訪子さん。おはようございます」

 

「おはよー、北斗君。朝早くからゴメンね」

 

 少し眠そうに諏訪子が北斗に声を掛ける。

 

「いえ。構いません。それより―――」

 

「分かっている」

 

 神奈子は48633号機とE10 5号機を見る。

 

「まさか昨日まで無かったものが、一夜で現れるとはな」

 

「うん。全く前兆は感じられなかったのに」

 

 二人の表情は険しく、雰囲気もピリピリしている。

 

 どうやら神を持ってしても、この二輌が現れる前兆は感じられなかった。

 

 前兆を感じ取れず自分達の領域にまんまと機関車を出現された事に、二柱は屈辱を感じているのだ。

 

「神奈子様、諏訪子様……」

 

 普段の二柱からは感じられない雰囲気に、早苗は不安な表情を浮かべる。

 

 

「まぁ、現れたもんは仕方ないよね」

 

 と、さっきまでのピリピリとした雰囲気を消して、諏訪子が口を開く。

 

「そうだな。こちらには実害は無かった事だし、気にしても仕方がない」

 

 神奈子もため息を付き、北斗を見る。

 

「まぁ、何だ。お前としても、新たな蒸気機関車が増えて助かるだろう」

 

「えぇ、まぁ」

 

 北斗は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「ところで、この二輌も神霊が現れるのかな?」

 

 諏訪子は一昨日の火入れ式の事を思い出して二輌を見る。

 

「それは、どうでしょうか……」

 

「早苗。どうだい?」

 

 北斗が首を傾げていると、神奈子が早苗に声を掛ける。

 

「そうですね。明日香さん達の蒸気機関車の様に、霊力を感じます」

 

 早苗は二輌の蒸気機関車から明日香達に似た霊力を感じ取っていた。

 

 それはつまり、この二輌にも神霊が宿っている事を意味している。

 

「確か早苗の話じゃ、北斗君が機関車に触れたら神霊が姿を現したって言ってたね」

 

「あぁ。そうだったな」

 

 すると二柱は思い出したように話し出すと、揃って北斗を見る。

 

「北斗君。頼めるかな?」

 

「わ、分かりました」

 

 北斗は頷くと、二輌の機関車に近付く。

 

 彼もこれまでの経験から、二柱の言う通り触れてみようと考えていた。

 

 それで神霊が姿を現すかどうかは分からない。現にC11 312号機とC12 208号機、C56形みたいに現れない例もある。

 しかし、北斗には今回は神霊が現れるだろうという確信があった。

 

「……」

 

 北斗は48633号機の前に来ると、ゆっくりとフロント部にある連結器に触れる。

 

 

「っ!」

 

 すると触れた瞬間、北斗の頭に一瞬痛みが走り、表情が歪み、数歩後ろに下がる。

 

「北斗さん!」

 

 早苗はすぐに走り出して北斗を後ろから支えながら、後ろに下がる。

 

 

 すると二輌の蒸気機関車の前に光が集まっていく。

 

「っ!」

 

「これは」

 

「やっぱり、あの時と同じ……」

 

 早苗は北斗を支えつつ後ろに下がりつつ、その光景に彼女は息を呑む。神奈子と諏訪子は目を細める。

 

 

『……』

 

 そして光が晴れると、そこに二人の女性が立っていた。

 

 

 




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