守矢神社に現れた二輌の蒸気機関車。
8620形蒸気機関車……48633号機。
E10形蒸気機関車……E10 5号機。
北斗が機関車に触れると、光が二輌の蒸気機関車の前に集まり、次第に人の形を取って、やがて光が晴れる。
そして二人の女性が姿を現す。
一人は背が高い女性で、少し外側に向かって真っ直ぐにはねている茶色のショートヘアーをしており、黒い瞳を持つ。紺色のナッパ服を身に纏い、左胸にはナンバープレートを模した『48633』と書かれたバッジを付けている。
尚、身体のスタイルは控えめである。
もう一人は前に居る女性より背が低く、前髪ぱっつんにセミロングの黒い髪を後頭部で纏めた女性で、赤い瞳を持っている。紺色のナッパ服を身に纏い、左胸にはナンバープレートを模した赤地で『E10 5』と書かれたバッジを付けている。
こちらも『48633』のバッジを付けた女性同様スタイルは控えめである。
「ここは……」
『48633』のバッジを付けた女性は寝ぼけた目で辺りを見渡す。
「ヒエー!! ここどこなんですか!?」
と、なにやら独特な悲鳴と共に、涙目になりながらも驚愕の表情を浮かべて辺りを見渡す。
「ここ何処なのよ!? 何で私が目の前に居るの!?」
『E10 5』のバッジを付けた女性は自分自身の半身があることに驚きを隠せない様子だった。
なんだか今まで現れた神霊達より、慌てっぷりが大きい。
「なんだか、落ち着きがないですね」
「そう、ですね」
そんな様子の二人の神霊の女性を早苗と北斗が短く言葉を交わす。
「まぁ、とりあえず、行って来ます」
「はい。気をつけてくださいね」
北斗は早苗に一言言ってから二人の元へと向かう。
「ちょっといいか?」
「え?」
北斗が声を掛けると、『48633』のバッジを付けた女性は振り返る。
「あ、あなたは?」
「俺は幻想機関区の区長をしている、霧島北斗だ。君は48633号機の神霊かな?」
「く、区長でしたか!」
『48633』のバッジをつけた女性はとっさに姿勢を正して敬礼をする。
「はい! そうです!」
「そうか」
北斗は次にこちらにやってくる『E10 5』のバッジを付けた女性に視線を向ける。
「あなたが機関区の区長さんなの?」
「あぁそうだ」
「そう」
『E10 5』のバッジを付けた女性は姿勢を正して敬礼をする。
「E10形蒸気機関車。その5号機です」
「うむ。二人共、歓迎しよう」
北斗は右手を差し出すと、『E10 5』のバッジを付けた女性は首を傾げるが、『48633』のバッジを付けた女性は思い出したような表情を浮かべて右手を差し出して握手を交わす。
『E10 5』のバッジを付けた女性はそれに習って北斗と握手を交わす。
その後北斗は二人を早苗達の元に連れて行き、紹介と説明をした。
「神奈子さん、諏訪子さん」
「ん?」
説明し終えた頃で、北斗が二柱に声を掛ける。
「御二人に、頼みたい事があります」
「私達に……」
「頼みたい事?」
二柱は揃って首を傾げる。
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一方その頃幻想機関区では――――
「全く。眠いったらありゃしないわ」
明らかに不機嫌な
「まぁその点は同意だな」
その隣で歩く
「あの守矢の巫女はいつもあぁやって騒がしいのかしら」
「さぁな。この幻想郷に来たばかりの私達には分からん事だ」
「それもそうね」
「それに、巫女ではなく風祝というみたいだぞ」
「どっちに同じでしょ」
そんな会話を交わしている内に、二人は機関庫前に着く。
「おはようございます!」
と、先に機関庫前に着いていた
「あぁ、おはよう」
「……おはよう」
「いやぁ、まさかあんな朝早くから起こされるとは思ってみなかったな」
「全くよ」
「でも、慌てた様子でしたからね。区長も一緒に行きましたし、何かあったんでしょうか?」
「……」
「そういえば、早苗さんが蒸気機関車がどうとか言っていたです」
思い出したように
「もしかして、私達みたいに新しい蒸気機関車がまた現れたんでしょうか?」
「この短期間で?」
「まぁ、ありえない事ではないだろう」
「ここ最近の罐の出現頻度を考えれば、可能性はある」
「本当に、何が起きているの……」
「そういえば、区長は冗談ででしたけど、まだ増えるんじゃないかって言っていましたね」
「マジで起きてんじゃないか」
「そういえば」
と、
「この機関庫って、何だがかなり大きくありませんか?」
「あー、そういえば」
「確かに、結構大きいですよね」
「最初は私達だけだったから、相当ガラガラだったよな」
幻想機関区にある扇形機関庫だが、たしかに機関庫としてはかなり大きい。その規模は車輌を約二十輌以上格納出来る。
「小樽築港機関区の機関庫なら、これくらいはあったわよ」
「追分機関区の機関庫もこれくらいはあったわね。木造だったけど」
「梅小路機関区の機関庫もこのくらいはあったな。尤も、殆どは展示に使っていたけど」
「えぇと、今機関庫にある機関車は、確か十四輌ですよね」
「今日で十五輌になるわね」
「その上、紅魔館の地下にも二輌の機関車があったわね」
「でも、まだ八つ近くは空いてますよ」
「まさか、この数が今後現れる、なんて事無いですよね?」
「そのまさかなんじゃない?」
「これ以上話してもキリが無い。作業に取り掛かろうじゃないか」
議論が長くなると悟ってか、
彼女の提案に他の者達も各々に呟きながら、それぞれ自分の機関車の元へと歩いていく。
―――――――――――――――――――――――――
数時間後……
守矢神社の傍の線路に現れた48633号機とE10 5号機に火が入り、煙突から煙が上がっていた。
北斗は48633号機の焚口戸を開けた火室に石炭を載せたスコップを両手で持って投炭を繰り返している。
「区長! 圧が上がりました! いつでもいけます!」
隣で圧力計を見ていた『48633』のバッジを付けた女性が報告する。
「よし」
報告を聞いた北斗はスコップを道具置きに戻すと、焚口戸を閉じてから略帽を脱いで袖で汗を拭う。略帽を被り直してから彼は
「そっちはどうだ!」
「準備オッケーよ!」
E10 5号機の
ちなみにこのE10形だが、キャブフォワード式を解除した状態だ。
北斗は頷くと、後ろの方で待っている早苗達に向く。
「神奈子さん、諏訪子さん。手伝ってくれて、ありがとうございます」
「別に構わないよ。貴重なところを見させてもらえたし」
諏訪子は笑みを浮かべる。
「だが、こうして神々の力を使わせるのは、お前ぐらいなものだぞ」
神奈子が苦笑いを浮かべる。
まぁ確かに蒸気機関車の火入れの為に二柱の神に手伝ってもらうなんて、常識外れもいいところである。
ちなみにどうやって火入れを行ったかというと、神奈子の力で諏訪子が創り出した石炭に着火させたのだ。水は全員で近くの湖から頑張って汲み上げた。まぁ最初からある程度タンクに水が入っていたので、火入れを行いつつ水を追加していった。
「神奈子様。この幻想郷では常識に囚われてはいけないんですよ」
そんな彼女に早苗がお決まりの台詞を投げ掛ける。
その後北斗は48633号機とE10 5号機の連結作業を行う為に誘導を行い、E10 5号機は48633号機のテンダーと連結する。
「それでは、自分はこれで」
北斗は作業を見守っていた三人の元に駆け寄り、頭を下げる。
「後でね、北斗君」
諏訪子が小さく手を振る。
「あぁ、そうだ」
と、神奈子が早苗を見る。
「早苗。ついでに乗せていってもらうといい」
「えっ?」
早苗は驚いたように神奈子を見る。
「い、良いんですか?」
「良いんじゃない? どの道この後行くんだし、早めに行ってもいいよ」
「構わないか、北斗?」
「えぇ。構いません」
神奈子が聞くと、北斗は頷く。
「では、早苗さん。行きましょう」
「はい!」
北斗は早苗に声を掛けると彼女は嬉しそうに返事する。
二人は48633号機の
北斗が手を差し出して早苗がその手を取り、彼女を引っ張って
「あ、暑い……」
「まぁ、
「こ、こんな中でいつも作業を?」
「えぇ。今はまだマシな方ですけど、夏場は相当暑いはずです」
「……話は聞いていましたが、改めて実感しました」
早苗は
「出発してくれ。なるべく低速で頼む」
「了解です!」
『48633』のバッジを付けた女性は敬礼をすると、ブレーキハンドルを手にしてブレーキを解除すると、
そして天井から下がっている汽笛弁を引く紐を手にして引く。直後に3室汽笛特有の高い音色が発せられて妖怪の山に木霊す。
加減弁ハンドルを手にしてゆっくりと引くと、解放された蒸気圧がピストンを押してそれを主連棒に伝える事で、48633号機を支えるボックス動輪がゆっくりと動き出す。
「きゃっ!?」
すると動き出した衝撃で
「おっと」
しかし北斗がとっさに倒れそうになる早苗の手を取り、自身の方に引き寄せる。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます」
北斗がそう聞くと、早苗は顔を赤くしてお礼を言う。
「しっかりと掴まっていて下さい。この先少し揺れますので」
「は、はい」
北斗は彼女を機関助士席に座らせると、すぐに火室の火を確認する為に焚口戸の扉を繋がっている鎖を持って開ける。
すぐに道具置き場より片手シャベルを手にして
48633号機とE10 5号機はゆっくりと前進して守矢神社を出発し、幻想機関区を目指す。
その後二輌は幻想機関区に到着するも、当然全員から驚きと呆れを向けられたとのこと。
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