東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第57駅 戦争の生き証人

 

 

 

 

 守矢神社から二輌の機関車を持ち帰った北斗達は、機関車を機関庫に格納後、C56形蒸気機関車の火入れ式の準備が行われた。

 

 

 

 

「やれやれ。ようやく今日で終わるわね」

 

 と、半ば面倒くさそうに火入れ式の準備をしている霊夢はため息を付いてぼやく。

 

「でも、貴重な体験では無いでしょうか?」

 

 彼女を手伝うように る~こと が声を掛ける。

 

「……まぁ、これまでの幻想郷では出来そうにない体験ではあるわね」

 

 彼女の視線の先ではC12 208号機によって整備工場よりC56形蒸気機関車が引っ張り出されている。

 

 整備を終えた機関車はピカピカに磨き上げられており、太陽に光を反射して輝いている。

 

「霊夢さん!」

 

 と、声を掛けられて霊夢は声がした方を向くと、北斗が早苗と共にやって来る。

 

(何だか日に日に二人の距離が縮まっているような気がするわね)

 

 霊夢は何となく二人の距離が最初と比べて大分縮まっている事を気にしたが、すぐに頭の中から振り払って気持ちを切り替える。

 

「今日まで手伝ってくれてありがとうございます」

 

 北斗は略帽を脱いで霊夢に頭を下げる。

 

「まぁ、貴重な体験だったし、何より賽銭を入れてもらったし、別に良いわ」

 

 相変わらず素っ気無い態度で話す彼女だったが、すぐに目つきが変わる。

 

「それに、今回は高額の賽銭があったから手伝ったけど、次も賽銭次第よ」

 

「もう、霊夢さんったら! たまには損得勘定無しで行動してみたらどうですか!!」

 

 相変わらず賽銭のことに拘る霊夢に早苗が抗議の声を上げる。

 

「先立つ物が無いと、人間は生きていけないのよ」

 

 THE正論を言い放つ霊夢に早苗は「ぐぬぬ」と睨みつける。

 

「でも、なんやかんや言って手伝ってあげるご主人様は本当に優しいですよね」

 

「余計なこと言うんじゃないわよ」

 

 る~こと が笑みを浮かべて言うと、霊夢がジトッと睨む。

 

「まぁともかく、さっさと終わらせるわよ」

 

 そう言うと彼女はズカズカと火入れ式の会場の方へと歩いていき、その後ろを る~こと が歩き、その後に北斗と不満げな早苗が続く。

 

 

「……」

 

 歩きながら霊夢はため息を付くと、北斗をチラッと見る。

 

 

『なら、霧島北斗を見張ればいいさ。異変の首謀者は必ず彼の元に現れる』

 

 

 この間の魅魔の言葉が彼女の脳裏に過ぎる。

 

(あいつ、一体何を知っているのかしら……)

 

 霊夢は視線を前に向けて険しい表情を浮かべ、顎に手を当てる。

 

 別にあの悪霊を信用しているわけではないが、あんないい加減な事を言うようなやつでは無いのは知っている。

 

 あの言いっぷりを見れば、恐らく何か重要な事を知っている可能性が高い。

 

 だが、本人から聞いても答えないだろう。そういうやつだからだ。

 

 

(……やめよう。今考えても埒が明かないわ)

 

 彼女はため息を付くと、再度北斗を一瞥する。

 

 分からないのに考えたって、時間の無駄だ。

 

(今はあいつの言う通りにしてやろうじゃない。本当にそうならね)

 

 内心呟きながら、霊夢は魅魔に対して少しばかり苛立ちを見せる。

 

 

 

 しばらくして準備が整い、C56形蒸気機関車の火入れ式が始まる。

 

 会場には整備に関わった妖精達に河童達の他に、再び訪れたレミリア達一行、更に取材に訪れたはたてに文の姿があった。この二人は相変わらず争っている様子だったが。

 

 基本的な火入れ式の流れはC11 312号機とC12 208号機と同じで、早苗による安全を祈願し、罐に火入れを代表者たちによって行う等、何事も無く式は進んでいく。

 

 

 火を入れてから数時間後、C56形の運転室(キャブ)の圧力計の針は正常運行出来る数値までに達した。

 

  

 そして復活の雄叫びの様に、C56形の汽笛から蒸気と共に勇ましい音色が機関区に響く。

 

 

 

「C56形も無事に復活しましたね」

 

「あぁ」

 

 煙突より煙を出し、煙突傍の排気管から蒸気を噴射しているC56形を見ながら、明日香(D51 241)が声を掛けると、北斗も相槌を打つ。

 

「これで整備していた機関車は全てになりますね」

 

「そうだな。これで他の機関車を整備に回せる」

 

 以前から不調を訴えていた七瀬(79602)をようやく工場入りできる。その間入れ替え作業は他の機関車に任せる。それ以外の機関車も交代で整備させる予定だ。

 

 それに、紅魔館の地下にある二輌の機関車の整備の為にも、工場は空けて置かないといけない。

 

 

「そういや……」

 

 と、北斗は睦月(C11 312)熊野(C12 208)の二人に視線をやる。

 

 二人はかなり期待した様子でC56形を見守っている。

 

(昨日あの二人は気になる事を言ってたな)

 

 北斗は昨日の睦月(C11 312)熊野(C12 208)の二人の会話を思い出す。

 

 

『やっぱり、あの話は本当だったんですね』

 

『そうね。これなら、姐さん(・・・)も蘇る!』

 

『私達がこうなれたんだから、必ず蘇るよ!』

 

 

 二人の会話を思い出し、北斗は腕を組む。

 

(やはり、あの機関車は……)

 

 北斗は内心で呟いていると、それは起きた。

 

 

 

 C56形の煙室扉と運転室(キャブ)の側面、炭水車(テンダー)の後面の一部が光り輝き始め、機関車の前に光が集まり出す。

 

『っ!?』

 

 C12 208号機と同じ現象だったので、誰も驚いた様子を見せなかったが、今朝新たに参入した『48633』と『E10 5』のバッジを付けた女性二人は目を見開いて驚いている。

 

「これは……」

 

「やはり、熊野(C12 208)の時と同じか」

 

 明日香(D51 241)と北斗はそれぞれ呟いて一部が輝くC56形を見る。

 

「……」

 

 全員が見守っていると、光り輝いていた箇所が露わなり、機関車前に集まった光は人型を作り、やがて光が晴れる。

 

「っ! やっぱりあれは!」

 

 光が晴れて露になった箇所を見て、睦月(C11 312)が声を上げる。

 

「やはり、彼女だったか」

 

 北斗はそう呟くと、さっきまで無かったナンバープレートを見る。

 

 

 光が消えて露になった箇所には、赤地で形式の入っていない『C56 44』と書かれたナンバープレートが取り付けられていた。

 

「……」

 

 そして機関車の目の前には一人の女性が立っていた。

 

 中性的な顔つきをしている女性で、背中まで伸びた黒髪を根元で束ねた一本結び風の髪型にしており、背丈は機関車の神霊の中では中くらいである。赤地のナンバープレートを持つ機関車の神霊のように赤い瞳をしているが、右目は眼帯で覆われており、その眼帯からはみ出す大きな傷が見えている。

 右頬にも何かが掠ったような傷痕が刻まれており、顔の中央にも斜めに傷痕が刻まれている。

 

 

「C56 44号機……」

 

 北斗はその蒸気機関車の名前を口にする。

 

 

 

『C56 44号機』

 

 この機関車ほど激動の経歴を持った機関車は居ないだろう。

 

 

 1936年3月6日に三菱工場神戸造船所でC56 44号機は誕生した。

 

 この機関車は誕生して早々お召し列車を牽く等、幸先の良い出だしだった。

 

 

 しかしそんな彼女の運命を大きく変える出来事が発生する。

 

 日本と米国の戦争……『太平洋戦争』の勃発だ。

 

 44号機を含めたC56形は他の形式の機関車達と共に軍へ供出され、出征先のタイの線路規格に合わせる改造が施され、タイへと送られた。

 

 タイへと到着した彼女達は現地に敷かれた泰緬鉄道にて兵員、物資輸送を行って活躍した。44号機は現地で組み上げられた初のC56形蒸気機関車であった。

 

 しかし戦局が連合軍側に傾くと、日に日に連合軍の爆撃は激しさを増し、泰緬鉄道は線路や地形を破壊されて大きな被害を齎す。そのせいで撤退しようにも撤退できない機関車が多くなり、敵軍に鹵獲され、運用されるのを防ぐ為に機関車の罐に爆薬を仕掛けて爆破された固体が多かった。

 中には苦楽を共にした機関車のみを爆破できないと一部の兵士が機関車と共に自決する機関車自決が多かったそうだ。

 

 その後日本が無条件降伏した事で戦争は終結し、44号機を含めた一部の機関車達は生き残った。

 

 戦後生き残った機関車達はタイ国鉄によって運用されてきたが、時代が進んでタイ国内が電化によって多くの蒸気機関車が廃車となり、44号機も廃車となった。

 

 

 その後日本では大井川鉄道にて日本初の蒸気機関車の動態保存運転を行ったことで、空前のSLブームが起こっていた。その人気っぷりに大井川鉄道は機関車一輌では賄いきれないものであり、その上一輌のみとあって負担を強いる事になるので、故障する可能性が大きかった。

 

 そこですぐに蒸気機関車の増備が迫られたが、時はSLブームの真っ只中。貴重な保存機をそう簡単に引き渡す所は無いし、あってもかなりの高額で取引されていた。

 

 どうしたものかと考えていたら、ある情報からタイに出征してそのまま残されている蒸気機関車があるというのを知り、従軍帰還者や様々な関係者の支えもあって、タイより二輌のC56形蒸気機関車が運び出される事になった。

 それが現地で組み上げられた初の機関車である44号機と、開通式で使われた31号機である。

 

 その後二輌のC56形は二度と帰る事は無いと思われていた祖国の地へ降り立ち、31号機は靖国神社の遊就館に、44号機は大井川鉄道へと、それぞれの場所へと向かった。

 

 44号機は日本の線路規格に戻されて、車籍を復活した後、運転される事になった。当時はタイ国鉄仕様で走っていたが、しばらくして本来の国鉄仕様に戻された。

 

 しかし老朽化に加え、戦時中の酷使が祟り、不調や故障が多発した。後に大修理が行われたが状態は芳しくなく、C11 190号機が入線したとあって休車扱いとなって側線に留置された。

 一時は解体しようかという話があるぐらいに、状態は良くなかったそうだ。

 

 しかし44号機の復活を望む声は多く、部品取りとして保管していたC12 208号機のものを整備して転用し、日本とタイの修好120周年を記念して当時のタイ国鉄仕様で再復活を果たした。

 ちなみにATS等の安全装置は少し前に廃車になったC11 312号機の物が使われた。 

 

 

 そしてC56 44号機は今も同鉄道で走っている。

 

 

 正に彼女は戦争の生き証人だ。それは戦後生まれの蒸気機関車を除けば殆どが当てはまるだろうが、本当の意味で戦争の生き証人といえるのは、彼女と31号機であろう。

 

 

 だが、彼女が激動の経歴を持っていると知る者は、決して多く無いと言うのが現実だ。多くの者はただの動態保存機関車としか見ていないだろう。

 

 

 尤も、それが本当の意味でのC56 44号機かどうかと言うと、そう言い切れないかもしれない。

 

 

 そんなC56 44号機が、この幻想郷に姿を現したのだ。

 

 

 

「姐さん!」

 

 すると睦月(C11 312)熊野(C12 208)が走り出す。

 

「ん? おぉ! お前達か!」

 

 赤地の『C56 44』のバッジを付けた女性は声を聞いて振り向くと、二人の姿を見て笑顔を浮かべる。

 

「まさかこうして会えるとはな!」

 

「はい! 姐さんも、元気そうで!」

 

 赤地の『C56 44』のバッジを付けた女性は睦月(C11 312)熊野(C12 208)の二人を抱き締めて再会を喜ぶ。

 

「いやぁ、半信半疑だったが、本当にこうして人間の身体と新しい身体を手に入れられるとはな」

 

 彼女は自分の身体を見下ろしてから、後ろにあるもう一つの自分(C56 44)を見る。

 

「そうですね。私達もこうして身体を得ています」

 

「私も、もう一つの私と共に新しい身体を得ています」

 

「そうか」

 

 女性は笑みを浮かべると、二人の頭に手を置く。

 

「あっ、そうだ! 姐さん! ここの機関区の区長を紹介します!」

 

「ん? この機関区の区長か?」

 

「はい」

 

「そうか。分かった。案内してくれ」

 

「分かりました! こちらへ!」

 

 睦月(C11 312)熊野(C12 208)に連れられて女性は北斗の元へと向かう。

 

 

 

 

 その後女性は北斗に挨拶を済ませて、正式に幻想機関区の所属となった。

 

 

 こうして三日に及ぶ火入れ式は、ドタバタとして整備した三輌の機関車以外に四輌の機関車を加えて、ようやく終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 





現時点での幻想機関区にある蒸気機関車。

D51 241
D51 465
D51 603
D51 1086
79602
48633
B20 15
D62 20
C10 17
C11 312
C12 208
C55 57
C56 44
C57 135
C58 1
C59 127
E10 5

中々大所帯になりましたな……

まぁこれでもまだ増えますが。


感想、質問、要望等がありましたら、お待ちしています。

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