東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第7区 『幻想郷鉄道』開通編
第59駅 回収と来客と新たに現れる者


 

 

 

 火入れ式を終えてから数日後。遂に幻想機関区の今後を左右する体験試乗会が開催された。

 

 体験試乗会は綿密な準備をして行われた。

 

 安全対策は可能な限り行われ、その後路線の状態の確認の為、夜中から早朝に掛けて試験走行が行われた。

 試乗会で自警団と代表を乗せる五輌のスハ43を牽引したのはC55 57号機とC58 1号機である。

 

 それから三日後に、体験列車は人里付近に作られた仮設ホームに到着し、人里から自警団と代表者達を客車に乗せて幻想郷を走った。

 

 幻想郷を一周する形で博麗神社を通って魔法の森、河童の里付近、そして守矢神社までを走った。最後に幻想機関区へと向かい、自警団と代表者達に機関区を見せた。

 

 そして体験試乗会は無事に終了した。

 

 

 結果として、体験試乗会は成功に収めた。

 

 

 その後本格的に駅舎や設備の建設についての話し合われ、体験試乗会から後日に建設が始まり、その周辺に柵や踏切の設置を行った。

 

 更に物資の輸送についても、木材業者や石材業者との契約を結び、物資輸送を行うことになった。

 

 鉄道開業は正に一歩前まで近付いた。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 体験試乗会から数日後。

 

 

 場所は幻想郷を見渡せる高所。

 

 

 

「うーん! 久々の幻想郷!」

 

 幻想郷の景色を一望できる場所で、一人の少女が背伸びをしつつ深呼吸をする。

 

 やや癖のついた茶色い髪に瞳、赤いアンダーリムの眼鏡を掛けている少女で、白いリボンを巻いている黒い帽子を被り、菫色のチェック柄で、Pコート上のベストにプリーツスカート、インナーに白い長袖のシャツを身に纏っている。

 その上に黒く、裏地が赤くルーン文字が浮かび上がっているマントを羽織っている。

 

 彼女の名前は『宇佐見(うさみ)菫子(すみれこ)』。外の世界の人間であり、つい最近起きた『オカルトボール異変』の首謀者である。

 

 異変後色々とあったものも、彼女は外の世界で眠っている間はこの幻想郷に来る事が出来るようになり、外の世界で寝て居る時はこうして幻想郷に遊びに来ている。

 

 しかし外の世界と幻想郷の時間の流れは異なるので、彼女からすれば数日ぶりでも、幻想郷では数週間ぶりという違いがある。

 

 最近は色々と学校の行事が立て込んでいたせいか、寝ていても幻想郷に行く事が出来なかった。それだけ彼女も疲れていたのだろう。

 

「やっぱり幻想郷の空気がおいしいわね」

 

 菫子は深呼吸をして幻想郷の空気を味わう。外の世界では排気ガス等で空気が汚れているので、幻想郷の空気はとても澄んでいる。

 

「自然も豊かで、癒されるわねぇ……」

 

 コンクリートジャングルな外の世界で暮らしている彼女からすれば、自然豊かな幻想郷の光景は心の癒しとも言える。

 

「それに蒸気機関車も走っているし、文句なしね」

 

 彼女の視線の先には、平原を白煙を吐き出して走る石炭車を牽く蒸気機関車の姿があった。

 

 

 

 

「……えっ? いや、ちょ、えぇ!? なんでぇっ!?」

 

 ようやく状況を理解してか、彼女は目を見開いて驚く。

 

 

 

『悲報』幻想郷、いつの間にか文明開化していた件について……

 

 彼女の脳裏には、そんな見出しが過ぎるのだった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わり、場所は紅魔館の付近。

 

 

 パチュリー主導の下、アリス、魔理沙の三人の魔法使いによって二輌の蒸気機関車がある地下に穴が空けられ、遂に地上へと繋がった。

 

 

 地面には大きな穴が空けられて、地面には幻想機関区の作業妖精と紅魔館のメイド妖精が協力して敷設された仮設線路が伸びており、その先には地上へと出されて埃を被ったボディーに日の光を浴びているマレー式タンク型の4500形蒸気機関車と7100形蒸気機関車『比羅夫号』の姿があった。

 

 二輌は作業妖精達によって主連棒を取り外され、比羅夫号は車体と炭水車(テンダー)を切り離されてから、D51 465号機とD51 603号機によって牽引されたソ80操重車二輌が間隔を空けた状態で固定され、クレーンより吊るされているワイヤーを比羅夫号の車体に固定される。

 ワイヤー固定後、比羅夫号は二輌のソ80操重車によりゆっくりと仮設線路から持ち上げられ、本線へと下ろされる。

 

 この二輌の足回りの状態的だが、低速で移動するのなら本線で牽引して回送することは可能である。

 

 ちなみにD51 465号機だが、試験的に除煙板(デフレクター)が切り詰められた物から通常仕様の物へと換装されている。その為D51形の標準的なスタイルに戻っている。

 試験結果次第では他のD51形の除煙板(デフレクター)も通常使用に戻す予定だ。

 

 紅魔館付近にある線路は複線であるので、紅魔館により近い線路ではC56 44号機が無蓋車の貨物車輌と連結した状態で停車しており、貨物車輌には次々と紅魔館の地下から搬出されている蒸気機関車の部品が作業妖精と紅魔館のメイド妖精によって積み込まれていく。

 紅魔館の地下にあった部品の中には、蒸気機関車の動輪や台枠までもがあり、それらの大きな物は後で取りに来る予定である。

 

 そして比羅夫号が下ろされている線路ではそれぞれの機関車を押して行く為にC11 312号機とC12 208号機が待機している。

 

 

「それにしても、随分大掛かりな作業だな」

 

 比羅夫号の炭水車(テンダー)が本線へと下ろされ、車体と連結されている様子を近くで見ていた魔理沙は声を漏らす。

 

「私達より小さいと言っても、あれだけ大きいんだ。それに線路と線路を移し変えているんだ。当然だよ」

 

 隣に立つ皐月(D51 465)が彼女に作業の内容を説明する。

 

 ソ80操重車は元々車輌の事故復旧に用いられる貨車で、現在のように車輌を線路から別の線路へ移し変えるのは本来想定されていない。クレーン操作もかなり神経を使っている。

 

「それで、この後どうするのかしら?」

 

「この後機関区の整備工場に運んで修繕を行うって区長は言っていたよ」

 

 魔理沙の反対側に居るアリスがそう問い掛けると、皐月(D51 465)が答える。

 

「復帰までにどのくらい掛かるかしら?」

 

「さぁ。どっちも古いし、その上長い間放置されているようだし、結構掛かるんじゃない?」

 

「後者は分かるけど、前者はどういう事?」

 

「構造もそうだけど、装備が古いんだよ」

 

 パチュリーの疑問に、皐月(D51 465)の向ける視線の先には、4500形蒸気機関車の連結部があった。

 

「私達の連結器は自動連結器だけど、あの二輌はネジ式の連結器。装備が古いんだ」

 

「ふーん?」

 

「だから、連結器を取り替えないといけないんだ。あのままじゃ、運用は難しいんだ」

 

 彼女が説明するも、イマイチ理解出来ていないのかアリスは首を傾げる。

 

 

 鉄道車両の連結器には多く種類があるが、大まかには自動連結とネジ式連結、密着式連結といったものがある。

 

 自動連結はその名の通り、接触すれば自動的に連結するもので、日本を含む多くの国の鉄道車両がこれを採用している。

 

 一方のネジ式連結は緩衝器同士を接触させてフックを掛け、ネジを閉めるというもので、欧州の鉄道では一部を除いて今でも使われている。

 

 密着式連結は今回は関係無いので説明を省く。

 

 

「そういや、北斗の姿が見えないが、どうしたんだ?」

 

 魔理沙は周りを見渡して、北斗の姿が無い事に指摘する。

 

「区長なら機関区でお客さんの相手をしているよ」

 

「お客?」

 

 皐月(D51 465)の言葉にパチュリーが首を傾げる。

 

「何でもお客さんがうちの罐を調べたいんだとさ。確か尻尾が多い女と女の子だったわね」

 

「尻尾が多いって……」

 

 魔理沙はその特徴ですぐに誰かが分かり、苦笑いを浮かべる。

 

 多くの尻尾を持つ者など、この幻想郷では片手で数えるほどしか居ない。

 

「まぁ、あのスキマ妖怪が何もせずに放って置く訳が無いわね」

 

 アリスも察したのか、そう呟いてため息を付く。

 

 

 その後本線へと移された4500形と比羅夫号は、フロント部に緩衝材代わりに木材を取り付けたC11 312号機とC12 208号機によってゆっくりと押され、機関区を目指した。

 

 しばらくして回収隊も機材を撤収して紅魔館を後にする。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 その頃、幻想機関区では……

 

 

 

「……」

 

 機関庫に収められ、作業妖精達や神霊の彼女達と共に整備されている蒸気機関車の傍に一人の女性が立って、薄っすらと光を放つ右手を翳している。

 

 導師風の服装に二又に分かれた帽子を被り、九本の尻尾を持つ女性。この幻想郷でその特徴を持つ女性は一人しか居ない。

 

 スキマ妖怪『八雲紫』の式神であり、九尾の妖狐である八雲藍である。

 

 その様子を北斗と(C57 135)が見守り、その近くでは『48633』のバッジを付けた女性こと『卯月(48633)』が二又の尻尾を持つ女の子と弥生(B20 15)が遊んでいるのを見守っている。

 ちなみに卯月(48633)の名前の由来は先頭の数字の4から、旧暦の四月『卯月』を元にしている。

 

 

「……」

 

 しばらくして藍は翳している右手を下ろして振り返り、北斗の元へと近付く。

 

「終わりましたか?」

 

「あぁ。調べたい事は調べ終えた」

 

 北斗が問い掛けると、彼女は頷く。

 

「忙しい所、時間を貰えて感謝する」

 

「いえ、このくらいなら大丈夫です。それに疑いは少しでも消したいので」

 

「そ、そうか」

 

 北斗の後半の言葉を聞いて藍は思わず声を漏らす。

 

(いや、考えてみれば紫様に疑われていると考えれば苦労を感じるのは必然か)

 

 幻想郷の管理者である自身の主に疑われている以上、そう考えるもの無理は無いと、藍は納得する。

 

「それで、どうでしたか?」

 

「うむ。特にこれと言って異常があるわけではない。紫様も少しは警戒を解くだろう」

 

「そうですか」

 

 北斗は安堵の息を吐く。

 

(とは言っても、紫様は完全に警戒を解かないがな)

 

 式神故に、彼女は主の考えは何となく分かっていた。

 

(確かに異常は無いが、違和感が無いわけではない)

 

 彼女は機関庫に納められている機関車達を見る。

 

 僅かにだが、魔力を検知したからだ。

 

(尤も、少しでも異変に関わっている可能性がある以上、疑いが晴れることは無い)

 

 同情の気持ちがあるわけではないが、藍は今の彼らの立場を内心呟く。

 

「それでは、我々はこれで」

 

 藍は頭を下げると、弥生(B20 15)と遊んでいる二又の尻尾を持つ女の子の元へと向かう。

 

「橙。帰るぞ」

 

「はい、藍しゃま!」

 

 橙という名前の女の子は弥生(B20 15)に向き直ると「またね!」と手を振って彼女の元を離れて藍の傍に来る。

 

 彼女が傍に来ると、藍は再度北斗に頭を下げてから宙へと浮いて飛んでいく。

 

「これで少しは疑いが晴れるといいわね」

 

「だと良いんだが……」

 

 (C57 135)の言葉に北斗は呟く。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 某所

 

 

 

「へぇ、ここが幻想郷って所なのね」

 

「……」

 

 幻想郷を見渡せる場所に、二人の少女が立っていた。

 

 一人は腰まで伸びた黒髪を三つ編みにして、左のもみあげ付近の髪が長く伸びた髪型をしており、エメラルドグリーンの瞳をしている。背丈は女の子としてはそこそこ高い方だろう。

 

 一人は背中まで伸びた黒髪を三つ編みにして、その先端に赤いリボンを結んでいる髪形をしており、片方の少女と同じエメラルドグリーンの瞳を持つ。背丈は片方の少女より少し低いぐらいだ。

 

「自然が豊かな場所なんだね」

 

「そうね。私達がかつて走っていた場所を思い出すわ」

 

「うん」

 

 と、二人の少女は遠くに見える幻想機関区を見つめる。

 

「あれが今から向かう機関区ね」

 

「みたいだね」

 

 幻想機関区をしばらく見つめていると、腰まで伸びている三つ編みの少女の左胸にある『C11 260』と、背中まで伸びて先端に赤いリボンを付けている少女の左胸にある『C12 06』と書かれた緑地のバッジが太陽の光に反射する。

 

 

 そして二人の後ろには、少女達の左胸にあるバッジと同じ表記のナンバープレートを持つ二輌の蒸気機関車が、静かに線路の上に佇んでいた。

 

 

 

 




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