所変わって博麗神社。
境内では霊夢と る~こと が竹箒で落ち葉を掃いて掃除をしていた。
「やれやれ。面倒な事になったわね」
どことなく不満げな霊夢は箒を掃きながらぼやく。
「でも、賽銭以外にお金が手に入るので、良かったじゃないですか。これで生活は改善に向かいますよ」
「……ふん」
る~こと の言葉に霊夢は鼻を鳴らす。
体験試乗会後、北斗達は博麗神社に赴いて霊夢と話し合いを行った。内容は幻想機関区で作ったSLグッズの販売を行いたいというものだ。
さすがに機関区に元々あった資金だけでは鉄道の運用は難しいので、何とか新たに資金を得る手段を得たかった。そこで幻想機関区で作ったSLグッズを販売すると言う案を早苗が提案した。
運用資金への貢献度は決して大きくないが、無いよりマシである。
機関区で販売しないのかと思われるだろうが、そもそも機関区へ関係者以外を立ち入らせるわけにはいかない。安易に立ち入らせれば作業の邪魔でしかない。
それこそマナーのマの字も知らない鉄オタのような迷惑行為をされたらたまったものではない。
だから、SLグッズは各駅で販売を行うのだ。当然売り上げの何割かは販売場所を提供している施設側に渡す。
販売計画は様々な物が考えられた。その中には駅弁もあったが、料理が得意なものが機関区には居なかったので、採用に至らなかった。ならばと紅魔館の咲夜に協力を要請しようとしたが、北斗がそれを却下した。
というのも、彼女は紅魔館の家事の殆どを担っているので、これ以上仕事を増やすのは彼としても忍びなかった、と言う気持ちがあった。
ちなみに早苗も仕事が多いとあって北斗は断りを入れた。彼女自身は乗り気だったが。
色々と考えた結果、いくつかのグッズを作る事にした。
その中で、蒸気機関車から排出される廃棄物を商品に加工して再利用できないかという案が挙がった。
その一つとして、機関車の煙室から排出した煤を使った特別製の墨である。
こういった類のグッズは外の世界でも京都の鉄道博物館でかつて似たような物を販売していた。
幻想機関区では機関車より回収した煤から可能な限り不純物を取り除いた上で擂鉢で煤の粒子を更に細かく擂り潰して、墨を作る方式を人里に居る墨職人に依頼した。
最近出来た試作品の質だが、そこそこの品質らしいが、やはり完全に不純物を取り除けなかったので、上質なものとは言い難いらしい。改善の余地はありだそうだ。
ちなみに、機関車から排出した煤はそれぞれの蒸気機関車で分けて墨を作ってラインナップにする予定である。ちなみにラインナップを作るのに、特に意味はない。
変な想像をした紳士諸君には高速走行中の客車の窓から放り出す刑な。
話を戻そう。
それ以外には、蒸気機関車より排出された石炭の燃えカスの灰を再利用した代物だ。
石炭の燃えカスの灰は一応再利用が可能な物で、昔はその灰を使って道路の補修材に使っていたとか何とか。
これに関してはまだ試行錯誤の段階だが、うまく出来れば灰を固めたブロック等の代物が作る事が出来る。
再利用出来る物は可能な限り使う。
そしてそのグッズの販売を博麗神社と守矢神社で行うことにしたのだ。もちろん、販売するグッズはそれぞれ違う。
霊夢は当初神社での販売計画に難色を示していたが、る~こと や針妙丸に生活が苦しい事を指摘されて渋々物品販売計画を受け入れる事にした。
まぁ彼女からすれば、面倒事が増えてメンドーくさいのが本音だった。
ちなみに、言うまでも無いかもしれないが、守矢神社は販売計画を二つ返事で了承した。
「霊夢さーん!!」
すると空から声がして二人は顔を上げると、一人の少女が神社の境内に降り立つ。
「あら、菫子じゃない。久しぶり」
霊夢はその少女こと菫子を見て声を掛ける。
「はい。お久しぶりです、霊夢さん」
「お久しぶりです、菫子様。お元気そうで何よりです」
「る~ことちゃんも久しぶり……じゃない!」
菫子は二人との再会で頭を下げて挨拶をするも、すぐに顔を上げる。
「霊夢さん! どういうことなんですか!? いつから幻想郷は文明開化を迎えたんですか!?」
「何よ、文明開化って」
菫子の怒涛の質問攻めに霊夢は眉を顰める。
「文明開化と言うのは明治時代の日本が近代的に―――」
「別に説明しなくてもいいわよ」
る~こと の解説をバッサリと切り捨てると、霊夢は面倒くさそうに、菫子に説明する。
少女説明中……
「外来人と一緒に幻想入りした蒸気機関車と施設ですか?」
霊夢と る~こと の説明を受けて菫子は思わず声を漏らす。
「そうよ。あの蒸気機関車は外の世界の物なんでしょ」
「それは、そうですけど」
「その蒸気機関車が幻想入りしたのよ。霧島北斗って言う外来人と共にね」
「霧島、北斗……」
菫子はボソッと呟く。
「聞き覚えはある?」
「いえ。知らないです」
「そう」
霊夢は興味を無くしてか、それ以上聞かなかった。
「その霧島北斗って外来人が、幻想郷を変えたんですか?」
「正確には彼は巻き込まれた、とも言えるかもしれないですね」
「巻き込まれた?」
「はい。この異変の首謀者は別に居る可能性があるので。彼はそれに巻き込まれたという感じです」
「そうですか……」
る~こと の説明に菫子は理解する。
(霧島北斗かぁ)
菫子は内心呟きながら首を傾げる。
(なーんかどこかで聞いた事があるような……)
聞き覚えのある名前であったので、菫子は静かに唸る。
(あっ、でも幻想入りするぐらいだから、過去に行方不明になって忘れられた人なのかな?)
「うーん」と唸りながら首を左右に傾げる。
―――ッ!!
すると汽笛の勇ましい音色が博麗神社の境内に響く。
「あっ、噂をすればです」
る~こと が鳥居がある方向を見ると、人里方面とは反対側から二つの煙がモクモクと上がりながら進んでいく。
「あら、いつもとは違う方向から来たのね」
「恐らく機関車の試験走行なのは? そろそろ鉄道開業が迫っている事ですし」
「えっ? 鉄道?」
二人の会話の中にある鉄道と言う言葉に、菫子は驚きを隠せなかった。
「はい。幻想機関区はこの幻想郷を走る鉄道を計画していまして、その開業もあと少し何ですよ」
「て、鉄道まで。本当にもう文明開化しているじゃない」
る~こと の説明に菫子は驚くしかなかった。
「もしその外来人が気になったら、あの機関車を追いかけたらいいわ。機関区まで線路は繋がっているし」
「は、はぁ」
霊夢の言葉に菫子は声を漏らす。
まぁ彼女自身気にはなっていたので、宙を浮いて飛ぶと、煙の後を辿って機関車を追い掛ける。
―――――――――――――――――――――――――
所変わって幻想機関区。
紅魔館から運び出した4500形蒸気機関車と7100形蒸気機関車がC10 17号機とB20 15号機によって工場へと入れられる。
C11 312号機とC12 208号機は再び紅魔館へと向かった。
「結構古い機関車が見つかったのね」
「あぁ。少し前に見つかったものだ」
工場へと入れられる二輌の蒸気機関車を北斗と『E10 5』のバッジを付けた女性こと『
ちなみに彼女の名前だが、
「でもこんな旧式機、使えるの?」
「改造箇所は多いが、使える。まぁ7100形は紅魔館側が所有権を持っているから、こちらは維持管理をするだけだが」
「ふーん」
「まぁ、本格的に修理が開始されるのは79602号機の検査が終わってからだがな」
北斗は工場内で検査を受けている彼女を思い出す。
以前から不調を訴えていた
今の所問題無いが、今後問題点が出てくる可能性があるので、工場入りが長引くかもしれない。
「そういえば、お客さんがここに来てたけど、どうだったの?」
「問題は無かった。これで少しは疑いが晴れるといいんだが」
「そこまで気にするものなの?」
「夕張は知らないだろうが、今日機関区に来た八雲藍って人は、正確には人じゃ無いが、この幻想郷を管理する八雲紫さんの式神なんだ。つまり八雲藍さんの報告次第で機関区の評価が分かれる」
「……」
「未だにこの機関区は異変に関わっているのじゃないかと疑われている。少しでも疑いを晴らさないと、今後いらぬ誤解を生みかねない」
現に天狗は幻想機関区が線路異変の首謀者なのではないかと疑っている。
「まぁ、今後何も無い事を祈るばかりだ」
「そうね」
そう話していた、その時だった。
―――ッ!!
すると遠くから響く汽笛の音色が機関区に届く。
「あら? この汽笛は」
「睦月に熊野がもう帰って来たのか?」
二人は顔を上げて機関区の出入り口付近を見る。
「でも、微妙に汽笛の響き方が違うわよ」
「ん?」
「それに、どの機関車の汽笛とも違うわね」
「……」
(まさか、津和野と蘭の時と同じ!)
そして、その予想は現実のものとなった。
少しして遠くから空高く上がっていく煙が見えて、やがてその煙の発生源が現れる。
『……』
北斗と機関車の神霊達は現れた二輌の蒸気機関車に驚きを隠せなかった。
先頭に緑地の『C11 260』のナンバープレートを持つC11形蒸気機関車と、その後ろに緑地の『C12 06』のナンバープレートを持つC12形蒸気機関車が機関区へと入ってきた。
「これは……」
「まさか、この短期間で」
「私達みたいに現れたのかしら」
「だろうな」
似たような状況で現れた
「これは、また随分と変わりダネな」
北斗は二輌の蒸気機関車を見て、思わず呟く。
「門デフ装備のC11形に
北斗の言葉に、
C11 260号機は九州地方で活躍したC11形であり、九州地方の機関車の特徴である門デフに炭庫側に取り付けられた通風孔、緑地のナンバープレートを持つ。
だが、この機関車の最大の特徴は蒸気ドームと砂箱の形状だ。蒸気ドームは従来の丸型だが、砂箱だけは戦時設計のC11形が持つ角型ドームをしている。
C11 260号機はとても特徴あるC11形であるのだ。現在も公園に静態保存されている機関車でもある。
C12 06号機は同じく九州地方で活躍した蒸気機関車だ。しかしこのC12 06号機は国鉄が発注した機関車ではなく、島原鉄道が自社発注したC12形である。ナンバープレートの表記の仕方も国鉄機と違うのも特徴だ。
その上このC12 06号機はC12形の中でも少数しか居ない
このC12 06号機も静態保存されている機関車だが、現在ナンバープレートがトップナンバーの『C12 01』に付け替えられて保存されている、らしい。
そんな九州地方で活躍した二輌が幻想機関区に現れた。
機関車から降りた二人の神霊の少女は北斗の元へとやって来る。
「あの、ここの機関区の区長ですか?」
「あ、あぁ、そうだが」
『C11 260』のバッジを付けた少女が北斗に声を掛けて、彼は戸惑いながらも返事を返す。
「初めまして。私はC11形蒸気機関車の260号機です! 九州で活躍していました!」
「僕はC12形蒸気機関車の06号機です。国鉄以外の私鉄で走っていました」
二人の少女は姿勢を正して、敬礼をする。
(やはりナンバープレートの色で瞳の色が変わるんだな)
北斗は二人の瞳の色がエメラルドグリーンなのを見て、北斗は内心呟く。
「……幻想機関区の区長をしている霧島北斗だ」
北斗も気持ちを切り替え、姿勢を正して敬礼をする。
「君達は、ここを目指して来たのか?」
「はい! ここを目指すように言われました」
「言われた?」
「はい。私達を幻想郷に案内して、新しい身体をくれた人にです」
「あなたの役に立って欲しいと、そう言われました」
「……」
二人の少女がそう言うと、北斗はますます分からなくなってきた。
(と言うより、俺の事を知っている?)
彼女達の口ぶりから、北斗は彼女達を送り込んでいる者が自分のことを知っているのではないかと考える。
(そもそも、こんなに蒸気機関車を送り込んで、一体何が目的だ?)
ただでさえ未だに謎が多いのに、更に謎が増えていく一方。
謎が謎を呼ぶとは正にこの事だろう。
(いや、考えるだけ無駄だ)
北斗はこの一件を棚上げにして、頭を切り替える。
もう何度も言っている事だが、分からない事をいくら考えたって、分からないのだ。
(今は彼女達を歓迎しよう。戦力が増えるのはこちらとしても困ることではないしな)
それに、蒸気機関車が好きな彼からすれば、新しい蒸気機関車が増えるのは嬉しい限りだ。
北斗は二人の少女に右手を出す。
「歓迎しよう、二人共。ようこそ幻想機関区へ」
彼がそう言うと、二人は少し戸惑いながらそれぞれ右手を差し出して握手を交わす。
―――――――――――――――――――――――――
「うわぁ……」
幻想機関区を一望できる高さに浮いている菫子はその光景に思わず声が漏れる。
「生で蒸気機関車が動いている所を見たのは初めてだけど、あんなに沢山見たのも初めてだわ」
二輌の蒸気機関車が扇形機関庫へと移動して、その扇形機関庫に多くの蒸気機関車が納まっている光景に、驚きを隠せなかった。
(うーん。色々と気になるけど、何だか行けそうな雰囲気じゃないわね)
機関区のあちこちで作業妖精が仕事をしているので、行きづらい雰囲気があった。
結局彼女は幻想機関区に気を使って今日は行かなかった。
感想、質問、要望等がありましたら、お待ちしています。