東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第61駅 人里での休暇

 

 

 

 

 あれから更に月日が流れた、ある日の人里。

 

 

 

「……」

 

 賑やかな雰囲気のある中、北斗は周りに視線を向けながら歩いていた。

 

(さて、残りの時間をどう過ごすか)

 

 北斗は「うーん……」と静かに唸る。

 

 彼は今日完成間近の駅舎の視察に訪れており、その完成具合を確認した。その他にも石炭と水の補給設備の確認も行った。

 

 確認を終えた後、北斗は機関区に帰ろうとしたのだが、明日香(D51 241)から休むように言われて、半ば人里に置いてかれた。

 

 まぁここ最近北斗は休みを取らずに働いていたので、彼女は気を使ったのだろう。

 

 とは言えど、急に休みを貰っても特にしたいことが無いので、途方に暮れていた。まるで仕事に慣れすぎて休日何もする事が無い社会人のようだ。

 

「……」

 

 ふと、周りからの視線に気付いて北斗は周りを見る。

 

 人里に住む住人達から様々な視線が向けられているが、どれも友好的なものばかりだ。

 

(そうか。もうあの時みたいな視線で見られないんだったな)

 

 北斗は安堵に近い安心感が込み上げてきた。

 

 これまで外の世界で彼に向けられた視線は人ではない者を見るような視線だった。それが嫌で中学以降は図書館に入り浸る事が多かった。

 

 しかし、ここではそんな視線で見られる事は無い。もしそうでなければ、北斗は歩いてでも幻想機関区に帰っていただろう。

 

「……」 

 

 そんな安心感を覚えながら、人里の中を歩いていく。

 

 

「ん? おぉ、北斗か」

 

 人里の広場に入って歩いていると、声を掛けられて北斗はその方向を見ると、そこには慧音の姿があった。

 

「慧音さん」

 

 北斗は彼女の姿を見て、頭を下げる。

 

「今日はどうした?」

 

「今日は鉄道の開通式間近なので、完成間近の駅舎と補給設備の視察に来ました」

 

「あぁ、あそこか。確かに殆ど完成していたな」

 

 慧音は人里近くに建設中の駅舎の事を思い出す。

 

「その視察が終わったので、機関区に戻ろうとしたのですが、自分所の神霊達に休むように言われて、半ば無理矢理残されたんです。特にしたい事が無くて」

 

「あぁ、なるほどな」

 

 北斗の状況を理解してか、慧音は苦笑いを浮かべる。

 

「そういう慧音さんは何を?」

 

「今日寺子屋が休みでな。私も暇を持て余して自宅で資料作りをしていたんだが、妹紅のやつに『いつもとやっている事が変わらないだろ! 今日は一日中外に居ろ!』って言われて、自宅を追い出されたんだ」

 

「は、はぁ」

 

「私もお前と同じで、外出しても何もする事が無いんだ」

 

「はぁ……」と彼女はため息を付く。

 

 

 似た者同士……

 

 

「まぁ、里には時間を潰せる場所はあるからな。暇にはならんよ」

 

「……」

 

「ところで、北斗」

 

「はい?」

 

「もし行く所が無ければ、里で有名な甘味処に行ってみるといいぞ」

 

「甘味処ですか?」

 

「そうだ。この先真っ直ぐに行って、二つ目の左の角を曲がった先にある、緑色の暖簾が目印の店だ。とてもおいしいと里では評判だ」

 

「なるほど」

 

 北斗は慧音の案内を聞いて頷く。

 

(そういや、最近甘い物を食べてないな)

 

 機関区には一応菓子類はあったりするが、精々煎餅とかその辺りしかなく、甘い菓子類は無い。

 

 最後に甘い物を食べたのは外の世界でも大分前だ。

 

「では、その甘味処に行ってみます」

 

「そうか。私のお勧めとしては人気のある三色団子がいいぞ。まぁ他にもいっぱいあるからな。楽しんでくれ」

 

 そう言うと「じゃぁ、開通式でまたな」と言って北斗の元を離れていく。

 

 その後ろ姿を見送ってから、北斗は慧音の案内通りに甘味処へと向かった。

 

 

 

 慧音に言われたとおりに進んで左の角を曲がると、少し先に人だかりが出来ていた。

 

「……?」

 

 北斗は首を傾げて、その人だかりの近くを通る。

 

(アリスさんか)

 

 人だかりの隙間から見えたのは、何かをしているアリスの姿が見えた。

 

 北斗は隙間の広い所を見つけて人だかりの先を見ると、アリスが人形劇をしているのが見えた。

 

(人形劇か)

 

 北斗は指の一本一本に付けている指輪より伸びた糸で人形を操るアリスの姿を見る。

 

 アリスはまるで人形が生きているみたいに糸で操り、上海人形と蓬莱人形がアシスタントとして背景を変えて劇を進めている。

 

 人形は霊夢とレミリアを模したもので、アリスが台詞を言いながら人形を動かしている。内容は途中からだが、レミリア達が関わった異変が題材のようだ。

 

「……」

 

 北斗は静かに、アリスの人形劇を観賞して楽しむ。

 

 

 

 しばらくして人形劇は終わり、拍手が送られる中、アリスは上海人形と蓬莱人形と共に頭を下げて人形劇を見てくれた人達にお礼を言う。

 

 見物客がアリスの元から離れていく中、彼女は劇の道具を上海人形と蓬莱人形と一緒にせっせと片付ける。

 

「アリスさん」

 

 北斗はタイミングを見計らい、アリスに声を掛ける。

 

「あら、北斗さん」

 

 聞き覚えのある声を掛けられて、アリスは後ろを振り向く。

 

「私の人形劇を見てくれたの?」

 

「はい。途中からでしたが、人形劇面白かったです。それと人形の動きも凄かったです。まるで生きているみたいでした」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

 アリスは微笑みを浮かべる。

 

「それで、人形劇の内容って何だったんですか? 途中からだったので」

 

「今日の人形劇の内容は紅霧異変を題材にしたものよ」

 

「紅霧異変って、確かレミリアさん達が起こした異変でしたか?」

 

 北斗は前にフランから聞いた話を思い出す。

 

「えぇ。私は関わって無いから詳細は知らないけど、関係者から聞いてこのストーリーを考えたのよ」

 

「まぁ正確な証言ばかりじゃなかったけど」と彼女は呟く。恐らく魔理沙辺りの証言なのだろう。

 

「なるほど。という事は、他の異変を題材にしたストーリーも?」

 

「えぇ。北斗さんの所と仲のいい守矢神社が関わったストーリーもあるわ」

 

「早苗さん達が関わった異変か……」

 

 北斗は早苗達が幻想郷に来た理由を思い出す。

 

「ところで、北斗さんはどうしてここに?」 

 

「里の近くで建設中の駅舎と機関車の石炭と水の補給設備の視察です。今は休暇を兼ねて里を歩いていました」

 

「そうなの」

 

「さっき慧音さんから里で有名な甘味処を教えてもらって、向かっていた所アリスさんの人形劇を見かけたので」

 

「なるほどね」

 

 アリスは納得したように頷く。

 

「もしアリスさんが良ければ、一緒に甘味処に行きませんか?」

 

「えっ?」

 

 突然の誘いにアリスは思わず声を漏らす。

 

「アリスさんには色々と助けられているので、そのお礼に奢らせてください」

 

「あぁ、そういう……」

 

 一瞬勘違いしていたのか、アリスは咳払いして気持ちを整える。

 

「でも、そんなに気にしなくてもよかったのに」

 

「アリスさんがいなければ、魔法の森では早期に火を起こすことは出来ませんでしたし、紅魔館の地下の機関車を運び出すまでの作業も、アリスさんが手伝ってくれなければあんなに早く終わらなかったでしょうし」

 

「……」

 

「まぁ、アリスさんがいいのなら、無理にとは言いませんが……」

 

「いえ、せっかくだから、その好意に甘えさせてもらうわ。帰る前に甘い物を食べたいと思っていたし」

 

 アリスは逆に断るのに気が引けたのか、北斗の好意を受け入れた。

 

「そうですか。分かりました」

 

「でも少し待っていてね。片付けるから」

 

 アリスはすぐに上海人形と蓬莱人形と一緒に劇の片付けを行う。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「それでは、皆様。今後も守矢をよろしくお願いします」

 

 その頃、人里で信仰活動をしていた早苗は講演を終えて頭を下げると、講演を聞いていた人たちから拍手が送られる。

 

「ふぅ……」

 

 早苗は小さく息を吐き出して、立ち台から降りる。

 

「東風谷様!」

 

「……?」

 

 声を掛けられて彼女が振り向くと、人里の住人が居た。

 

「どうしましたか?」

 

「東風谷様。近い内に幻想機関区が鉄道と呼ばれる事を始めますよね?」

 

「はい。近い内に幻想機関区によって営業される鉄道の開通式が行われます。それからは皆様も鉄道を利用できますよ」

 

「そうですか! 鉄道が開業したら、必ず守矢神社に参拝に行きます!」

 

「はい。心からお待ちしています」

 

 早苗は笑みを浮かべると、住人は頭を下げて彼女の元を離れる。

 

(期待されているんですね)

 

 早苗は里で鉄道が期待されていると実感して、思わず笑みが零れる。

 

(そういえば、今日北斗さんは駅の視察に来ていたんでしたっけ?)

 

 早苗は里の近くに建設中の駅舎を思い出す。彼女自身も建設中の駅舎をここに来る前に見ていた。

 

(北斗さん……すぐに帰ってしまったのでしょうか……)

 

 これまで北斗は人里での用事が済めばどこかに立ち寄らず、すぐに機関区に帰っていた。今回も人里で何かしらの用事が無ければ機関区に帰っているだろう。

 

「……」

 

 早苗は少し残念そうにしゅんとして、歩き出す。

 

 

「……!」

 

 と、歩き出そうとした直後、建物の陰から北斗が歩いて出てきた。

 

「北斗さ―――」

 

 早苗は声を掛けようとしたが、最後前言えなかった。

 

 なぜなら、北斗に隠れて見えなかったが、彼の陰からアリスの姿が現れる。

 

(アリス、さん?)

 

 早苗は意外な組み合わせに驚きを隠せなかった。

 

 二人は何やら会話を交わしているが、その様子は何処となく楽しそうだ。

 

「……」

 

 そんな二人の様子を見て、早苗は胸の奥が締め付けられるような痛みを覚える。

 

(なん、でしょうか……胸が、苦しい……)

 

 彼女は胸元に右手を置き、呼吸が乱れる。

 

 気にするような事じゃないのに、北斗が他の女性と仲良くしている。その事を気にすると、彼女の中に言い知れない感情が募り出す。

 

「……」

 

 早苗は深呼吸をして気持ちを整えていると、二人の姿は居なくなっていた。

 

「……」

 

 彼女はしばらく悩んでいたが、すぐに二人の後を追い掛ける。

 

 

 

「……」

 

 そんな中、早苗以外に北斗を尾行する人影があった。

 

(やれやれ。ご主人様も、一体を考えているのやら)

 

 内心呟きながら、北斗を尾行する者こと る~こと は店を見ながら北斗を見失わないように、チラッと見る。

 

「……」

 

 

『今日一日中北斗さんを見張ってちょうだい。何か気になる事があったら、報告するのよ』

 

 

 彼女は今朝霊夢からこのような指示を受けていた。

 

(やはり、この間の魅魔様の言葉が気になっているのでしょうかねぇ)

 

 魅魔が霊夢に伝えた事を思い出しながら、る~こと は買い物を装いながら北斗の後を追う。

 

 

 




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