東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第62駅 募る感情

 

 

 

 

 

 所変わり、場所は妖怪の山。

 

 

 そこに蒸気機関車の汽笛の音が木霊す。

 

 

 E10 5号機が石炭車十輌と車掌車のヨ2000形一輌の計十一輌を牽き、魔法の森の中にある線路の上をタンク型とは思えない力強い姿で走る。

 

 列車は魔法の森の中を通り、河童の里付近を走って勾配のある妖怪の山の路線へと入る。

 

「……」

 

 運転室(キャブ)の右側にある機関士席に座る夕張(E10 5)は動力式逆転機のレバーを微妙に動かして動輪へと伝える力を調整しつつ、加減弁ハンドルを引いて蒸気の量を増やす。

 ネジ式逆転機と違って微調整がやりづらい動力式逆転機だが、E10 5号機自身である彼女には関係無い事だ。空転を起こさずに力を加減していく。

 

 隣では機関助士の妖精がスコップに石炭を掬い上げ、床のペダルを踏んで蒸気圧で焚口戸を開け、燃え盛る火室へと石炭を放り込む。数回投炭を繰り返してスコップを道具置き場に戻し、注水器のバルブを捻ってボイラーに水を送り込み、次にバルブを捻って火室や各所に蒸気を送る量を調整する。

 

 蒸気圧が上がった事で、E10形蒸気機関車の大きなボイラーと五軸動輪により、キツイ斜面を白煙を吐き出して力強く登って行く。

 

 妖怪の山に作った踏切の存在を示す標識が見えて、夕張(E10 5)は足元にある汽笛を鳴らすペダルを踏んで汽笛を鳴らして列車の存在を知らせる。

 

 少しして列車は鐘のような音を鳴らす踏切を通過する。踏切には妖怪の山に住む知性ある妖怪達が列車が通り過ぎるのを待っており、通過しようとするE10 5号機に向けて手を振る者が居た。

 夕張(E10 5)はそれに応えるように再度汽笛を鳴らす。

 

 

 守矢神社から幻想機関区への石炭輸送は、現時点では傾斜した路線に強いE10 5号機と48633号機、バック運転を得意とするタンク型が担っている。

 

 路線の強度はD51形が重連で走っても大丈夫なのは軌道調査で判明したが、守矢神社に設置予定の転車台がまだ完成してないので、帰りは必然的にバック運転になる。テンダー型ではバック運転は難しいので、転車台完成まではバック運転が得意なタンク型や、C56 44号機や48633号機が担当する事になっている。

 

 そして傾斜した路線とあって、力強い機関車が適任となる。そこで主に運用されるのがE10 5号機と48633号機である。

 

 元々こういった勾配のある路線を走る事を前提にした設計のE10形蒸気機関車なら、ボイラーの大きさも相まって重連無しでもこの勾配を登る事は可能であり、その上タンク型なので、バック運転も得意としている。彼女ほど適した機関車は居ないだろう。

 

 8620形蒸気機関車は空転しにくい構造で、テンダー型としては意外とバック運転が得意な部類に入るので、彼女も適した機関車に入る。

 C56 44号機もバック運転が得意なテンダー型なので、彼女も選ばれた。しかし彼女の場合は後押し機関車が必要になる場合もある。

 

 他のタンク型では重量のある石炭車を単機で牽きながら勾配を登るのは困難な為、重連か後押し機関車がもう一輌必要になる。

 

 

 そうして、E10 5号機は今日も動輪を線路にガッチリと掴んで、貨物を牽いて力強く斜面を登っていく。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わり、幻想機関区。

 

 

 整備工場では全体的に検査を終えて、組み上げ途中の79602号機の姿があった。

 

 煤に汚れたボディーはピカピカに磨き上げられ、本車輌の特徴である門デフも北海道へ転属時に切り詰められた物から通常の長さの物へと換装されている。

 

 その近くでは4500形蒸気機関車と7100形蒸気機関車が各部品にバラバラにされて整備と修理が行われていた。同時に連結器もネジ式連結器から自動連結器へと付け替えられている。

 他にもブレーキや一部部品を他の国産蒸気機関車の物に交換している。

 

 二輌は状態が状態とあって、まだマシの方だが、これまで整備してきた機関車と異なり思うように修理は進んでいないそうで、少なくとも年内に修理が完了する事は無い。

 

 

 

 一方機関区の構内では、C57 135号機とD51 241号機が重連の状態で試運転を行っていた。

 

「明日香! もっと速度を上げなさい! 遅れているわよ!」

 

『は、はい!!』

 

 喉元に取り付けられた『咽喉マイク』に手を当てて(C57 135)明日香(D51 241)に叫ぶと、彼女が右耳にしているイヤホンから明日香(D51 241)の声がする。

 

 この無線機はにとり達河童が外の世界から流れ着いた古い無線機から作られた物で、車輌間でのやり取りを行う為の無線機であるので、その範囲は決して広くない。

 しかしその代わり咽喉から直接声の振動をマイクに伝えるので、雑音が殆ど無く相手に伝えられる。

 

 なぜこの二輌が重連状態で構内を走っているのかと言うと、この二輌が開通式で走る機関車だからである。

 

 C57 135号機は旅客列車を最後に牽き、D51 241号機は貨物列車を最後に牽いた蒸気機関車であり、後者にいたっては国鉄時代全ての蒸気機関車が牽引する最後の列車を牽いた蒸気機関車である。

 

 互いに最後に列車を牽いた蒸気機関車として、幻想郷で初めての営業運転の列車を牽くのだ。その為に今日はその重連運転を行う為の練習をしている。

 

 その後開通式前に最終調整の意味合いで本線にて客車を牽いて試運転を行う予定である。

 

 

 今回の重連練習で分かった事とすれば、二人の息がまだ合っていない事だ。まぁこれは性能面が大きいだろう。

 

 片や旅客用蒸気機関車。片や貨物用蒸気機関車。求められる速度と構造は異なる。

 

 諸元性能(カタログスペック)ではC57形の最高速度は100km/h前後。一方D51形の最高速度は80km/h前後だ。しかし出力では後者の方が上だが、出力=速度ではないので、あまり関係は無い。

 

 それに加え、(C57 135)明日香(D51 241)の二人の性格の違いも、息が合わない要因の一つともいえる。中には(C57 135)個人的(・・・)な部分があるのかもしれないが。

 

 まぁそんな事もあって、二人は本番に向けて必死に練習しているのだ。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 場面は戻って、人里で有名な甘味処。

 

 

 

「へぇ、結構メニューが多いんですね」

 

「えぇ。種類が多いし、どれもおいしいのよね」

 

 甘味処の一角のテーブルに着く北斗とアリスはメニュー表を見て、種類の多さに思わず声を漏らす。

 

「慧音さんはこの三色団子が人気だって言っていましたね」

 

「団子系はおいしいらしいわ」

 

「でしたら、三色団子に、みたらし団子、餡子塗りをそれぞれ頼みましょう。それでいいですか?」

 

「それで良いわ」

 

 アリスの了承を得て、北斗は店員を呼んで三種類の団子を注文する。

 

 

「それにしても、もうすぐ鉄道が開通するのね」

 

「はい。これも協力してくれた皆様のお陰です」

 

 注文した団子が来るまで、北斗とアリスは出されたお茶を飲みながら言葉を交わす。

 

 鉄道の開業は幻想機関区に快く協力してくれた者達が多く居てくれたおかげであり、それら無しに早期の開業はおろか、そもそも開業すら出来なかっただろう。

 そもそも鉄道の開業ができなければ、蒸気機関車の活躍の場は無かっただろう。

 

「その鉄道って、基本的に何処と何処に立ち寄るのかしら?」

 

「停車駅は今の所人里、博麗神社、守矢神社、香霖堂に設けています。今後停車駅は増えると思いますが」

 

「人里や博麗神社、守矢神社は分かるけど、香霖堂?」

 

「香霖堂を利用する人向けですが、魔法の森への入り口を兼ねていますので。まぁ利用する客は限られるでしょうが」

 

「あぁ。なるほど」

 

 アリスは納得したように頷く。

 

「まぁ、こちらの都合もありますので、列車を運行する日は毎日じゃありませんが」

 

「そりゃ毎日神社を参拝する人は居ないでしょうし、それがちょうど良いんじゃない?」

 

「ですね」

 

 北斗は小さくため息を付く。

 

 基本的に列車は週に二、三回ほど運行される予定だ。これは幻想機関区の燃料事情もあるが、それ以上に停車駅の少なさが運行数の少なさを決めている。

 まぁ、この辺は仕方無いだろう。

 

 

 

「おっ? 珍しい組み合わせだな」

 

 と、聞き覚えのある声がして二人は声がして方を見ると、箒を持った魔理沙の姿があった。

 

「魔理沙さん」

 

「珍しいわね。あなたが人里に居るなんて」

 

「まぁ、里に用事があったからな」

 

「何よ用事って」

 

「秘密だぜ」

 

 と、魔理沙は言うが、アリスはジトッと見ている。

 

「ところで―――」

 

 と、二人を交互に診た魔理沙はニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「アリス。今日はデートか?」

 

「なっ!? ち、違うわよ!!」

 

 魔理沙からそう言われて、顔を赤くしたアリスは慌てて否定する。

 

「人形劇が終わった時にたまたま会ったから、ここに来て世間話をしていただけよ」

 

「その割には親しげに話していたぜ?」

 

「気のせいじゃない?」

 

「ふーん。まぁいっか」

 

 そう言いながら彼女はテーブルの席に着く。

 

「何当たり前みたいに座っているのよ」

 

「まぁ気にするなって」

 

 ジトッと睨むアリスに魔理沙はあしらうと、北斗を見る。

 

「それで、北斗は今日何をしていたんだ?」

 

「今日は建設中の駅舎の視察にです。迎えが来るまで里を歩いていました」

 

「その際に、慧音さんからここをお勧めされて、道中アリスさんに会ったので、この間のお礼をと誘ったんです」

 

「あぁ、なるほど」

 

 魔理沙は納得したように頷く。

 

「なら、私にも奢ってくれるんだよな。あの時協力したんだからな」

 

「ちょっと、魔理沙」

 

「良いですよ。魔理沙さんにもお礼をするつもりでしたので」

 

「おっ、話が分かるな!」

 

 魔理沙は笑みを浮かべて、そんな彼女にアリスは呆れたようにため息を付く。

 

 

 

 

(むむむ……一体何を話しているんでしょうか)

 

 その頃、同じ店に入った早苗は遠くから北斗達を見張っていた。

 

 北斗がアリスと一緒に居る所を目撃した彼女はこっそりと尾行して、甘味処に入ったので彼女も店に入り、適当に注文して二人を見張っている。

 

 早苗と北斗達の居るテーブルは離れているとあって、人の多さも相まって北斗達は早苗に気付いていない。

 

(魔理沙さんも加わって、あんな楽しそうに)

 

 北斗達の楽しそうな雰囲気に、早苗は少しムッとした感情が募り出している。

 

(……いえ、何を考えているんでしょうか)

 

 早苗はふと気付いて、ため息を付く。

 

(別に、二人共北斗さんと接点がないわけじゃありませんし、何より何度も北斗さんに手を貸してくれていますし、北斗さんはそのお礼でここに居るんですよね。そうです、そうに決まっています)

 

 彼女は北斗達の状況を内心で何度も呟く。

 

 まるで自分に言い聞かせるように……

 

 

 少しして注文した三色団子が彼女の元に運ばれてテーブルに置かれる。

 

「……」

 

 早苗は北斗達を見ながら一本の三色団子を手にして食べる。

 

 甘くておいしいと評判なはずなのに、今の彼女には甘く感じられなかった。

 

 

 

 

 




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