東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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半ば鉄屑状態で放置されていたC11 312号機ですが、最近錆止めの塗装が施されて各部パーツが集められているようですね。綺麗な状態に修復するのか、C12 208号機みたいに某作品のキャラクターに魔改造駅して構内に展示でもするのか。
どちらにしても、とても良い事だと思います。


第64駅 再会

 

 

 

『……』

 

 

 そこは気まずい雰囲気が漂っていた。

 

 北斗と飛鳥は人里の広場に移動して、そこにあるベンチに座っていた。早苗は北斗の隣に座っており、幽香は役目を終えたと言わんばかりに帰っていった。

 

「その……本当に、久しぶりだな」

 

「は、はい」

 

 少しして飛鳥が口を開く。

 

「しばらく見ない内に、ずいぶん大きくなったな。最後に見た時はまだこのくらいだったのに、今じゃ同じぐらいか」

 

 飛鳥は最後に見た幼い姿だった頃の北斗を思い出しながら、彼を頭から足まで見ると、左手をベンチより少し高い位置で止める。

 

「そりゃ、もうあれから十年以上は経ちますからね」

 

「十年以上……そうか。もうそんなに経つんだな」

 

 彼女は遠い目で空を見る。

 

(そんな長い間、北斗を見ていなかったのだな)

 

 大きくなった北斗の姿を見て、それを実感させられる。そして同時に情けない気持ちが込み上げてくる。

 

「お姉さんは―――」

 

「ん?」

 

「お姉さんは、あの時から変わってませんね」

 

「……」

 

「人間じゃ、無かったんですね」

 

「……あぁ、そうだ」

 

 飛鳥は力なく、返事をする。

 

「幻滅したか?」

 

「いえ。人間であっても、そうでなくても、お姉さんはお姉さんです」

 

「北斗……」

 

 彼は飛鳥に笑みを向ける。

 

 

「あ、あの、北斗さん」

 

 と、さっきまで黙っていた早苗が口を開く。

 

「その人って……?」

 

「はい。前に話した小さい頃によく蒸気機関車の事を話してくれたお姉さんです」

 

「この人が、ですか?」

 

「えぇ。名前は――――」

 

 と、北斗はピタリと止まる。

 

「そういえば、名前聞いていませんでしたね」

 

「あぁ、そういえば言ってなかったな」

 

 ずっと言ってなかった事を思い出して、飛鳥は苦笑いを浮かべる。

 

 彼女は咳払いをして、口を開く。

 

「私の名前は飛鳥だ」

 

「飛鳥さん、ですか」

 

 初めて知った彼女の名前を北斗は小さく呟く。

 

「そういえば、北斗。彼女は? 守矢神社の巫女さんだって言うのは分かるが」

 

 と、飛鳥は北斗の隣に座る早苗を見る。

 

「えぇと、早苗さんは―――」

 

「もしかして、北斗の彼女か?」

 

 飛鳥がそう言うと、二人は顔を赤くして慌てる。

 

「ち、違います!! 俺は早苗さんとは!?」

 

「そ、そうです!? 私は別にそんな!?」

 

(初々しいなぁ……)

 

 予想通りの反応が返ってきて飛鳥は微笑みを浮かべる。

 

(こういう反応があるって事は、互いに意識している部分があるって事か)

 

 そう考えると、飛鳥は嬉しく思えた。

 

 まぁ自分の子供に春が来たと思えてくると、母親として喜ばしい事だ。尤も、彼女は正直に喜べるものではなかったが。

 

「冗談だよ。北斗と守矢神社の関係は花果子念報で知っている」

 

「はたてさんの?」

 

「あぁ。知っているのか?」

 

「えぇ。はたてさんから密着取材を受けたことがあるので」

 

「そうなのか(文々。なら分かるが、花果子の方でか)」

 

 飛鳥は意外そうに呟く。

 

「そういえば、飛鳥さん」

 

「なんだ?」

 

「飛鳥さんは早苗さんにどこか見覚えはないですか?」

 

「守矢神社の巫女に?」

 

 飛鳥は首を傾げながら早苗を見る。

 

「もちろん、最初に見た時にですよ」

 

「ふーむ。最初に見た時に、か」

 

 彼女は記憶の糸を手繰り寄せて思い出す。

 

「まぁ、初めて彼女を見た時、そう感じた事はあったかな。だが何でこの事を?」

 

「はい。実は―――」

 

 

 

 少年説明中……

 

 

 

「そうか。あの時の子か」

 

 飛鳥は北斗の話を聞いて思い出し、改めて早苗を見る。

 

「いやぁ、君も大きくなったね。見違えるよ」

 

「は、はい」

 

「あの時の子がこうして幻想郷で北斗と再会して、親しくなるか。不思議な縁があったものだな」

 

「そうですね」

 

(不思議な縁、ですか……)

 

 飛鳥の言葉に、早苗は内心呟く。

 

 幼い頃に出会った少年とこの幻想の地で再会したのだ。何かしらの縁があると思っても不思議ではない。

 

「あっそうだ。新聞で見たぞ、北斗。鉄道を開業させるそうだな」

 

「はい。自分と一緒に幻想入りした蒸気機関車達と一緒に、この幻想郷で何か出来る事がないかと考えて」

 

「そうか」

 

 と、一瞬飛鳥は悲しげな表情が過ぎるも、すぐに気持ちを切り替える。

 

「幻想の地に、外の世界で忘れ去らようとしている蒸気機関車が活躍する、か」

 

「……」

 

「幻想郷に、新たな歴史の風が吹きそうだな」

 

「はい」

 

 北斗は静かに頷く。

 

「あの、飛鳥さん。今度の開通式に、来てくれますよね?」

 

「あぁ。もちろんだ」

 

 飛鳥は笑みを浮かべる。

 

 

 

「……」

 

 北斗と飛鳥の二人の親しげな会話を早苗は静かに見つめていた。

 

(北斗さん。本当に楽しそう……)

 

 蚊帳の外にされている自分に寂しさを感じていたが、二人の間に入り込める隙間は無いと思っていた。

 

 自分で例えるなら神奈子と諏訪子と十年近くぶりに再会したものなのだ。嬉しくなるのは当然だ。

 

(……でも)

 

 ふと、早苗はある事が気になる。

 

(北斗さんと飛鳥さん……何となく似ている?)

 

 早苗は二人の顔つきがどことなく似ている事に首を傾げる。特に二人の瞳の色が良く似ている。

 

 これで姉弟だと言われても、何の違和感は無い。

 

「あ、あの、飛鳥さん?」

 

「ん? なんだい?」

 

 早苗に声を掛けられて飛鳥は彼女を見る。

 

「変な事を聞くかもしれませんが、飛鳥さんと北斗さんって、もしかして姉弟とかそんな関係じゃないんですか?」

 

 彼女がそう問い掛けると、北斗は首を傾げ、飛鳥はギョッとする。

 

「違いますよ、早苗さん。確かに飛鳥さんの事を姉の様に思っていましたが、姉弟じゃありません」

 

「そう、ですか? 二人がよく似ていたので、てっきり」

 

「そういや小さい頃、飛鳥さんと一緒に居ると、姉弟みたいによく似ているって言われましたね。そうですよね?」

 

「んっ? あ、あぁ、そうだったな。確かに、よく言われていたな」

 

 北斗に聞かれて飛鳥はオドオドとした様子で答える。

 

「……」

 

 早苗は彼女の不自然な様子に目を細める。

 

 

「おっと、もうこんな時間か」

 

 と、飛鳥はコートのポケットから懐中時計を取り出して蓋を開け、時間を確認して声を漏らす。 

 

「悪いな、北斗。会って早々だが、そろそろ行かないと」

 

「そう、ですか」

 

 北斗は寂しそうな表情を浮かべる。

 

「そんな寂しそうな顔をするな。近い内にまた会えるさ」

 

「……」

 

「その時は、ゆっくり話そう」

 

「……はい」

 

 飛鳥はそう言うと、立ち上がってその場から離れる。

 

「飛鳥さん!」

 

 すると北斗が立ち上がって、彼女を呼び止める。

 

「今度、機関区に来てもらえないでしょうか。みんなにも飛鳥さんを紹介したいので」

 

「……」

 

 飛鳥はしばらく黙り込むが、北斗の方を振り向いて笑みを浮かべる。

 

「そうだな。機会があれば、北斗の機関区に招待してくれ」

 

 彼女はそう言うと、ゆっくりと歩き出す。

 

「……」

 

 北斗はその後ろ姿を、ただ見つめた。

 

「……」

 

 しかし、早苗は飛鳥の背中に疑惑の目を向けていた。

 

 

 

 

「……」

 

 そんな中、北斗達の会話を建物の陰からこっそりと見ていた る~こと は何かを確認してから、その場を後にする。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……」

 

 飛鳥は広場を後にした後、里をゆっくりと歩く。

 

「で、良かったのかしら?」

 

「……何が?」

 

 彼女は立ち止まって路地裏の方を見ると、建物の壁に腕を組んでもたれかかっている幽香の姿があった。

 

「ようやく会えたのに、真実を伝えないまますぐに別れて」

 

「……分かって言っているでしょ、幽香」

 

「……」

 

「今日再会したばかりで、急に言ってもあの子はすぐに受け入れられないわ」

 

 まぁ、急に「お前は私の息子だ」と言われても、相手はすぐに受け入れられるはずが無いだろう。

 

「それ以前に、私はあの子の母親として、名乗る資格は無いわ」

 

「……」

 

「これで、良いのよ……」

 

 飛鳥はまるで自分に言い聞かせるように、再び歩き出す。

 

 

「あなたのそういう無駄に意地っ張りな所、嫌いよ」

 

 幽香はそう呟くと、組んでいた腕を解く。

 

「……世話が焼けるわね」

 

 ボソッと呟くと、彼女はその場を立ち去る。

 

 

 

 

 




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