今年も本作をよろしくお願いします。
所変わって幻想機関区
「……」
『……』
北斗は目の前の光景に、戸惑いを隠せなかった。
顔を青くして両手を上げる少女こと宇佐見菫子と、その両側を固める夢幻姉妹。その三人の前で腕を組むエリスの姿がある光景だ。
なんでこうなっているかと言うと、彼が機関区に帰って来たところ、宿舎の前で何やら人だかりが出来ていたので、機関車を側線に止めてその人だかりの所にやって来た。
理由を聞いたところ、どうやら彼女が機関区上空を飛んで見ていたそうで、それを夢幻姉妹とエリスが不審者として捕らえたそうだ。
「その、まぁお怪我が無かったので安心しました」
「は、はい……」
あの後北斗は菫子を解放して執務室に移動し、そこで彼女から事情を聞く事にしていた。ちなみに執務室には夢月が菫子を見張っている。
「それで、あなたは?」
「は、はい。私は宇佐見……菫子と言います」
「宇佐見さんですか。自分は幻想機関区の区長、霧島北斗と申します」
「霧島、北斗……」
北斗から名前を聞いて、菫子はこの間幻想郷を訪れて霊夢から聞いた話を思い出す。
(この人が霊夢さんが言っていた、外の世界から蒸気機関車と一緒に幻想入りしたっていう)
菫子は北斗を見ながら、首を傾げる。
(やっぱりどこかで見たような気がする……)
北斗にどことなく見覚えのあるものも、思い出せそうで思い出せなかった。
「それで、宇佐見さん。今日はどういったご用件で?」
「えっ? あっ、いえ。特に用件があるって訳じゃ」
北斗に機関区を訪れた理由を聞かれるも、そもそも用があるわけじゃなかったので、菫子は戸惑う。
「その、霊夢さんからあなたや蒸気機関車の事を聞いて、ちょっと気になって見に来たんです」
「あぁ、なるほど」
菫子から理由を聞いて、北斗は納得したように頷く。
「以前にもチラッと見に来て、今回も気になって、来てみたら……」
「捕まったという事ですか」
「はい……」
ジロッと夢月に見られて菫子は少しビクッとしながらも答える。
「まぁ、ちょっとした勘違いがありましたが、何も無かったのは良かったです」
「……」
「そういえば、霊夢さんと知り合いだったのですか?」
「は、はい。少し前に、色々とありまして」
「?」
首を傾げる北斗に、菫子は少し前に自身が起こした『オカルトボール異変』の事について話した。
少女説明中……
「外の世界の人だったんですか?」
「はい」
「でも、どうやって幻想郷へ行き来を?」
北斗は菫子より聞かされた話に驚いていた。
何せ自分と同じ外の世界の人間で、しかも幻想郷を行き来しているのだ。驚かない者は居ない。
「それは、寝ている時だけ私は外の世界から幻想郷に行き来できるんです」
「寝ている時?」
「正確には、寝て居る時に夢を見る感じで幻想郷に来ているって感じです」
「夢を見て居る時に……」
北斗は片手を頭に当てて声を漏らす。
「幻想郷じゃ、ホント常識に囚われたらいけないな」
「何だか、早苗さんみたいな事を言っていますね」
聞いた事があるような台詞に菫子は思わず声を漏らす。
「それで、宇佐見さんはどうしますか? このまま帰りますか?」
「え、えぇと……」
と、菫子は悩んだような表情を浮かべる。
「その、少しだけ、ここを観て回るのは良いでしょうか?」
「機関区をですか?」
「はい。外の世界じゃ、こんな場所を見ることなんて殆どありませんから」
「まぁ、そうですよね」
菫子の言葉を理解して、北斗は苦笑いを浮かべる。
今の時代、こんなに蒸気機関車がある場所なんて、片手で数えるぐらいしかない。
「では、観てみますか?」
「えっ? いいんですか?」
「えぇ。作業の邪魔にならないなら、特別に見学を許可します」
北斗はそう言うと、席を立つ。
「良いの? 部外者を簡単に入れて」
「まぁ、本当ならよくありませんが、今回は特別です」
「ふーん」
夢月は北斗の言葉を聞いて声を漏らす。
まぁ北斗としても、蒸気機関車に興味を持っている人を無碍にしたく無いという気持ちがある。でもってそのまま蒸気機関車を好きになってもらいたい、そんな期待もあったりしたりして。
―――――――――――――――――――――――――
「……」
外に移動した菫子は、蒸気機関車が動いているのを間近で観て、唖然としていた。
北斗は側線に置いていたD62 20号機を機関庫へと戻す為に乗り込み、移動させていた。
「凄い……」
巨大な蒸気機関車が蒸気を出して動いているその姿を生まれて初めて生で観た菫子は、圧倒されていた。
電車とかの鉄道はよく目にしているが、それとは違う迫力が蒸気機関車にあった。
D62 20号機は転車台に移動して停車すると、転車台がゆっくりと回りだして機関車の向きを変える。
ちょうどD62 20号機が後ろ向きで機関庫に入るように転車台が向き、北斗は短く汽笛を鳴らしてゆっくりと機関車を後退させる。
D62 20号機は機関庫へと収まり、停車する。
「……」
D62 20号機が納まった機関庫を菫子は見回す。
「こんなに蒸気機関車を見たの、初めて……」
機関庫いっぱいに蒸気機関車が納まっている光景は、圧倒されるものだった。菫子は思わず声を漏らす。
彼女自身蒸気機関車は公園に展示されている保存機などを見ているので、蒸気機関車自体初めて見たわけではない。しかしそんな保存機とは違う、まるで生きているかのような雰囲気が目の前の蒸気機関車達にあった。
その後D62 20号機の
「どうでしょうか?」
「その、なんて言ったら。ただ、圧倒されるばかりです」
「まぁ、そうでしょうね」
菫子の感想を聞いて北斗は苦笑いを浮かべつつ、機関庫を見渡す。
「これ全部、動くんですか?」
「一輌だけ諸事情で動かせませんが、それ以外は全部です」
「全部……」
菫子は唖然となりながらも蒸気機関車達を見渡す。
「次はどこを見てみたいですか?」
「は、はい。次は―――」
菫子は次に行きたい所を北斗に伝える。
「……」
夢月は腕を組んで二人の様子を見張るように見つめていた。
「むーげつ」
と、後ろから幻月が声を掛けながら夢月に抱き付く。
「どうしたの?」
「姉さん……別に」
幻月が夢月に問い掛けると、彼女は北斗を見る。
「あぁ、そういう」
「……」
「そんな目で見ないでよ。別に変な事想像したわけじゃないし」
ジトッと睨む夢月に、幻月は勘違いであると伝える。
「まだ気になっているんでしょ? 彼の違和感に」
「……まぁね」
ため息を付いて夢月は菫子を連れて整備工場へと向かう北斗を見る。
「ホント、不思議よね」
「……」
「どうして彼には、
「……」
幻月はそう呟くと、目を細める。
「それに、妙なのよね」
幻月は夢月から離れると、腕を組む。
「彼から僅かに魔力があるのも。それも巧妙に隠蔽しているような感じだし」
「……」
「まるで……」
幻月は何か言おうとするも、途中で口を閉ざす。
「いえ、こういうのは口にするものじゃないわね」
「姉さん」
「こういうのは、言わない方が良いのよ」
「……」
姉妹はしばらくしてから、その場を離れる。
―――――――――――――――――――――――――
所変わって某所。
「うぅ、お腹空いたぁ……」
腹の虫を鳴らしながら一人の少女が森の中を歩いていた。
水色のショートヘアーに水色が多く使われた服装をしており、特徴的なのは右眼が水色で、左眼が赤いオッドアイをしている。背中には茄子色の傘を背負っている。
彼女の名前は『多々良 小傘』 唐傘お化けと呼ばれる付喪神の少女である。
彼女は妖怪だが、人里の住人と親しく、人里に住む珍しい存在である。
「ここ最近誰もわちきに驚いてくれない……」
「はぁ……」と腹を押さえながら深くため息を付く。
彼女は人を驚かす事で満腹感を得る妖怪だが、ここ最近人を驚かす事に成功していない。まぁ脅かし方が下手であるというのもあるが、何より彼女の可愛らしい容姿が恐ろしさを減少させている一番の要因になっている。
その為か、里では彼女はマスコットキャラみたいに親しまれている。
そんな彼女だが、手先が得意とあって里では色んな所で働いている姿が目撃されている。里の人間から親しまれるのも、そういう面があるからであろう。
特に鍛冶屋で働く姿が多いとか。
「それに、あの蒸気機関車とかが走り始めてから、一層みんながわちきに驚かなくなったし」
小傘は悔しげにグッと右手を握り締める。
「本当に、どうしよう……」
握り締めていた手を解くと、再度深くため息を付く。
「あれ?」
ふと、彼女はある物を見つけて立ち止まる。
「これって、里の近くにもあるやつだ」
彼女の視線の先には、地面に敷かれた線路があった。
(でも、この間ここを通った時には無かったような……)
首を傾げながら記憶の糸を手繰り寄せるが、その時には線路は無かった。
小傘は気になりながらも、線路に沿って歩き出す。
「あっ……」
線路を辿って歩いていくと、小傘は線路の上に鎮座するある物を見つける。
小傘はそれに走り寄って、見上げる。
「これって……蒸気機関車?」
彼女が見上げる視線の先には、大きな蒸気機関車が二輌並んで線路に鎮座していた。
(でも、なんでこんな所に?)
小傘は首をかしげながら、二輌の蒸気機関車を見る。
どちら共
「大きいなぁ。こんなに間近で見たの初めて……」
蒸気機関車の大きさに彼女は思わず声を漏らす。
「こんなに大きかったら、誰でも―――」
「ハッ!」と小傘の脳裏に閃きが走る。
「そうだ! わちきがこれを使えば、里のみんなが驚くぞ!」
小傘はきらめいた表情を浮かべて両手を握り締める。何と言う単純思考……
「なら早速これを使ってみんなを……」
意気揚々としていた小傘だったが、すぐに勢いが削がれる。
「あっでも、これどうやって動かすんだろう?」
小傘はすぐに壁にぶち当たって首を傾げる。
まぁ蒸気機関車の事を名前だけしか知らない以上、機関車の動かし方なんて知る良しも無い。
「うーん。どうしよう……」
小傘は腕を組み、うーんと静かに唸る。
そんな小傘を見ているかのように、『18633』『C58 283』と書かれたナンバープレートを持つ二輌の蒸気機関車は、ただ線路の上で静かに鎮座し続けるのだった。
感想、質問、要望等がありましたら、お待ちしています。