『……』
『……』
建物の一室である応接室の中央にあるテーブルを挟んで窓のある方向の席に霊夢達が座り、その向かい側の席に北斗が座り、その後ろを少女達が控える。一応武器として持っていたスコップと火かき棒は置いて来ている。
「どうぞ」
『D51 241』のバッジを付けた少女はお茶を淹れた湯呑を北斗と霊夢達の前に出すと、その間に煎餅を入れた籠を置く。
「では、まずはこちらから」
しばらく沈黙が続いたが、北斗が口を開く。
「俺はこの霧島機関区の管理責任者の区長をしています、霧島北斗と言います」
「あなたがここの長なのね」
「はい」
「ふーん……」
霊夢は上から下まで彼を見る。
特にこれと言って興味があるわけじゃないが、彼女はある違和感を覚えて目を細める。
(妙ね。この人は人間のはずなのに、後ろに居る九十九神達に似た気配がある)
彼女は北斗から少女達と似た気配を感じ取っていた。
確かに彼は人間であるはずだが、なぜか普通の人間より強い霊力を感じるのだ。まぁ自分や早苗も普通の人間よりもより強い霊力を有しているのだが。
だが、彼の場合は後ろに控えている彼女達と似た霊力を持っているのだ。
それに格好だって少女達と似ているし、左胸にある『D62 20』のバッジからすれば、ますます関係性があるというのを予想するのは容易いだろう。
かと言って、別に彼女達と同じ九十九神ではなく、感じられる霊力の大半は人間だ。
とても矛盾した存在、と言うのが彼女が北斗に対して抱いた感想だった。
(まぁ、今はそんな事はどうでもいい)
霊夢は疑問を振り払い、自分の自己紹介をした。
「私は博霊霊夢。この幻想郷を管理する博麗の巫女よ」
「私は霧雨魔理沙だ。普通の魔法使いだぜ」
隣で黙っていた魔理沙も自己紹介をする。
「魔法使い、ですか」
北斗は魔理沙を見ながら小さくボソッと呟く。
「私は東風谷早苗を申します。この幻想郷にある守矢神社の巫女をしています」
早苗も淑やかに自己紹介をする。
「あなたは別の神社の巫女なんですか」
「はい」
「そうですか」
北斗は霊夢と早苗の二人を見比べる。
(巫女なのに、なんで脇を出しているんだろう?)
と、場違いな疑問を抱くのだった。
まぁ彼からすれば一般的な巫女の服からかけ離れた格好をしているのだから、当然だろう。
(それに―――)
ふと、彼の視線は早苗に向けられる。
(気のせいだろうか? なんだかこの人と、初めて会った気がしない)
彼の中で、そんな引っ掛かったような感覚があった。
(前にどこかで、会った事があったかな)
記憶の糸を手繰り寄せて思い出そうとするが、特に心当たりは無かった。
むしろ見た事があるのなら、特徴ある彼女を忘れる方が難しいだろう。
(いや、気のせいだな)
彼は疑問を内心に留めて、霊夢の方に向き直る。
「それで、博麗さん」
「霊夢でいいわ。大抵の人はそう呼んでいるわ」
「そうですか、では、霊夢さん。先ほどちらほらとありましたが、幻想郷とは?」
北斗は最も疑問に思っていることを霊夢に問い掛けた。
「ここは幻想郷。忘れ去られた者達が集う、博麗大結界と呼ばれる結界で外界と隔てている場所よ。その博麗大結界を博麗の巫女が代々管理しているのよ」
「忘れ去られた者?」
「まぁ、妖怪とか、神々とか、そんな類よ」
「な、なるほど」
北斗は半ば信じられないような風に声を漏らす。
まぁ、現実離れした内容ばかりで、若干思考が追いつかない。まぁ、現実離れした存在が既に彼の後ろに居るのだが。
「やっぱり、あなたは外来人ですね」
早苗が北斗に問い掛ける。
「外来人……?」
「幻想郷の外の世界の人達の事です」
「たまに居るのよ。結界の一部が緩んで、この幻想郷に迷い込む外の世界の人間がね。私達はそれを外来人って呼んでいるわ」
「なるほど。他にも、居たのですか?」
「えぇ。まぁ中には別の理由で幻想入りした外来人も居たけれどね」
と、霊夢は何も無い場所に視線を向けて一瞥すると、すぐに北斗の方に戻す。
「まぁ、幻想郷に外来人が迷い込んでも、無事に私の所に来る事が出来れば、結界を緩ませて外の世界に帰してあげられるわ」
「無事にって……」
彼の中で嫌な予感が過ぎる。
「運が悪いと妖怪か獣に襲われて命を落とす場合があるわね」
「……」
幻想郷は予想以上に危険な場所だと、北斗は認識する。
「まぁ、貴方達はその類じゃないのは確かだけど」
と、霊夢は視線を鋭くして、彼らを見る。
「……」
「回りくどいのは面倒で好きじゃない。単刀直入に聞くわ」
霊夢は真剣な表情を浮かべて、北斗に問い掛けた。
「貴方達の目的は何?」
『……』
彼女がそう問い掛けると、北斗の後ろに居る少女達は視線を細めて鋭くする。
「目的も何も、俺たちはどうしてこんな状況になっているのか分からないんだ」
「……」
「気付いたら、この幻想郷に居た。そうとしか言えない」
北斗はありのままの事を霊夢に伝える。
「そう言っても、とても信じられないわね」
「……」
「あの線路とやらは、貴方達と関係が全く無いとは言えないわよね」
「線路、ですか?」
北斗は首を傾げる。
「幻想郷中に、その線路が一夜の内に現れているんです」
彼の様子から何かを察してか、早苗が現在の幻想郷の状況を伝える。
「そうなのですか?」
「知らなかったのか?」
「えぇ。初めて知りました」
魔理沙の言葉を彼は肯定する。
「仮に線路のことを知らないと言っても、貴方達と関係が無いとは言えないわよね」
「それは……」
「それに、その線路はここと繋がっているんだぜ。それについてはどう説明するんだ」
「……」
魔理沙の指摘に北斗は返す言葉が無かった。
全く関係が無いとは言い切れないが為に、彼は返す言葉が見つからなかった。
何より、会話自体があまりしていなかった彼がこの状況を良い様に出来るほどの話術があるはずがない。
「……俺や彼女達は少し前に目覚めたばかりだ。ここが幻想郷だってことも、線路の事も知らなかった」
だから、彼には自分達が無実である事を訴えるしか出来なかった。
「……」
「誓って、嘘は言っていない」
「……」
「信じて、もらえないだろうか」
北斗は深々と頭を下げる。
「……」
「区長……」
『D51 241』のバッジを付けた少女は不安な声を漏らして、北斗と霊夢達を交互に見る。
「さて、どうしようかしらね」
霊夢は籠に入っている煎餅を一枚手にして一口齧る。
「……」
すると彼女の視線が誰も居ない場所を向く。
「ねぇ、聞いているんでしょ、紫?」
すると誰に向けたわけでもなく、彼女はそう言う。
魔理沙と早苗以外が首を傾げていると、突然部屋の宙に裂け目が現れる。
「あら、気付いていたの」
北斗達は突然現れた裂け目に目を見開いて驚いていると、両端をリボンで結んだ裂け目から一人の女性が出てくる
瞳の色はアメジストの様な透き通った紫に、金髪のロングヘアーの毛先をリボンで纏めてそれを前の方に垂らしており、それ以外は後ろで流している。
服装は白いドレスの上に中華風の導師服を身に纏っており、赤いリボンの付いたナイトャップをかぶっている。
「あからさまに気配を出しておいて、何言ってんのよ」
「そうかしら?」
女性は惚けた様に言うと、手にしている扇子を広げて口元を隠す。
「えっ? そうだったんですか?」
早苗は驚いたように霊夢に問い掛ける。彼女は女性の存在に全く気付けなかったからだ。
「ただの勘よ」
「相変わらずお前の勘は凄まじいな」
魔理沙は呆れたように呟く。
「あ、あなたは?」
その間にも他には無い女性の厳格な雰囲気に圧されながら、北斗は声を掛ける。
「あら、失礼。私の名前は――」
「八雲紫。胡散臭いスキマ妖怪よ」
「ちょ、ちょっと!」
八雲紫という女性は慌てた様子で霊夢の方を向き直る。
「代わりに言ってあげたんじゃない」
「もう、霊夢ったら! 言い方ってものがあるでしょ!」
悪気の無い霊夢に八雲紫と言う女性はご立腹な様子で霊夢に詰め寄る。
さっきまでの厳格な雰囲気は何へやら……
幻想郷の賢者、八雲紫が登場です(最後は締まらなかったけど)
果たして彼女は彼らをどう見るか……