東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第69駅 幻想の地に誕生する蒸気機関車

 

 

 

 

 あれから二日後。

 

 

 

 幻想郷にちらちらと雪が降り始めていた。

 

 

「……」

 

 肌寒い空気が漂う中、人里で一人の少女が歩いていた。

 

 銀髪のショートヘアで、白いラインの入った黒い大きなリボンをしているのが特徴的で、白いシャツに緑色のベスト、同色のスカートを身に纏った服装をしており、背中には二振りの刀を背負っている。

 

 彼女の名前は『魂魄 妖夢』 冥界にある白玉楼と呼ばれる屋敷の庭師をしている少女である。

 

(うーん。買い物は昨日の内に終わらせたし、幽々子様の晩御飯のある程度仕込みは終わっているから、今からどうしよう)

 

 内心やるべき事を思い出すも、既にやっているとあって、今の彼女は時間を持て余していた。

 

 庭師としての仕事をしようとしても、庭の剪定は少し前にやったばかりからする必要が無い。

 

 それならば未だに未熟な剣術の腕を磨く為に鍛錬を積もうと思ったが、自身の主である『西行寺 幽々子』から今日ぐらいはゆっくりしていてもいいと言われてしまい、主にそう言われては言い返すことも出来ず、とりあえず人里に出かけてみたのだ。

 

 まぁそれでもやる事は無いのだが。

 

(うーん。やる事が無いから、霊夢の所に行こうかな)

 

 腕を組んで首を傾げる妖夢は、友人の霊夢の所に行くか考える。

 

 過去に主である西行寺 幽々子が起こした『春雪異変』にて知り合い、その後何度か霊夢と共に数々の異変を解決して来たとあって、それなりに仲が良い。

 

(でも、博麗神社まで飛んでいくのって、結構疲れるのよね)

 

「はぁ……」とため息を付く。

 

 この幻想郷において空を飛ぶというのは、飛ぶ為に必要な部位や器官が無い限り、結構疲れるのである。

 

 理由としては霊力にしろ、妖力にしろ、力を消耗して飛ぶからである。

 

 

 ―――ッ!!

 

 

「……?」

 

 すると、里に汽笛が響き、妖夢は顔を上げる。

 

「この音って……」

 

 妖夢は周囲を見渡すと、遠くから煙が里の近くに近付いていた。

 

「……」

 

 彼女は目を細めると、そこへと向かう。

 

 

 

 人里の端に出来た駅舎には、多くの人だかりが出来ていた。

 

「……」

 

 妖夢は駅の近くまで来ると、柵の向こうにある線路を見る。

 

 駅の近くではC11 312号機とC12 208号機が作業妖精達によって給水塔より伸ばしたホースをボイラーの両側に取り付けられたタンクに給水を行い、一番後ろにある炭庫に石炭を補給している。

 その間に睦月(C11 312)熊野(C12 208)は自身の機関車の足回りの点検を行っていた。

 

「あれが天狗の新聞にあった蒸気機関車かぁ」

 

 妖夢は興味津々に二輌のタンク型蒸気機関車を見つめる。

 

 彼女自身人里で買い物をして居る時に蒸気機関車は遠くで見ていたが、近くで見たのは今日が初めてである。

 

 

 次に彼女は駅舎の方に向かい、運行表を見る。

 

「あっ、今日は博麗神社に向かうんだ」

 

 運行表にある今日の日付には、博麗神社行きの列車が書かれていた。

 

(博麗神社に行くなら、この列車に乗って霊夢の所に行こうっと)

 

 面倒が無いで済むと、妖夢は内心呟きながら、駅舎に入って列車に乗る為の切符を購入する。

 

 

 駅のホームにはそこそこの人数が列車を待っており、その中に妖夢の姿があった。

 

 水と石炭の補給が終わり、二輌の蒸気機関車は重連状態で線路上を移動して、側線に置いていた客車四輌と連結し、博麗神社に向かう上り線へと入線する。

 

 列車が停車して、駅員の妖精達が客車の扉を開けていって、乗客を客車に乗せていく。

 

 妖夢も少し戸惑いながらも客車の乗り込み、座席に座る。

 

「何だか温かい。何でだろう?」

 

 彼女は初めて座った客車の座席の軟らかい感触と、暖かい客車内に戸惑っていた。

 

 客車内が暖かいのは、蒸気機関車のボイラーより蒸気が客車に繋がれたホースを伝って送られており、蒸気の熱で客車内を温めているからである。

 

 少しして客車に乗り込んだ乗客は車掌妖精に駅のホームに入る前に駅員の妖精が改札鋏を使って穴が開けられた切符を見せて、車掌妖精は穴開き切符を確認する。

 妖夢も購入して駅員妖精によって穴が開けられた切符を車掌妖精に見せる。

 

 列車の最後尾に連結されている郵便客車に乗客が持ち込んだ荷物が駅員妖精の手で載せられていく。

 

 待っている間に二輌の蒸気機関車の運転室(キャブ)では、機関助士妖精が焚口戸を開けて火室に投炭を行って発車準備を整えている。

 

 C11 312号機とC12 208号機の蒸気が上がっていき、コンプレッサーが心臓の鼓動の様に動作し、煙突横の排気管より一定の間隔で蒸気が噴射されている。

 

 

 そして発車時刻になり、駅のベルが鳴る。

 

 駅員妖精が乗り遅れの乗客がいないかを確認して、扉を閉める。

 

 駅員妖精より安全を確認して、車掌妖精がホイッスルを吹きながら緑旗を揚げる。

 

 緑旗が揚がったのを確認して、睦月(C11 312)はブレーキを解き、天井から下がっているロッドを引いて汽笛を鳴らす。それに続いて熊野(C12 208)も汽笛を鳴らす。

 

 二輌の蒸気機関車は四輌の客車を牽いてゆっくりと進み出し、ピストン付近の排気管よりドレンを吐き出して出発した。

 

「……」

 

 妖夢は窓から景色を眺めながら、眼を輝かせていた。

 

 

 

 人里近くにある畑では、農家達が冬支度を行っていた。

 

 すると、汽笛の音がして農家達が畑の近くにある線路を見る。

 

 人里方面よりC11 312号機を先頭にC12 208号機が重連で客車四輌を牽引する博麗神社行きの列車が走ってきた。

 

 大井川鉄道にて今も静かに眠っている二輌のタンク型蒸気機関車は、息ピッタリに連携し、煙突より白煙を吐き出しながら線路を走る。

 

 農家達が手を振るうと、それぞれの機関車を操る睦月(C11 312)熊野(C12 208)は汽笛を鳴らして応え、機関助士妖精が手を振るう。

 

 

「……」

 

 妖夢は車窓より冬の幻想郷の景色を、興味津々に眺めていた。列車から見る幻想郷の景色は、空を飛んで見るとは違う新鮮な光景であった。

 

 C11 312号機とC12 208号機が牽引する列車は、冬の幻想郷を走り抜ける。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わって、場所は妖怪の山。

 

 

 北斗は妖怪の山の中でも重要な場所に来ていた。

 

 

 

「……」

 

 北斗は周りの光景を驚きに満ちた目で見ていた。

 

「どうだい? ここが私達河童の技術の中枢だよ」

 

 自慢するようににとりはそう言う。

 

 ここは妖怪の山の中でも、河童達の技術が集約された重要な区画である。

 

「いやぁ、相変わらず凄いですね」

 

 北斗の隣を歩く早苗は周囲を見ながら呟く。

 

 まるで外の世界にあるような工場の様な内装で、周囲では河童達が工作機械を使って物を作っていたり、機械のような物を整備していたりと、様々な事をしている。

 

 古い時代を彷彿とさせる幻想郷の光景と異なり、近代的な内装に施設を見て、北斗は驚きを隠せなかった。

 

「誇りに思って良いよ。何せここに人間を入れたのは君と早苗ぐらいだからね」

 

「そうなのですか?」

 

「まぁね。お陰で天狗達の許可を取り付けるのに苦労したよ」

 

「ハハハ」とにとりは乾いた笑い声を漏らす。それだけでどれだけ苦労したかが窺える。

 

「あっ、でも人里ではこの事は内密にしておいてね」

 

「それはなぜ?」

 

「そりゃ、まぁ色々とあるからねぇ」

 

「は、はぁ……」

 

 北斗は疑問に思ったものも、余計な事に首を突っ込まない主義の彼は、にとりの言う通りにするのだった。

 

「それにしても、まさか線路を増設するなんて、河童の皆様は結構気合を入れているんですね」

 

「そりゃそうさ! あんな面白い物を扱えるんだから、このくらいは当然さ!」

 

 と、にとりは薄い胸を張る。

 

 にとりを筆頭とする河童達は、蒸気機関車の受け入れを本格化する為に河童の里周辺からこの区画まで自分達で線路を敷いたのだ。線路を敷く際にちゃんと線路の素材に線路の幅、転轍機を調べて、河童独自で線路を敷き、分岐点を作ったそうだ。

 その上、この区画に蒸気機関車の製造、整備を行う為の設備を新たに設けた。

 

 これを見れば、河童達の本気度合いが分かるだろう。

 

「それで、完成した機関車は?」

 

「こっちだよ」

 

 早苗がにとりに問い掛けると、にとりは奥を指差しながら歩き、そこに着く。

 

「これは……」

 

「……」

 

 そこにある物を見て、北斗は声を漏らし、早苗は目を輝かせていた。

 

 そこには新品同様ピカピカに磨き上げられたC11形蒸気機関車と、C12形蒸気機関車のタンク型蒸気機関車二輌が縦に並ばれて、河童達に整備されて磨き上げられていた。

 

「どうだい? 私達河童が作り上げた、幻想郷で初めて作られた蒸気機関車は」

 

 C11形とC12形を見ながらにとりが北斗に声を掛ける。

 

「その、素晴らしい出来です。それに、とても予想以上です」

 

「ふふーん。そうだろそうだろ?」

 

 北斗は素直な感想を述べ、にとりは再び薄い胸を張る。

 

「しかし、よくこんな短期間で作れましたね」

 

「そりゃ、現物に設計図があるんだ。作れないわけがないじゃないか」

 

「そういうものでしょうか?」

 

 早苗は首を傾げる。

 

 現代では蒸気機関車を新造すると長い期間を必要とするが、全盛期であれば短期間で製造するのは可能と言えば可能である。

 

「それで、この二輌はちゃんと動くんですか?」

 

「そりゃもちろんさ。ちゃんと試験動作を行っていたからね。どっちとも試験は良好。最高の状態さ」

 

 早苗の質問ににとりは自信満々に答える。

 

(ナンバーはラストナンバー続きなんだな)

 

 北斗は二輌の蒸気機関車の煙扉とボイラー両側にあるタンクに取り付けられたナンパープレートを見る。

 

 二輌の蒸気機関車のナンバープレートは、C11形は『C11 382』、C12形は『C12 294』と表記されている。

 

 それぞれのラストナンバーからの続きで表記されている。

 

 ちなみに運転室(キャブ)の側面には『河童製造』と書かれた製造銘板が取り付けられており、幻想機関区所属である事を示している『幻』が描かれている。

 

「しかし、これだけの代物を、こちらが使っても宜しいのですか?」

 

「うん。私達が持っていてもうまく使えないと思うしね。ちゃんと使える所に使ってもらいたいのさ」

 

「そうですか」

 

 北斗はC11 382号機とC12 294号機を見る。

 

 この二輌はこの後幻想機関区へと回送し、主に作業妖精達が運用する機関車として使う予定である。

 

「ありがたく、この二輌を使わせてもらいます」

 

「うん。ちゃんと使ってあげてね」

 

 北斗とにとりは握手を交わす。

 

「あっ、そうだったそうだった」

 

 と、にとりは思い出したようにそう言うと、にとりは背中に背負っているリュックサックを下ろして中から二冊のファイルを取り出す。

 

「北斗。あれは持ってきているかい?」

 

「はい。ちゃんと持ってきています」

 

 北斗は右手に持っている鞄を開けて中からある物を取り出す。

 

「北斗さん。何を持ってきたんですか?」

 

「蒸気機関車の設計図です」

 

 早苗の質問に答えつつ、北斗は鞄より蒸気機関車の設計図を纏めたファイルを取り出してにとりに渡し、彼女は北斗に借りていたC11形とC12形の設計図を纏めたファイルを渡す。

 

「にとりさんが言った通り、C57形蒸気機関車。その一次形の設計図です」

 

「すまないね」

 

 にとりはお礼を言いながらファイルを開く。

 

「まだ蒸気機関車を作るんですか?」

 

「まぁね。前回はタンク型だったけど、今度はテンダー型を作りたいんだ。蒸気機関車の製造技術を得る為にね」

 

「はぁ」

 

 早苗は思わず声を漏らす。

 

「それにしても、D51形じゃなくて、C57形を選んだんですね?」

 

「D51形も悪くなかったけど、一番に作りたかったのはこのC57形なんだよ」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ。こんな芸術的で貴婦人と呼ばれた優美な姿。とてもいいじゃないか。作り甲斐があるってもんだよ」

 

「は、はぁ……」

 

 熱弁するにとりに、早苗は思わず苦笑いを浮かべる。

 

「それで、にとりさん。その機関車はどのくらいで完成すると思いますか?」

 

「さぁ、どうだろうね。前回の二輌と違って大きいから、時間は掛かると思うよ」

 

「まぁ、そうでしょうね」

 

 にとりの予想を聞いて、北斗は納得する。

 

 以前はタンク型であったが、今回はそれよりも大きなテンダー型蒸気機関車である。

 

「でも、これで蒸気機関車の製造技術は確立されましたね」

 

「そうだね。今後大量に作るかどうかは分からないけど、少なくとも蒸気機関車を作る環境は整っているね」

 

「そうですか」

 

 それを聞き、北斗はある期待感を持つ。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ほう、これはこれは」

 

 北斗達がC11 382号機とC12 294号機の前で話している中、天井付近にある物陰から魅魔がニヤリと口角を上げる。

 

(良い事を聞いたよ。これこそ棚から牡丹餅ってもんだ。面倒が省けるものさね)

 

 魅魔は右手を広げると、禍々しい光の球が現れる。

 

「良かったじゃないか。あんたの新しい身体は、近い内に出来そうだ」

 

 彼女がそう言うと、光の球は発光する。

 

「あぁ、そうさね。その時になれば、あんたの自由にすればいいさ」

 

 光の球が発光して、魅魔は光の球を仕舞う。

 

「……」

 

 魅魔は北斗を一瞥すると、その姿を消す。

 

 




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