少ししてC11 382号機とC12 294号機は連結され、回送の為に主連棒を外して部品を載せた貨車をC12 294号機に連結され、外へと運び出された。
外ではC56 44号機が待機しており、外に出されたC11 382号機とC12 294号機を連結し、出発に備える。
「それじゃ、大井。頼んだぞ」
「了解、区長。後で迎えに来るよ」
大井は敬礼すると、汽笛を短く鳴らして、バック運転でC11 382号機とC12 294号機を牽いて出発し、河童が敷いた線路を通っていく。
「では、北斗さん。私はこれで」
「はい。一緒に来てくれてありがとうございます、早苗さん」
「私こそ、貴重な機会に誘ってくれてありがとうございます」
早苗は頭を下げる。
「帰りはくれぐれも気をつけてください。河童の領域と言っても、妖怪の山なので危険がいっぱいです」
「分かっています。にとりさん達の近くで迎えを待っていますので」
「そうですか。それなら、安心です」
笑みを浮かべる早苗は、にとりを見る。
にとりは早苗が何が言いたいのか分かったのか、無言で頷く。
「北斗さん」
「?」
「次も、この機会がありましたら、お誘いしてください」
「あっ、はい。その時は」
早苗は微笑みを浮かべると、北斗は少し恥ずかしそうに答える。
(何だろう。何も食べていないはずなのに甘酸っぱい気がする)
二人の様子を観ていたにとりは妙な感覚を覚えるのだった。
その後北斗とにとりは早苗を見送り、再び河童の工場へと入る。
「まぁ、迎えが来るまで、ここで待っててね。何かあったら、そこの呼び出し装置を押したら良いからさ」
「分かりました」
工場にある一室で北斗はにとりから説明を受けて頷く。
さっきは蒸気機関車を見せる必要があったから工場内を歩いていたが、ここは妖怪の山の中で重要な場所であるので、時間潰しに工場内を勝手に出歩かれては困るとあって、ここで待ってもらうことにした。
「それにしても、幻想郷にこれほどの施設があったとは思いませんでした」
「まぁ、色々とあるからねぇ」
「色々と、ですか」
「そう。色々と、ね」
「色々と……」
何やら意味深な事を呟くにとりであったが、北斗はオウム返しのように声を漏らした。
「あの、にとりさん」
「なんだい?」
「一つ聞いて良いでしょうか?」
「ああぁ良いよ。答えられる範囲ならね」
「ではお聞きしますが、もし今後蒸気機関車の製造や部品の製造がありましたら、にとりさん達河童の皆様は依頼を受けてもらえますか?」
「うーん。そうだねぇ」
にとりは考えるように顎に手を当てる。
「その時次第かな? まぁ私としては個人的に受けたいと思っているけどね」
「それはなぜ?」
「そりゃ、物作り心が刺激されるってものさ。C11形とC12形を製造して分かった事とすれば、とても作り甲斐があったってこと。大きな機関車なら、もっと作り甲斐がありそうだしね」
ニッとにとりは笑みを浮かべる。
そして北斗は、にとりを含む河童が物作りが好きなんだと改めて思う。
「それなら……」
と、北斗は鞄からある物を取り出す。
「河童の皆様の技術を見込んで、幻想機関区から依頼をしたいのですが」
「ほほう? 私達河童の技術を見込んで、か。中々言ってくれるじゃないか」
北斗よりそう言われてにとりはニヤリと口角を上げる。
「まぁ、依頼を受けるにしても、これから作るC57形の後になるね」
「そうでしょうね」
北斗は気を取り直して、手にしている蒸気機関車の設計図がまとめられたファイルをにとりに差し出す。
「幻想機関区はこの蒸気機関車の製造を、河童の皆様に依頼したいのです」
「ふむ」
にとりはファイルを手にして開き、設計図を見る。
「これは……ふむ」
彼女は声を漏らして、設計図を見渡す。
「外の世界で、一輌も製造されることが無かった幻の蒸気機関車です」
「ほぅ」
北斗の言葉を聞いてにとりは声を漏らし、設計図の上に書かれている『C63形蒸気機関車』と書かれた文字を見る。
『C63形蒸気機関車』
この蒸気機関車は、日本の蒸気機関車を知る者としては有名どころだろう。
C63形蒸気機関車は、設計が完了して製造を待つばかりだったが、結局一輌も製造される事なく終わった、幻の蒸気機関車である。
C63形が計画される事になったのは、戦後における鉄道車両の近代化の遅れにあった。
当時は戦後とあって、財政難等で電化が予想以上に進まず、気動車やディーゼル機関車の技術が未成熟とあって、無煙化を着実に進めていける状況ではなかった。その一方で多くが主戦力で活躍している蒸気機関車の老朽化が深刻であり、故障から破損を起こす車輌が続出した。輸送需要増加と合わせて機関車不足を招きかねない事態に、手戻りではあるものも蒸気機関車の新造を行う事にした。
これがC63形蒸気機関車が設計されることになった経緯である。
早期戦力化を図る為に既存の蒸気機関車の設計を基にしており、その基となったのはC58形蒸気機関車である。主に地方ローカル線での客貨両用で運用するのを前提で、特に老朽化が深刻化していたC51形蒸気機関車の代替を目的に設計されており、その性能もC51形に近いものになることを目標とした。
その構造はC58形の強化版とも言える設計で、足回りはC58形と同じ1C1のプレーリーである。ボイラーを全溶接工事構造として若干太くし、圧力を日本が設計製造した蒸気機関車の中で最大値となる18kg/cmに昇圧している。足回りも近代的な技術が盛り込まれており、軸受にローラーベアリングが取り入れられているが、製造予定の車輌の中に従来通りの構造で製造して、ローラーベアリングを取り入れた車輌と性能を比較する予定だった。
C63形蒸気機関車の最大の特徴はドイツの蒸気機関車に見られたヴィッテ式
先ほど異なる軸受を取り入れた試作車輌を何輌か製造するはずだったが、その前に無煙化の進捗状況と機関車の需要が再検討され、その結果必ずしもC63形を製造しなければならないわけでは無いと判断され、製造が見送られた。そしてその後すぐに気動車とディーゼル機関車の技術が確立し、急速に電化、ディーゼル化が進んだ。
更に国鉄は動力近代化計画として、15年で蒸気機関車の全廃を行う計画を立てて、実行に移した。その結果、蒸気機関車が不足する懸念が全く無くなったばかりか、蒸気機関車の全廃を目指しているとあって、C63形は製造許可が降りることも無く、一輌も製造されずに今日に至る事となった。
C63形は一輌も製造されずに終わった幻の蒸気機関車として、多くの鉄道ファンに知られている。それ故か、無駄に高性能な蒸気機関車であった、と言う誇張した認識が広まっている。
しかしはっきり言って、C63形は言うほど高性能な蒸気機関車ではなく、むしろ迷要素を多く含んだ蒸気機関車であると思う(by作者
そもそもC58形を元に設計している時点で、C63形は問題しかなかった。
C58形は足回りの配置関係で高速運転時に左右に激しく揺れるオーバーハングと呼ばれる現象が発生する。C63形は一部を除いてほぼC58形の設計とあり、車軸配置も手付かずである。それに加え、燃焼効率改善の為に火床面積の拡大を図っており、C51形の代替を目標としていて高速運転を想定しているので、C63形はオーバーハングを助長するような設計になっている。
その為、C51形と同じ走行性能は得られなかったであろうと言われている。
というより、C63形の設計は乗務員の労働環境を改善して、いくつか新しい試みを取り入れているとは言えど、中途半端の手抜き設計であると言わざるを得ない部分が多い。
まぁそもそもC63形自体がディーゼル機関車と気動車の技術を確立するまでの繋ぎとして計画されたようなもので、中途半端な設計なのも致し方が無いとも言える。
北斗自身もC63形が作られるべきだったかどうかというと、作られなくて良かったと思っている。むしろ作られず幻に終わったからこそ、C63形はそれなりに有名になったと考えている。
しかしそこはSLファン。幻に終わった蒸気機関車が実機で動いている所を見てみたいと言う気持ちはある。それに設計時点でほぼ性能は判っているとは言えど、実際に作ってみなければ分からない部分はある。
そこで北斗は試験目的で河童達にC63形蒸気機関車の製造を依頼したのだ。
それに、C58形の様な運用であれば、C63形はそれなりに使えると思われる。
「外の世界で幻に終わった蒸気機関車を、この幻想郷で作ろうってわけね」
「えぇ」
「そう。フフフ……」
北斗が肯定すると、にとりは静かに笑いを零す。
「面白いじゃないか。その依頼、受けるよ!」
「ありがとうございます」
「但し、さっきも言ったけど、C57形が出来上がってから作業を行うよ」
「分かっています」
「期待していてよ。C57形もそうだけど、幻に終わった蒸気機関車も、最高の出来に仕上げて見せるよ!」
ニッとにとりは笑みを浮かべる。
こうして、外の世界で幻に終わった蒸気機関車が、誕生する一歩を踏み出したのだった。
お兄さんと初めて会った時、不思議な人間だと思った。私の姿と存在を認識できるのも不思議だったけど。
最初は私を認識出来る人間だから興味を持っていたけど、お兄さんと一緒に過ごしていると、とても心地良かった。膝の上に乗っていた時は特に。
それから陰からお兄さんを見ていた。
機関区でのお兄さん。山の巫女が居る神社でのお兄さん。人里でのお兄さん。吸血鬼が居る館でのお兄さん。博麗の巫女の居る神社でのお兄さん……。
山の巫女さんと仲が良いようだけど、何だか気に入らないなぁ。二人が一緒に居ると、モヤモヤする。知り合いの言葉で言うなら、これを妬ましいって言うんだろうね。
そうやってお兄さんをずっと見ている内に、次第にお兄さんの事を考えるようになった。
私には、お兄さんが必要なんのかなぁ。いや、必要なんだね。
お兄さんは私を拒まない。妖怪の私を拒まない。お兄さんは私を受け入れてくれる。妖怪の私を受け入れてくれる。
だからお兄さんに、お姉ちゃんとみんなを紹介したいなぁ。
お兄さんならみんなを受け入れてくれる。あの忌々しい妖怪に地下へと追いやられた私達を受け入れてくれる。
お兄さんならあの半妖の力が効かないと思うしね。あの半妖にお兄さんへの興味を惹く事は出来るし、うまくいけば引き籠りを解消出来るかもしれないしね。たまにはお姉ちゃんやみんなの役に立たないとね。
それに、お兄さんが探している物だって、あそこにあるんだから。お兄さんが必要としている物が、あそこにある。みんなが知らない場所に、それはあるんだから。
だから、お兄さんに来て欲しいなぁ。
いや、待っているだけじゃ、お兄さんは来てくれない。そもそも場所が場所だから、お兄さんには来れないか。天狗が邪魔するしね。
なら、お兄さんを連れてくれば良いんだ。それならお兄さんをあそこに連れて行く事が出来る。
こんな簡単な事、悩む必要なんて無かったね。
それに、お兄さんは地上に居るべきじゃ無いんだ。お兄さんにとって、あそこが一番なんだ。
知ってるよ。お兄さんの心奥底に眠る、憎しみを。お兄さんが外の世界で受けた仕打ちを。
だからお兄さんが居るべき場所は、地上じゃない。私達の世界なんだ。
待っててね、お兄さん。私達が、お兄さんを連れて行ってあげる。
待ち遠しい……あぁ、待ち遠しいなぁ、お兄さん♪
感想、質問、要望等がありましたら、お待ちしています。