こいしと北斗、空の三人はしばらく歩いて、ある場所に着く。
「ここは……」
そこに着いた北斗は周囲を見渡す。
横穴が多い場所で、所々に板で穴が塞がれている。
そして奥にある大きな横穴に、ボロボロの小屋が建っている。
「ここがそうなのか?」
「うん。あそこの小屋に言っていた妖怪が住んでいるの」
「なるほど」
北斗はボロボロの小屋を見ながら声を漏らす。
「そういえば、その妖怪って、どんな妖怪なんだ?」
「あー、正確に言うとね、その妖怪は――――」
「誰かそこに居るのか?」
と、こいしが何か言おうとした瞬間、小屋の方から声がすると、小屋の陰から一人の少女が出てくる。
外見は十代半ばぐらいの少女で、薄い赤みを帯びたピンクの髪をサイドテールにして帽子を被り、赤系の服装をしているのが特徴的な少女である。胸元には鍵が下げられており、背中には円形の何かを背負っている。
しかしその雰囲気は暗いの一言で、ハイライトの無い目がそれを物語っている。
(あれ? 何だが見覚えのあるような……)
少女を見た北斗はどことなく見覚えのある顔に首を傾げる。
もちろん彼女に会った事は無いが、誰かに似ているのだ。
「おひさー、みとり」
「……お前は」
こいしが手を振りながら少女の名前を口にすると、みとりと呼ばれた少女はスゥ、と目を細める。
「覚妖怪の妹の方か。お前の存在を認識できたのは随分と久しいな」
「そうだっけ?」
「あぁ。それにそっちはペットの鴉か」
「そうだよ-」
空を見たみとりは次に北斗を見る。
「……人間か」
と、隠す気の無い殺意がみとりより向けられる。
「……」
殺意の篭った視線に北斗は息を呑む。
「人間。私の気が変わる前に、ここから立ち去れ。さもなければどうなっても知らないぞ」
「……」
みとりは北斗に静かに告げる。それは脅迫である事は容易に想像出来る。
「それはどうかな?」
「何?」
と、こいしはどことなく自信ありげな感じでみとりに声を掛ける。
「あなたじゃ、お兄さんを殺せないよ」
「え゙っ?」
こいしの衝撃的な発言に北斗は思わず声を上げる。
「……どういう事だ?」
「正確に言えば、あなたの能力でお兄さんは殺せないってとこかな」
「な、何を言って―――」
「やってみれば、その理由は分かるよ」
「……」
みとりは怪訝な表情を浮かべるも、北斗を見る。
「こ、こいし……」
「大丈夫だよ」
不安な表情を浮かべる北斗にこいしは微笑みを浮かべる。
「お兄さんは死なないよ」
「……」
どこからそんな自信が来るのか、北斗は不安になる。
「……」
するとみとりの目が僅かに見開かれる。
その僅かな変化を見抜いたこいしはにやりと口角を上げる。
「ほら、言ったでしょ?」
「……」
こいしがみとりに声を掛けると、
「何をした?」
「別に何もしてないよ」
「……」
みとりは疑わしい目でこいしを見て、次に北斗を見る。
「? お前……」
と、北斗を見ていたみとりは何かに気付く。
「あ、あの……」
するとみとりはゆっくりと北斗へと近付き、至近距離で彼を見つめる。その突然の行動に北斗は後ずさる。
「……そうか。お前も、私と同じ―――」
「えっ?」
「……何でもない」
と、みとりは何かを言おうとするも、口を閉じる。
「で、何の用だ? わざわざこの人間を自慢しに来たというわけではないのだろう」
みとりは気持ちを切り替え、こいしに問い掛ける。
「半分それもあるけど、今から地霊殿に行くから、一緒に行こうと誘いに来たの」
「断る」
と、速攻で
「まぁそう言わずに。たまに外に出て日の光を浴びないと病気になるよ」
「私は半妖だ。そう簡単に病気に掛かりはしないし、そもそも地底で日の光も無いだろう」
みとりは的確なつっこみを入れ、こいしは「そうとも言うね」とあっけからんように言う。
「付いて来るだけだけだから、いいじゃんいいじゃん」
「断ると言っただろ」
と、
「そこまで言うなら、無意識に連れて行っても良いんだね」
「出来ればな」
「ふーん。今日じゃなくても?」
「……」
二人の間に火花が散っているような睨み合いが起こる。
「……」
北斗と空はその様子を静かに見守る。
「……はぁ」
と、沈黙の攻防の末、観念したようにみとりはため息を付く。
「今回だけだ」
「わーい。みとりやさしー」
「ふん」
あっけからんようにこいしが若干棒読みで声を漏らすと、みとりは鼻を鳴らす。
まぁ
「お待たせ、お兄さん。みとり付いて来てくれるって」
「あー、うん」
やり取りを見ていた北斗は戸惑いながらも返事する。
「……」
「あ、あの?」
と、みとりはジトー、と北斗を見ていたが、
ともあれ、こいしはみとりを連れて、再び北斗と空と共に地霊殿へと向かう。
―――――――――――――――――――――――――――――
所変わり妖怪の山上空
地底への入り口に向かう途中守矢神社に立ち寄って必要な物を持った早苗は霊夢、魔理沙と共に空を飛んでいた。
(北斗さん。待っていてください。必ず私が助け出しますから!)
早苗は手にしている御祓い幣を一瞥し、前を見る。
本当ならもっと急ぐ為に間欠泉センターに向かって直接地霊殿へと向かいたかったが、間欠泉センターの内部は高温で、とてもじゃないが通り抜けれる状態じゃ無い。仮に魔法や術で温度を調節したとしても、地霊殿へと向かう彼女達を邪魔する者が居る可能性が高いので、時間制限がある中でその時間ロスは避けたい。
それ故、確実に地霊殿へと向かう為にあえて遠回りで行くしかなかった。
「それにしたって、こいしのやつはなんで北斗を攫ったりしたんだ?」
と、早苗の隣を箒に跨って飛ぶ魔理沙が帽子を押さえながら呟く。
「さぁね。常に無意識のあいつの事なんか分からないわよ」
その魔理沙の隣を飛ぶ霊夢は
「でも、この間の懐き具合から、結構気に入っているんじゃない」
「そんなに懐いていたのか?」
「北斗さんの膝の上に乗ってご機嫌なぐらいは」
「おぉ……」
霊夢より聞いた魔理沙は思わず声を漏らす。
「……」
「ってことは、こいしのヤツ、北斗を地霊殿に連れて行った後、剥製にして飾る気なんじゃ―――」
「縁起でも無い事を言わないでください」
と、魔理沙が言い終える前に、早苗が
その声には明らかに怒りが孕まれていた。
「わ、悪い……」
その迫力に圧されて魔理沙は謝罪する。
「で、でも、やっぱりあれだよな」
「何よあれって」
「いやな、どうして北斗はこいしを認識できるようになったんだろうなって」
魔理沙は話題を変えようと、自身の疑問を口にする。
「北斗さんの話じゃ、機関区でこいしとぶつかったことで、存在を認識したって言っていたわね」
「ぶつかっただけでって……」
ふと、魔理沙はある事に気付く。
「何だか、北斗が関わると何かが起きているような気がするな。私の時といい、フランといい、こいしといい」
「私の時?」
と、早苗が魔理沙を見る。その時の声に気のせいか威圧感が込められているようにも見えて、心なしか目に光が無いようにも見える。
「あっ、いやな。大分最初の頃に私が魔法の森で蒸気機関車を見つけてな。それを北斗に伝えに行った時なんだ」
「そういえば、そんな事を言っていたわね」
「…・・・」
「ほら、北斗のヤツ飛べないだろ? だから私が箒の後ろに乗せて飛んで行こうとしたんだ」
「……」
「そしたら、飛べなかったんだ。それどころか、魔法が使えなくなっていたんだ」
「……魔法が、ですか?」
「あぁ、全くな。しばらくしたら使えるようになったけど」
「……」
「つまり、何が言いたいんですか?」
「あぁ、つまりはだな」
「北斗さんが何かしらの能力に目覚めている可能性があるってことよ」
と、魔理沙が言い終える前に霊夢が
「北斗さんが、能力に目覚めた?」
「もちろん、私の予想でしかないわ」
「それに、本人は自覚が無いようだけどな」
「……」
「そうね。これまでのことを考えて名づけるなら」
霊夢は一旦間を置いて、口を開く。
「『異質な力を封じる程度の能力』ってところかしら」
「異質な力を封じる程度の、能力……」
「おいおい。何だよそりゃ」
魔理沙は霊夢の口から出た名前に、思わず声を漏らす。
「それなら、魔理沙が魔法を一時的に使えなくなり、フランが最近大人しくなったのも、こいしの存在を認識できるようになったのに説明がつくわ」
「確かに……」
「だがよ、それだと、北斗は」
と、早苗は納得していると、魔理沙はある事を懸念する。
「魔理沙の思っている通りなら、今更幻想郷に大きな変化が起きているわ。でも今の所幻想機関区や線路が現れた程度の変化しかないわ」
「それはそうだが」
「大きな変化が起きていないなら、北斗さんの能力は限定的である可能性があるわ」
「……」
(まぁ、本当に限定的であれば良いんだけど)
霊夢はあぁ言ったものも、彼女自身も北斗の能力を危惧している。
「ともかく、急ぐわよ」
「はい!」
「おうよ!」
三人は更に速度を上げて、目的地へと向かう。
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