所変わり、人里の駅。
駅の待避線にC11 312号機とC12 208号機が牽く列車が入線して待機していた。
「区長。大丈夫かな?」
「そうだと、良いんだけど」
駅舎の待機所にて待機している
彼女達が事態を知ったのは博麗神社から人里の駅に戻ってきた時だった。
二人はすぐに緊急列車が通る為に、列車を待避線へと入れて、別命あるまで待機していた。
すると上り線側の腕木式信号機が降りて青になる。
それから少しして、上り線をD51 241号機が客車一輌と
「緊急列車が通過したわね」
「えぇ」
列車が通過したのを確認した二人は待機所を出て待避線に入れている列車に向かう。
本当ならこの後牽引機の向きを変えて再度客を乗せて博麗神社へ向かう予定だったが、緊急事態に伴い運行が中止となり、彼女達は緊急列車の邪魔にならないように機関区に戻る。
その後C11 312号機とC12 208号機の石炭と水の補給を終え、列車は客車を牽いて機関区へと戻っていく。
―――――――――――――――――――――――――――――
その頃、魔法の森では。
森の中に敷かれている線路を北斗の捜索を行う緊急列車が走っている。
79602号機を先頭に客車一輌、その後ろに
「……」
隣では機関助士の妖精が左手に焚口戸の蓋に繋がれた鎖を持ち、右手に持つ片手スコップを炭水車に積まれた石炭の山に突き刺し、掬い上げた石炭を左手に持つ鎖を持ち上げて焚口戸を開け、火室へと石炭を放り込む。
それを数回繰り返して火室全体に石炭が行き渡るように投炭して片手スコップを置き、水の量を確認して注水機のバルブを回して炭水車から水をボイラーへと送り込み、次に各バルブを捻って蒸気を各所へと送り込む。
(まさか区長が誘拐されるなんて)
(区長に恨みを持つ者の犯行かしら。それとも妖怪が区長を襲ったのかしら)
彼女はそう予想するも、事実を知らない者からすればそう考えるのも無理はないだろう。
(いいや、考えても無駄ね。今は私達が出来る事をするだけよ)
線路の上でしか動けない蒸気機関車で捜索出来る範囲は極僅かだが、それでも何もしないよりかはマシだ。
「七瀬さん! 前を!」
と、機関助士妖精が
彼女の視界に、線路の傍で手を振るう人影が見える。
しかし
突然その人影は線路の上に来て背中に背負う物を手にして広げてきた。
「っ! あの馬鹿!」
彼女は悪態を付き、ブレーキを掛けながらボイラーの安全弁を開き、汽笛を何度も鳴らす。
「っ!」
突然の非常警笛に
人影は慌てて線路の上から退くと、79602号機と48633号機はボイラーの安全弁から蒸気を噴き出しながら急停車する。
「……」
「あわわ。びっくりしたぁ」
当の本人は尻餅を付いて声を漏らした。
「あなた、一体何を考えているの」
「あっ、えぇと……」
その人物こと多々良小傘は慌てて立ち上がり、番傘を畳んで背中に背負う。
「どうしても止まって欲しかったから、私なりの方法で止めてみたの!」
「……」
なぜか自信満々に胸を張る小傘に、
「七瀬さん! 一体何があったんですか!?」
と、
「線路にこの子が入り込んだから、緊急停止したの」
「えぇっ!?」
「危ないですよ! もし轢かれたらひとたまりもありませんでしたよ!」
「うっ、ご、ごめんなさい」
彼女から叱られて、小傘は謝る。
「それで、怪我はないかしら?」
「えっ?」
「大丈夫です。どこにも怪我はありません」
「そう。……まぁ、無事で何よりだったわ」
と、彼女は安堵したように息を吐くと――――
「ぐえぇっ!?」
と、
「う、うわぁ……」
後ろで見ていた
「それで、一体なんで列車を止めたの? 相応の理由があっての事よね?」
と、明らかに次の拳骨を出す体勢で彼女は小傘に声を掛ける。
「うぅ……そうですよぉ」
涙目になり、小傘はたんこぶが出来た頭を押さえながら答える。
「あなた達が動かしている蒸気機関車をわちきが見つけたから、それを伝えたかったの」
「……なんですって?」
聞き捨てならない言葉に
「ほ、本当なんですか!?」
「うん。この先に大きな蒸気機関車があるの」
「この先って」
と、
「でも、この先線路はなかったはずです」
「えぇ。そのはずよ。本当なのよね」
「ほ、本当だよ! 行ってみれば分かるから!」
「……」
必死になって伝える小傘を見て、
「どうします?」
「……」
(もし本当なら、どの道この辺りの再調査をする事になるから、この際区長の捜索ついでに調べてみる必要があるわね)
そう考えて、彼女はため息を付く。
「案内しなさい」
「っ! はい!」
「良いんですか?」
「区長の捜索ついでよ。嘘なら後で何とかすれば良いんだから」
と、半ば物騒な事を呟きながら
「乗りなさい」
「は、はい」
小傘もオドオドとしながらも79602号機の
彼女が乗り込んだのを確認して
―――――――――――――――――――――――――――――
所変わって地底。
『……』
目的地へと向かうこいし一行であったが、気まずい雰囲気が漂っていた。
北斗の横を歩くみとりから常に不機嫌オーラが発せられている為に、北斗は落ち着けなかった。こいしと空に関しては気にしていないのか、それとも気付いていないのか平気な様子であった。
「……」
そういうオーラに敏感である北斗は、彼女が隣に居て落ち着けなかった。
(それにしても……)
しかしそんな中でも、北斗は横目でみとりを見ていた。
無表情でハイライトの無い目をしているが、それを除いて彼はある事が気掛かりだ。
(やっぱり、誰かに似ているような……)
みとりのどことなく見覚えのある顔つきに彼は内心唸る。
本人に聞けば分かりそうな事だが、当の本人が答えてくれるかどうか怪しいし、何より不機嫌なオーラが声を掛けにくくしている。
しかし気になってしょうがないので、彼は意を決して彼女に声を掛ける。
「あ、あの?」
「……なんだ」
と、声を掛けられたみとりはハイライトの無い目を北斗に向ける。
「その、みとりさんってご家族とか、そういった身内が居たりします?」
「……」
と、みとりの不機嫌なオーラが一層強くなる。
「聞いてどうする」
「あっ、いや、ただ、みとりさんを見ていると、誰かに似ているなぁって、思って」
オーラに圧されつつも、北斗は疑問を彼女に掛ける。
「……」
「そういえば、みとりさんは名字ってあるんですか?」
「だからなんだ」
「いえ、もし聞いたら、分かるかもしれないので」
「……」
「いいじゃん。教えても」
と、こいしは後ろを振り返って後ろ歩きしながらみとりに対して声を掛ける。
「教えたって減るもんじゃないし」
「……」
「それに、意外な事を知れるかもよ」
こいしはみとりに近付いて小さく彼女にそう告げると、彼女から離れて前の方を向く。
「……」
みとりは渋々とであったが、北斗の質問に答えることにした。
「……河城だ。これでいいか」
彼女は出来れば口にしたくない自身の苗字を彼に伝える。
「河城? もしかしてにとりさんの関係者ですか?」
「……にとり」
と、みとりは驚いた様に少し目を見開く。
「にとりを、知っているのか?」
「はい。自分が今幻想郷で行っている鉄道と呼ばれる事業をにとりさんを含む河童の皆様が協力してくれています」
「……」
みとりは少し間を置いてから口を開く。
「にとりは、元気か?」
「はい。元気で、楽しくしていますよ」
「……そうか」
と、みとりは少しではあったが、穏やかな表情を浮かべる。
「にとりさんの事を、知っているんですか?」
「……あぁ。私は……あいつの姉だ」
彼女は一瞬言うのを躊躇ったものも、最後まで言い切る。
「にとりさんの、お姉さんなんですか?」
北斗は驚いたように声を漏らす。
言われてみればみとりはにとりとよく顔つきが似ており、よくよく考えてみれば名前も一文字違いだ。
「でも、どうしてにとりさんのお姉さんが、こんな所に」
「……」
「あっ、言えない理由がありましたら、もうこれ以上聞かないです」
北斗はみとりの様子からそれ以上の詮索をやめる。
「……私はあいつの姉だが、正確には異母子だ」
「異母子? 腹違いの姉妹なんですか?」
「あぁ。それも、種族の違う母親のな」
「……ハーフ、なんですか?」
「……はーふ?」
「あっ、外の世界の外来語で、種族と種族が違う間に生まれた子供の事を言います」
「……」
意味はある程度しか合ってないが、北斗は彼女に分かりやすく伝える。
「父親は河童だが……母親は人間だ」
「人間……」
北斗は思わず息を呑む。
「河童と人間の友好のかけ橋を願ってと、そんな希望を抱いていたようだけど、所詮は理想に過ぎなかった」
みとりは苛立つ様子で眉間に皴を寄せて目を細める。
「人間からすれば妖怪の血が流れている忌まわしき存在。河童からすれば人間の血が流れている半端な存在。私はどちらにも受け入れられなかった」
「……」
「人間の里に行けば、妖怪の血が流れていると忌み嫌われ、河童の里に行けば人間の血が流れている半端者だと罵られた。あの二人も、半ば私を見捨てていた。私に居場所は、無かった」
「居場所が、無い……」
思うところがあったのか、北斗は思わず声を漏らす。
「それでも、にとりは私のことを慕ってくれた」
と、みとりは僅かに笑みを浮かべる。
「毎日私の所に来ては、その日にあった事や、自分の作った物を見せた。時には私を喜ばせようとしていたな」
「……」
「親や人間、河童は私を見捨てたが、にとりは見捨てなかった」
「……」
「だが、にとりが私に関わった事で、あの子は周りから虐めを受けていた」
「虐め……」
北斗は思わず声を漏らすが、彼女は気にせず続ける。
「にとりは何でも無いと、ただ転んだだけだと言っていたが、見れば何かされた事は明らかだった」
「……」
「私はこれ以上あの子に私の為に傷付いて欲しくなかった。だから、私は里を去って、ここに居る」
「そう、ですか……」
北斗はそう呟くと、前を見る。
「しかし、何でだろうな」
「……?」
「お前とは今日会ったばかりだというのに、よく口が開くな」
「……」
「お前から似たようなものを感じるからか、それともただ単に私が変わっただけか」
(似たようなもの、か)
みとりの呟きに、北斗は内心呟く。
彼女の話は、どことなく自分と似ていた。
何かが違うからという理由で虐げられ、遠ざけられた人生。そして北斗自身気付いていないが、異なる種族の両親を持っているという、偶然の一致があった。
「まぁ、私の気のせいか」
「……」
みとりはそう呟くと、浅くため息を付く。北斗は何とも言えない表情を浮かべる。
感想、質問、要望等がありましたら、お待ちしています。