地霊殿へと突入した早苗と魔理沙は大広間に出て床に足を着ける。
「さてと、地霊殿の中に入る事が出来たが、北斗のヤツはどこに居るのやら」
「手分けして探すしか無いですね」
「だな」
いくつもある通路を見渡しながら彼女が呟くと、早苗も周囲を見渡して魔理沙にそう答える。
しかしさすがに二人で捜索となると、この広い地霊殿の中で一人の人物を探し出すのは困難を極める。
さすがに紅魔館と比べればまだ狭い方だが、それでも屋敷なので部屋はいくつもある。
(北斗さん……)
早苗は胸元に左手を置いていると、周囲を見回している間に胸中を不安が渦巻き、思わず握り締める。
(私が、私が最後まで傍に居て上げたら、そもそもこんな事には……)
今思い返せば、自分の甘さが所々にあって、そんな自分に苛立ちを覚えていた。
ここは幻想郷であり、外の世界と違い危険が多く潜んでいる。そしてあの時、早苗と北斗が居たのは妖怪の山。例え信用出来る者が近くに居たとしても、決して隙を見せて良い場所ではない。
(北斗さんに散々言っていたのに、私が全く注意していないなんて!)
散々幻想郷が危険であると、気を付けていないといけない事を教えていたのに、そんな自分が気をつけていなかった。
そんな自分に腹立たしくて、苛立ちが募るばかりだ。
「早苗」
と、早苗の肩に手が置かれる。
「魔理沙さん……」
「落ち着けよ。落ち着かないと、いざって時にヘマをするぞ」
「……」
「それに、気持ちを切り替えろよ」
「えっ?……!」
と、早苗は前から気配に気付き、前を見る。
「まさかお前とまた会うとはな、魔法使い」
と、上からみとりが降りてきて床に足を付ける。
「っ! お前! あの時の赤河童!」
みとりの姿を見た魔理沙は身構える。
「し、知っているんですか?」
「前にちょっとな。何でお前がここに居るんだ!」
「ちょっとした用件で、お前達を食い止めろと言われているのでな」
と、みとりは背中に背負っている円形の物体を手にして棒を出すと、車輌通行止めの標識が現れ、棒を手にする。
「悪いが、邪魔をさせてもらうぞ」
「……こいしさんですか」
「さぁ、どうだろうな」
早苗はみとりの言う用件がこいしの事じゃないかと問い掛けるも、彼女は惚ける。
「……」
「早苗。先に行け」
「魔理沙さん?」
と、魔理沙が八卦炉を手にしながら早苗の前に出る。
「こいつとは前に戦ったことがある。厄介な能力を持っているからな」
「……」
「助けたいんだろ?」
「っ!」
「なら行け、早苗!」
「……」
早苗は一瞬驚くも、気を引き締めて歩み出す。
「ありがとうございます」と小さな声でお礼を言ってから、彼女は奥に向かって飛翔する。
「気を使ったのか」
「まぁな」
と、魔理沙は不敵に笑みを浮かべ、片手で帽子の位置を整える。
「早苗にとって、北斗は大切な存在みたいだからな。邪魔はさせたく無いんだよ」
「……大切な存在、か」
みとりは標識の柱を握り締め、魔理沙を睨む。
「付き合ってもらうぜ、河童!!」
魔理沙は右手に持つ八卦炉をみとりに向ける。
「みとりだ」
「ん?」
「それが私の名前だ」
「珍しいな。あん時はろくに会話をしなかったっていうのに」
「それはお前だろう」
みとりは呆れた様子で声を漏らすと、標識の先を魔理沙に向ける。
「ここから先は一方通行だ。通りたければ、私を倒すのだな」
「もう早苗は通ったけどな」
「……」
と、僅かにみとりの頬が赤くなる。
「まぁ、お前に言われなくたって、そのつもりさ! 恋符『マスタースパーク』!!」
と、魔理沙は八卦炉を開き、必殺技を出そうとする。
「っ?」
しかしいつまでも彼女の八卦炉からは何もでない。
「しまった。こいつは―――」
「お前のそのカラクリの動作を禁止した」
と、みとりは柄頭を床に付ける。
そう。これこそが河城みとりの能力『あらゆるものを禁止する程度の能力』である。どれほどの効果範囲があるかは本人も把握していないが、このように一部の動作を禁止にするのは造作もない。
「そうだったぜ。お前も十八番だもんな」
魔理沙は八卦炉をスカートのポケットに仕舞い、箒に跨る。
「そんなものをいきなり使われるのは困るからな。赤河童『禁止看板』!」」
と、みとりは宙に浮き、スペルカードを発動させて弾幕を放つ。
「そうかよ。だったら、他でやるまでだぜ!」
魔理沙は歯噛みしながらも、みとりの弾幕を回避する。
―――――――――――――――――――――――――――――
早苗は地霊殿の廊下を飛行し、先を急ぐ。
(北斗さん。待っていてください。必ず助けます!)
彼女は猛スピードで廊下を飛翔し、曲がり角が迫ると壁を蹴って無理矢理方向を変えて飛ぶ。
「っ!」
と、何度も繰り返して進んでいくと、彼女の視界にある者が映り、早苗は飛行する速度を落としながら床に着地して、その者を睨む。
「……やっぱり来たんだね、山のお姉さん」
と、その者ことこいしは振り返りながら早苗を見る。
「こいしさん……」
早苗は御祓幣を持つ手に力を入れて握り締める。
「その先に、北斗さんが居るんですね」
「うん。そうだよ」
「……そうですか」
早苗は憤る感情を抑えつつ、北斗の居る場所を把握できた事を安心して、こいしを見る。
「こいしさん。一つ聞いていいですか?」
「何かな?」
「なぜ北斗さんを攫ったのですか」
「なぜ、かって?」
と、こいしは首を傾げて、口角を上げる。
「お兄さんと一緒に居たかったからだよ」
「それだけ、ですか」
「そうだよ」
こいしの返答に早苗は俯くと、両手を震わせながらも、更に問い掛ける。
「なら、なぜ地底に連れて来る必要があるんですか。一緒に居たいなら、こんな所に―――」
「こんな所、ねぇ」
「っ!」
と、こいしははっきりと、若干強めの口調でそう言い放つ。
「そうやって、また私達を除け者にするのね」
明らかに機嫌を損ねたような声色で、こいしは早苗を睨みつける。
「そんなつもりで言ったんじゃ!」
「じゃぁ、どうしてお姉さんはお兄さんが地底に行っちゃいけないって思っているの?」
「っ……それは」
「危険だから、地上よりも危ないのが多いから、だって言うの?」
「……」
「アハッ。そうなんだ」
「フフフ……」と小さく笑いを零す。
「何がおかしいんですか!」
「そりゃ、だってねぇ」
こいしは傾けていた頭を元の位置に戻し、ニィ……と口角を上げる。
「そんなに危ないって心配しているのに、お姉さんはお兄さんを山に置いていったじゃない」
「っ!?」
早苗はこいしの言葉に胸を突き刺されたような感覚が走る。
「そ、それは」
「安心だった? 信頼出来る者が居たから? でも現にお兄さんは私がここに連れて来たんだよ?」
「っ……!」
言い返すことも出来ず、早苗は歯噛みする。
「あの時、少しの間河童の目が無くなったんだよ。たった一人、無防備のお兄さんが一人、妖怪の山でだよ? 襲ってくださいって言っているようなものじゃない」
「……」
「私はお兄さんを救ってあげたんだよ。あのままだとお兄さんは妖怪に襲われていたかもしれなかったから」
「だからって、だからって、自分が正しいと、そう言いたいんですか!」
「そうだよ。どっかの誰かさんみたいに、無責任じゃないから」
「っ! でも、あなたの行為は人攫いです! 無理矢理攫っておいて、何が正しいんですか!」
早苗は声を荒げ、御祓幣をこいしに向ける。
「それに、自身の正当性を述べたって、それが北斗さんをここに連れて来た理由では無いはずです!」
「どうしてそんな事が言えるの?」
「本当に北斗さんを助けるのなら、わざわざ地霊殿に連れて来る必要は無いんです!」
「……」
「こいしさん! 本当の目的は何なのですか!」
「……」
こいしはため息を付き、早苗の質問に答える。
「……お兄さんは地上に居るべきじゃない。お兄さんはここに居るべき人間だから」
「……なん、ですか、それ」
こいしの理解出来ない言葉に、早苗は途切れ途切れに声を漏らす。
「だって、お兄さんは外の世界で私達みたいに忌み嫌われていたんだから」
「っ! なぜそれを」
早苗は思わず声を漏らす。
少なくとも、北斗の過去を知っている者は自分を含めても仕えている二柱ぐらいである。それにこいしは北斗と頻繁に会っていないはずなのに。
「北斗さんから、聞いたのですか?」
「ううん。聞いて無いよ」
「だったら―――」
「お兄さんの口からは、ね」
「っ! ど、どういう事ですか?」
こいしの口から意味深な台詞が出て、早苗は戸惑う。
「見えたからね。お兄さんの、心の中が」
「心の中を?」
早苗は訳が分からなかった。なぜなら―――
「何を言っているんですか。あなたのサードアイはもう」
「閉じているよ。ずっと前から、今もね」
こいしは自身の固く閉ざされたサードアイを手にし、目を細めて見下ろす。
「だったら」
「でもね。見えたんだ。そう……
「北斗さんに触れて居る時に……」
早苗は心当たりがあって、ハッとする。
「まさか、あの時に」
彼女はC55 57号機とC59 127号機を見つけた時、その後に博麗神社にてこいしが北斗の膝の上に座った時の事を思い出す。
「うん。お兄さんが私に触れて居る時は、僅かにだけど見えるようになったの。まぁ、本当に少ししか見えなかったんだけどね」
「……」
「酷いよねぇ、人間って」
こいしは後ろで両手を組んで左右にゆっくりと揺れる。
「自分より弱い者にしか強く出られず、理解の及ばない事が起きると、誰かのせいにしたがる」
「……」
「お兄さんを虐めていた人間に不幸が降りれば、今度はお兄さんを忌み嫌い、遠ざけ、そして否定した」
と、後ろを振り向きながら、彼女は続ける。
「身勝手で、醜いよね、人間は」
「……何が、言いたいんですか」
早苗は苛立つ感情を抑えつつ、こいしに問い掛ける。
しかしその苛立ちは果たして、こいしに対しての苛立ちなのだろうか。
「でもね、そんなお兄さんを、地底のみんなは嫌ったりしない。人間達は否定しても、私達は否定しない」
こいしは振り返りながら両腕を広げる。
「お兄さんは私達覚妖怪を否定せず、受け入れてくれた。地底でも忌み嫌われている、私達を。もちろん私だけじゃない」
「……」
「みとりの正体が妖怪と人間の間で生まれた半妖であっても、お兄さんは嫌な顔一つせずに受け入れた。鬼である勇儀を前にしても、恐れなかった」
「だから、北斗さんは地底に相応しいと、そう言いたいんですか」
「その通りだよ。今は良くても、必ず人間達は……いや、地上の者達はお兄さんを否定する」
「……」
「私はお兄さんを否定しない。これからもずっと。だから、お兄さんは地底に居るべきなんだ!」
こいしは強い口調で、言い放つ。
「そんな、そんな勝手なことばかり!」
と、早苗は一歩前に足を踏み出すと、床に亀裂が走る。彼女の怒りが頂点に達して、彼女から強い神力が溢れ出ていた。
「例え幻想郷の誰もが、北斗さんを否定しても、私は北斗さんを否定しない! いや、否定させてなるもんですか!!」
彼女はキッとこいしを睨みつけ、身構える。
「こいしさん! あなたの勝手にはさせません! 北斗さんは、必ず救い出します!!」
「……そう。なら」
と、こいしは早苗を睨みつけ、力を込める。
「お兄さんは渡さない。お姉さんを、潰して上げる」
「……」
「秘術『グレイソーマタージ』!!」
「表象『弾幕パラノイア』!!」
二人は同時にスペルカードを発動させ、弾幕が互い襲い掛かる。
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