地霊殿の天井を破り、外に出た早苗とこいしは互いに弾幕を放ち、その隙間を縫うように飛ぶ。
早苗はうつ伏せから仰向けに変わるように体勢を変えながら飛び、こいしに接近するも、彼女は弾幕を出しつつ下がって早苗との距離を保つ。
「開海『モーゼの奇跡』!!」
早苗はスペルカードを発動させると、まるで瞬間移動をするように姿を消してこいしの頭上に出現し、弾幕を放つ。
突然現れた早苗にこいしは慌てずに弾幕をかわし、一定の距離を持って離れる。
直後に早苗のスペルカードの効果が切れて、弾幕が途切れる。
「抑制『スーパーエゴ』!」
その瞬間を見逃さずこいしはスペルカードを発動させ、光弾を放つ。
「くっ!」
スペルカードが発動した瞬間早苗はこいしに引き寄せられる感覚に襲われるも、その感覚を気に留めないようにして何とか距離を保ち、光弾の弾幕をかわす。
一、二発の光弾が袖やスカートを掠るが、早苗は弾幕を避け続けると、しばらくしてこいしのスペルカードの効果が切れて弾幕が消え、互いに距離を置く。
「奇跡『ミラクルフルーツ』!」
直後に早苗はスペルカードを発動させ、自身を中心に赤い光弾を八箇所に放ち、八つの光弾が弾けて弾幕が楕円形上に拡散する。
こいしは赤い光弾の弾幕の隙間を潜り抜けるが、数発の光弾が掠る。
しばらくして、弾幕が途切れて、光弾が消えて無くなる。
「……やるね、お姉さん」
「……」
お互い距離を取っていると、こいしが口を開く。
「人間って、必死になると大分変わるもんだね」
「……」
「どうしても、お兄さんを連れ戻したいの?」
「当たり前です」
早苗はこいしの質問に即答し、昂りそうになる感情を抑える。
「こいしさん。あなたが分からないわけが無い筈です。奪われる側の気持ちが」
「……」
「北斗さんだって、無理矢理地底に連れて来られて、困っていたはずです」
「……」
早苗の言う通りだったので、こいしは顔を顰める。
「それに、北斗さんは……北斗さんは……」
早苗は御幣の柄を握り締める。
「そんなに、お兄さんの事が大切なんだ」
こいしは目を細めて、彼女を見る。
「っ! それは……」
「でもそれって、どういう意味で大切だと思っているの?」
「……」
こいしの質問に、早苗は心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥る。
「な、何を……言って……?」
早苗は搾り出すようにして、こいしに問い掛ける。
「だって、お兄さんの事を大切だって言っているけど、どういう意味で大切だなんて、言ってないよね」
「……」
こいしにそう言われて、早苗はハッとする。
「お姉さんにとって、お兄さんはどういう意味で大切なの?」
「そ、それは……」
早苗は答えようとするが、言葉が出なかった。
(私にとって、北斗さんは……北斗さんは……)
彼女は陸に上げられた魚のように、口を開閉させるしか出来なかった。
北斗のことが大切であると言うのは確かであるが、その大切の意味が何なのか、彼女は答えを出せなかった。
何だかんだ言っていたのに、自分の感情を……何も理解していなかった。
「それとも、お兄さんが自分と同じ境遇だったから、自分のことを理解してくれるから、そんな
「っ!」
その瞬間、彼女の中で、何かが切れた。
「そんな、理由?」
震える声で、早苗はこいしに声を掛ける。
「あの時お兄さんと一緒に、お姉さんの記憶も見えたんだよね」
「……」
「お姉さんにとって、お兄さんは自分の苦労や苦しみを理解してくれる人として見ているの?」
「……」
早苗は俯き、御幣の柄を握り締める。
「あなたに」
「……?」
「あなたに、何が分かるって言うんですか!!!」
早苗は叫ぶと同時に弾幕を放つ。こいしは後ろに飛んで弾幕をかわす。
「神奈子様に諏訪子様以外、誰も助けてくれなかった、私の何が分かるのですか!!」
今まで我慢していたとあってか、早苗は感情に囚われて叫ぶ。
「分からないよ。私はお姉さんじゃないし」
弾幕をかわしながらこいしはそう答える。
「でも、お姉さんはまだ恵まれているじゃない」
「っ!」
「お兄さんには、お姉さんみたいに頼れる人なんか居なかったんだよ」
「それは……!」
以前北斗から聞かされた内容を思い出し、早苗は言葉を詰まらせる。
「それなのに、自分は不幸だって言って、悲劇のヒロイン気取り?」
「……くっ!」
早苗は歯噛みをして、スペルカードを手にする。
「こいしさん! 世の中言って良い事と、悪い事があるんですよ!」
「……」
「私はそんな、そんな安っぽい事を考えてなんかいません!!」
早苗は手にしているスペルカードを掲げる。
「大奇跡『八坂の神風』!!」
スペルカードを発動させると、彼女の周りに光弾が集まり、一斉に光弾が放たれる。
こいしは弾幕の隙間を縫って回避するが、いくつかの光弾が掠る。
「っ!」
余裕が無くなって来たのか、こいしの表情が強張る。
「じゃぁ、お姉さんにとって、お兄さんは何なの!!」
こいしは声を荒げ、早苗のスペルカードの効果が切れて弾幕が消えると同時にスペルカードを掲げる。
「深層『無意識の遺伝子』!!」
スペルカードを発動させると、二種類の色をした光弾が放たれ、メビウスの輪を描くように早苗へと向かっていく。
「っ!」
早苗は追尾して向かってくる光弾をかわすと、その光弾が通った後の光の筋が光弾となって辺りに放たれる。
その弾幕も彼女はかわすも、光弾がいくつも掠り、徐々に服が焦げていく。回避がままならなくなって、早苗は限界に近付いていた。
「北斗さんは……私にとって、北斗さんは!!」
弾幕を潜り抜け、こいしのスペルカードの効果が切れて弾幕が消える。
「外の世界で初めて出来た、かけがえのない……大切な、大切人なんです!!」
早苗はスペルカードを掲げ、発動させる。
「秘法『九字刺し』!!」
スペルカード発動と共に縦と横から色とりどりのレーザーのような弾幕がこいしに向かって放たれる。
「っ!」
こいしはレーザーとレーザーの間を潜り抜けるが、疲労と掠ったダメージの蓄積で動きが鈍っており、ほぼギリギリであった。
縦方向からのレーザーをかわすが、その回避先で横方向からレーザーが飛んでくる。
こいしはかわそうとしたがもう遅く、レーザーの直撃を受け、更に他のレーザーの直撃を受けたことで、彼女の視界は白く包まれる。
―――――――――――――――――――――――――――――
「っ!」
こいしが光に包まれた光景に、北斗は思わず窓に手を当てる。
「どうやら、決着が付いたようですね」
さとりは静かにそう告げると、北斗を見る。
「あの、大丈夫なんでしょうか? 思いっきり直撃していましたけど……」
「えぇ。多少服がボロボロになりますが、殺傷能力は無いので大した事はありません」
「なるほど」
さとりの説明を聞き、北斗は納得したように頷く。
「これで、あなたは地上に戻れますよ」
「……」
「弾幕ごっこは決闘である以上、敗者は勝者に従う。そういう事です」
「……」
さとりの話を聞き、北斗は窓の外を一瞥する。
「それに、迎えも来ているようですし」
「……」
と、部屋の外からなにやら騒いでいる声が二人の耳に届く。
「行きましょう、北斗さん」
「はい」
さとりは窓から離れて部屋の出口に向かい、北斗もその後に付いて行く。
―――――――――――――――――――――――――――――
「はぁ……はぁ……はぁ……」
肩で息をしながらも早苗は地面に降りて、呼吸を整える。
「……」
深呼吸をして、呼吸と共に気持ちを整理し、ゆっくりと歩き出す。
「負けちゃった、なぁ……」
地面に背中を着けて仰向けに倒れているこいしは早苗が近付くと、そう呟く。
「私の気持ちより、お姉さんの気持ちの方が強かったみたい」
「……」
「でも、まぁ」
こいしは深くため息を付き、上を見上げる。
「結局のところ、無駄に終わっちゃったなぁ」
「……」
「無理矢理連れて来た以上、お兄さんの気持ちはこっちに向かないしね」
「こいしさん。あなたは……」
「まぁ、元々お姉ちゃんにお兄さんを紹介したかったから、それが出来ればよかったんだけどね」
「……」
「そういや」
と、こいしは首だけ動かして早苗を見る。
「お姉さん。またお兄さんの事を大切だって言っていたね」
「……それは」
そう言われて、早苗はハッとして言葉を詰まらせる。
感情的になっていたとは言えど、また口先だけだと思われてしまう。
「まぁ、さっきのは何か説得力があったし、口だけじゃ無かったしね」
「……」
「何だかお姉さん。吹っ切れたみたいに見えるよ」
「そ、そうですか?」
「うん」
と、こいしは両脚を上に上げてその反動で背中を一瞬浮かせると、勢いよく脚を下ろしてその反動で上半身を浮かせるように立ち上がる。
「今回は負けちゃったし、お兄さんの事は諦めるよ」
「……」
「でも……」
と、こいしは早苗の傍に近づき、口を開く。
「私はまだ、お兄さんを完全に諦めたわけじゃないからね」
「……」
こいしの言葉に早苗は息を呑む。
「その時が来るまで、お姉さんも頑張ってみてね」
と、何やら意味深な事を呟き、そのまま地霊殿へと向かって歩いていく。
「……」
早苗は少しして、こいしの後に付いて行って地霊殿へと向かう。
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