東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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今回作者の考察が含まれています。もしかしたら事実と異なる可能性がありますので、ご了承ください。


第84駅 地底に眠る者

 

 

 

「この度妹がご迷惑をお掛けしまして、誠に申し訳ありませんでした」

 

 弾幕ごっこが終わった後、無事に北斗と合流した早苗達は地霊殿の執務室に移動し、そこでさとりが今回の件について霊夢達に頭を下げて謝罪する。

 

「全く。妹の手綱ぐらいしっかり握っておきなさいよ」

 

「雲を掴むような話でなければ、そうしていましたよ」

 

 霊夢が呆れたように言うと、さとりは皮肉めいた返答を返す。

 

「まぁ、何だ。北斗のヤツが無事で何よりだったじゃないか」

 

 と、二人の間の微妙な空気を打開しようと、魔理沙が北斗を見ながら口を開く。

 

 霊夢は軽く鼻を鳴らし、さとりもそれ以上は言わなかった。

 

「早苗さん、霊夢さん、魔理沙さん……えぇと……」

 

 北斗は早苗達にお礼を言おうとしたが、初めて見る妖夢の姿を見て戸惑う。

 

「初めまして。魂魄妖夢と申します。霧島さんのことは霊夢や魔理沙から聞いています」

 

「あぁ、どうも。霧島北斗と申します」

 

 北斗と妖夢は軽く自己紹介をして、彼は咳払いをして気持ちを改める。

 

「皆さん。今回は自分の為に迷惑を掛けてしまって、申し訳ありませんでした」

 

 北斗は深々と頭を下げる。

 

「い、良いんですよ、北斗さん」

 

 と、早苗が戸惑いながらも北斗に声を掛ける。

 

「北斗さんが無事なら、私はそれで良いんです」

 

「早苗さん……」

 

 微笑みを浮かべる早苗の姿に北斗は気まずそうに頬を軽く掻く。

 

「本当に、本当に心配したんですから……」

 

「……」

 

 

「ん゙ん゙っ!」

 

 と、甘い空間になりそうなところを霊夢がわざとらしく咳払いをして、二人はハッと気付いて気持ちを切り替える。

 

「まぁ兎にも角にも、北斗さんが無事で何よりだったわ」

 

 霊夢はため息を付き、呟く。

 

「霊夢さん。ありがとうございます」

 

「お礼はいいわ。幻想郷の住人を守るのが博麗の巫女の役目よ」

 

 そう言うと霊夢は北斗を一瞥して、さとりの隣に立つこいしに目を向ける。

 

「さてと、分かっているわよね」

 

「……」

 

「この幻想郷で人間を攫う行為が、どれだけ重いかを」

 

「……」

 

 霊夢はこいしを睨むも、彼女は表情を変えず、霊夢を見据える。

 

「あ、あの、霊夢さん……」

 

 と、北斗は恐る恐る霊夢に声を掛ける。

 

「こいしの事は、今回は許してもらえないでしょうか?」

 

「……」

 

「その、こいしも決して悪気があったわけじゃないんです。感情的になって、突発にしてしまっただけで、もうこんな事はしないって約束はしました」

 

 半ば霊夢に睨みつけられてたじたじになりながらも、言葉を続ける。

 

「ですから、今回は自分に免じて、彼女を許してもらえないでしょうか?」

 

「北斗さん……」

 

「北斗……」

 

「……」

 

 こいしを庇う北斗に少し不機嫌そうな霊夢が睨んでいるのを、早苗達が見守る中、霊夢は口を開く。

 

「北斗さん。例え被害者のあなたが許したとしても、こればかりは「はいそうですか」って言える問題じゃないの」

 

「……」

 

「これで許せば、あいつが良いなら俺も良いだろうって、そう考えて同じようにやらかす輩が出てくるわ。それに、種族関係なく平等である博麗の巫女としての体裁もあるのだから、例外は許されないの」

 

「……」

 

 霊夢の言い分に、北斗は何も言えなかった。 

 

 外の世界と違って、幻想郷では被害者が許せばそれで済む問題ではない。多種族の均衡が存在する以上、幻想郷の管理者である博麗の巫女は平等でなければならない。人間だからとか、妖怪だからとか、そんな贔屓は無い。

 罪を犯せば、妖怪であろうが、人間であろうが、必ず博麗の巫女によって処罰される。それが幻想郷の掟であるのだ。

 

「文句は無いわよね、さとり?」

 

「えぇ。妹がやった事です。私が止めるわけにもいきません」

 

 霊夢に声を掛けられてさとりは視線を逸らしながら答える。

 

「さとりさん……」

 

「いいんだよ、お兄さん」

 

 と、さっきまで黙っていたこいしが口を開く

 

「自分がやった事だし、ちゃんとケジメは付けないとね」

 

「こいし……」

 

 こいしの覚悟に北斗は何も言えず、それ以上言葉を続けられなかった。

 

「覚悟はいいわね?」

 

「……」

 

 彼女の問い掛けに、こいしはただ静かに頷く。

 

「……」

 

『……』

 

「……」

 

 北斗は落ち着かない様子で見守り、早苗達もただ見守る事しか出来なかった。そしてさとりは横目で、こいしを見守る。

 

「……」

 

 霊夢はこいしの前に来ると、右手を彼女に向ける。

 

 

 

 

 

 ピシッ!

 

 

 

 

 

「あぅっ!?」

 

 と、こいしは大きく顔を仰け反らせる。

 

 霊夢は握り拳で、人差し指だけを真っ直ぐ伸ばしている。

 

「うぅ……」

 

 仰け反ったこいしは霊夢を見ると、彼女の額には一箇所だけ赤くなっている。

 

 

 霊夢が何をしたかと言うと、こいしの額に強めのデコピンをしたのである。

 

 

「今回はこの程度で済ませているけど、次はもっと容赦しないから、覚悟しておきなさい」

 

 腕を組んで霊夢はそう言うと、鼻を鳴らす。

 

「……」

 

「まぁ、あいつなりの優しさってことだ。それに、北斗の気持ちを尊重してやったんだよ」

 

「……」

 

 意外な結果に呆然としている北斗に魔理沙が霊夢の行動を説明する。

 

「ホント、霊夢は優しいね」

 

 大よそ分かっていたのか、妖夢は微笑みを浮かべて呟く。

 

(相も変わらず、妙な所では優しいのですね)

 

 さとりは内心呟くが、彼女はサードアイで霊夢の内心を読み取っていたので、特に慌てる様子を見せなかったのである。

 

「さてと、さっさと地上に戻るわよ」

 

 霊夢は組んでいた腕を解いて執務室を後にしようとする。

 

「あっ、霊夢さん。その前に」

 

「なに?」

 

 と、北斗が声を掛けると霊夢は少し威圧気味に振り向きながら声を漏らす。

 

 その威圧感に北斗は一瞬たじろぐも、すぐに口を開く。

 

「帰る前に、寄りたい所があるんですが」

 

「寄る所? 北斗さんが寄りそうな所はこの地底には―――」

 

「ありますよ、霊夢さん」

 

 すると霊夢の言葉をさとりが遮り、北斗とこいし以外がさとりを見る。

 

「蒸気機関車の燃料である石炭の採掘所です」

 

「えっ!? どうして石炭の事を!?」

 

 さとりの口から意外な名前が出てきたことに早苗が驚く。

 

「お忘れですか? 私が覚妖怪であることを」

 

 さとりは自身の左胸付近にあるサードアイを手に乗せて早苗に見せ付け、早苗達は思い出してか納得する。

 

「北斗さんの心を覗いて、色々と知りました。そして彼がその石炭を必要としているのをね」

 

「……」

 

「尤も、彼自身は地底に石炭があるというのをあなたが仕えている二柱の片割れからお聞きして、興味があったようですが」

 

 と、さとりがそう言うと、早苗は北斗を見て、彼は気まずそうに頬を軽く掻く。

 

「北斗さん。こんな状況でそんな事を考えていたんですか?」

 

「え、えぇ。神奈子さんが地底に石炭がある可能性を言っていたので。将来的には地底を調べたいと思っていたので、この機会に聞いてみたんです」

 

「……」

 

 相変わらず北斗のズレた感性に早苗は肩を落とす。

 

「まぁ、こちらとしては増え続ける石炭を引き取ってもらえれば助かります。運び出す方法は追々考えるとして」

 

「しかももう取引を済ませているんですか!?」

 

「えぇ。条件付きでありますが」

 

 さとりから衝撃発言があって、早苗は思わず驚いて声を上げる。

 

「ハッハッハッ!! 転んでもタダじゃ起きないねぇな、北斗!」

 

 魔理沙はケタケタと面白く笑う。

 

「全く」と霊夢は頭に片手を当てて呆れてため息を付く。まぁ自分達が助けに向かっていたというのに、その間にこんな事をしていると聞かされたら、呆れて当然である。

 

(魔理沙の言う通り、霧島さんって変わっているんだ)

 

 と、妖夢は内心で妙な方向で納得してしまう。

 

「確かに石炭の事もありますが、それよりも見ておきたい物があります」

 

「えっ? それって……」

 

 早苗が首を傾げていると、北斗はこいしを見る。

 

「こいし。今から蒸気機関車がある所に連れて行ってくれるかい?」

 

「っ! うん! もちろんだよ」

 

 と、北斗がそう頼むと、こいしは笑顔を浮かべて了承する。

 

「まさか、この地底に蒸気機関車が!?」

 

「えぇ。こいしが見つけたようで、地上に変える前に見ておきたいんです」

 

「……」

 

 すると早苗は北斗をジトーと見る。

 

「あの、つかぬことを聞きますけど、もしかして……」

 

「も、もちろんこいしから聞かされた時は、早苗さんに霊夢さん、それに夢月さんや幻月さんに協力を仰いで、準備を整えてから行こうと考えていました。まさかすぐに連れて行かれるとは思っていませんでしたが」

 

 疑わしく見る早苗に北斗は言い訳染みた説明をする。

 

「北斗さんったら、もう……」

 

 北斗の説明を聞いて、早苗は思わずため息を付く。霊夢は呆れてため息を付き、魔理沙は腹を抱えて笑い、妖夢はポカーンとしている。

 

(まぁ、北斗さんらしいと言えば、らしいですけど……)

 

 早苗はしょうがないと感じで内心呟き、再度ため息を付く、

 

(これは苦労が耐えませんね)

 

 と、さとりは二人の様子をサードアイで見ていて、その感情の変化を内心呟く。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 その後北斗達はこいしの案内の元、蒸気機関車がある場所へと向かっていた。

 

 

「それにしたって、ホント色んな場所に蒸気機関車が出てくるよな」

 

「そうですね」

 

 道中魔理沙がそう言うと、北斗が相槌を打つ。

 

「最初は魔法の森で、次は河童の里付近。博麗神社の前に守矢神社の近くですね」

 

 早苗はこれまで蒸気機関車が現れた場所を思い出して口にする。

 

「何だってこんなにたくさん出てくるんだろうな」

 

「知らないわ。そんなのは異変の首謀者をとっ捕まえて聞き出せばいいんだし」

 

 魔理沙が思わず疑問を漏らすと、霊夢はあっけからんように物騒な事を呟く。

 

「……」

 

 そんな中、北斗は周囲を見回している。

 

「みとりさんが居なくなったのが気になりますか?」

 

 と、隣を歩くさとりがサードアイで心読んで、彼に声を掛ける。

 

「え、えぇ。急に居なくなったので」

 

「まぁ彼女の事ですから、役目を終えて帰ったのでしょう」

 

「そうですか……」

 

 と、何処となく落ち込んだ様子を見せる。

 

「一言ぐらいお礼が言いたかったのですか?」

 

「はい。一応みとりさんも地霊殿に着くまでに一緒に来てもらったのですから」

 

「……」

 

 さとりは彼の様子を見て、サードアイで心を覗き込む。

 

(やはり似た者同士。無意識の内に惹かれ合うのでしょうかね)

 

 内心呟きつつ、前を見る。

 

 

「もう少しで着くよ!」

 

 と、先頭を歩いているこいしが後ろを振り向いて北斗達に伝える。

 

「そういえば、こいし。まだ聞いていなかったけど、こいしが見つけ蒸気機関車ってどんな物なんだ?」

 

 こいしの後ろを歩いている北斗がこいしに声を掛ける。

 

「うーんとね。大きかったよ」

 

「いや、そういう意味じゃないんだが」 

 

 思わず声を漏らす北斗だったが、改めてこいしに聞く。

 

「つまり、何か後ろに付いている様な感じとか、そんな特徴は無いのか?」

 

「うーん。確かにお兄さんの言う通り、何か後ろに付いていたね」

 

「そうか(となると、テンダー型か)」

 

 こいしが答えた特徴を聞き、北斗はその蒸気機関車が炭水車(テンダー)を持つテンダー型であると確信する。

 

(今のでどんな蒸気機関車かが分かったのですか?)

 

 心を読んでいたさとりは、こいしが口にした少ない情報である程度分かった北斗に驚き半分呆れ半分な感情を抱く。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 更に奥へと歩いていくと、それは姿を現した。

 

 

「っあれは!」

 

 その姿を目の当たりにした北斗は走り出す。

 

「北斗さん!」

 

 早苗もその後を追い掛ける。

 

「こりゃ、また大きいな」

 

「うちの神社の前にあったやつより小さいわよ」

 

 それを見た魔理沙が声を漏らすと、霊夢は対抗するように魔理沙に声を掛ける。

 

 二人の視界には、炭水車(テンダー)が備えられた蒸気機関車が線路の上に鎮座していた。

 

 

 しかもテンダー型の蒸気機関車が二輌である。

 

 

 先頭の機関車は大きなスポーク動輪を持ち、フロント部に円筒の給水温め機を持っており、除煙板(デフレクター)を持ち、炭水車(テンダー)にはリベットが多く、まるで古典から近代までの蒸気機関車の過渡的なデザインが特徴的だ。

 

 後ろの機関車はどことなく8620形蒸気機関車に似ており、九州の罐に多く見られた門デフを持ち、門デフには模様が描かれている。

 

 

「大きい……」

 

 ほぼ初めてテンダー型の蒸気機関車を見た妖夢は思わず声を漏らす。

 

「しかも、それが二輌もあるとはな」

 

 魔理沙はそう呟くと、並んで線路の上に鎮座している二輌の蒸気機関車を見る。

 

「なるほど。これが蒸気機関車ですか。北斗さんの記憶で見ていますが、やはり実物は違いますね」

 

 さとりは実物の蒸気機関車を目の当たりにして、その大きさに息を呑む。

 

 

「……」

 

 北斗は二輌の蒸気機関車を前にして、驚きと興奮に満ちた表情を浮かべている。

 

「北斗さん。これって……」

 

 北斗の隣で二輌の蒸気機関車を見ていた早苗が声を掛ける。

 

「えぇ。これは……」

 

 彼は先頭の蒸気機関車に近付き、大きな動輪に触れる。

 

 

「……『C54形蒸気機関車』その17号機に『C50形蒸気機関車』その58号機か」

 

 北斗は二輌の蒸気機関車の名前を口にする。

 

 

 

 C54形蒸気機関車とは、日本国産の旅客用蒸気機関車であり、マニアの間ではある意味有名な蒸気機関車である。

 

 

 C54形が誕生した背景には、当時旅客用蒸気機関車として活躍していたC51形とC53形蒸気機関車があったが、両車輌は軸重が重い為、低規格の路線に入線出来ないでいた。しかしその低規格の路線での旅客列車需要が増えていたとあって、8620形の在来機では牽引力が足りず輸送力が不足していた。

 解決策としては路線の軌道強化を行ってC51形だけでも入線できるようにするか、新たに軽量のパシフィック機を設計して製造するかにあった。しかし前者は当時昭和恐慌に陥っていた為、国家財政が深刻的とあって、とても実現なんて出来ない状況とあり、後者の方法が採用されたのであった。

 

 C54形の設計はC51形の設計を踏襲しつつ、全体的に重量を軽減する事で軸重を減らし、更に当時技術力が向上しているとあって、ボイラーの圧力もC51形より上げられている。そして特徴的なのがこれまで製造された蒸気機関車には後付け装備であった除煙板(デフレクター)を設計段階で標準装備としている点であり、地味に汽笛も三音室の物から五音室の物に標準装備されている。

 

 その外観はリベットが目立ち大きな運転室(キャブ)、それぞれ独立した蒸気ドームと砂箱とあって、従来の古典的な外観と、近代的な造詣が混ざったいかにも過渡的な外観をしているのがこのC54形の特徴であろう。

 

 C51形の性能や一部設計を踏襲しつつも新世代の技術を取り入れたC54形であったが、その化けの皮が剥がれるのに時間は掛からなかった。

 

 製造されたC54形は配属先で早速走ってみると、中々酷い空転癖があることが露呈し、それによる牽引力不足が発覚する。

 

 これらの問題の根本的な原因は、低規格の路線へと入線出来るようにと過度な軽量化による軸重不足であり、それに伴う粘着力の不足とされる。更にボイラーの圧力が重量の割りに高すぎる点である。

 

 これだけでも大問題なのだが、不可解なのが低規格の路線での活躍を想定していたにも関わらず、軸重の重いC51形との共通運用という、本末転倒もいいところな運用をされていたことであった。そのせいで理不尽な評価を受けることになった。

 

 設計的に問題があったとあり、製造はたった17輌のみで製造終了となり、その後財政がある程度回復したところで本形式での失敗を教訓として、全面的に設計を変更した『C55形蒸気機関車』が作られる事になった。

 

 その後は少数しか作られていないことによる保守的問題や、構造上の問題も相まって、早期に廃車対象にされるなど、運の無さがあった。そんな中でも僅かに生き残ったC54形もあったが、最終的に無煙化よりも早期に全車廃車となり、しかも一輌も保存される事無く解体されてしまった。

 現在ではナンバープレートや動輪などの極一部の部品が現存しているぐらいだという。

 

 ちなみに「54」と言う数字だが、国鉄においては忌み数と言われており、この54が付く形式の車輌は悉く何かしらの問題を抱えていたと言う。

 

 C54 17号機はC54形のラストナンバーであり、最後まで残ったC54形のグループに含まれている。

 

 

 

 次にC50形蒸気機関車とは、8620形の設計を基に設計され、一応8620形の後継車輌として製造されたと言われているが、本当に後継機関車と言うべきか懐疑的である。

 

 そもそも当時8620形は600輌以上が製造されており、その多くは車齢の若い車輌が多く、しかも製造されたばかりの個体もあり、C50形を作る必要性がほぼ無かったと言っても過言ではない。

 

 ではなぜ作る必要が無いC50形が誕生したのか? その鍵は当時の情勢にあると思われる。

 

 C50形が製造された当時、日本は第一次世界大戦による戦時景気にあったが、戦後は様々な要因が重なって不況に陥っていた。その為仕事の無い鉄道車輌の製造会社への国からの救済処置として、C50形が急遽設計されて発注された可能性がある。実際C50形の製造を行ったのは『三菱造船所』『汽車製造』『川崎車輌』『日本車輌製造』『日立製作所』と、蒸気機関車を製造する主要会社ばかりで、製造数も各会社それほど大きな差がなく割り当てられている。

 既存の蒸気機関車の増産で救済措置にしなかったのは、推測の域でしかないが、恐らく既存の蒸気機関車より新設計の蒸気機関車の方がより金が掛けられるからと思われる。それによって、企業への救済措置にしていたと考えられるが、実際どうだったかは不明である。

 

 C50形は8620形の設計を基にしているとはいえど、8620形の特徴である島式台車ではなくエコノミー式となり、8620形で曲がれる曲線を曲がれず、更に給水温め機といった装備が増えていることで軸重が重くなり、8620形ほどの汎用性が失われていると、8620形の良い所を悉く潰している設計になっている。

 

 その為、68号機以降は動輪軸重バランスの改善のため、動輪全体を200mmほど後退させるという、本来なら形式変更されるレベルの設計変更を受けている。

 

 製造されたC50形は設計的な問題もあって脱線事故が多発し、8620形より取り回しが悪いとあって、後で誕生したC58形が増備されると共に入換用に回される車輌が多かった。

 

 唯一C50形が他の機関車より優れていたのは、軸重が重く、足回りの力があったので、牽き出し能力が高かった。その為入換用の機関車としては適切であったのだ。まぁその車輌の入換作業も8620形に奪われる固体は少なくなかったそうな。

 

 結局C50形は地味な活躍しか出来ず、その上梅小路蒸気機関車館の保存対象に選ばれなかった不遇な機関車であったが、不幸中の幸いとすれば、一輌も保存されず解体された機関車が居る中で、保存された車輌がいくつかあったぐらいであろう。

 

 ちなみにこんな不運なC50形だが、国産初のNゲージの第一号がこのC50形であったので、知名度自体はあった事が不幸中の幸いだろう。

 

 C50 58号機は九州の罐とあって門デフを持つ個体であり、門デフには波と千鳥の装飾が施されているのが特徴的である。

 

 

 そんな二輌がこの幻想郷の地底に現れたのだ。

 

(あのC54形をこの目で見られるなんて思ってみなかったな)

 

 北斗は内心呟きながら、C54 17号機の後ろに鎮座しているC50 58号機の傍に来て、動輪に触れる。

 

(何ともない……大井(C56 44)熊野(C12 208)睦月(C11 312)の時と同じか)

 

 しかし北斗が蒸気機関車に触れても、何の変化は無かった。いつもなら触れた瞬間彼の頭に痛みが走り、直後に蒸気機関車から神霊の少女が現れるはずだったが、今回はそれが無い。

 

「今回はいつものように、神霊の子が出てこないんですね」

 

「そうみたいですね」

 

 早苗はいつもと違う展開に首を傾げ、北斗は蒸気機関車から離れながら答える。

 

「早苗さん。この二輌から何か感じられませんか?」

 

「それが、紅魔館の地下にあったあの二輌と違って、この二輌は他の機関車の様に霊力が感じられます」

 

「となると、蒸気機関車の神霊は宿っている、って事になるんでしょうか?」

 

「だと思いますけど……」

 

「……」

 

 二人は静かに唸りながら、二輌の蒸気機関車を交互に見つめる。

 

「ところで、北斗」

 

 と、魔理沙が声を掛けながら北斗に近寄る。

 

「これはどうやって地上に出すつもりだ? 紅魔館の時とはわけが違うぜ?」

 

「それは……」

 

 魔理沙の言葉に、北斗は腕を組んで唸る。

 

 紅魔館の時は地下から地上までそれほど無かったからこそ穴を開けて運び出せたが、今回はそう同じようにはいかない。

 

 少なくとも地底から地上までの距離は以前の倍近くあると思った方がいい。

 

「分解して運び出す、としても地上に繋がる道では通れないよな」

 

「そうですね」

 

 北斗と早苗はここから地上へと繋がる道中を思い出すが、どう考えても広さ的に分解しても蒸気機関車を運び出せそうにない。

 

「……」

 

 ただ、その話を聞いていた霊夢は小さくため息を付く。

 

 

 結局蒸気機関車をどうやって地上に運び出すか、その方法が思い付かないまま、彼らは蒸気機関車を地底に置いたまま地上へと向かうのだった。

 

 

 




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