東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第85駅 地上への帰還

 

 

 

 

 一旦蒸気機関車を置いていったまま、北斗達は地上へと向かった。

 

 

 

 それからしばらくして北斗達は地上へと戻ってきた。大分時間が経っているようで、夕日が昇って空はオレンジ色に染まっていたが、大分暗くなっている。

 

 

「ん~ようやく出られたぜ~」

 

 地上へと出られて、魔理沙は両腕を上に上げて背伸びをする。それに吊られるように妖夢と早苗も同じように背伸びをする。

 

(何だか久々に地上に出てきたような気がする)

 

 地底に行って一日も経っていないが、北斗には長い間地底に居たような気がして内心呟く。

 

「皆さん。改めまして、今回は本当にありがとうございます」

 

 北斗は霊夢達を見ると、深々と頭を下げる。

 

「いいってもんだぜ。困った事があったら、また私達が助けてやるからな」

 

 魔理沙は笑みを浮かべて左手でサムズアップを見せる。

 

「まぁ、今回はいい経験になっただろうから、今後は気をつけなさい」

 

 霊夢は北斗に忠告して御祓い棒を肩に担ぐ。

 

「無事に帰って来られて、何よりですね」

 

 妖夢も笑みを浮かべて北斗の安全を喜ぶ。

 

「じゃぁ、私達は行くぜ」

 

 魔理沙はボロボロの箒に跨り、宙に浮かぶ。

 

「今回はあれで済ましたけど、次はあれで済まないわよ」

 

「えぇ。こいしにはちゃんと言い聞かせますので」

 

 さとりは深々と頭を下げて、それを確認した霊夢は飛び立つ。

 

「では、北斗さん。お気をつけてください」

 

「はい。妖夢さんも、ありがとうございます」

 

 妖夢も礼儀正しく頭を下げてから元の姿勢に戻ると、踵を返して飛び立つ。

 

 魔理沙も北斗に手を振って後に続いて飛び立つ。

 

 

「それでは、北斗さん。私達もこれで」

 

 三人を見送り、さとりは北斗に頭を下げる。

 

「ここまで見送りに来てくれて、ありがとうございます」

 

「こちらこそ」

 

 北斗もさとりに頭を下げて、こいしを見る。

 

「……」

 

「こいし」

 

「お、お兄さん」

 

 おどおどとした様子でこいしは北斗を見る。

 

「その、今回は本当にごめんなさい。あんな無理矢理にしてしまって」

 

「……」

 

「あんな事して、それでも図々しいと思うかもしれないけど……」

 

 こいしは被っている帽子を取り、北斗を見る。

 

「また、地霊殿に来てくれる? 今度はお兄さんの都合で良いから、ゆっくりお話しがしたいの」

 

「……」

 

(こいし……)

 

 今まで見たことが無い妹の姿に、さとりは驚きと共にその変化を少し喜びを感じている。

 

「そうだね。こっちの都合が付けば、また行こうと思っている」

 

「本当?」

 

「あぁ。もちろんだよ」

 

「……」

 

 こいしは帽子で顔を隠して、それから頭に被る。

 

「約束だよ」

 

「あぁ。約束だ」

 

 北斗は頷き、こいしと約束を交わす。

 

 

 

 その後さとりとこいしの姉妹は元来た道へ向かい、地底へと戻っていく。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 そして北斗と早苗の二人だけが残された。

 

「早苗さん。俺達も行きましょう」

 

「はい」

 

 早苗は頷くと、間を置いて口を開く。

 

「あ、あの、北斗さん」

 

「何でしょうか?」

 

「そ、その……えぇと」

 

 言い辛そうにしている早苗は、意を決して言い放つ。

 

「こ、今晩は、神社の方で泊まっていきませんか?」

 

「えっ?」

 

 思わぬ誘いに北斗は驚く。

 

「もう日が暮れてきていますし、こんな中で妖怪の山を降りるのは危ないので」

 

「そ、それはそうですが、でも急に泊まるとなると、そちらが迷惑では……」

 

「そ、そんな事ないです! 神奈子様と諏訪子様には私から言っておきますので!」

 

 断ろうとしている北斗に早苗はグイッと近付いて食い下がる。

 

 何度も言っているようであるが、妖怪の山は天狗によって支配されていると言っても、野良妖怪も生息している昼夜問わず危険な場所であるのは周知の事実である。守矢神社が妖怪の山に幻想入りして、索道が出来て人里の住人の出入りが多くなり、ほぼ安全で早く行く事が出来る鉄道が出来たとしても、危険である事に変わりはない。

 

 その上妖怪が活発に活動する夜ならば尚更である。既に活動を始めている者が居てもおかしくない。

 

「それに……」

 

「……」

 

 不安のある表情を浮かべる早苗は、揺らぐ瞳で北斗を見る。

 

「今は、北斗さんの存在を近くで感じて居たいんです」

 

「早苗さん……」

 

 必死に懇願する早苗の姿に、北斗は何も言えなかった。 

 

 ただでさえ早苗は北斗が攫われて精神的に不安定であったのだ。ようやく取り戻したからこそ、もしもという不安が彼女にある。

 

「……分かりました。今晩はそちらに泊まります」

 

「っ! ありがとうございます!」

 

 そんな早苗の姿に負けて、北斗は了承すると、彼女は勢いよく頭を下げる。

 

「しかし、本当に大丈夫なんでしょうか? 神奈子さんと諏訪子さんに勝手に決めたりして」

 

「大丈夫です! 神奈子様と諏訪子様にはちゃんと話しておきますから!」

 

 あの二柱の居ない所で勝手に決める事に不安を覚える北斗だったが、早苗は必ず話を通す意気込みを見せる。

 

 と、まぁ北斗は早苗の守られながら守矢神社へと向かうことになった。

 

 

 しかしこの後、時間が掛かるとのことで結局北斗は早苗に抱えられて、守矢神社へと飛ぶことになったという。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「うーん……」

 

「どうしたの、魔理沙?」

 

 その頃、北斗と早苗と別れて妖怪の山上空を飛んでいる霊夢達一行。そんな時、魔理沙が静かに唸り出し、妖夢が問い掛ける。

 

「いや、何か忘れているような気がするんだよなぁ……」

 

「そうだっけ?」

 

「気のせいでしょ」

 

 魔理沙の言葉に妖夢と霊夢がそれぞれ答える。

 

「うーん……」

 

 二人の返答を聞いても魔理沙はまだ悩み続ける。

 

「……そういやさ」

 

 と、魔理沙は周囲を見渡しながら、口を開く。

 

「私達ってこんなに少ない人数だったっけ?」

 

「何言っているのよ。早苗と北斗さんと別れたからこの人数でしょ」

 

「いや、そうじゃなくてだな」

 

 魔理沙は傾げていた頭を戻す。

 

「最初に来た時、まだ居たよな」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 

『……あっ』

 

 しばらくして三人は声を揃えて漏らした。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わって地底。旧都にある酒場。

 

 

 

「良い飲みっぷりじゃないか! じゃんじゃん飲んでいいぞ!」

 

「あ、あの、これ以上は……」

 

「あぁん!? 私の酒が飲めないっていうのか、天狗ぅ!?」

 

「そ、そんな事無いです……」

 

 完全に酔っ払った萃香に酒を勧められて一気飲みしたばかりの文は断ろうとするも、機嫌を悪くして威圧する彼女に恐れて手にしている盃を出して酒が注がれる。

 

 完全に宴会で酔っ払った上司にアルハラで絡まれる部下の図である。まぁこの例えはあながち間違いでは無いのだが。

 

 霊夢達を先に行かせて勇儀達と一戦交えようとした夢幻姉妹だったが、このまま戦えば旧都で済まなそうな予感がした文は何とか穏便に済ませようと、元上司の鬼に酒の飲み比べで勝負出来ないか提案する。

 二人はその勝負を了承し、夢幻姉妹も興が削がれた感じであったが、勝負を受けた。

 

 最初こそ良い勝負を見せていた飲み比べであったが、結果的に鬼の予想以上の耐久力に夢幻姉妹は完敗したのであった。

 

 で、その後は元上司と元部下の交流会への流れになり、今に至る。

 

 現状を説明すると、アルハラ元上司な萃香に絡まれて涙目になり、酔っていて顔を赤くしたり鬼に絡まれて青くしたりと、不憫な状態の文に、酔い潰れているのかテーブルに倒れているはたて。同じく酔い潰れて椅子の背もたれを正面にもたれかかってうな垂れている椛。お座敷には酔い潰れて顔を真っ青にし、魘されているにとり。

 

「……」ヤムチャシヤガッテ……

 

「……」トマルンジャネェゾ……

 

 近くの床には何やら既視感満載の倒れ方で酔い潰れている幻月と夢月の夢幻姉妹の姿があった。

 

 その周りでは酔っては萃香達を煽る酔っ払い達と、酒場はカオス状態に陥っていた。

 

 

 

「……」

 

「会いに行かなくていいのかい?」

 

 酒場の外では、壁にもたれかかっているみとりに、盃を片手に彼女に問い掛ける勇儀の姿があった。

 

「別に。ただ、あんな状態で再会するのは、さすがにな」

 

「そりゃ、まぁね」

 

 酒場の中の様子を察してか、勇儀は苦笑いを浮かべる。

 

 みとりとしては、妹と再会するのにあの状態では、さすがに気が引けるようである。

 

「だが、元気そうな姿を見られただけでも、満足だよ」

 

「あれを元気と言ってもねぇ」

 

「……」

 

「なら、せめて話ぐらいしたらどうだい?」

 

「……いや、今はいい」

 

 みとりはため息を付き、壁から背中を外してその場を離れる。

 

「やれやれ」

 

 みとりの後ろ姿を見ながら勇儀は声を漏らし、盃に入った酒を飲む。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わって幻想機関区。

 

 

 

 北斗が連れ去られてから数時間が経過したが、未だに手掛かりは無かった。

 

「……」

 

 執務室では多くの蒸気機関車の神霊の少女達が緊張の色が隠せない表情を浮かべて、状況の推移を待つしかなかった。

 

「区長……大丈夫なんだろうか」

 

 と、皐月(D51 465)が声を漏らす。

 

「今は待つしか無い。我々に出来る事は、それだけだ」

 

 壁にもたれかかる大井(C56 44)はそう告げて、腕を組む。

 

「それにしても、まさか七瀬(79602)達が新たに蒸気機関車を発見してくるなんて、思わなかったわね」

 

 と、窓から外を見つめている(C57 135)が呟く。

 

 北斗を捜索中に出会った小傘の案内で、七瀬(79602)卯月(48633)は魔法の森にて二輌の蒸気機関車を発見し、その後二輌を牽引して機関区へと運び込んだ。

 

 その二輌こと8620形蒸気機関車『18633号機』とC58形蒸気機関車『C58 283号機』は機関庫へ格納後、作業妖精達によって整備が行われている。

 

「でも、こんな状況で見つかっても、どうしろっていうのよ」

 

 神流(D51 1086)は苛立った様子で声を漏らす。

 

 まぁ、ただでさえ機関区を管理して、自分達を纏める区長である北斗が何者かによって連れ去られているというのに、そんな状況で新たに蒸気機関車の発見の報告である。苛立つのも無理はない。

 

「それに、蒸気機関車と共に魔法の森で新たに発見された路線と言うのも気になるわね」

 

 (C57 135)がそう言うと、神霊の少女達は息を呑む。

 

 現時点で調査が済んでいない路線は妖怪の山の一部の路線のみで、それ以外は調査済みである。魔法の森となれば路線は全て確認済みのはずである。

 にも関わらず、蒸気機関車と共に新たに路線が発見されたのだ。

 

「どうしてこんな状況で色々と発見が続くんだ」

 

 皐月(D51 465)は思わず毒づく。

 

「まぁ、今は大井(C56 44)の言う通り、待つしかないわね」

 

「……」

 

 (C57 135)がそう言うと、明日香(D51 241)は不安な表情を浮かべ、組んでいる両手を握り締める。

 

 

 

 ジリリリリッ!!

 

 

 

 すると机に置かれている黒電話が鳴り出し、明日香(D51 241)がとっさに受話器を取って耳に当てる。

 

「も、もしもし! こちら幻想機関区です!」

 

『その声は明日香(D51 241)か?』

 

「っ! 区長!?」

 

 受話器から北斗の声がして明日香(D51 241)は思わず声を上げ、神霊の少女達の視線が彼女に集まる。

 

「区長、無事だったんですね!」

 

『あぁ。何とかな』

 

「よ、良かった……」

 

 安堵してか、明日香(D51 241)は深く息を吐く。

 

『心配を掛けたな』

 

「はい。それで、区長。一体何があったんですか?」

 

『あぁ、それはだな――――』

 

 

 

 少年説明中……

 

 

 

「なるほど。そんなことがあったんですか」

 

 北斗から事情を聞き、納得したように明日香(D51 241)は頷く。

 

『あぁ。今は守矢神社に居る。今晩はここに泊まる事になったから、明日の朝8時に迎えを向かわせてくれ』

 

「分かりました。朝の8時に迎えの罐を送ります。あっ、区長。報告したいことがいくつかあるんですが……」

 

『それは明日の朝に聞く。今日は色々とあったからな』

 

「……分かりました」

 

 北斗の声の様子から察して、明日香(D51 241)はそれ以上は口にしなかった。

 

『じゃ、明日頼むぞ』

 

 と、向こうで電話が切れて、明日香(D51 241)は受話器を本体に戻す。

 

「とにかく、区長が無事で何よりね」

 

「はい」

 

 と、神流(D51 1086)は微笑みを浮かべると、明日香(D51 241)は笑みを浮かべて安堵の息を吐く。

 

「とりあえず、捜索に向かっている文月(C55 57)達に連絡を入れて戻すわよ」

 

 (C57 135)は執務室を出て新たに設置された連絡所へと向かう。

 

「良かった……本当に……」

 

 明日香(D51 241)は胸元で両手を組んで、安堵の声を漏らしながら握り締める。

 

 

 

 

 




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