東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第86駅 お互いの想い

 

 

 

 その日の夜の守矢神社。

 

 

 

「いやぁ、今日は大変だったね、北斗君」

 

「全くだな」

 

 社の近くにある自宅の居間にて神奈子と諏訪子の二柱が北斗に言葉を掛けている。

 

「はい。ですが逆に考えれば、良い経験になったと思います」

 

「物は言いようだねぇ。まぁ、その通りかもしれないね」

 

「そう言える肝は大したものだ」

 

 北斗の言葉に諏訪子は苦笑いを浮かべつつ肯定し、神奈子は北斗の肝の大きさに感心する。

 

「むぅ。北斗さんはもう少し自分の身を案じて下さい。今回は本当に運が良かったんですから」

 

 と、彼の隣で不満ですと言わんばかりに不機嫌そうに早苗が声を掛ける。

 

 彼女の言う通り、今回は運が良かった面が大きい。彼の知り合いで、その知り合いが地底でも名の知られている者の肉親であったからこそ、地底に行っていながら彼は五体満足な上に無傷で居られたのだから。

 

 そうでなければ、無傷はおろか、五体満足で帰れなかったかもしれないのだ。

 

「そう言うな、早苗。彼なりに反省をしているんだ」

 

「ですが……」

 

「はいはい。そこまでだよ」

 

 と、諏訪子は軽く手を叩いて議論が熱くなりそうになる所を止める。

 

「北斗君が無事に戻ってきた。それで良いじゃない」

 

「それは、そうですが……」

 

 諏訪子が締めた事で、早苗は渋々と引き下がる。

 

「とりあえず、この話題は終わりだ」

 

 神奈子は北斗を見る。

 

「あぁ、そうでした。今晩泊めて下さってありがとうございます」

 

「まぁ、急な話ではあったが、今回は特別だ」

 

「そうだね。まぁ、早苗があんなにお願いしていたら、断りづらいからねぇ」

 

「だな」

 

「か、神奈子様、諏訪子様!」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべる二柱に早苗が顔を赤くして慌てる。

 

 どうやら二柱を説得する為に彼女は必死になっていたようである。

 

「北斗。ついでな形になって申し訳ないが、今晩は鉄道開業を祝おうと思っている」

 

「開業祝い、ですか?」

 

「あぁ。お互い忙しくて、中々機会が無かったからな」

 

「それは、まぁそうですが」

 

 北斗は思い当たる節があってか、納得する。

 

「まぁ急な話とあって、大した物は用意出来ないが」

 

「いえ、祝ってもらえるだけでも嬉しいですので、大丈夫です」

 

「そうか」

 

 と、神奈子はどことなく気まずそうに頬を掻く。

 

 まぁ、普通に考えると神様が二柱も祝ってくれるだけでも相当凄い事である。幻想郷では何だか珍しい事じゃないような認識にも思われているが。

 

 

 

 その後諏訪子が買い出しにいって購入した食糧を使い、早苗と共に料理を作っていた。

 

 その間北斗と神奈子は居間で料理が出来るのを待っていた。

 

「……」

 

 北斗は神奈子と二人っきりで彼女を前にして緊張の面持ちであった。

 

「そう緊張するな。別に取って喰うわけじゃ無いんだ」

 

「は、はい」

 

 神奈子は急須に入れた緑茶を湯呑に入れて、北斗に差し出すと、自分は盃に酒を注ぐ。

 

 以前のように北斗に酒を飲ませないように早苗は釘を刺した上で彼女は緑茶を作って持ってきていた。

 

「しかし改めて、無事で何よりだ。お前が行方不明になった時かされた時は、さすがに少し肝が冷えたぞ」

 

「そうなのですか?」

 

「あぁ。今となってはお前と幻想機関区は守矢にとって大切なパートナーだ。お前を失う事は、我々からすれば今後の信仰の獲得に関わるからな」

 

「は、はぁ……」

 

 北斗は思わず声を漏らす。

 

「いや、言い方が悪かったな。お前の身に何かがあると、早苗が気が気じゃないからな」

 

「早苗さんが?」

 

 北斗はお茶を一口飲み、首を傾げる。

 

「お前の行方が分からなくなったと聞かされた時、一番狼狽したのはあいつだからな。そして誰よりもお前を助けたいと思っていたのも、早苗だ」

 

「……」

 

「早苗は自覚していないが、それだけお前の事を大切に思っているんだ」

 

「早苗さん……」

 

 北斗は湯呑に入っている緑茶の水面に映る自分の顔を見つめる。

 

「……なのに俺は、迷惑を掛けてばかりですね」

 

「……」

 

「俺に、どうにか出来るだけの力があったら」

 

「北斗。取って付けたような力を得ても、何の役にも立たないぞ」

 

 神奈子は目を細めて彼に諭す。

 

「一人一人出来る事は限られる。一人出来る事なんて、高が知れている」

 

「……」

 

「特にお前は外の世界から来たんだ。何の力も持っていないんだ」

 

「でも、早苗さんは」

 

「比べる相手が悪い。あいつは外の世界では異質的な存在だ」

 

「……」

 

「あいつの家は代々守矢神社に仕える巫女の家系だ。だが、長い年月が積み重なって血筋が薄れ、霊力を持つ者はもう殆ど居ない。居たとしても我々を認識出来る者は居なかった」

 

「……」

 

「そんな中で生まれたのが、早苗だ」

 

 神奈子は盃を傾けて注いだ酒を飲む。

 

「あいつは薄れた血筋の中で、全盛期の頃に匹敵する霊力を有していた。故に私達の存在を認識出来た」

 

「……」

 

「だが、そのせいであいつには苦労を掛けた」

 

 神奈子は悲しげな雰囲気を出し、盃を傾けて酒を飲み干す。

 

「早苗さん……」

 

「……」

 

 神奈子は盃に酒を注ぐと、北斗を見る。

 

「北斗」

 

「は、はい?」

 

「一つお前に聞きたい事がある」

 

「自分に、ですか?」

 

「そう身構えるな。大した質問じゃない」

 

 緊張のあまり身構える北斗と見て神奈子は苦笑いを浮かべる。

 

「それに、これは守矢の神としてではなく、八坂神奈子個人としての質問だ」

 

「個人として、ですか……」

 

「あぁ」

 

 神奈子は間を置いて、口を開く。

 

「お前は、早苗の事をどう思っている?」

 

「どう、とは?」

 

 質問の意図を理解出来ず、北斗は質問を質問で返してしまう。

 

「つまりだな、早苗をどういう人間だと思っている?」

 

「……」

 

 北斗は「うーん」と静かに唸りながら首を傾げる。

 

「早苗さんは……とても優しくて、話を分かってくれる、俺の友達でした」

 

「でした?」

 

 過去形な言い方に神奈子は首を傾げる。

 

「その、よく分からないんです。早苗さんが自分にとって、友達だというのは確かなんです、でも……」

 

 北斗は緑茶を飲み、喉を潤す。

 

「幻想郷に来て、早苗さんと初めて出会った時のことを思い出してから……何て言えばいいんでしょうか。今までとは違う感じになって」

 

「……」

 

「正直な事を、言ってもいいでしょうか?」

 

「あぁ。その為に聞いているんだ」

 

「はい」

 

 北斗は間を置いて、口を開く。

 

「……今では……友達以上に、早苗さんの事を大切に想っています」

 

「そうか」

 

 彼の言葉を聞き、神奈子は微笑みを浮かべる。

 

「その、怒っているでしょうか?」

 

「なぜだ?」

 

「いえ、大切な事だったのに、こんなに遅くになって思い出すなんて……」

 

「……」

 

「約束、していたのに……忘れるなんて」

 

「それは仕方が無いことだ」

 

 気を落とす北斗に、神奈子はそう言うと、盃をテーブルに置く。

 

「幻想郷へと渡れば、外の世界で存在していた事を示す証明は全て消える。もちろん、記憶もな」

 

「記憶が……」

 

「それでお前は早苗の記憶を失ったのだろう。早苗は幻想郷へと入った影響で恐らく一時的にお前に関する記憶が薄れていたのだろう」

 

「……」

 

(だが、それだとおかしい所もあるのだがな)

 

 持論を出したものの、彼女としては気になる部分があるようである。

 

「だが、お前が幻想郷へと入った時に、互いに記憶が戻りつつあって、そして特定の行動で記憶が戻ったのだろう」

 

「……」

 

 北斗はあの晩での早苗と話していた時の事を思い出す。

 

「それに、十年以上の月日が流れているんだ。お互い成長して分かりづらかったのもあるだろう」

 

「あー、確かに……」

 

 神奈子がそう言うと、北斗は心当たりがあってか頷く。

 

 面影はあったとしても、互いに大きく成長しているとあって、記憶が一時的に薄れていたと相まって分からなかったとも解釈できる。

 

 

「まぁ、話は逸れたが、お前の気持ちは分かった」

 

 神奈子は盃を手にして、注いでいる酒を飲む。

 

「早苗の事を大切にしているようで、安心したよ」

 

「……」

 

「お前が早苗の事を大切に想っているように、早苗もまだ自覚出来ていないとは言えど、お前の事を大切に想っている」

 

「……」

 

「だが、それはお前へ依存しているとも言える」

 

「依存、ですか?」

 

 意外な事を言われて北斗は少し驚く。

 

「早苗にとって、お前は自分の事を理解してくれる、苦労を分かってくれる理解者であり、最初にして本当の友達であるんだ。それらが重なって、早苗にとっては精神的な支えになっているとも言えるな」

 

「……」

 

「あいつは自覚していないが、それだけお前に依存しているんだ」

 

 目を細める神奈子に北斗は息を呑む。

 

「だから、あいつを悲しませるようなことは避けてくれ。今回も件も、下手すれば最悪な結末を迎えたかもしれなかったんだ」

 

 最悪な結末を想像してか、北斗の表情が強張る。

 

「……もし、仮にもお前が早苗を悲しませるような事をすれば」

 

 と、神奈子は殺気の混じった視線を北斗に向ける。

 

「容赦はしないぞ」

 

「は、はい……」

 

 神様から殺気を向けらて、北斗の身体は金縛りに遭ったかのように固まる。

 

「まぁ、私以上に容赦無いのは、諏訪子の方だがな。あいつならお前を祟って、死ぬより辛い呪いで苦しませるかもしれんな」

 

 神奈子の言葉に北斗の表情は青く染まる。

 

 神様に容赦しないと言われるだけでも恐ろしいものだが、もう一柱にも容赦されないとなると生きた心地がしない。

 

「あぁ、脅してすまないな。つい昔の癖で」

 

「は、はぁ……」

 

 苦笑いを浮かべる神奈子に北斗も苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「まぁともかくだ。あいつを……早苗の事を、よろしく頼むぞ」

 

「……はい」

 

 神奈子は盃をテーブルに置くと、頭を下げる。神様に頭を下げられるという事態に一瞬反応が遅れるも、北斗は頷いて返事をする。

 

 

 

 その後料理を持ってきた早苗と諏訪子の二人を加えて、四人は鉄道開業を祝いつつ夕食を愉しんだ。

 

 

 

 




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