その後北斗達は八雲紫と霊夢達との話し合いの末、北斗と少女達は幻想郷に暮らすと共に、線路異変解決の協力をするという事にした。それと同時に線路の管理も任される事になった。
八雲紫は用事があると言って自身の開けたスキマに入って消え、霊夢達もとりあえず神社へと戻って行った。
来客を見送った後、北斗は少女達にそれぞれ指示を出して各々の作業に当たらせた。
建物内にある区長室では北斗と『D51 241』と『79602』のバッジを付けた少女二人が書類や品々の整理していた。
「あの、区長」
「何だ?」
金庫の中にあった機関区の運営資金を数えていた北斗は確認し終えた書類をファイルに戻した『D51 241』から声を掛けられて顔を上げる。
「その、良かったのですか?」
「何が?」
「だって、折角―――」
「元の世界に戻れる機会があったのに、どうして断ったのですか?」
言いづらそうにしていた彼女を見かねてか、書類を見ていた『79602』のバッジを付けた少女は顔を上げて代わりに北斗に問い掛ける。
「……戻れる機会、か」
北斗は数えていたお金を纏めて机に置くと、少し間を置いてから口を開く。
「そうだな。帰ろうと思えば、帰っても良かったのかもしれない」
「……?」
「本当なら、それが正しいんだろう」
「く、区長?」
只ならぬ雰囲気に『D51 241』のバッジを付けた少女は戸惑う。
「だがな」
と、北斗は両肘を執務机に付いて両手を組み、組んだ手に額を当てる。
「帰ったところで、俺に帰る場所は無い。かえって、このままで良かったんだ」
「え?」
「……」
『D51 241』のバッジを付けた少女は思わず声を漏らし、『79602』のバッジを付けた少女は目を細める。
「で、でも、家族とか、友達とか、区長の帰りを待っている人が―――」
「そんなのは、いない」
『D51 241』のバッジを付けた少女の言葉を北斗は少し怒りの含んだ声を出してバッサリと切り捨てる。
「俺に家族なんか、友達なんか、居ない。居ないんだよ」
彼の脳裏に浮かぶのは、忌々しい記憶だった。
彼の記憶の中で一番古いものは孤児院で過ごしていた時の記憶であった。彼は赤ん坊の時に孤児院前で捨てられており、その後孤児院で何年か過ごした後、里親に引き取られた。
しかしその里親が交通事故で亡くなり、その後は里親の祖父と一緒に暮らし始めた。その時は彼にとっては楽しい一時だった。
しかしその祖父も病気で亡くなり、彼は親戚の叔父に預けられる事となった。
だが、その後が問題だった。
彼は生まれながらにして特異な体質だった。いわば見えない物が見える体質だったのだ。
それが災いして、彼に友達は中々出来ず、虐められていた。
そして、その体質が後に不幸を呼ぶことになり、彼の人生を狂わせた。
今でこそ大分マシな方に回復しているが、一時期かなり危うい状態だった。
そして今でも色々と引き摺っていて、別の親戚の家に預けられる事になっても彼は馴染もうとせず、高校生になって寮暮らしになっても、彼は友達を一人も作ろうとしなかった。一応彼に話し掛ける生徒は居たが、さらりと話を流すだけで、何も聞いていなかった。
「まぁ、幻想郷に残ろうと決めたのは、別に元の世界が嫌で戻りたくないってだけじゃない。少しだけ戻りたいって気持ちはあったさ」
しかし忌まわしい記憶があると言っても、彼にとって生まれ育った場所である事に変わりは無い。そこに対する心残りはあるにはあった。
「では、なぜ?」
「それはな――――」
北斗は二人を見る。
「お前達を、残して戻れないからだ」
「っ!」
「……」
『D51 241』と『79602』のバッジを付けた少女達はそれぞれ反応する。
「外の世界に戻れば君達は消えてしまう。かと言って短い間とは言えど苦楽を共にした君達を残して戻るわけにはいかない」
まぁ機関車だけこの幻想郷に残った所で、何が出来るか分からないものである。最悪外の世界で放置されている保存機関車の様に朽ちていくのを待つだけになるかもしれない。
蒸気機関車が好きな彼にとって、それは耐え難い事だ。
「区長……」
「……」
「それが、幻想郷に残ろうと決めた最後の一押しだった」
「……」
「ホント、あなたって人は」
『79602』のバッジを付けた少女は半ば呆れたように呟き、微笑みを浮かべる。
(まぁ、見方によっては、ただの現実逃避に見えるんだろうがな)
彼は彼女達を見ながら、自身の罪悪感に苛まれる。
彼女達の為に幻想郷に残る。その気持ちに間違いないは無い。だが、それをダシにして自分の嫌な現実から逃げたかった、と心の隅で思っている自分が居た。
「まぁ、これからが大変だろうな」
彼は運営資金を金庫に仕舞うと、立ち上がって窓から外の景色を見る。
(線路の調査もそうだが、俺達の今後の活動方針。考えること、やる事がいっぱいだな)
一抹の不安が過ぎり、彼はため息を付く。
(それに、うまく彼女達を使ってやれるかどうか)
窓から機関庫に格納されている機関車達を見て、不安を抱く。
これからはゲームではなく、リアルで指示を出していかなければならないのだ。その差はかなり大きい。
(何か、彼女達にあぁ言った手前、情けないな)
少しだけ柄じゃ無い事を言った事に後悔するのだった。
(でも、やるしかない)
既に賽は投げられた。後はどうにかやっていくしかない。
新たに歩き出した霧島機関区改め、『幻想機関区』として。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その頃幻想郷上空。
「なぁ、霊夢」
「何よ?」
空を飛んで博麗神社に向かっている霊夢達一行。箒に跨って飛んでいる魔理沙は隣を飛んでいる霊夢に声を掛ける。
「あれで本当に良かったのかよ? 結局異変解決にならなかったじゃないか」
「別に構わないわ。直接関係が無い以上追求したってしょうがないわ。それに、別に実害が無い以上今は放って置いても問題無いわ」
「でも、信用できるのかよ?」
「紫が連れて来たんなら疑う所だけど、紫が関係してないなら多少信用できるわ」
「いや、信用する所が違う気がするんだが」
魔理沙は苦笑いを浮かべる。
「まぁ、彼らが直接関係が無いと言っても、全く関係が無いと言えない以上、監視はするわ。それで何か起きた場合は、その時はその時よ」
「……」
「……」
「なぁ、早苗。お前はどう思っているんだ?」
「……」
「早苗?」
魔理沙が早苗に声を掛けるが、彼女は深く考え込んでいて返事をしなかった。
「あっ、魔理沙さん。どうしましたか?」
すると早苗は遅れて反応して、返事を返した。
「珍しいな。お前が考え事なんてな」
「え、えぇ、まぁ私だって考えることはありますよ」
早苗は苦笑いを浮かべる。
「で、何を考えていたわけ?」
「ま、まぁ、ちょっと色々と」
「ふーん」
霊夢は興味なさそうに声を漏らすと、興味無さそうに前に向き直る。
「……」
早苗は飛びながら先ほどの事を思い出す。
(どうしてでしょうか……)
彼女の脳裏に北斗の姿が浮かび、首を傾げる。
(あの人に、前にもどこかで会った事があるような……)
北斗の顔を見た時、なぜか初めて会った気がしなかったのだ。
外の世界に居た頃に北斗と出会ったことは無い。無い筈なのだが……どこかで会ったような気がしてならない。
「……」
そんなモヤモヤした気持ちはしばらく続いて彼女を悩ませる事になった。
「……」
所変わって幻想郷を見渡せる場所。
そこに一人の女性が右手に持っている銀色の鉄道懐中時計を一瞥し、幻想郷を見渡す。
腰まで伸びた艶のある黒色の髪をしており、整えられた顔つきは東洋人であり、西洋人の様な風格があり、瞳の色は青い碧眼である。
白いシャツに黒いズボン、その上から黒いコートを羽織り、白手袋をしている。
どことなく古い時代の鉄道の車掌を彷彿とさせる格好をしていた。
「……」
その視線の先には、霧島機関区改め幻想機関区が捉えられていた。
「あのスキマ妖怪がどう出るか不安だったが、まぁ何とかなったな」
女性はため息を付き、目を細める。
「本当に、大きくなったな」
彼女はボソッと呟くと、微笑みを浮かべる。
幻想機関区から遠く離れているにも関わらず、彼女の目には機関区を見回っている霧島北斗の姿があった。
「本当に、あっという間だな。まぁ、私と北斗とじゃ、時間の経ち方が違うか」
彼女の記憶にある幼い頃の姿の北斗と今彼女が見ている北斗の姿を照らし合わせて、その変化に苦笑いを浮かべる。
だが、存在そのものが違うのに、その本質を比べられるものじゃない、と彼女は小さく呟く。
彼女は再度遠くに居る北斗の姿を見て、悲しい表情を浮かべる。
「……北斗。――――」
彼女は何かを言おうとしたが、直後に風が吹いて後半は掻き消され、直後に煙の様に彼女の姿は消える。
ようやくプロローグが終わったって感じになりましたね。しかし思ったより機関車が動いているシーンが書けなかったです。まぁ次回から多く書けると思いますが。
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