まだ夜が明けない辺りが真っ暗な幻想郷。
幻想機関区の扇形機関庫に薄っすらと明かりが灯され、作業員の妖精達がそれぞれの蒸気機関車に対して整備、清掃、調整等、各々の作業をしている。
その中で火が落とされているD51 241号機に火入れ作業が行われていた。
D51 241号機のフロント部には
隣に停車して火が入っているD51 1086号機のボイラーよりパイプを伸ばし、D51 241号機のボイラーと繋げて温かい蒸気を送り込む。
作業員の妖精が
運び込んだ木材を火室へと入れ終えると、次に作業員の妖精は足回りの稼動部に潤滑油を挿した際に余分な油を拭き取った時に使った布切れを何枚も火室内へと放り込む。
油が染み込んだ布切れを放り込むと、次に隣のD51 1086号機の
作業員の妖精はそのまま燃えている石炭と布切れが載っているスコップを火室へと入れると、中に入れた油が染み込んだ布切れに火をつけて、ある程度火が広がるとスコップに載せている石炭を放り込む。
火の勢いを強くする為に細かい木片や油の染み込んだ布切れを放り込み、火室内の火力を上げていく。
木片や布切れを入れ続けてから少しして火室内は燃え上がり、そのタイミングで作業員の妖精は
火室への石炭の投炭だが、実は決まった位置と順番があり、適当に石炭を放り込むだけではうまく火力が上がらず、火室内で不完全燃焼を起こしてしまう要因となってしまう。
その為、罐焚きのうまい人と下手な人では同じ個体の機関車でも動きが違ってくるのだ。
それから火入れを行って三時間以上が経過した。
辺りは明るくなり始めて、D51 241号機のボイラーから熱が発せられていた。
コンプレッサーがまるで心臓の鼓動の如く一定のリズムで作動して、まるで生きているかの様な存在感を醸し出している。
火室内は燃え盛っており、作業員の妖精と交代した機関助士の妖精が投炭作業を行っており、数回ほど投炭を行うと注水バルブを捻ってボイラーに水を送り込み、蒸気圧を確認してから各バルブを捻って各所へ蒸気を送り込む。
D51 241号機の足回りでは
連結器も開閉を行って異常が無いかを確認をして、彼女は金槌を工具箱に戻し、
「調子はどう?」
「ばっちりです」
「そう」
機関助士の妖精の報告を聞き、
「……」
旗が上がったのを確認して「出庫!」と号令を掛けてブレーキを解き、天井から下がっている汽笛を鳴らすロッドを短く引いて汽笛を短く鳴らし、加減弁ハンドルを引く。
D51 241号機はゆっくりと進んでピストン付近の排気管から蒸気を吐き出しながら機関庫を出ると、ゆっくりと転車台へと載り、中央で停車する。
D51 241号機を載せた転車台はゆっくりと回転して機関車の向きを変える。
機関車の向きと線路の位置を変えて転車台が止まると、
いくつもの分岐点を越して、一旦石炭と水を補給してから本線へと入ると、そこには
「……」
ゆっくりと機関車を後退させて石炭車の前で一旦停車させる。
作業員の妖精が石炭車と
旗が揚がったのを確認した
「……」
「はぁ……」
彼女は安堵の息を吐くと、逆転機のハンドルを回してギアを前進にしてからハンドルの凸凹に合わせてロックを掛けて、機関士席から立ち上がって北海道で活躍していた機関車の多くに見られた密閉型の
隣ではB20 15号機が汽笛を鳴らして別の車両の移動をしながらD51 241号機の横を通っていく。
しばらくして出発時刻になり、
隣では機関助士の妖精がスコップに石炭を載せて床にあるペダルを踏んで焚口戸を開け、火室へと石炭を投げ入れる。
投炭を数回繰り返して機関助士の妖精はスコップを道具置きに戻す。
「……」
そして出発時刻となり、線路上の安全も確認されたので、腕木式の信号機の腕木が下りて赤から青へと変わる。
「出発進行!!」
「出発進行!」
D51 241号機はピストン付近の排気管から蒸気を出しながら、石炭車十二輌を牽いてゆっくりと前進する。
次第に速度が上がっていき、D51 241号機の特徴であるギースル・エジェクタの煙突から灰色の煙が吐き出される。
D51 241号機が牽く列車は幻想機関区を後にして、守矢神社にある石炭集積所へと向かう。
―――――――――――――――――――――――――――――
幻想機関区から出発した列車は幻想郷の平野に敷かれた線路を走り、ドラフト音を奏でながらD51 241号機は持ち前のパワーを発揮して突き進む。
「……」
機関助士の妖精がスコップに石炭を乗せて床のペダルを踏み、焚口戸を開けて火室へ石炭を決められた場所に投げ入れ、床のペダルから足を離すと焚口戸が閉じる。
決められた位置へと火室へ投炭を数回繰り返し、スコップを道具置きに置いて、各所へと蒸気を送るバルブを捻って蒸気を送る。
「……」
彼女は標識を見てそろそろ分岐点が近いのを確認する。
列車は魔法の森前にある分岐点へと差し掛かり、転轍機の向きは魔法の森方面へと向いている。列車はそのまま魔法の森方面へと入る。
魔法の森の中に敷かれた線路の上を列車が走っていき、リズム良くジョイント音が奏でられる。
道中列車の見学に来た者達が手を振っていたので、
しばらく魔法の森に敷かれた線路を通って、列車は河童の里近くまでやってくる。
川の傍の沿線を通っていくと、線路から少し離れた場所で河童達が列車に向けて手を振っていた。
「そろそろ勾配ですよ!」
彼女がそう言うと、機関助士の妖精は頷いてスコップを手にして投炭作業を行う。
今回は前日薄い雨が降ったので、そこまで線路の状態は悪くないが、場合によっては空転の可能性がある。
だが、
何せ彼女がかつて外の世界で走っていた区間は勾配が多く、その上季節によっては多くの雪が積もるような場所だ。勾配を走るのは彼女にとって慣れているのだ。
「……」
そして列車は妖怪の山へと入り、緩やかな勾配を登っていく。
D51 241号機が牽く列車は妖怪の山の緩やかの勾配を順調に登っていく。
その後に汽笛を鳴らして列車の接近を周囲に知らせる。
機関助士の妖精は投炭を何回も行い、すぐに注水機のバルブを回して
緩やかとは言えど、勾配のある線路をドラフト音を奏でながらD51 241号機は妖怪の山を登っていく。
「……」
窓から顔を出して前方を見ている
列車は先ほどより更に角度の付いた勾配に入り、少しだけ速度が落ちるが、事前にピストンへと送り込む蒸気の量を多くしていたので、速度の低下は最低限に押さえ込んだ。
「……」
空転を起こさないように、彼女は加減弁ハンドルを握る手に汗を滲ませながらも、微調整を繰り返す。
しばらく山を登っていると、踏切が近づいているという標識を確認し、
列車は勾配を登っていき、再度汽笛を鳴らしながら踏切を通過した。
「……」
勾配は更にきつくなり、加減弁ハンドルを握る彼女の手に力が入る。
その直後、リズム良く奏でていたドラフト音が突然早くなる。雨に塗れた落ち葉を動輪が踏んだことで、動輪が滑って空転を起こしたのだ。
「っ! 空転!」
機関助士の妖精は各バルブを捻って蒸気の量を減らしつつ、ボイラーの安全弁を開いて蒸気を排出させる。
そしてすぐに空転した際の衝撃で崩れた火床を直す為にスコップを手にして、火室へ石炭を放り込む。
空転したことで速度が著しく低下するが、
「……」
彼女は安堵の息を吐き、再度前を見る。
列車は勾配を登っていくと、森のトンネルを抜けて左側に景色が広がる路線に出る。
この辺りからは勾配が緩やかになっているので、
「……」
ふと彼女は窓から空を見上げると、列車の後を追いかけるように鴉天狗が平行して飛んでおり、カメラを手にして上空から列車を撮影していた。
天狗の多くは幻想機関区が自分達の領域に勝手に線路を敷いた―――と天狗側は疑っている―――とあって快く思わない者が多いが、中には物好きが居るようで、こうして守矢神社行きの列車や博麗神社行きの列車を空から撮影する者が居る。
その多くが姫海棠 はたてが発行している花果子念報の製作に関わっている鴉天狗である。
で、撮影された写真は写真集として天狗の里や人里で売られているそうな。ちなみに北斗はその写真集を購入している。
「……」
ドラフト音を奏でながらD51 241号機は、その大きなボイラーと四軸動輪、更にギースル・エジェクタの恩恵もあり、力強く勾配を上っていく。
そしてしばらく列車は妖怪の山を登り、目的地である守矢神社付近まで来る。
「……」
それから少しして列車は守矢神社脇の石炭集積所へと到着し、一定の場所でゆっくりと停車する。
石炭集積所には一足先に幻想機関区からC11 260号機とC12 06号機が来ており、列車の到着を待っていた。
作業員の妖精は機関車と石炭車の連結を外し、異常が無いかを確認し終えたらもう一人の作業員の妖精がホイッスルを吹きながら緑の旗を振るう。
緑の旗を確認した
ある程度機関車を進ませて停車させると、作業員の妖精が転轍機を操作して分岐点の向きを変えて、ちゃんと変わったかの確認を終えた後に緑の旗を振るうと、
D51 241号機が別の線路に入ってその後にC12 06号機が入って停車すると、作業員の妖精が転轍機を操作して分岐点の向きを戻し、緑の旗を振って待機しているC11 260号機が汽笛を短く鳴らして後退し、石炭車の前まで近づいて一旦止まる。
作業員の妖精が連結器がちゃんと開いているかを確認して緑の旗を振るい、確認した
すぐに作業員の妖精が十二輌ある石炭車を半分の六輌に分けると、それを確認した
その後に分岐点の向きが変えられると、C12 06号機が前進して分岐点の前で停車すると、作業員の妖精が転轍機を操作して向きを変える。
向きが変わったのを確認した作業員の妖精が緑の旗を振るい、それを確認した
その頃D51 241号機は後退していくと、その先には河童達の手によって製造されて新たに設置した転車台がある。そこで車体の向きを変える為だ。
大型のテンダー型蒸気機関車を載せられる立派な物だが、幻想機関区に設置されている電気駆動の物と違い、人力で動かす物である。
緑の旗を確認して
作業員の妖精が六人集まり、転車台のロックを外して前後にある太い棒を三人ずつ持ち、力いっぱい押して転車台を回す。
ゆっくりと回る転車台によってD51 241号機はその向きを変え、転車台の位置が正しいのを確認してロックを掛け、安全を確認した作業員の妖精がホイッスルを吹きながら緑の旗を振るう。
ゆっくりと後退するD51 241号機はここまで来る道中にある給水塔と給炭設備の近くで停車し、水と石炭の補給を行う。
「……」
作業員の妖精達が
「……」
と、守矢神社の方にこちらの様子を見る人影があった。
その人影こと東風谷早苗は
彼女も笑みを浮かべて手を振るう。
休憩も終わり、
石炭車は石炭を満載にして積み終え、既に本線に十二輌連結した状態で待機していた。
D51 241号機はゆっくりと後退して本線へと入ると、石炭車の前で停車する。
作業員の妖精が連結器が開いて異常が無いのを確認して、ホイッスルを吹きながら緑の旗を振るう。
しばらくしてちゃんと連結した確認が取れて、
「……」
彼女は前を見てブレーキを解き、天井から下がっているロッドを引いて汽笛を鳴らすと、加減弁ハンドルを引いて機関車を前進させる。
石炭車に石炭が満載になったことで行きとは全く違うが、D51 241号機は持ち前のパワーで石炭満載の石炭車十二輌を牽いて前進する。
帰りは下り坂続きなので、慣性を用いて列車は絶気運転にて妖怪の山を下っていくことになる。
そして列車は石炭を持ち帰る為に、幻想機関区へと向かうのであった。
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