そして東武鉄道で復元中の私鉄発注C11 1号機の続報が来ましたが、やはり各所に問題が多かった上にコロナの影響で作業が遅れていたようですね。まぁコロナ抜きにしても、あの状態なら復元が遅れるのも無理は無いと思う。大鐡ですらC11 190号機の復元に多くの時間を必要としていたし。
復元予定は遅れて来年の冬頃に延期になっていました。東武鉄道に三輌のC11形が揃うのはもう少し先になりそうですね。
でも私鉄発注C11 1号機が復元されたら、207号機は果たしてどうなるのだろうか。個人的にはそのまま東武鉄道に在籍して欲しいです。JR北海道に返却されても部品取りとして苗穂工場の一角に留置される未来しか見えないし。
第90駅 生活と疑問
翌朝。
守矢神社で一晩過ごした北斗は、早朝に幻想機関区から迎えに来た48633号機の牽くスハ43一輌に早苗と共に乗り込み、幻想機関区を目指した。
妖怪の山を降りて平原を走り、48633号機は幻想機関区へと到着した。
朝早く起きていたとあって、北斗と早苗の二人にはまだ眠気があった。
客車に乗り込み、座席に一緒に座った二人は揺られながら朝日の光を浴びたことで、睡魔が二人に圧し掛かり、山を下りた頃には北斗と早苗の二人は再び眠りについていた。
北斗と早苗はお互いに寄り添うようにして、静かに寝息を立てて寝ていた。
そんな微笑ましい光景を見た
ちなみに二人は起きた時に互いに寄り添って寝ていた状況を理解した瞬間、顔を赤くしてギクシャクしながら客車を降りたそうな。
―――――――――――――――――――――――――――――
『……』
そして北斗と早苗の二人は扇形機関庫に格納されたある物を目の当たりにして、呆然と立ち尽くしていた。
まぁ機関区に戻ってみりゃ、見慣れない機関車が二輌も機関庫にあるのだから、驚いて当然である。
「……なぁ、
北斗は傍に控えていた
「区長。実は―――」
神霊の少女説明中……
「――というわけなんです」
「なるほど。
(まさかあの18633号機とC58 283号機が現れるとはな)
北斗は二輌の蒸気機関車を見て、苦笑いを浮かべる。
何せ片や廃車になった後映画撮影の為に走らされ、しかも脱線転覆シーンを撮る為に実際に脱線させられた機関車で、片やその映画の元となった事故を起こした機関車と、妙な繋がりのある機関車なのだ。
(283号機は晩年の集煙装置付きじゃないんだな)
C58 283号機は、煙突に晩年付けていた集煙装置が無い、オーソドックスな姿のC58形であった。
「まさか、北斗さんが攫われている時に、もう二輌も見つかっていたなんて」
北斗の隣に立つ早苗は二輌の蒸気機関車を見つめて声を漏らす。
「そうですね。まさかこの二輌が現れるなんて思ってもみなかったです」
「この二輌って特徴があるんですか?」
「えぇ。この283号機は山田線で雪崩によって橋脚が崩れた鉄橋から転落する事故を起こして、その後修復されて引退まで走っていた機関車なんです」
「事故車なんですか。でもよくそんな状態から復帰出来ましたね」
C58 283号機の経歴を聞いて、早苗は声を漏らしながら機関車を見上げる。
このC58 283号機は戦時中の1944年、岩手県盛岡市にある山田線にて貨車を牽いて平津戸駅と川内駅間を走行中、雪崩によって橋脚が崩れ線路が宙吊り状態となった橋から川へと転落した機関車であり、この事故で機関士死亡、機関助士が負傷した。
この時機関士は事故直後はまだ生きており、瀕死の重症を負いながらも機関助士に事故の拡大防止を防ぐ為に平戸駅へ向かい緊急連絡を行うように指示を出し、その後救助されるも死亡したとされている。このエピソードは後に映画となり、事故現場の近くに慰霊碑が、旧機関区には事故を記録した記念碑が、宮古駅前には機関士魂を讃える超我の碑が建立されている。
C58 283号機は事故後しばらく横転した状態で事故現場に放置されていたが、終戦後に事故現場から引き揚げられ、工場で修復されて現場復帰した。この時乗り込んだ機関士は、当時この機関車の機関助士だった男性であった。
そしてC58 283号機は山田線の無煙化まで走り続け、最後のさよなら列車を牽引して、その後解体された。しかしナンバープレートは記念碑や超我の碑に埋め込まれて、現存している。
「後にとある映画でその事故を基にしたシーンでこの18633号機が廃車後に撮影に使われて、実際に脱線転覆させて撮影されたんですよ」
「え、映画の撮影の為に機関車を脱線させたんですか!?」
「えぇ。昔の映画でしたけど、迫力がありましたね」
「じ、時代ですねぇ」
早苗はある意味時代の凄さを感じて、18633号機を見上げる。
この18633号機は特に何も特徴ある機関車ではなく、いたって普通の現役時代を過ごし、引退した。しかし廃車後この18633号機は映画に出演して、その映画で実際に脱線転覆させられた機関車なのである。
その後18633号機はしばらくそのまま放置され、その後現地にて解体された。
「それで、この機関車は俺を捜索中に見つけたのか?」
「確かにそうなんですが、その経緯が」
「経緯??」
北斗は思わず首を傾げる。
「この機関車を見つけた人が居て、区長を捜索中の
「えっ、どういうこと?」
「そのままの意味です。走っていた
「マジかよ」
あまりにも危険な行為に北斗は思わず声を漏らす。
「その人が機関車を見つけていたようで、その後その機関車の元へ案内して……」
「この二輌を運び込んだって事か」
「はい」
「それで、機関車を見つけた人はどこに?」
「それなんですが……」
と、早苗の質問に
「その人なんですが、昨日から区長を待っているんです。この機関区に」
「……なに?」
北斗は思わず声を漏らす。
それから
「お待たせしました!」
少しして
「あれって、小傘さんじゃないですか」
「知っているんですか?」
早苗がその人物こと多々良小傘を見ると声を漏らし、北斗が問い掛ける。
「はい。唐傘お化けの付喪神でして、人里ではよく姿を見るんですよ」
「唐傘お化けの付喪神ですか」
北斗は小傘の背中に背負われている番傘を見て、納得する。
「どういう方なんですか?」
「まぁ、驚かすのが趣味というか、生き甲斐と言うか、生きる為と言うか……」
「ん?」
早苗の言葉に北斗は思わず首を傾げる。
「つまり、小傘さんは人を驚かすことで満腹感を満たす妖怪ってことです」
「あぁ、なるほど」
「といっても、小傘さん驚かし方が下手で、その上ワンパターンとあって人里の住人達は小傘さんに慣れちゃって」
「は、はぁ」
「むしろ見た目も相まって、マスコットキャラみたいに可愛がられているみたいで」
(妖怪なのに、そんなんで良いのか?)
相変わらずどこかずれている幻想郷の常識に北斗は内心呟く。尤も、彼自身人のことは言えないのだが。
「でも、驚かす以外にも、人里では色んな場所で働いている姿が見られているんですよ。手先が器用で、特に金属を扱うのに慣れているみたいで、鍛冶屋さんで鉄製品を作っているみたいです」
「なるほど……」
鉄の扱いに慣れているし、手先が器用、という小傘の情報に北斗は頷く。
そして北斗は小傘からそれが本当かどうかの確認を取ろうと思っている。
少しして
「その人がこの二輌を見つけたって言う?」
「はい」
北斗は
「は、初めまして。わちき多々良小傘と言います」
「初めまして。自分がこの幻想機関区の管理責任者の区長をしている霧島北斗です」
緊張した面持ちで自己紹介をする小傘に北斗も自己紹介をする。
「げっ、守矢の巫女さんだ」
と、早苗の姿を見た小傘は思わず声を漏らす。
「ほほぅ? それはどういう事でしょうか?」
左の眉をひくつかせながら早苗がいつの間にか取り出した御幣を左手に軽く叩きながら小傘に問い掛けると、彼女は「ヒッ!?」と声を漏らして怯える。
「まぁまぁ、早苗さん」と北斗が彼女を宥める。
「ところで、小傘さん」
「は、はい」
「この機関区に居るということは、何か用があるのではないですか?」
「あっ、そうだった!」
北斗が小傘に問い掛けると、彼女は思い出したかのように声を出す。
「実はわちき、区長さんに頼みたいことがあるんです!」
「頼み?」
「はい!」
小傘は一間置いてから、口を開く。
「わちきをここで働かせてください!」
「……え?」
彼女の言葉に北斗は思わず声を漏らす。
「ですから、わちきをこの機関区で働かせてください!」
「……一応理由を聞くけど、どうしてここで働きたいんだ? 早苗さんの話じゃ人里の鍛冶屋で生計を立てているって聞きましたけど」
「それはそうだけど、わちきが生きていくのに必要なの!」
「生きていくのに?」
北斗は思わず首を傾げる。
「わちき人を驚かして満腹感を得る妖怪だけど、最近誰も驚いてくれなくて、ここ最近は空腹が続いているの」
(まぁ驚かし方がワンパターンなら、嫌でも慣れるよな)
内心呟きつつお腹を押さえる小傘の話を聞く。
「それに加えてここの蒸気機関車とやらのせいで、人里の人間達は余計驚いてくれないの!」
「えぇ……」
北斗は思わぬ批判に唖然となる。
で、彼の傍で聞いていた早苗は苛立ちが溜まってか、左の眉をひくつかせている。
「でも、わちきは考えました!」
「う、うむ……」
「人里の人間達が蒸気機関車で驚いているのなら、わちきも蒸気機関車に関わればみんなが驚いてくれると!」
「どうしてそうなった」
飛躍した考えに北斗は思わずつっこむ。
まぁ人里の住人を驚かす為に自分が蒸気機関車の何かに関われば良いと考えれば、誰だって疑問を呈するだろう。
「ですから、わちきをここで働かせてください! こう見えても金属の扱いや手先は器用ですから、役に立つと思います!」
「そう言われても……」
「お願いです! わちきの生活が掛かっているんです!!」
と、小傘は北斗の着ている上着を掴んで涙目で必死に訴える。
「……」
その姿に北斗はどうするか悩んでいると……
「小傘さん。そんな我が儘言ったら駄目じゃないですか。北斗さんが困っています」
と、早苗は据わった目をして小傘に声を掛ける。
「ひっ……」
その威圧感ある姿に小傘は怯えて声を漏らす。
「それに北斗さんはあなたに構うほど、暇じゃないんですよ」
「で、でも、このままだとわちきの生活が―――」
「そんなの、小傘さんの驚かし方が悪いんじゃないんですか? そうであればそもそもこんな事する必要だって無いんですから」
「う、うぅ……」
「それなのに無理矢理付き合わされる北斗さんの身にもなってください」
「……」
「そこまでにしてください、早苗さん」
泣きそうになる小傘に見かねて、北斗が早苗を止める。
「早苗さんの気持ちは分かりますが、ここは小傘さんの意見も聞きましょう」
「北斗さん……」
「……」
「小傘さん」
北斗は泣きそうな表情を浮かべている小傘に向き直り、声を掛ける。
「もし機関区で働きたいのなら相応の技術を見せてくれないと、さすがに二つ返事で採用するわけにはいきません」
「……」
「一ヶ月」
「?」
と、北斗の言葉に小傘は首を傾げる。
「一ヶ月の間、小傘さんの技量を確かめさせてもらいます。正式な雇用はその一ヶ月で決めます」
「それじゃぁ!」
「一ヶ月の間、頑張って下さい」
「はい! わちき、頑張ります!」
小傘は笑みを浮かべて、頷いた。
「……」
早苗はため息を付き、北斗を見る。
「北斗さんは甘過ぎますよ」
「かもしれませんね」
早苗の指摘に北斗は苦笑いを浮かべる。
「でも、蒸気機関車の整備が出来るほどの人材は欲しいですからね。彼女の言う通りなら、蒸気機関車の整備士としては適任です」
「……」
「それに、今後のことを考えて、整備員は増やしておきたいですし」
「それは、そうでしょうけど」
早苗はどこか納得いかない様子で、不満げに声を漏らす。
「まぁ、ともかく」
と、北斗は機関庫に眠るC58 283号機と18633号機に向き直る。
「……」
北斗は自分の手を一瞥し、そっとC58 283号機のフロント部に触れる。
「っ!」
すると彼の頭に一瞬だけ頭痛に近い感覚が走り、一瞬顔を顰める。
早苗は北斗を支えようとするが、前と違って後ろによろけなかったので、支える必要はなかった。
すると二輌の機関車の前に光が集まり、人の形を形成していく。
「これって……」
初めて見る光景に小傘は見とれて声を漏らす。
それからしばらくして人の形を形成した光が弾け飛ぶ。
『……』
そして光の下から、一人の少女と一人の女性が姿を見せ、ゆっくりと瞼を開けて目覚める。
一人は艶のある黒い髪を背中まで伸ばした少女で、黒い瞳を持つ少し童顔であるが、それなりにスタイルが良い。彼女が着ている紺色のナッパ服の左胸辺りには『C58 283』と記されたバッジを付けている。
一人は灰色掛かった黒い髪を腰まで伸ばし、黒い瞳を持つ女性で、背が高くスタイルが良い。彼女が着ている紺色のナッパ服の左胸辺りには『18633』と記されたバッジが付けられている。
「これが、あの二輌の神霊なのか」
北斗は二人の神霊を見ていると『C58 283』のバッジを付けた少女と『18633』のバッジを付けた女性が驚いた様子で辺りを見渡している。
「ここは、一体……」
「私が、目の前に居る?」
戸惑いを隠せないで居る二人に、北斗は近づいて声を掛ける。
「ちょっといいかな?」
『……?』
北斗に声を掛けられて二人は振り返って彼を見る。
「あなたは?」
「自分はこの機関区の区長をしている霧島北斗だ」
「っ! 機関区の区長でしたか!」
二人は北斗に向き直り、姿勢を正して敬礼をする。
「私はC58形蒸気機関車、C58 283号機と申します」
「私は8620形蒸気機関車、18633号機と申します」
敬礼をしたまま二人はそれぞれ自己紹介をする。
「ようこそ、我が幻想機関区へ」
北斗は右手を差し出して、二人は戸惑いを見せていたが、それぞれ握手を交わす。
「……」
そんな様子を後ろから見ていた早苗は、ふとある疑問が過ぎる。
(そういえば、どうして蒸気機関車の神霊達は、北斗さんを素直に区長として受け入れているんだろう?)
北斗が『C58 283』のバッジを付けた少女と『18633』のバッジを付けた女性と話しているその光景を見て、これまでの蒸気機関車の神霊達との接触時の事を思い出す。
気のせいかこれまで接触してきた蒸気機関車の神霊達は、北斗を区長として素直に受け入れている。これまで誰一人として彼を区長として否定したことがない。
(……まるで最初から北斗さんを区長として認識しているような、そんな気がする)
早苗は疑問を抱くが、悩んだところで答えが出るわけではないので、彼女は疑問を棚上げにする。
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