皆様もコロナや熱中症に気を付けてください。
月日は流れて、幻想郷は薄っすらと雪が降っている、冬真っ只中である。
この時期になると、冬に活発に活動する妖怪が現れるようになったり、氷精が活き活きとしていたりと、季節限定なことが起きるのが幻想郷の特徴である。
真冬になったとしても、幻想機関区は相変わらず忙しく動いており、雪が降る中でも妖精達は各々の仕事を全うしている。
機関庫では既存の機関車や、つい最近に新たに加わった機関車の整備が妖精達によって行われたり、操車場ではB20 15号機とC10 17号機、79602号機が車輌の入れ替え作業を行っている。
そんな中、整備を終えた青いボディーに白いラインが特徴的な『12系客車』五輌が48633号機によってC58 1号機が待つ本線へと運ばれている。
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「お兄様!!」
そんな幻想機関区に、元気な声が響く。
「フラン」
加減しているとはいえ、飛んでくる彼女を北斗はしっかり受け止める。
「元気そうで何よりだね」
「えへへ♪」
北斗は抱きついているフランの頭を優しく撫でると、彼女は笑みを浮かべて喜び、それに連動するように背中に生えている枝のような翼に下がっているクリスタルが輝きを増して揺れる。
「お久しぶりです、北斗様」
と、紅魔館のメイドである咲夜が突然姿を現し、頭を下げる。
いつものメイド服姿であるが、冬とあってか膝下まであるスカートに赤いマフラーをして、黒いタイツを履いている。
「今日はお忙しいところ妹様の為に時間を割いていただいて、ありがとうございます」
「いえ、大丈夫ですよ」
彼はフランの頭を撫でながら頭を下げる咲夜にそう告げる。
数日前にフランが幻想機関区へ遊びに行きたいと言う連絡を受けて、北斗は博麗神社行きと守矢神社行きの旅客列車、石炭輸送列車の運行日と被らない日なら良いという連絡をして、その後予定を組んだ。
今日がその日であり、フランは咲夜の付き添いを伴って幻想機関区へ遊びに来たのである。
「? お兄様」
「なんだい?」
と、フランは北斗の後ろを見る。
「そのお姉さん、誰?」
彼女の視線の先には、相変わらずメイド服を着た夢月の姿があった。彼女は北斗のサポートとして付き添っている。
「あぁ、この機関区に泊り込みで働いている人……もとい悪魔だよ」
「ふーん……え?」
一度は頷いた彼女だったが、直後に首を傾げる。
「えぇと、本当なの?」
「まぁ、成り行きでね」
信じられないものを見ているような様子のフランに、北斗は苦笑いを浮かべる。
ほぼその通りなので、夢月も何も言わず視線を逸らしている。
「……」
そんな中、咲夜だけは夢月に対して警戒心を抱いていた。
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その後北斗とフラン達は機関区内にある整備工場へと足を運んだ。
「うわぁ、凄い!!」
フランは視界いっぱいに広がる光景に思わず声を上げる。
工場内では作業員の妖精達が紅魔館の地下にて発見された蒸気機関車の部品の復元整備を行っており、金属の研磨音や金槌を叩く音が場内に響いている。
その中で専用の機械で表面を研磨された機関車の動輪がクレーンによって吊り下げられて工場の一角へと運ばれている。
「あっ! 私の部屋の隣の地下で見つけた機関車だ!」
フランが見つけたのは、復元工事が終盤を迎えている4500形蒸気機関車と、火入れ間近で試運転に向けて最終調整が行われている比羅夫号こと7100形蒸気機関車の姿だ。
「あの状態からここまで綺麗になったんですね」
フランの後ろに控える咲夜がピカピカに磨かれた7100形蒸気機関車を見て声を漏らす。
埃塗れで、所々に錆が目立っていた発見当初と比べれば、今の二輌は見違えるほど綺麗になっている。
「えぇ。彼女達の仕事っぷりには感心します」
北斗の視線の先には、真剣に二輌の機関車の整備に取り組んでいる作業員の妖精達の姿がある。
「……真面目で羨ましいですね。館の妖精メイドも見習って欲しいわ……いっその事ここで鍛えてもらうのもありかしら。いやでも北斗様に迷惑を掛けるわけには」
と、咲夜はボソッと呟く。
その呟きが聞こえた北斗は苦笑いを浮かべる。
「あんたの所のメイドは苦労しているのね」
「まぁ、そうだね」
夢月が哀れめいた目で咲夜が見ながらフランにそう言うと、彼女が苦笑いを浮かべる。
最初はぎこちない様子であったが、同じ姉妹の妹同士とあって気が合うのか、僅かな間でそれなりに仲が良くなっている。まぁある意味狂気に満ちていると言う点では気が合うのかもしれない。
更にメタい話をいうと、どちらとも旧作やwin版の初のエクストラボスであるので、その点で気が合うのかもしれない。
「でも、あなたもメイドじゃないの?」
「この格好は姉さんの趣味よ」
「そうなの?」
「格好なんてどうでもいいから、姉さんの趣味に付き合ってあげているの」
「へぇ。変な趣味。私だったらお姉様にそんな格好させられたら気持ち悪いと思う」
「……」
と、容赦ないフランの言葉に夢月は何とも言えなかった。
「ねぇ、お兄様」
「なんだい?」
「この蒸気機関車いつ動くの?」
フランは7100形蒸気機関車を指差しながら北斗に聞く。
「そうだね。調整がまだ必要だから、もう少し先になるね」
「えー」
フランは残念そうに声を漏らす。
「あら? あれは……」
と、咲夜があるものを見つけて、声を漏らす。
北斗達は彼女の視線の先を見る。
「……」
そこでは紺色のナッパ服に身を包み、ヘルメットを被っている小傘の姿があり、彼女は蒸気機関車の部品の一つである連結棒を手にしている金槌で軽く叩き、音を確認している。
音を確認して異常が無いのを確認してその様子を見守っていた作業員の妖精に伝えると、妖精は頷く。
小傘は笑みを浮かべて、頭を下げる。
「調子はどうですか?」
と、後ろから声を掛けられて彼女は振り返ると、北斗とフラン達の姿があった
「あっ、区長さん!」
小傘は向き直り、頭を下げる。
「はい! 皆さん優しくて、色々と学べてます!」
「そうですか」
彼女からそう聞き、北斗は頷く。
「あなた、ここで働き始めたの?」
「あっ、紅魔館のメイドさんだ」
と、咲夜が小傘に声を掛けると、彼女は声を上げる。
「彼女を知っているのですか?」
「はい。たまに彼女が働いていた鍛冶屋で私が使っているナイフの換えを作ってもらったりしていますので」
と、咲夜は時間を止めると、膝下まであるスカートの裾をたくし上げて太ももに装着しているホルスターよりナイフを二本手にしてスカートを元に戻し、止めた時間を動かす。
端から見れば突然彼女の手にナイフが二本現れたように見える。
「な、なるほど。まぁ、鍛冶屋での彼女の評判は聞いていますが」
突然物騒な物を手にしている咲夜に北斗は戸惑いながらも、小傘の鍛冶屋での評判を思い出す。
「それで、あなた転職でもしたの?」
「そう! わちきはみんなに驚いてもらう為に、ここで働き始めたんです!」
「まだ試用期間中ですがね」
胸を張って豪語する小傘に北斗がつっこむ。
(と言っても、彼女の金属を扱う腕は確かだし。たった一日で打音検査に金属研磨を覚えたのだから)
北斗は内心呟き、これまでの小傘の実力を思い出す。
人里の鍛冶屋で金属品の加工をしていたとあって、小傘の金属を扱う腕前は高く、その上技術の吸収も早い。
打音検査では金属の音を的確に聞き分け、ヤスリを使って金属部品の研磨をミリ単位で行って、それをものにした。恐らく鍛冶屋で働いた経験を生かして連結棒のブッシュ等の鋳物もすぐに学ぶだろう。
蒸気機関車の整備に携わる人材として、これほどの逸材は居ない。
「でも、鍛冶屋は今後も続けていくよ。場所が変わっただけで」
「そう。なら、これからはここに来ないといけないのね」
咲夜は時間を止めてナイフをホルスターに戻して時間を進める。
「おーい、小傘ちゃん! 次はこのパイプの検査だ!」
妖精が彼女を呼ぶと、小傘は「はーい!!」と返事をしてすぐに妖精の元へと駆け寄る。
「張り切っていますね」
「えぇ。それだけここで働きたいんでしょうね」
「そうですか」
咲夜と北斗の二人は妖精から技術と知識を学ぶ小傘の姿を見て、微笑む。
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整備工場を後にした北斗達は蒸気機関車が格納されている扇形機関庫へとやってきた。
「……」
京都にある鉄道博物館の蒸気機関車を展示している機関庫も驚きな光景に、フランは圧倒されている。
今出払っている以外の罐が機関庫に収まっており、妖精達の手で整備が行われている。
その中には魔法の森で新たに発見され、神霊の少女共々加わった18633号機とC58 283号機の姿があり、妖精達が隅々まで整備を行っている。
更に機関庫の隅では、地底にあるはずの『C50 58』号機と『C54 17』号機の二輌の姿があった。
この二輌は先日霊夢の要請を受けて、八雲紫が自身の『境界線を操る程度の能力』によって地底からこの機関区へ運び出したのだ。
地底から運び出したこの二輌だが、C12 208号機やC56 44号機、C11 312号機の時のように北斗が触れても変化が起きなかったので、4500形と7100形の二輌の復元作業が終わり次第、二輌は全般検査に入る予定だ。
それまでは妖精達により、出来る限りの整備が行われる。
「こうして見ると、凄い光景だよね」
「そうだな」
機関庫の前を歩いて蒸気機関車を見回してフランがそう言うと、北斗が相槌を打つ。
その殆どが現存していない機関車ばかりで、しかもその全てが現役なのだから、圧倒されるのも頷ける。
「……?」
するとフランはある蒸気機関車の前で立ち止まり、まじまじと見る。
「ねぇ、お兄様」
「なんだい?」
「この機関車って、なんだか他と違うんだね」
「分かるのか?」
「うーん、なんとなく」
首を傾げながらフランは静かに佇むC59 127号機を見る。
「まぁ、確かにこの127号機は他の罐と構造が違うんだ」
「どこが違うの?」
「蒸気機関車は石炭を含めて、極論から言えば水を沸騰させられる火を出せるのなら燃料は何でもいいんだ」
「うん。知ってる!」
「でも、この127号機は重油って呼ばれる液体燃料しか使えないんだ」
「重油?」
「まぁ油だね。と言っても、普通の油じゃなくて、石油って言う油を精製して作る液体燃料なんだ」
「ふーん……」
と、フランは明らかに理解できていない声を漏らす。
「この127号機はその重油でしか動かないんだ」
「では、その重油とやらがこの機関区に無いのですか?」
咲夜の質問に北斗は「えぇ……」と短く答える。
「代替できる燃料があれば、動かせなくも無いんですがね」
「はぁ……」と北斗は深くため息を付く。
C59 127号機はこの幻想郷に現れてから、一度も火を灯していない。最大の原因である燃料の重油が無いからだ。
この幻想郷に重油はおろか、石油すら無いのだ。あっても重油を製油する為の設備が無い。扱う技術も無い。
その為、未だにこの罐は一度も自らの力で走ったことが無い。
何とか代替できる液体燃料が無いか探しているが、そんな都合良くあるはずもなく、未だ解決の糸口は無い。
そんな冷たいままのC59 127号機を北斗はただ見つめることしか出来なかった。
―――――――――――――――――――――――――――――
その日の夜……
「……」
幻想郷を見渡せる場所に、飛鳥が立っていた。
彼女の視線の先には、明かりが灯っている幻想機関区があった。
(北斗……)
飛鳥は内心呟くと、手にしている懐中時計の時刻を確認する。
「そろそろだね」
と、彼女の後ろに立つ双子のように顔つきがそっくりで、同じ紺色のナッパ服を身に纏い、左胸辺りには蒸気機関車のナンバープレートを模したバッジを付けた二人の少女の内、こめかみ辺りにステンレス製の飛翔する燕を模した髪飾りをした少女が声を掛ける。
「あぁ。これでようやく、幻想郷のほぼ全域が繋がる」
飛鳥はそう言いながら、目を閉じて意識を集中させる。
すると彼女の足元に線路のような模様の魔法陣が現れ、飛鳥が呪文のような言葉を口にすると、魔法陣が一瞬だけ輝きを増す。
それにより、飛鳥が幻想郷の各地に設置した仕掛けが作動し、辺りに変化を齎す。
そして彼女の足元の魔法陣が消えると、悲しげな音色が幻想郷を響き渡る。
この幻想郷で最初に線路が出現した前夜にて、多くの者が耳にしたあの音は、彼女によるものだったのだ。
「……」
飛鳥はゆっくりと息を吐き、目を開ける。
(これで、幻想郷は繋がった。後は―――)
彼女は最後に何かを考えて、その後踵を返す。
「行こうか『飛燕』『疾風』」
「えぇ」
「うん」
飛燕と疾風と呼ばれた少女達は頷き、飛鳥の後に付いて行く。
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