翌日。
幻想郷は大騒ぎな事態に直面していた。
昨日には線路が無かった場所に、突然線路が出現しているとの情報が幻想機関区へ次々と入ってきたのだ。
最初は人里に設置した管理所より里長から連絡が来て、次に博麗神社、守矢神社と、続け様に連絡が来たのだ。
これを受けて北斗は動ける罐を動員して、各所に現れた新たな路線の調査へ入った。
―――――――――――――――――――――――――――――
それから二日後。
「……」
執務室にて線路の調査内容を確認している北斗は静かに唸り、書類を机に置いて腕を組む。
(ここに来ていきなり異変に進展が起こるとはな)
内心呟き、深くため息を付く。
正に急な出来事とあり、幻想郷に与えた混乱は大きかった。
線路の調査のため、全ての列車の運行は停止している。尤も、とある理由で守矢神社行きの列車は石炭輸送列車共々停止せざるを得なかったが。
「大変なことになりましたね」
と、早苗がお茶を淹れた湯呑を乗せているお盆から北斗の前に置きながら声を掛ける。
「そうですね。しばらく何の変化が無いと思ったら、立て続けに蒸気機関車の出現。魔法の森で新たな路線の発見。更に幻想郷全体で再び線路が出現した」
北斗はそう言いながら湯呑を手にして、お茶を飲む。
「それに、機関区は危機的状況に立たされていますからね」
深刻な表情を浮かべる北斗に、早苗がとっさに声を掛ける。
「それについては大丈夫です! 神奈子様に諏訪子様が天魔さんや天狗達に説明をしていますから、北斗さん達への疑いが晴れて、再び通れるようになります!」
「……だといいんですが」
北斗はお茶を飲み、窓から外の景色を見る。
幻想郷全体に新たに出現した線路はこれまで無かった地域はもちろん、最初に現れた場所にも別ルートや線路の本数が増えるなどの変化が見られた。
当然線路の増加は妖怪の山でも起きている。そのお陰で天狗達は自分達の領域にまた勝手に線路が敷かれたと憤りを見せ、守矢神社を通して幻想機関区へ苦情を入れて益々彼らへの疑いを強めた。
それにより妖怪の山にある通行許可が下りている線路は、天狗達によって封鎖されてしまっている。当然妖怪の山に出現した線路の調査は出来ていない。
もちろん幻想機関区が今回の異変に関わっていないと、守矢神社の八坂神奈子と洩矢諏訪子が天狗の長である天魔を含めた天狗達に説明をしているが、ただでさえ幻想機関区を快く思っていない者が多く、その上排他的思考をしている天狗達は中々信用してくれないでいた。
もしこのまま疑いが晴れず妖怪の山の路線が使えないままが続けば、幻想機関区は守矢神社にある石炭集積所から機関区へ石炭の輸送が行えなくなり、やがて石炭も尽きることになる。それは機関区にある蒸気機関車が行動出来なくなる事を意味している。
そしてようやく参拝客が増えたことで神力が安定してきた守矢の二柱にとっても、参拝客の減少は何としても食い止めなければならない。
「兎に角、今は自分達にやれる事をするしかありません」
「そうですね」
北斗は湯飲みを机に置いてそう言うと、早苗が頷く。
机には幻想郷の地図が広がっており、最初に書いた路線図に新たに発見された路線が書き足されている。
(今回新たに現れた線路によって、この幻想郷の殆どを鉄道で行き来できるようになったな)
北斗は新たに書き足された路線図を見て、内心呟く。
今回現れた線路によって、ほぼ幻想郷全体に行き来できるようになった。それはつまり幻想郷が更なる発展の可能性があるのだ。
その中で、北斗はある場所が気がかりだった。
「早苗さん。この『無縁塚』ってどのような場所なんでしょうか?」、
「無縁塚ですか……」
北斗が地図に書かれたとある場所を指差しながら聞くと、早苗は静かに唸りながら首を傾げる。
「すみません。無縁塚に私は行った事が無いので、詳しくは知らないんです」
「そうですか」
「でも、霊夢さんからある程度は聞いています。何でも名前が分からない人が眠っている墓地なんだかとか」
「墓地、ですか」
北斗は息を呑む。
正直なところこの幻想郷ではどんな事があってもおかしくない。もしかしたらゾンビみたいに動く死体だって存在していそうだ、と彼はそう思っている。
「でも、立派なものではなく、石を積み上げた程度のものらしいです」
「……」
「その無縁塚が何か?」
「この辺りにも線路が確認されたので、調査に向かおうと思っています。しかし詳細が分からないので、調査前に知っておきたいんです」
「それでしたら、霊夢さんが知っているはずです。曲がり仮にも博麗の巫女ですので」
「そうですね。でしたら、明日博麗神社へ向かいましょう」
「はい」
―――――――――――――――――――――――――――――
翌日。
場所は博麗神社……
「いやぁ、まさかここに来て異変に進展があるとはねぇ」
「……」
神社の境内にある家の縁側にて、魔理沙がそう言い、隣では不機嫌そうな雰囲気の霊夢が る~こと より受け取った湯呑に淹れられたお茶を飲む。
る~こと は竹箒で境内に落ちている落ち葉を掃いて片付けている。
魔理沙は昼前に博麗神社へと遊びに来て、こうして霊夢と世間話をしているわけである。
「それにしたって、朝から機嫌が悪そうだな、霊夢」
「ふん」
霊夢が不機嫌な理由は分かっていたが、敢えて魔理沙は聞くと、霊夢は鼻を鳴らす。
まぁ博麗の巫女である彼女とて何もしていないわけではない。密かに線路異変を独自に調査していたのだが、有力な手がかりは見つかっていなかった。
そんな中で更に線路異変が進展したのだ。博麗の巫女として異変を解決できず、むしろ異変が進展しているこの状況は、彼女のプライドが許さないのだろう。
「それにしたって、今回の異変の主犯はどういったやつなんだか。今までに無いパターンだぜ、これ」
「そんなの知らないわ。主犯の考えていることなんて」
「おいおい。ちょっとは興味ぐらい持ったらどうだよ。博麗の巫女の台詞じゃないぜ」
「別にいいじゃない。私のやるべきことは異変を解決することよ」
「全く……」
と、魔理沙は相変わらずな霊夢の無頓着さにため息を付く。
「……なぁ霊夢」
「何よ?」
「あんまり考えたくないけど、この異変さ……」
魔理沙は少し間を置いてから、口を開く。
「……もしかしたら、北斗が関わっているんじゃないのか?」
「……」
「魔理沙様。何を言って……?」
彼女の言葉に霊夢は目を細め、る~こと は驚いた様子で問い掛ける。
「もちろん、異変の主犯があいつじゃないっていうのは私だって思っているさ。嘘をついているようにも見えなかったしな」
「……」
「でもここ最近起きた事は、どれもあいつの所の幻想機関区が得してないか?」
「……」
「……」
すると遠くから汽笛の音が博麗神社へ響く。
「汽笛?」
「誰か来たのか?」
二人は汽笛を聞き、首を傾げていると、遠くから煙がこちらへと向かってきていた。
煙は神社の前で止まり、少しして北斗と早苗の二人が階段を登って鳥居を潜る。
「こんにちは、霊夢さん。魔理沙さん」
二人は霊夢と魔理沙に頭を下げて挨拶をする。
「よっ、北斗に早苗」
魔理沙は小さく手を上げて返事をする。
「何の用かしら? と言っても、この状況で北斗さんがここに来る用は一つだろうけど」
霊夢は北斗を見ると、彼がここに訪れる理由を尋ねる。
「霊夢さん。今回の新たに出現した線路について、話したいことがあります」
「奇遇ね。私も北斗さんから聞きたいことがあったの」
北斗がそう言うと、霊夢は目を細めて彼を見る。
少女と少年説明中……
「なるほど。ここまで広がっているなんてね」
北斗から線路の調査結果を聞き、霊夢は険しい表情を浮かべる。
「それに無縁塚か。あの異変以来行ってないな」
「あの異変?」
「まぁ話せば長くなるから、今度な」
魔理沙の言葉に北斗と早苗は首を傾げる。
「それで、その無縁塚の事を聞きたいの?」
「えぇ。どうやらその無縁塚にも線路が出現しているので、調査の前にどのような場所か知っておきたいので」
「早苗から聞いたんじゃないの?」
「私は無縁塚に行ったことが無いので、詳しくは教えられませんでした」
「それで私に聞きにきたってわけね」
「はい」
「……」
霊夢は手にしている湯呑を口にしてお茶を飲んで喉を潤し、口を開く。
「あそこは名前の無い者達が眠る場所であり、不安定な場所よ」
「不安定? それはどういうことですか?」
「あの辺りは幻想郷を覆っている博麗大結界が不安定なのよ。だから外の世界から様々なものが流れ着くのよ」
「……」
霊夢の言葉に北斗は息を呑む。
(まぁ、それ故にあそこは幻想郷の闇の部分でもあるんだけど)
と、霊夢は内心呟きつつ、八雲紫より聞かされた話を思い出すも、そのことは口にしなかった。
「それに、あの辺りは獰猛な妖怪が多いわ」
「それに説教好きな閻魔もな」
「?」
魔理沙の言葉に北斗は首を傾げる。そんな彼に霊夢は「気にしなくていいわ」と告げると、早苗は苦笑いを浮かべる。
「兎にも角にも、北斗さんのようなただの人間が行くような場所じゃないわ」
「……」
「でもまぁ……」
と、霊夢は頭の後ろを掻き、北斗を見る。
「異変の調査とならば、私が動かないわけには行かないわ」
「っ! ということは!」
霊夢がそう言うと、早苗が顔を上げる。
「その調査に同行してあげるわ」
「おっ、なら私も一緒に行くぜ!」
霊夢が調査への同行を言うと、魔理沙が続く。
「霊夢さん、魔理沙さん。ありがとうございます」
北斗は深々と頭を下げる。
「それで、いつ行くのかしら?」
「出来るだけ早めがいいので、明日の朝8時には出発します」
「明日の朝ね。了解」
「おう! 待ってるぜ!」
出発の時間を聞き、二人は頷く。
それからしばらく色々と話し合い、北斗と早苗は機関車に乗って機関区へと帰った。
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