東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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第96駅 負傷

 

 

 

 

 早苗の目の前には、左肩に大きな傷を負って倒れている北斗の姿。

 

 傷は深く、その上三つもあって多くの血が流れ、その周辺は赤く染まっている。

 

 何とか早苗を妖怪の攻撃から守ることが出来た北斗だったが、かわしきれず妖怪が振るった爪が彼の左肩を切り裂いた。正確には二の腕に近い部分であるが、それでも彼の左肩が三つの筋に切り裂かれた。

 

 そのあまりにもショッキングな光景に早苗は呆然とするが、北斗が痛みによって呻き声を漏らすと、早苗の意識が戻る。

 

「北斗さん! あぁ、そんな!?」

 

 早苗は取り乱した様子で北斗に声を掛けると、彼は激痛で歯噛みしながら彼女を見る。

 

「さ、早苗さん……大丈夫、ですか?」

 

 息絶え絶えな様子であったが、北斗は自分より早苗の状態を確認する。

 

「私なんかより、北斗さんが!」

 

「……さ、さすがに、大丈夫では、無いですね」

 

 北斗は起き上がって座り込んだ状態になり、右手で傷を抑えて出血を抑えようとするが、傷は深くその上三箇所に出来ているとあって、出血が止まらない。

 

 それによって彼は血が流れ出ていく喪失感と、激痛による意識の朦朧が襲い掛かっていた。

 

 早苗はすぐに左腕の袖を腕から引き抜くと、それを使って北斗の左腕の傷の上に巻き、強く縛って止血する。

 

「何で、私を庇って……」

 

「何でって……それは……当然、でs―――」

 

 すると北斗はふらついて倒れそうになるも、早苗がとっさに彼を支える。

 

「北斗さん! 北斗さん!!」

 

「……」

 

 早苗が彼に大声を掛けるが、出血が多いせいか意識が遠のき出して、受け答えが出来なくなりだしていた。

 

 

 

 

「霊夢! 北斗が!」

 

「っ!」

 

 弾幕を張って妖怪を抑えていた魔理沙が北斗の異変に気づき声を上げると、霊夢はとっさに彼の居る方向を見る。

 

 そこでは早苗に声を掛けられながら軽く揺さぶられているが、殆ど反応していない北斗の姿があった。その上彼の左腕が白い布らしきもので巻かれているが、その白い布が赤く染まっている。

 

 その状況で何があったのか、霊夢は瞬時に察する。

 

「魔理沙!」

 

「あぁ!」

 

 二人はとっさに北斗の元へと向かおうとするが、突然下方から光弾の弾幕が張られる。

 

「なぁっ!?」

 

「くっ!」

 

 突然の弾幕に二人はとっさにかわして光弾が飛んできた方を見ると、被弾から復活した妖怪達が弾幕を張っていた。

 

「あいつら、さっきまでやってなかったのに!?」

 

「……」

 

 魔理沙は驚愕しながらも弾幕をかわし、霊夢は険しい表情を浮かべつつ、結界を張って弾幕を防ぐ。

 

「足止めのつもりね」

 

「何だって!?」

 

 霊夢の言葉に魔理沙が彼女を一瞥すると、とっさに北斗達の方を見る。

 

 いつの間にか北斗と早苗の周囲に妖怪たちが集まっていた。どうやら血の臭いによって寄せられているようである。

 

「くそっ! 邪魔だ!!」

 

 魔理沙はミニ八卦炉を構えようとするが、弾幕が濃い為回避するのがやっとで、ミニ八卦炉を構える暇が無い。

 

「……」

 

 霊夢は奥の手を発動する準備に取り掛かるが、どうしても発動させられなかった。

 

 スペルカードルールにおける彼女のラストワードであるそれなら無縁塚に現れた妖怪たちを一掃することが可能だろう。しかし範囲が広い上に弾幕が濃いので、周囲に居る味方を巻き込みかねない。

 

 魔理沙ならかわせるだろうが、身動きが取れない北斗と取り乱している早苗が居る以上巻き込まれるのは確実だ。

 

 早苗が結界を張るのなら問題ないが、北斗が傷つき倒れたせいで彼女は取り乱している。とても結界を張れる余裕など無い。

 

「早苗! 落ち着きなさい!!」

 

 霊夢は早苗に大声を上げるが、妖怪達が喧しく騒いでいるせいで声がかき消されて早苗に声が届いていない。

 

 近づいて声が届くようにしようとするも、妖怪達が放つ弾幕により近づけないで居た。

 

 同じく皐月(D51 465)七瀬(79602)も妖怪達に阻まれて早苗と北斗の元へ向かえずにいた。

 

 

 

 

「北斗さん……北斗さん……」

 

 座った状態から再び横になった北斗に、早苗が力無い声で何度も声を掛ける。

 

 傷口からの出血は未だに止まらず、彼女が着ている巫女服の袖で縛った箇所は真っ赤に染まっており、さっきよりも北斗の顔色は悪くなっている。

 

(私が、私が油断したせいで……北斗さんが……)

 

 彼女は内心呟き、両手を握り締める。

 

 

 油断したつもりは無かった。周囲を警戒して、北斗を妖怪から守っていたはずだった。

 

 だが、結果は北斗が彼女の背後から迫っていた妖怪から攻撃を庇い、傷を負ってしまった。

 

 

 これでも異変解決に加わったり、妖怪退治も何度も行ってきた。妖怪の動きだって、ある程度理解していたはずだった。

 

 だが、やはり経験が不足していたというのもあるが、何より早苗にとって想定外だったのが、妖怪が本気でこちらを殺しに掛かっているということだ。

 

 今までなら意思疎通できる妖怪が相手だったからこそ、出来ていた部分が多かった。獰猛な妖怪が相手でも、何とか出来ていた。

 

 だが、今回は狂暴化していた妖怪が相手であり、その動きは早苗の予想を超えていた。

 

 

 まぁ、北斗を守ることばかりを考えていたが故に、後方への警戒が疎かになっていた部分は否めないが。

 

 

(私のせいで、私のせいで……)

 

 虚ろになった目で北斗を見ながら、早苗は自分の未熟さを悔やむ。

 

 

 すると早苗の傍で何かが弾け、その音で彼女の意識が引き戻される。

 

「早苗!! 前だ!!」

 

 と、彼女の上で妖怪達が放つ弾幕を潜り抜けた魔理沙が大声を放ちながら通り過ぎる。

 

 早苗は前を見ると、妖怪が彼女に向かって走ってきて、その拳を勢いよく突き出していた。

 

「っ!」

 

 彼女はすぐさま結界を張り、妖怪の攻撃を防ごうとする。

 

 しかしとっさに結界を張った上に、精神が乱れた状態の彼女にまともな結界が張れるわけも無く、更に不安定な体勢とあって妖怪の拳が結界に衝突すると同時に早苗は後ろへ吹き飛ばされる。

 

「あぐっ!?」

 

 吹き飛ばされた早苗は地面に背中を強く打って肺の中の空気が吐き出され、そのまま身体が半回転して地面に倒れる。

 

「うっ……ぐぅ!」

 

 身体中から痛みが走りって一瞬意識が飛びかけるが、彼女は気合で意識を繋ぎ止め、すぐに顔を上げる。

 

 すると彼女を吹き飛ばした妖怪が倒れている北斗を前にして、鋭い爪を持つ手を振り上げていた。

 

「っ! 開海『モーゼの奇跡』!!」

 

 早苗はスペルカードを発動させると同時に飛び出し、瞬間移動で北斗の元へと向かって彼を抱え上げて移動させると、その直後に妖怪が振り下ろした爪が地面を抉る。

 

 北斗を抱えたまま早苗は弾幕を放ち、光弾の雨霰の直撃を受けた妖怪は後ろに吹き飛ばされる。

 

「魔砲『ファイナルスパーク』!!」

 

 早苗が北斗を抱えて離れた直後に魔理沙がミニ八卦炉を展開して前に出すと、先ほどの恋符『マスタースパーク』よりも強力な虹色の極太レーザーが放たれる。

 

 虹色の極太レーザーは妖怪達を飲み込み、吹き飛ばしていく。

 

「霊符『夢想封印 円』!」

 

 その間に霊夢はスペルカードを発動させ、自身の周囲に光球を出して、彼女の周囲を回り出すとその周辺へ光弾を放つ。

 

 放たれた光弾は妖怪達に命中して弾け、次々と吹き飛ばす。

 

「おっと!? やべぇ!」

 

 すると魔理沙が慌てた声を上げて霊夢は思わず見ると、魔理沙が手にしているミニ八卦炉から煙が上がっている。ミニ八卦炉が故障したのは誰が見ても明らかである。

 

「霖之助さんに直してもらったんじゃないの?」

 

「そうだけど、まだ完全に終わったわけじゃないんだ……」

 

 煙を上げるミニ八卦炉を仕舞いながら魔理沙は苦虫を噛んだように顔を顰める。

 

 この間の北斗の誘拐事件時、地霊殿でみとりとの弾幕勝負の末、ミニ八卦炉が損傷したので、製作者である香霖堂の店主 森近霖之助に修理を頼んでいた。

 しかし思いのほか損傷が大きかったとあって、修理完了まで時間が掛かる予定だった。

 

 しかし無縁塚へ出発するのにミニ八卦炉が必要だったので、彼女は霖之助に無理言って応急修理した状態で持ってきたのだ。

 

 その不完全な状態で連続して高火力の砲撃を連続して使用すれば、耐えられるはずもないのだ。

 

 兎にも角にも、ミニ八卦炉が使用不可となったことで、魔理沙は最大火力を失ってしまった。

 

 しかし彼女の放った一撃は妖怪達の動きを鈍らせることとなり、一瞬の隙が出来る。

 

(今の内に!!)

 

 霊夢と魔理沙の二人のスペルカードによる攻撃で妖怪達の動きが鈍り、早苗はその隙に北斗を抱えて列車の方へと飛び立つ。

 

 

「っ!?」

 

 しかしその直後、妖怪が放った光弾の弾幕が早苗の背中に直撃し、彼女はその衝撃でバランスを崩して地面に落ちる。

 

 その際北斗を守ろうと自分の身体を下にして落ちたが、北斗の体重が加わって落下した事で、身体中に痛みが走る。その衝撃で抱えていた北斗を手放してしまう。

 

「うっ……」

 

 光弾が当たった背中と落下時に地面に打ち付けた身体中の痛みに呼吸がしづらくなって意識が朦朧となるも、早苗は頭を振って何とか気を保つ。

 

「ほ、北斗さん……」

 

 すぐに身体を起こして隣に倒れている北斗を見ると、彼も痛みに耐えながらも身体を起こしていた。

 

「っ!」

 

 しかし身体に力が入らないせいか、そのまま仰向けに倒れると、荒く呼吸をする。

 

「北斗さん……っ!」

 

 早苗は北斗の身体を持って起こすが、その時に周囲を見てハッとする。

 

 二人の周囲は既に妖怪達に包囲され、じりじりとその距離を縮めて今にも襲い掛かろうとしていた。

 

 今から結界を張る余裕も、スペルカードを発動させる時間も無い。逃げようにも、北斗を抱えて飛んでも素早く動けないので、さっきのように弾幕で撃ち落されるのがオチである。

 

「……」

 

 早苗は無意識に北斗を抱きしめる。

 

 逃げられないのは誰が見ても明らか。早苗自身もそれは分かっている。

 

 もし北斗を置いて一人でなら、素早く動けて逃げられるかもしれない。その上でスペルカードを使って妖怪を攻撃できるかもしれない。

 

 しかし彼女がそれを選択することは無い。

 

 自分の身を犠牲にしてでも守ってくれた人を、見捨てることなんて出来ない。

 

 

 それ以上に、この世の誰よりも大切な人を見捨てることなんて、彼女には出来ない。

 

 

「早苗!! 北斗!!」

 

 妖怪達の放つ弾幕を避けながら魔理沙が叫ぶ。

 

「くっ!」

 

 霊夢は札を手にして奥の手を発動させようとする。

 

 

 

 

 妖怪達が早苗と北斗に襲い掛かろうとした、その時だった。

 

 

 早苗が北斗を抱えた状態で地面に落ちた際に、彼の上着のポケットから落ちた物があった。

 

 それは北斗がこの無縁塚で拾った黒水晶だ。

 

 北斗の左腕の傷からはさっきより少なくなったとは言えど、まだ出血が続いており、傷口を縛った早苗が着ている巫女服の袖は真っ赤に染まり、多くの血を吸ったことで湿りを帯びている。

 

 その袖から北斗の血が黒水晶へと滴り落ちる。

 

 その瞬間、黒水晶に亀裂が走り、その直後に光を放ちながら砕け散った。

 

『っ!?』

 

 突然の光に誰もが驚き、そして眼を瞑るか腕で覆ってその光を防ぐ。

 

 

 

 その直後光の中からレーザーらしき光が五本放たれ、早苗と北斗の二人を囲っていた妖怪の身体を貫く。

 

「っ!」

 

 いち早く腕を退かしていた霊夢はその光景に、とっさに警戒する。

 

「な、何が起きているんだ!?」

 

 魔理沙は驚いて声を上げる。

 

 妖怪達も驚いているようで、二人を苦しめていた弾幕が止んでいる。

 

 

「……何、あれ……」

 

 早苗は目を見開いて、身体を硬直させている。

 

「……あれは」

 

 虚ろな目で北斗は前を見て、視界に入ったものを見て声を漏らす。

 

 

『……』

 

 

 そこには、異様な存在感を放つものが宙に浮いていた。

 

 紫色の球体が五つ浮いており、その一つ一つにある目が周囲に居る妖怪達を睨んでいる。そしてその五つの球体に繋がっている細く黄色い紐状の物体が絡め合い、簡易的な人の形を形成している。

 

 さっきまで暴れていた妖怪達は、突然現れたそのものを前にして、その異様な気配に誰もが動きを止めていた。

 

『……戦闘開始』

 

 そのものから言葉が発せられると、五つの球体にある目の瞳が赤く光る。

 

 

 

 

 




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