東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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更新が遅れて申し訳ございませんでした。最近精神面的な部分を含めて色々とあって、中々執筆が進みませんでした。

それはそうと、本作品を投稿し始めて早二年が経過しました。いやぁ時が経つのは早いですね……
これからも更新は不定期になるかもしれませんが、本作をよろしくお願いします。


第97駅 封印されし者

 

 

 

 

 五つの球体の目からレーザーのような光が放たれ、その光は妖怪達の身体を貫く。

 

 妖怪達が激痛によってもだえ苦しむのを無視して『それ』は次々とレーザーを放ち、妖怪達の身体を貫いていく。

 

 弾幕ごっこのような光弾ではない、殺傷能力のある攻撃であった。

 

 さすがの妖怪達も無視できないのか、霊夢や魔理沙達を無視して『それ』に向かっていく。

 

 妖怪達が弾幕を張るが、『それ』は細かく動いて弾幕をかわし、その直後に五つの球体の目から拡散したレーザーを放つ。

 

 レーザーはさっきのものより威力は小さく妖怪の身体を貫通しないが、それでも妖怪一体を吹き飛ばすほどの威力はあった。

 

 妖怪達は手も足も出ずに、『それ』は猛攻を仕掛ける。一方的な光景が広がっていた。

 

 

 

『……』

 

 早苗と北斗は目の前の光景に呆然としていた。

 

 突然現れた『それ』は妖怪たちに対して一方的な力を示し、次々と倒していく。

 

 どの攻撃も妖怪達に傷を負わせるものばかりだったが、急所は外しているようで、激痛で悶え苦しんでいる以外妖怪は誰も死んでいない。

 

「……」

 

 早苗は北斗を抱きしめながら、『それ』を警戒する。

 

 彼女は感じ取っていた。それから発せられる、邪悪な気配を。

 

 しかしそれはこちらに対して敵意は持っていないようで、時折こちらの様子を見ては妖怪達を排除している。まるで二人を守っているかのように。

 

 かといって邪悪な気配を放つ『それ』を味方として見るわけにはいかない。

 

(一体、何が起きているんですか……)

 

 敵でもなければ味方と安心するわけにもいかない。そんな『それ』に、早苗は困惑するしかなかった。 

 

 

 

 

「何がどうなってんだ、こりゃ」

 

「私が知るわけ無いでしょ」

 

 魔理沙が呆れ半分に声を漏らすと、霊夢は素っ気無く返す。

 

 突然現れた『それ』により、二人に攻撃を仕掛けていた妖怪達は『それ』に向かっていった。

 

 そして『それ』による蹂躙が始まり、霊夢と魔理沙は宙に浮いて静かに状況の推移を見守っていた。

 

「あれって味方で良いん、だよな?」

 

「……」

 

 戸惑う彼女の質問に霊夢は何も言わず、ただ『それ』を見る。

 

 圧倒的な力で妖怪達を倒していく『それ』 早苗と北斗の二人を妖怪から守っているように見えるが、『それ』から放たれる邪悪な気配が彼女に警戒心を抱かせている。

 

(さっきまで予兆は無かった。一体どこからあいつは現れたの?)

 

 しかし霊夢にとって一番の懸念は『それ』が何の前触れも無く突然現れたことである。

 

 博麗の巫女である彼女ですら何の前兆を感じ取れなかったのだ。それがより一層彼女に警戒心を抱かせているのだ。

 

 

 

 するとさっきまで見境無く襲い掛かっていた妖怪達が突然動きを止めたかと思うと、その直後に酷く怯えた様子で踵を返してそのまま森の方へと逃走していく。

 

「な、なんだ?」

 

「……」

 

 突然の妖怪の動きの変化に魔理沙は戸惑い、霊夢は目を細める。

 

 さっきまで見境無く霊夢達に襲い掛かっていたのに、妖怪達は『それ』を恐れるように逃げている。

 

 

 まるで急に正気に戻ったような、そんな様子だ。

 

 

(近くに居る?)

 

 霊夢は視線を鋭くして森を見渡すが、怪しい人影は見られない。

 

「霊夢! 行くぞ!」

 

 と、魔理沙が声を掛けると、霊夢は何も言わずに二人は警戒をしたまま早苗達の元へと向かう。

 

 

 

 

「……」

 

 妖怪達が逃走し、何とか難を逃れたが、それでも早苗は気を抜けれないで居た。

 

 なぜなら『それ』が目の前に居るのだから。

 

『……』

 

 妖怪達を退けた『それ』は全ての目を早苗と北斗に向けており、様子を伺っているようにも見える。

 

 二人の後ろには駆けつけた皐月(D51 465)七瀬(79602)達が身構えて『それ』を警戒している。

 

 そして霊夢と魔理沙も到着し、『それ』の後ろに降り立つ。

 

「……君は、何者なんだ?」

 

 多少意識がハッキリとして早苗に支えられながら立ち上がった北斗が恐る恐る『それ』に声を掛ける。

 

 

『ご無事でしょうか、我が主よ』

 

 と、『それ』は北斗にそう問い掛けると、黄色い紐状のものが絡め合って出来た人型と五つの球体が頭を下げる。

 

「えっ? あっ、はい。何とか」

 

 予想外なこととあって北斗は戸惑うも、左腕の状態を一瞥して答える。

 

 一方の早苗は「えっ? えっ?」と理解が追いつかず首を傾げる。

 

 それは霊夢達も同じなようで、目を見開いている。

 

 そりゃまぁ突然現れては妖怪達を退け、邪悪な気配を放つ『それ』が我が主と呼べば誰だって戸惑う。

 

『申し遅れました、我が主』

 

 と、『それ』の五つの球体の目が閉じて黄色い紐状のものが光り輝くと、霊夢達が身構える。

 

 紐状のものが更に絡め合ってより明確に人の形へと変化していくと、五つの球体が人型の腰の辺りに近づき、身体に光を纏う。

 

 北斗達が唖然としている中、光が晴れる。

 

『……』

 

 光が晴れると、そこには一人の少女が立っていた。

 

 薄い金髪のような髪を根元で黒いリボンで束ねた髪形をしており、金色の瞳が北斗を見ている。服装は中央縦に黒いラインの入って脇が開いた白い上着に茶色の袴を穿き、ベルト代わりの腰巻から伸びる鎖に五つの紫の球体が繋がれている。

 

『初めまして。我が名は「幽玄魔眼」と申します、我が主よ』

 

「幽玄……」

 

「魔眼?」

 

『それ』こと『幽玄魔眼』が右手を胸元に当てて頭を下げながら自己紹介をして、北斗と早苗が声を漏らす。

 

「それが、君の名前なのか?」

 

『はい。私は戦う為に生み出された、戦闘用自律人形です』

 

「自律人形って……」

 

「……」

 

 彼女の正体を聞き、二人は信じられないと言わんばかりに目を見開き、幽玄魔眼を見つめる。

 

 どこから見ても普通に生きている人間にしか見えない。とても無機質な人形とは思えない。

 

 しかし先ほどの力を示したとあって、逆に人間らしからぬ雰囲気ではあった。

 

「なぜ君は俺を主と呼んでいるんだ?」

 

 幽玄魔眼の正体を知り、北斗は次の質問をする。

 

『私の封印を解いた者を主として認識するように設定されていたからです。主によって、私の封印が解かれたのですから、当然です』

 

「……?」

 

 彼女の言葉に北斗は首を傾げる。

 

 まぁ彼からすれば身に覚えの無いことなのだから、疑問に思うのも当然である。

 

『さぁ、我が主よ。ご命令を』

 

 と、幽玄魔眼は地面に片膝を付けてしゃがむと、頭を下げる。

 

『この私、幽玄魔眼は主のいかなる困難な命令であろうと、完遂する所存でございます。主が望むのならば、妖怪共を駆逐してご覧に入れます』

 

 彼女が物騒なことを口にすると、さすがの霊夢も警戒を露わにして札を手にする。

 

 幻想郷において妖怪もまた博麗の巫女の加護下にある存在なのだから。

 

『さぁご命令を、我が主よ』

 

 幽玄魔眼は顔を上げて北斗を見つめて、命令を欲した。

 

「……」

 

 北斗はどう言うべきか悩み、息を呑む。

 

 まぁ突然このように命令を要求されても、すぐには答えられないだろう……

 

 

 

「では、お願いがあります」

 

 そして間を置いて北斗は口を開く。

 

「これから自分達は機関区へ戻りますので、道中彼女達の護衛をお願いします。その後は機関区の守りに入ってください」

 

 北斗は9677号機とD61 4号機と連結して待機しているC57 135号機と、傍に控える彼女達を見ながら幽玄魔眼に命令を下す。

 

『承知しました』

 

 幽玄魔眼は立ち上がり、左胸に右手を当てて頭を下げる。

 

「北斗さん……」

 

 早苗は何か言おうと口を開こうとするが……

 

「早苗。そいつを彼から離そうとするのは駄目よ」

 

「ど、どうしてですか!?」

 

 霊夢がその前にそう言うと、早苗は思わず声を上げる。

 

「こんな厄介なやつを野放しにしている方が危険だわ。それはあんただって分かっているんでしょ」

 

「それは……」

 

 彼女の指摘に早苗は何も言えなかった。

 

 霊夢が幽玄魔眼から邪悪な気を感じ取ったように、早苗もまたその邪悪な気を感じ取っていた。

 

 幽玄魔眼が単独でどう動くかは分からないが、彼女の言った言葉が本当なら、野放しにするのは危険極まりない。

 

「幸い北斗さんの言うことは聞くようだし、彼の傍に置いて見張っておくのが得策よ」

 

「そいつの言うことが本当ならな」

 

「……」

 

 霊夢の考えを聞き、魔理沙が疑惑の視線を幽玄魔眼に向けながら呟き、早苗は何も言わなかった。

 

「まぁ、ともかく、妖怪達が戻ってくる前に、とっとと行くわよ」

 

「それもそうですが、それよりも早く北斗さんを連れて行かないと!」

 

 早苗は慌てた様子で声を上げる。

 

 さっきより多少良くなっているとは言えど、北斗の状態はとても楽観できるものではない。

 

「でもさすがにここまでの怪我となると、里の診療所じゃ手に負えないぜ。永琳に頼むしかないんじゃないか?」

 

「でしょうね」

 

 と、聞き覚えの無い名前に北斗は首を傾げるも、二人は話を続ける。

 

「魔理沙。すぐに里に行って妹紅もしくは鈴仙を探してくるのよ」

 

「おう! 任せておけ!」

 

 魔理沙は頷くと、すぐに箒に跨って飛び出す。

 

「文月さん! すぐに出られますか!」

 

「いつでも行ける!」

 

 早苗が大声で文月(C55 57)に声を掛けると、C55 57号機の運転室(キャブ)に戻っていた彼女が大声で返事をする。

 

 C55 57号機は蒸気が上がっており、線路上に妖怪の姿も無いので、いつでも出発可能であった。

 

「北斗さん。すぐに人里に向かいますから、客車に乗り込んでください」

 

 早苗は北斗にそう伝えながらC55 57号機に連結されている12系客車を見る。

 

 

 しかし北斗からの返事が来ない。

 

「北斗さん?」

 

 返事が来ないことに早苗は北斗を見る。

 

「……」

 

 北斗は苦しそうな呼吸をしており、額に多くの汗が浮かんでいる。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

 異常な状態の北斗の姿に早苗は不安を覚えていると、突然北斗が後ろに倒れそうになる。

 

「っ! 北斗さん!?」

 

 早苗はとっさに北斗を支えようとするも彼の体重を支えられるはずも無かったが、皐月(D51 465)七瀬(79602)が手にしている得物を捨ててとっさに北斗を後ろから支えて何とか倒れるのを阻止した。

 

「っ!」

 

 霊夢も慌てた様子で彼の元へと駆け寄る。

 

「どうしたんだ、区長!?」

 

 皐月(D51 465)が声を掛けるが、北斗の返事は無い。 

 

 気を失った北斗は苦しそうに呼吸をして、顔中に汗が浮かんでいる。先ほどとは違う状態である。

 

「北斗さん!! 北斗さん!!」

 

『静かにしろ』

 

 と、早苗が北斗に声を掛けていると、幽玄魔眼が彼女を黙らせて北斗の傍に来ると、彼女の両目が僅かに輝き、彼の身体を見つめる。

 

『……主の身体に毒が回っている』

 

「ど、毒ですか? 一体いつ―――」

 

 と、早苗はハッとして傷を負って自身の巫女服の袖で縛った北斗の左腕を見る。恐らく毒は妖怪が傷を負わせた時に一緒に盛られた可能性があった。

 

『早く対処しなければ、主の命が危うい』

 

「は、はい! 皐月さん! 七瀬さん! 手伝ってください!」

 

 早苗は北斗を両脇から腕を通して抱えると、皐月(D51 465)七瀬(79602)が彼の両脚を持って身体を持ち上げ、北斗を運ぶ。

 

「……北斗さんの命令通りに動くのよ。余計な真似をするんじゃないわよ」

 

『貴様に言われるまでもない、博麗の巫女』

 

「……」

 

 霊夢は幽玄魔眼を睨みつつも、すぐに早苗達の後を追う。

 

 早苗は北斗を皐月(D51 465)七瀬(79602)の二人に加え、妖精達の手を借りて12系客車の車内へと運び込む。

 

 霊夢は周囲を警戒して最後に12系客車に乗り込む。

 

「文月さん! 行ってください!!」

 

 全員乗り込んだのを確認して早苗が手を振って大声で文月(C55 57)に伝える。

 

 早苗の声を聞いた機関助士の妖精より伝えられた文月(C55 57)はブレーキハンドルを回してブレーキを解くと、ペダルを踏んで汽笛を鳴らし、加減弁ハンドルを引いてC55 57号機がゆっくりと前進する。

 

 しかし少し慌てて加減弁を開け過ぎたせいでC55 57号機は空転を起こすも、動輪は線路を掴みどんどん加速していく。

 

『……』

 

 幽玄魔眼は無縁塚を後にする列車を見届けると、北斗からの命令通り残された(C57 135)の護衛に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これはこれは……」

 

 無縁塚の森の中にある木の陰に隠れて状況を見ていた魅魔は声を漏らしつつ、僅かに口角を上げる。

 

「まさかこれほどとはな。私の予想以上だよ、幽玄魔眼。そして霧島北斗」

 

 魅魔は幽玄魔眼を見ながら呟く。

 

「これなら妖怪共を狂わせてぶつけた甲斐があったものだ」

 

 彼女はそう呟き、妖怪達が逃げていった森の奥を見る。

 

 どうやら妖怪達が狂気化していたのは、彼女の術によるものだったようである。

 

「しかし、彼の能力が博麗の巫女の封印すらも破るほどのものだったとはな。予想以上だが、まぁあれの封印を解けたのならいいか」

 

 と、不穏なことを呟くと、木にもたれかかる。

 

(あれだけの異質な力……母親が神霊ってだけでここまでの力を有するものか)

 

 魅魔は普通では知りえないであろう事を呟くと、とある予想が脳裏に過ぎる。

 

(それとも彼の父親もまた特殊(・・)であるからか……)

 

 と、何やら意味深な事を内心呟くと、もたれかかっていた木から真っ直ぐ立ち、歩き出してその場から離れていく。

 

 




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