東方鉄道録‐幻想の地に汽笛は鳴り響く‐   作:日本武尊

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東武鉄道で復元中の私鉄発注のC11 1号機が改番されてC11 123号機になるようですが、正直言ってこれはなぁ、と思いました。
機関車のナンバーは決して飾りではなく、そのナンバーには歴史がありますので、改番するのはその歴史を否定しているようにも見えますし、何よりそのナンバーで残すからこそ保存機としての意味があるんですから。
まぁ世の中には中国で作られた蒸気機関車がアメリカに渡り、装いを変えて走っている例がありますし、何より新たな門出という意味ではこれもありなのかもしれない。
青梅鉄道公園のC11 1号機とナンバーの重複を避ける為かもしれませんが、形式入りのナンバープレートなら差別化は計れると思うんだけど、そこんところはどうだったんだろうか……


第10区 永遠亭編
第98駅 永遠亭


 

 

 

 

 無縁塚を後にしたC55 57号機は煙突から白煙を吐き出して短い間隔でドラフト音を響かせ、その大きな動輪を回転させて急いで人里の駅へと向かって線路を爆走していた。

 

 運転室(キャブ)では機関助士の妖精が石炭を何度も火室へと投炭して火力を上げ、注水機のバルブを捻って水をボイラーへ送り込む。 

 

 文月(C55 57)は動輪が空転しないように加減弁ハンドルを握り、蒸気の量を調整して速度を維持する。

 

 

 客車内では座席に横にされている北斗に早苗が必死に声を掛けていた。

 

「北斗さん! 北斗さん!!」

 

 早苗は何度も声を掛けていたが、北斗からの返事は無い。

 

 顔中に汗を掻き、苦しそうに呼吸をしており、その上傷口から出血が続いている。

 

 妖怪の毒によって高熱を発して、血が固まりにくくなっているせいで出血が止まらないのだろう。

 

「区長! しっかりしろよ!!」

 

 皐月(D51 465)が声を掛けるも、何の反応は無い。

 

「退いてなさい」

 

 と、霊夢は皐月(D51 465)を退かして左袖から札を一枚取り出すと、札に霊力を込めて北斗の左腕の傷の上に貼り付け、更に霊力を送り込んで密着させる。

 

「これで少しは出血を抑えられるはずよ」

 

「霊夢さん……」

 

「あんたも札が少し残っているでしょ。霊力を込めて少しでも毒の進行を抑えるのよ」

 

「は、はい!」

 

 早苗は残った右袖から残り少ない札を取り出すと、霊力を込め始める。

 

「……」

 

 しかし心が乱れてうまくいかないのか、中々札に霊力が溜まらない。

 

「……っ」

 

「早苗」

 

 うまく霊力を溜められず焦りを見せ始める早苗に霊夢が声を掛ける。

 

「落ち着きなさい。焦る気持ちは分からないでもないけど、あんたが焦れば、北斗さんの容態は悪化の一途よ」

 

「……」

 

 霊夢からの助言を受けて、早苗は目を瞑り、深呼吸を二回ほどして気持ちを落ち着かせる。

 

 そして早苗は再度手にしている札に霊力を込め始めると、先ほどと違い霊力が溜められていく。

 

 札に霊力が溜まると、彼女は札を北斗の左腕に貼り付け、そこから更に霊力を込める。

 

 すると苦しそうだった北斗の呼吸が少しだけ穏やかになる。

 

「北斗さん……」

 

「……」

 

 ほんの少しだけが、北斗の容態が良くなったので早苗は安堵の息を吐き、霊夢も心なしか少しだけ安心したように息を吐く。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 所変わり、人里の端にある駅舎。

 

 

 鉄道の運行が停止しているとあって、駅には殆ど人の姿無かった。

 

 しかし駅構内は物々しい雰囲気だ。

 

「……」

 

 駅構内の上り線側のホームに腕を組んで立っている妹紅と、先に無縁塚から出発した魔理沙の姿があった。

 

 無縁塚から飛んできた人里に到着した魔理沙は妹紅を探し出し、駅構内で列車を待っている。

 

「それで、北斗の状態はどうだったんだ?」

 

「左腕を妖怪の爪で切り裂かれていたな。あれじゃ大分血を流していると思うぞ」

 

「そうか。だから永遠亭に連れて行くんだな」

 

「あぁ。だから案内を頼むぜ」

 

「任せておけ。北斗の身に何かあると、色々と大変だからな」

 

 妹紅は頷きながらそう言う。

 

 永遠亭と呼ばれる場所は特殊且つとても厄介な場所にあるとあって、永遠亭に辿り着くにはそこを熟知している妹紅の案内が必要不可欠となる。

 

 

 

 すると遠くから汽笛がして人里へとその音が届く。

 

「おっ、来たみたいだな」

 

 魔理沙が顔を上げて汽笛が来た方向を見ると、妹紅もその方向を見る。

 

 

 少ししてC55 57号機と牽引する12系客車の姿が二人の視界に入り、ブレーキ音が駅構内に大きく響くぐらいに勢いよくホームに入ってくる。

 

 完全に列車が停車すると、12系客車の扉が開く。

 

「……?」

 

 ふと、魔理沙は首を傾げる。

 

 車内では何やら慌てた様子になっており、二人は客車の中へと入る。

 

「なっ!?」

 

 そして北斗の姿を見て魔理沙は目を見開いて驚愕する。

 

「北斗!」

 

 魔理沙と妹紅が急いで早苗達の元へと駆け寄る。

 

「一体どうしたんだ!?」

 

 彼女はぐったりとして気を失っている北斗の姿を見て霊夢に問い掛ける。

 

「どうやら傷を負わされると同時に妖怪に毒を盛られたようね。魔理沙が飛んでいった後に気を失ったのよ」

 

「妖怪の毒だと?」

 

 霊夢が魔理沙に説明していると、妹紅が驚いた様子で声を上げる。

 

「今は私と早苗の札で出血と共に毒を抑えているけど、気休め程度でしかないわ」

 

「そうか……」

 

 霊夢より状況を聞き、妹紅は険しい表情を浮かべながら北斗を見る。

 

 ただでさえ怪我を負って出血している上に毒をもらっているのだ。非常に危険な状態である。

 

「っ! そうだ、七瀬さん!」

 

 と、早苗が何かを思い出したように声を上げ、七瀬(79602)に声を掛ける。

 

「新たに現れた路線は確か迷いの竹林の近くにもありましたよね!」

 

「……そういえば『霜月』の調査でその辺りにも確認されていたわね」

 

 七瀬(79602)は顎に手を当てて思い出すように呟く。

 

 ちなみに霜月とは18633号機の神霊の少女の名前であり、名前の由来は彼女が落成した月の旧暦から取っている。同時に発見されたC58 283号機の神霊の少女は『宮古』と名付けられた。その由来は彼女が走っていた区間内にある駅の名前から取っている。

 

「なら、すぐに行きましょう! 少しでも早く行かないと!」

 

「だが、まだ路線の調査が終わってないんだぞ。そこを走るのはリスクが高い」

 

 皐月(D51 465)がC55 57号機を見ながらそう告げる。

 

 新たに現れた路線の状態の調査はまだ終わっていない。どんな状態なのか分かっていない中でその路線を走るのはリスクが高い。

 

「でも! 悠長にして居られません! 早くしないと北斗さんが!」

 

「だからって危険に曝すわけにはいかないんだ! 万が一脱線でもしたら元も子もないだろ!」

 

「じゃぁ北斗さんがどうなっても言いというんですか!?」

 

「そうは言ってないだろ!!」

 

「落ち着けって二人とも!」

 

 皐月(D51 465)に詰め寄る早苗を魔理沙が間に入って彼女を宥める。

 

「こんな時に言い争っている場合じゃないだろ」

 

「……」

 

「兎に角、今は急がないといけないんだ。ここは早苗の言うとおりにしようぜ」

 

「……」

 

 魔理沙がそう言うと、皐月(D51 465)は渋々といった様子で頷く。

 

「それで、その路線の配置って分かるのか?」

 

「まだ未完成だけど、新しい路線図があるわ」

 

 と、七瀬(79602)は妖精達から路線図を受け取り、魔理沙に見せる。

 

「ここに博麗神社方面への路線とその迷いの竹林方面の路線を切り替える分岐点があるわ。迷いの竹林に行くならこの分岐点の向きを変えないといけないわ」

 

 七瀬(79602)は路線図を魔理沙に見せながら既存の博麗神社行きの路線と、新たに発見された迷いの竹林方面の路線を指差して説明する。

 

「なら、その分岐点に行って方向を変える必要があるな。案内してくれ!」

 

「えぇ」

 

 と、魔理沙が七瀬(79602)を連れて客車を降りると、箒に跨って七瀬(79602)を後ろに乗せ、駅のホームから飛び出す。

 

「私達も行きましょう」

 

「あぁ」

 

 早苗がそう言うと妹紅が頷き、皐月(D51 465)が緑旗を手にして開けている扉から半身を出し、ホイッスルを吹きながら旗を揚げる。

 

 それを確認した文月(C55 57)がブレーキを解いて汽笛を鳴らし、加減弁ハンドルを引いてシリンダーへ蒸気が送り込まれ、C55 57号機が前進する。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 迷いの竹林

 

 

 この場所は幻想郷の中でも五本の指に入る厄介な場所として知られている。

 

 この竹林に入ったら二度と出られないと言われており、実際この竹林に迷い込んで生きて戻れた人間は殆ど居ない。

 

 その原因は植物の中では成長速度が早い竹によって景色が変わりやすく、その上地形によって方向感覚が狂わされるとあって、迷いやすくなる。

 

 それなら空を飛べば竹林を出られるのでは? と思われるだろうが、この竹林には不可思議な現象があって、空を飛んでも竹林を出ることが出来ないという。噂では何かが潜んでいるらしいが……

 

 運が良ければこの竹林に住む幸運を呼ぶ兎妖怪の因幡や、この竹林を熟知している藤原妹紅に出くわすことで竹林を脱出できる。

 

 その為、好き好んでこの場所に訪れるものは殆ど居ない。

 

 まぁ、それ故にこの場所に密かに暮らす者達にとっては好都合なのだが。

 

 

 その迷いの竹林の近くにも、新たに路線が現れた。さすがに竹林内ではなく、その付近に出現している。

 

 

 その路線にC55 57号機が牽く列車がやって来る。

 

 先に出発した魔理沙と七瀬(79602)の二人によって分岐点の向きが変えられ、その後迷いの竹林前にて列車を待っていた。

 

 列車は迷いの竹林の前で停車すると、12系客車の扉が開かれる。

 

「ゆっくり降ろしてくれ」

 

 先に客車から降りた妹紅が皐月(D51 465)と早苗の二人によって降ろされる北斗を背中に背負う。

 

「っと、やっぱり重いな」

 

 彼女は北斗を背負うと、ズッシリと来る重みに思わず声を漏らす。

 

(身体が冷たい……いよいよまずいな)

 

 妹紅は北斗を背負った際に、彼から温もりを殆ど感じていないことから、相当危険な状態であるのを瞬時に悟る。心なしかさっきよりも呼吸が浅いようにも思える。

 

 彼女は北斗を背負い直して、走り出す。

 

 早苗達も妹紅の後を追いかけて、その場には皐月(D51 465)七瀬(79602)文月(C55 57)の三人だけになった。

 

「区長……」

 

「今は待つしかないわ」

 

 不安な表情を浮かべる皐月(D51 465)七瀬(79602)が肩に手を置いて声を掛ける。

 

「……」

 

 C55 57号機の運転室(キャブ)から顔を出した文月(C55 57)の表情も不安の色が浮かんでいた。

 

 

 

 その後七瀬(79602)の提案でC55 57号機は一旦人里へと戻り、そこで石炭と水の補給を行うことにした。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 竹林の中に入り、北斗を背負った妹紅が駆け抜ける。その後を早苗と霊夢、魔理沙の三人が追いかける。

 

「妹紅さんっ! 後どのくらいですか!」

 

「あと少しだ!」

 

 早苗が走りながら問い掛けると、妹紅も振り返らずそのまま答える。

 

「ちょ、ちょっとっ……休憩、させてくれよ……」

 

 走り続けたことで息が上がっている魔理沙が休憩を提案する。最初こそ箒に跨って飛んでいたが、ここでは空を飛ぶのはあまり勧められてないので、途中から走っているのだ。

 

 しかし彼女は普段からこんなに走ることが無いので、すぐに息が上がっていた。

 

「そんな暇は無いわよ。休憩したければ勝手に休憩していればいいわ」

 

「ちょっとは、労われよ!」

 

 同じく走っているにもかかわらず、涼しい顔の霊夢から辛辣な言葉を受けて魔理沙が愚痴を零す。

 

 まぁ彼女も休んでいる暇が無いのは分かっているが、体力の限界が近づいているのに変わりは無いのだ。

 

 ちなみに早苗にいたっては必死な様子で妹紅の後に付いて行っている。

 

 

 そして妹紅の言うとおり、少しして一軒の建物が竹林の中から姿を見せる。

 

 それは『永遠亭』と呼ばれる、この迷いの竹林にてひっそりと暮らす者達の屋敷である。

 

「妹紅! こっちよ!」

 

 と、その永遠亭の門の前で、一人の少女が声を上げて手を振っていた。

 

 足元まで伸びる長い紫の髪を持ち、赤い瞳を持つ少女だが、その頭にはウサギの耳が生えており、格好は紺色のブレザーにミニスカート、ソックスにローファーと、いかにも女子高生な格好をしている。

 

「鈴仙! 準備は!」

 

「出来ているわ。その人が?」

 

「あぁ。かなりの重傷だ。その上妖怪の毒を受けている」

 

 鈴仙と呼ばれた少女は妹紅が背負っている北斗を見ながら問い掛けると、彼女は北斗の容態を鈴仙に告げながら頷く。

 

「鈴仙さん? どうしてあなたがここに?」

 

 息が上がりながらも、早苗が鈴仙が入り口前に居ることを疑問に思いつつ彼女に問い掛ける。

 

「魔理沙から話を聞いたからよ」

 

「魔理沙から?」

 

 と、霊夢が後ろを振り向き、ようやく追いついて両膝に両手を置き、荒くなった呼吸を整えている魔理沙を見る。

 

「お、おう。妹紅を見つけて事情を話している時にな、ちょうど鈴仙の姿を見つけて、事情を話したんだ」

 

「薬の配達も終わって永遠亭に戻るところだったから、魔理沙の話を聞いてすぐに戻って、師匠に伝えたのよ。もう準備は出来てるわ」

 

「なんてナイスタイミング」

 

 二人から事情を聞いて、早苗が思わず声を漏らす。

 

 

 

「優曇華。急患が来たのかしら?」

 

 と、永遠亭より一人の女性が出てきて鈴仙に問い掛ける。

 

 銀色の長い髪を三つ編みにして、赤と青のツートンカラーの服を身に纏い、青いのナースキャップのような帽子を被っている女性である。

 

『八意永琳』 それが彼女の名前である。

 

「はい師匠! かなりの重傷です!」

 

「そう。分かったわ」

 

 永琳は妹紅に背負われている北斗の元に向かい、容態を確認する。

 

「……時間が無いわ。すぐに手術を始めるわ。患者を中に運んで頂戴」

 

「分かった」 

 

 彼女の指示を聞き、妹紅はすぐに永琳と鈴仙と共に永遠亭の中に入り、早苗と霊夢、魔理沙の三人も続く。

 

 

 北斗は永遠亭の一室へと運び込まれ、妹紅が彼をベッドに寝かせて、その部屋から出る。

 

「……出血性の毒が体内に回っているわね。それによる出血多量。危ういわね」

 

 永琳はベッドに寝かされた北斗の左腕の傷を診て、容態を確認する。

 

「師匠……」

 

 彼女の言葉に鈴仙の顔に不安の色が浮かぶ。

 

「……」

 

 永琳は鈴仙に目配せすると、彼女はすぐに薬品を棚から取り出す。

 

「お願いです! 北斗さんを、北斗さんを助けてください!!」

 

 早苗が必死な形相で永琳に懇願する。

 

「……最善は尽くすわ。でも彼の容態は極めて深刻よ。最悪な事態は覚悟して頂戴」

 

 永琳はそう告げると、早苗を部屋から優しく追い出して、扉を閉める。

 

「……北斗さん」

 

 早苗は閉められた部屋を見つめながら、両手を組む。

 

「今は、待つしかないな」

 

「……」

 

 妹紅の言葉に、早苗は両手を握り締めて祈る。

 

 

「……」

 

 そんな様子を近くに居た霊夢と魔理沙は壁にもたれかかっていた。

 

(永琳のやつ……何に驚いていたのかしら?)

 

 霊夢は先ほどの事を思い出しながら、ある疑問が過ぎる。

 

 永琳が北斗の容態を見ていた時、彼女はほんの僅かだけ、それも普通では気付けないほどに目を見開いていた。しかし霊夢には気付かれていたようであるが。

 

 彼女のことを知っている霊夢からすれば、余程なことがない限り驚くようなことは無いはず。一体どのようなことがあって驚いていたのかと、疑問に思っていたのだ。

 

 驚くほどに深刻な状態だったのか、それとも別の何かに驚いていたのか……

 

(……考えるだけ無駄か)

 

 しかし考えたところで答えが出るわけでもなく、霊夢は即座に考えるのやめた。

 

 

 それから四人はただただ北斗の無事を祈りつつ、ひたすら待つのだった。

 

 

 

 

 




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