転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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 今回から破面篇に入ると言ったが、あれは嘘……ではない。
 嘘ではないんですが、主人公の役回り的にまた閑話のような展開になってしまいました。


破面篇
第二十一話


 あれから数週間が経ち、夜一さんや黒崎一護君達は現世へと帰還した。現世ではもう夏休みが明けており、二学期が始まったらしい。

 

 対する僕は前世でまだ学生だったことを思い出し、「いいなぁ、夏休み」などと思っていたんだけど、当然護廷十三隊にそんな長期休暇があるわけがなく、つい先日まで馬車馬のように働かされていた。

 

 しかし、その努力の成果もあってか、無事に瀞霊廷の復興も終わり、暫しの安寧が訪れていた。

 

 ――と思っていたのだけど、それも一瞬にして崩れ去ってしまった。

 

 なんと、早くも現世に藍染の部下である破面が二体も襲撃して来たのだ。黒崎一護君達も応戦したんだけど、あえなく惨敗。それにより多くの人間が殺されてしまった。

 最終的には浦原喜助さんや夜一さんの手によってその戦いはなんとか終結したんだけど、そんな状況に陥って護廷十三隊が何も動かないなんてことがあるはずがなく、その影響で現在僕の元にも一人の死神が訪れてきていた。

 

「それで話って何ですか、日番谷隊長?」

「ああ」

 

 椅子に腰を掛けた日番谷隊長が徐に口を開く。

 

「お前に頼みがある」

 

 

***

 

 

「よし、できた! これでいい?」

「はい! お疲れさまでした、卯月さん」

「うん、桃もお疲れ」

 

 日番谷隊長の訪問から翌日、僕は五番隊隊舎へと訪れていた。

 

「それにしても良かったよ」

「何がですか?」

 

 僕の要領を得ない発言に首を桃は首を傾げた。

 

「思ったよりも桃が元気そうでよかったってこと。隊長と副隊長の結束は、五番隊が一番強かったからね。勿論修兵やイヅルのことも心配だけど、桃が一番心配だったんだよ」

「そう……ですか……」

 

 僕の言葉を聞いた桃は俯きながら相槌を打った。

 うーん、やっぱりそう簡単には立ち直れないか。とはいえ、桃は原作では破面篇の途中まで寝込んでしまっていたらしいので、こうして仕事ができているだけ遥かにマシと言えるだろう。

 

「まあ、あの人のことをきっぱり忘れろとは言わないよ。僕だって何度もお世話になったし、一緒に居て楽しかったこともいっぱいあったからね」

 

 そう。決して藍染と過ごした日々の全てが悪かったわけではないのだ。彼が居なければ、真央霊術院時代に砕蜂隊長と出会うことはなかったし、五番隊に入隊してからも事務仕事から戦闘技術まで沢山のことを教わった。裏切られたことは確かだけど、僕もそこは素直に感謝しているのだ。

 

「けど――だからこそ、僕は戦うよ。護廷十三隊……いや、真央霊術院時代から培ってきたもの全てを使って、あの人を連れ戻す」

 

 余計なお世話だろう。力は及ばないだろう。だからこれはただの自己満足かもしれない。

 

 ――だけど、それが僕に唯一できる藍染への恩返しだ。

 

「ふふっ、あはははははははっ!!」

「え?」

 

 励まそうと思って頑張って言葉を選んだはずなのに、何故か桃は大声で笑い始めた。

 流石にこれは予想外で僕は硬直してしまった。

 

 ――ど、どうしよう。桃が壊れた。

 

「だ、大丈夫?」

「は、はい。大丈夫です」

 

 それから暫くして落ち着き始めた時に声をかけると、桃は息を整えながらもしっかりと返答してくれた。どうやら意思の疎通は問題ないらしい。

 

「本当に大丈夫? 大丈夫じゃないなら今すぐ四番隊に連れていくけど」

 

 傷の手当なら僕にも問題なくできるけど、精神的な疾患なら今すぐ専門家の居る四番隊に連れていく必要がある。

 

「だ、大丈夫ですから!! ただ少し驚いただけです」

「驚いたのに笑うってそれこそ大丈夫じゃないと思うんだけど」

「本当に大丈夫ですから!! 突然笑ってしまったのは卯月さんが私と全く同じことを考えていたからです!」

「……同じこと?」

 

 はて、僕は何を言ったんだっけ?

 確かに、桃を励まそうとしたんだけど、そのあとの出来事のショックが大きくて頭が真っ白になってしまった。

 

「はい。私も藍染隊長と過ごした日々は楽しかったですし、それは掛け替えのないものでした。私にはその日々が全て嘘だったなんて思えないですし、思いたくありません」

 

 手を身体の前で組み、藍染との日々を懐古するように桃は言い、そして顔を上げて言い放つ。

 

「だからこそ思うんです。――藍染隊長に教わったことの全てを使ってあの人を連れ戻そうって」

 

 奇しくも、考えていたことは同じだった。確かに、それなら笑ってしまうのにも頷ける。

 かつての上司と部下で、全く考えていることが同じだったなんて、なんて冥利につきる話だろうか。

 

「そう。なら一緒に頑張ろう」

「はい!」

 

 なら僕が言うことは何もない。

 手伝いも終えているし、部屋を出ようとしたところで――

 

「ああ、そうそう」

「……?」

 

 ――一つ伝言を思い出した。

 

 昨日、日番谷隊長が僕の部屋を訪れ来て、ある頼みごとをして来た。

 

 ――一緒に現世に来る気はないか、と。

 

 先日の現世への破面の侵攻で、護廷十三隊では日番谷隊長率いる日番谷先遣隊が戦力として送り込まれることとなった。

 人員選出の経緯はこうだ。

 

 先ず、護廷十三隊の死神の中で最も黒崎一護君と関りが深い朽木さんが選ばれた。

 藍染が尸魂界を去った後、朽木さんの罪は総隊長の判断によって無罪となった。それから朽木さんは失っていた霊力の回復に努めていたんだけど、つい先日無事に回復し、現世に向かうことになったのだ。

 

 次に、朽木さんが最も信頼のできる死神として選ばれたのが恋次で、その次に、恋次が最も信頼のできる死神として選ばれたのが十一番隊の班目三席。またその次に、班目三席が行くならとついて行くこととなったのが同じ十一番隊の綾瀬川五席。それらの話を聞いて面白そうだと乱入してきたのが松本副隊長。最後に、芋づる式に増えてしまった彼らの統率者として選ばれた日番谷隊長である。

 

 そして、その日番谷隊長が一癖も二癖もある彼らを自分だけで纏めるは面倒だから、せめてもう一人真面目な人員をと選んだのが僕だったというわけである。

 本当なら最後の人員は、日番谷隊長と一緒に彼らを統率することができる隊長が選ばれるべきなんだろうけど、既に隊長を三人も失っている状況で流石に先遣隊に二人も隊長を割くわけにもいかず、ある程度信頼できて、尚且つ三席の僕に白羽の矢が立ったということなんだろう。

 

 しかし、今ここに僕が居るという状況からして察せられると思うけど、その話は断らせてもらった。

 元々、日番谷隊長が頼みを二つ用意してくれていて、どちらかだけ聞いてくれればいいと言ってくれたというのもあるけど、一番の理由は修行に専念したかったからだ。

 

 これは僕には関係ない話なんだけど、護廷十三隊の隊長か副隊長が現世に赴く時は、現世にその霊圧によって悪影響を及ぼさないために、限定印という力の八割を制限する印が付けられる。

 ここで注目して欲しいのは、現世に悪影響を及ぼさないためという理由である。

 

 僕の実力は三席ながら既に卍解も習得し、既に隊長格へと至っている。そんな僕が現世で思いっきり修行をしようとすれば、間違いなく悪影響を及ぼすだろう。

 故に、そんな状況では絶対に満足に修行ができないと思ったので、断らせてもらったのだ。

 

 そして、そんな僕に日番谷隊長が投げかけたもう一つの頼みが、隊長が謀叛を起こした隊の復興を手伝う事だった。

 

 先日の騒動で謀叛を起こした隊長が所属していた隊は三、五、九番隊だ。そして、それらの隊の副隊長がイヅル、桃、修兵と偶然にも僕と関わりの深い人ばかりだったのである。

 

 つまり、今僕が五番隊にお邪魔しているのは全て日番谷隊長の命令だったという訳だ。

 

 そして、そんな日番谷隊長から桃に伝言を一つ預かっていた。

 

「日番谷隊長からの伝言で、あまり無理するな。だってさ」

 

 あの人も中々に面倒くさいな。心配なら自分で会いに来て、自分で言えば良かったのに。

 そうした方が絶対桃も喜ぶと思うんだけどな。

 

「シロちゃん……」

 

 実際こうして桃はその言葉を噛み締めるかのように、囁き、その表情を緩めていた。

 

「じゃあ、僕はもう行くね」

「は、はい! ありがとうございました!!」

 

 伝言も伝え終え、次の仕事場に向かおうとしたところで人の気配を感じた。

 

「何してるの、ほたる?」

「こ、こんにちは、卯月君。何って別になにもしてないけれど……」

 

 扉を開けると、その裏側にはほたるが立っていた。動揺する彼女の手には、二つの湯飲みと茶菓子を乗せたお盆が握られていた。

 

「差し入れをしようとしたけど、入るタイミングを見失ったってところかな?」

「ご慧眼であられるようで……」

「それほどでもないよ」

 

 完全に見透かされたほたるはもう隠すことはないと言わんばかりの対応をしてくる。

 

「……ごめん」

「いいよ、別に僕は怒ってないから」 

「あとで桃にも謝っておかないとね……」

「まあ、そう気負わずとも桃は許してくれるよ」

 

 そんなことで怒るような彼女ではないし、寧ろ大笑いしていた所を聞かれたと顔を赤らめて恥ずかしがる姿が僕にはありありと想像できた。

 

「じゃあ、僕は行くから」

 

 一仕事終えたとは言え、これから三番隊と九番隊にも行かなければならない。まだ時間はお昼をちょっと過ぎた位だけど、そううかうかしていられないだろう。

 

「あっ、ちょっと待って」

「?」

 

 足を上げようとした僕に静止の声がかかる。

 声の主であるほたるの手には先ほどまで腰に掛けていた巾着袋が握られていた。

 

「はいこれお弁当。卯月君お昼まだでしょ?」

 

 渡された袋を開けてみれば、そこには丁度お弁当箱くらいの大きさの楕円形のお櫃が入っていた。さらにお櫃を開けてみれば、そこには白米だけではなく肉、野菜を始めとしたおかずも入っており、決して急ごしらえのモノではないということが察せられた。

 恐らくほたるは今日僕が来るということを聞いて、朝の内からこれを作っていたのだろう。

 

「ありがとう、ほたる! 今度一緒にご飯でも行こうね!」

「え、ええ。楽しみにしてるわ」

 

 ここまでしてくれたのに、何もお礼をしない訳には行くまい。ご飯に誘うとほたるは少し驚いた後、嬉しそうに笑顔を浮かべた。どうやら喜んでくれたらしい。

 

 暫くは修行漬けの毎日でお金も貯まってるし、少しいいところに連れて行ってあげよう。

 

「よかった。思ったよりも元気そうで」

「え、何が?」

 

 そんなことを考えていると、ほたるが唐突にそんなことを言った。

 

「いや、卯月君のことだから藍染を止められなかったこと引きずってるんじゃないかと思って」

「ご慧眼であられるようで……」

「それほどでもないわよ」

 

 どうやらほたるにはすべてお見通しだったようだ。

 

「でも、その割には元気そうじゃない。何かあったの?」

「うん、砕蜂隊長に叱られてね。それで僕も立ち止まってる場合じゃないなって思えたんだ」

 

 思えば二番隊に入ってから、僕は砕蜂隊長のお世話になりっぱなしだな。本当に感謝してもしきれないや。いつか恩返しできたらいいな。

 

「そっか。……私も負けてられないわね」

「大丈夫だよ。こうして心配してくれるだけでも十分嬉しいよ。ありがとう」

「……どういたしまして」

 

 まさか聞かれているとは思っていなかったのだろう。ほたるは瞠目した後、顔を赤く染めて俯いた。

 

 まあ、これでも隠密機動で諜報任務を請け負ったこともある身だからね。一定以上に聴力は鍛えられているし、僕を漫画の鈍感系主人公だと思っているなら、それは大間違いだ。

 

「じゃあ、もう行くから」

「ええ、無理はしないでね」

「ありがとう」

 

 最後にお礼を言って、僕はほたるに背を向けて歩き出した。

 

 

***

 

 

 ほたるのお弁当をありがたく頂いた後、僕は三番隊舎での仕事を終え、九番隊隊舎へと訪れていた。

 

 五番隊でもそうだったけど、三番隊に行っても僕が手伝えるようなことはそう多くはなくて、イヅルに「早く檜佐木さんのところに行ってあげてください。多分あの人が今一番仕事に追われていると思うので」と門前払いされてしまったのだ。

 

 少し話してみても精神状態は問題なさそうだったし、こうして言葉に甘えることにしたのだ。お陰で今日は早く帰れそうである。

 

 しかし、そんな甘い考えをしていられたのも九番隊隊舎に入るまでの僅かな間だけだった。

 

「おお、卯月! よく来たな!」

 

 案内された修兵の執務室は紙だらけだった。きちんと整頓された部分もあれば、乱雑に散りばめられている部分もある。紙も本のようにファイルされているものもあれば、一枚だけで放置されているものもある。そんな生活感のようなものがこの部屋にあった。

 

「やあ、修兵。調子はどうだい?」

「調子? んなもん見れば分かんだろ。この通り引継ぎや執筆で休む暇なんてありゃしねぇ」

 

 僕の問いに修兵は僅かないら立ちを示した。正直、一瞬ムカッとしたけど、それも修兵の目元に出来た隈や墨で汚れた腕を見れば失せてしまった。

 僕は精神状態について訊いたつもりだったんだけど、恐らく修兵は仕事が忙しすぎて東仙のことなんて考えている暇がないのだろう。

 

 九番隊は、瀞霊廷における人気機関紙である『瀞霊廷通信』の発行及び編集を請け負っている。修兵は元々副編集長として活躍していたんだけど、今回の一件でそのまま繰り上がり、臨時編集長に就任したのだ。今は臨時だけど、多分すぐに編集長の座に就くことになるだろう。修兵が言っていた引継ぎとはこのことである。

 そして、執筆というのは恐らく先日の旅禍の侵入から藍染達の謀反の記事のことだと思う。今の状況でこんなにも急いでこなさないといけない仕事なんてこれぐらいのものだ。

 

「ほら、来たならさっさと手伝え。こっちはお前の為に朝から仕事の振り分け考えたんだぞ」

 

 そう言って修兵は右手に持った書類の束をひらひらと煽がせる。

 手に取ってみれば、そこには確かに僕が手をつけても特に問題なさそうな書類やアンケート用紙が入っていた。成程、仕事を手伝わせるのと一緒にインタビューも済ませてしまおうという訳か。考えたな、修兵。

 

「茶と菓子はお前の机に置いとくから適当に摘まんでくれ」

「う、うん。ありがとう」

「礼はいいからさっさと始めてくれ。こっちは締め切りが迫ってるんだ」

「せっ……。了解」

「ん、なんだ? 訊きたいことがあるなら言えよ」

「うんん、大丈夫。さあ、始めようか」

 

 それを合図に僕と修兵はそれぞれの仕事にとりかかった。

 

 ――折角来た手伝いへの態度がそれ? ちょっと酷くない?

 

 さっき僕が修兵に言おうとして止めた言葉だ。

 

 何故それを言うのを止めたのかと言えば、それは書類を受け取る際に一瞬目にした修兵の仕事内容にあった。あれはとても一人が請け負うような仕事量じゃなかった。

 護廷十三隊は決してブラック企業と言うわけではない。日にちは決まっていないけれど、必ず週に二日は休みが与えられるし、最近は有給制度だって出来た。当然仕事量だって無理な量は押し付けられないし、それこそサボったりしなければ今の修兵みたいに隈を作ってまで仕事をするようなことはまずない。

 だけど、修兵は怖い見た目に反して真面目な性格である。仕事をサボるようなことは絶対しない。故にそれらから導き出される答えは一つだ。

 

 恐らく修兵は、編集長と副編集長の仕事を全て一人で請け負っている。

 

 本来なら部下と仕事を分けて協力すべきなんだけど、修兵はそれをせずに一人で仕事を片付けている。故に僕は思うのだ。

 

 ――修兵は忙しすぎて東仙のことを考えられないんじゃない。あえて自分を追い込むことで、どうにか東仙のことを考えないようにしているのだ、と。

 

 所謂、現実逃避なんだろうけど、別に僕はそれで修兵を責めようとは思わない。修兵は確かに東仙を尊敬していた。いつしか僕の相手を傷つけるのが怖いと修兵に打ち明けた時に、修兵は東仙の言葉を用いてそれを解決してくれたし、二人で話す時もよく東仙の話をしてくれた。

 そんな尊敬する上司が突如裏切ったのだ。取り乱さない訳がない。

 

 それに修兵は強い。放っておけば、その内東仙を取り戻そうと奮起するに違いない。

 

 だから僕にできることは一つ、何も言わずに修兵を支えてあげるだけだ。

 

「修兵、そろそろ休んだらどうだい? さっきから明らかに作業効率が落ちてるよ」

 

 このまま寝てない状態が続いても作業効率は落ちる一方だし、思考も鈍ってしまう。仕事をするにしても、心の整理をつけるにしても、先ずはしっかりと休養を取るところからだろう。

 

「ああ、悪いな。だけどもうちょっとこのままやらせてくれねぇか? 何かに打ち込んでないと、つい考えちまうんだ。東仙隊長のことを……」

「修兵……」

 

 僕の推測は間違っていなかったらしく、修兵は顔を苦渋に染めながら俯いた。

 

「よし! じゃあ、少し付き合ってよ」

「は? 何にだよ」

「修行だよ修行。身体を動かすと案外リフレッシュになるかもよ」

「悪いけど今はそんな気分じゃ――」

「――そうと決まったらさっさと行くよ。締め切りまで時間ないんでしょ?」

「お、おい!」

 

 藪から棒な僕の提案に、修兵は鳩が豆鉄砲を食ったような顔を浮かべながら素っ頓狂な声を発するが、僕はそんなことはお構いなしに修兵の手を引き、部屋に置いていた自分と修兵の斬魄刀に手を伸ばす。

 

 「横暴だ!」とか言っている声が後ろから聞こえて来るが、無視だ無視。

 

 

***

 

 

「なあ、本当にやんのか?」

 

 斬魄刀を手にした修兵が訊いてくる。

 

「今更やめるとでも?」

「いや、思わねぇけどよ。何か解せないんだよなぁ……。お前、こんなに脳筋だったか?」

 

 合点がいったかのように修兵は言った。

 

「失礼だなぁ。僕が戦いが嫌いなことは修兵も知ってるでしょ?」

 

 今こうして外に出ているのも、あくまでリフレッシュのためだ。断じて戦闘意欲を満たすためではない。

 

「そうなんだけどよぉ……。駄目だ、頭が回んねぇ」

 

 どこか納得がいかないようで、修兵は思考を巡らせようとするが、やはり連日の徹夜が祟って碌に思考することができないようだ。

 

「ほら、早くやるよ」

「あ、ああ」

 

 このままだといつまで経っても始めることができなさそうだったので、自分が斬魄刀を構えることで、少し強引に修兵もそうするよう促した。

 

「ふっ!」

「うおっ!?」

 

 今この場には僕と修兵しかいない。よって始めるタイミングも自分達で決めないといけないので、初撃は小手調べに六割ぐらいの瞬歩で接近したんだけど、それすらも反応が遅れるほどに今の修兵の動きにはキレがなかった。いつもなら八割ぐらいの動きは普通に対処していたし、全力で動いても始解のトリッキーな動きを駆使して上手く僕を近づかせないように立ちまわっているんだけどな。 

 

「やっぱり今のままじゃ駄目だね」

「ああ? 何言って――」

「――【誘え“睡蓮”】」

 

 いつもなら修兵なら難なく避けているその煙は、いとも簡単に修兵の中へと入っていき、その意識を刈り取る。

 

「無理し過ぎってことだよ。少し休め」

 

 ――さて、修兵も寝かせたことだし、仕事に戻るとしますか。

 

 瞼を閉じていく修兵に僕はそれだけ告げると、彼を抱えて九番隊隊舎へと戻った。

 

 

***

 

 

「はっ!?」

「あ、起きた?」

 

 九番隊隊舎に戻ってある程度仕事を進めていると、部屋のソファーで眠っていた修兵が目を覚ました。

 

「『あ、起きた?』じゃねぇよ。休ませるにしても、もっと方法があっただろ」

「無いよ。どうせ修兵言っても聞かないじゃん。それと、仕事は終わらせておいたから締め切りは安心していいよ」

 

 山のように積まれていた修兵の仕事は、先程の約半分までに減っていた。

 

「は……? って、お前俺の仕事まで終わらせてるじゃねぇか。あれは素人が触っていい仕事じゃなかったんだが」

「それくらい言われなくても分かるよ。だから九番隊の皆で終わらせたよ。尊敬されてるんだね、修兵。皆修兵のこと心配してたよ」

 

 どうやら九番隊の皆も修兵が不眠不休で仕事をしていることに思うところはあったらしく、眠った修兵を担いで連れ帰った際には何人もの隊員に感謝された。

 

「そうか。悪かったな、心配かけて」

「それは僕じゃなくて、部下に言ってあげて」

「……そうだな」

「ほら、僕も仕事は終わったし、あとは修兵だけだよ」

 

 僕はそう言って、書類の束を修兵に突き出した。

 

「じゃあ、僕はもう帰るから」

「ああ。ありがとな、卯月」

 

 部屋の扉に手を掛けると、背中越しに修兵はお礼を言ってきた。  

 

「どういたしまして」

 

 今日の事でどれだけ修兵の心が晴れたか、気持ちを切り替えられたかは僕にも分からない。だけど、心なしか今日来た時よりも修兵の目つきは生き生きとしている気がした。

 

 ――あ、隈が無くなったからか。

 

 ま、まあ、修兵なら大丈夫でしょ。もし駄目でもその時はケツを蹴り上げてでも喝を入れてあげよう。

 

 こうして、僕のヘルパーとしての一日は終わりを告げた。

 

 

***

 

 

 数日後、いつものように砕蜂隊長と修行をしていると、修兵が押し掛けてきた。なんでも、僕に夜の修行相手を務めて欲しいのだそうだ。

 

 どうやら修兵は無事、東仙を失ったショックから立ち直れたらしい。

 

 そうして修行の日々は続いていく。現世に居る浦原喜助さんによれば、崩玉が完全に覚醒するのはまだ半年くらい先のことらしく、それまでの間に僕たち護廷十三隊は戦いに備えて十分な力をつけておく必要があるのだ。

 

 だけど、そんな修行の日々の終わりは思ったよりもずっと早く訪れた。

 

 




 つい先日、やっとたまっていたBLEACHの小説を見終わりました。
 つい最近まではノベライズの存在すら知らなかったので、久し振りにBLEACHの世界観を初見で楽しむことができました。

 感想と致しましては、いままでネタキャラとしか思っていなかったドン・観音寺は格好良かったし、修兵の卍解は彼の性格が如実に現れているのがいいなと思いました。

 これ以上はネタバレになってもいけませんので、控えさせて頂きます。

 では!
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