転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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 私は先頭描写は苦手なんですが、今回の卯月対ゾマリは上手く書けた気がします。

 まあ、あくまで気がするだけなので、あまり期待はしないでください。


第二十三話

「【鏡門(きょうもん)】」

「蓮沼君!?」

 

 敵の姿を視界に捉えた僕は、すぐさま井上さんの周辺に外側からの衝撃に強い結界を展開した。井上さんは僕の身を案じて声を掛けてくれるけど、その声に応えるわけにはいかない。

 きっと今、井上さんは僕と一緒に戦いたいはずだ。この一週間一緒に修行をして来て分かったけど、彼女はそういう優しい心を持った人物だ。

 

「二人とも、今すぐこのことを尸魂界に報告するんだ」

「「はい!」」

 

 だけど、僕が弱いせいでその声に応えてあげることができない。

 

 身体的に弱いから、彼女を気に留めながら戦うことができない。

 

 心が弱いから、彼女を信じてあげることができない。

 

 例え今の状況を乗り切っても、彼女は酷い自責の念に駆られるだろう。折角強くなったのにと涙を流すかもしれない。それを理解した上でも、僕は井上さんの参戦を許容してあげることができなかった。

 

 二人の気配が十分に遠のいたのを確認した後、斬魄刀を抜いて、敵の霊圧を測ってみる。

 流石は虚としての限界を超えた破面と言うべきか、その霊圧は普段僕が相手をする虚とは比べ物にならない程強く、そんじょそこらの死神じゃ相手にならないことが察せられた。それどころか隊長格に匹敵する程強く、目の前の敵が少なくとも十刃(エスパーダ)であることは十分に察せられた。

 

 本当なら、井上さんも逃がしてあげたかったけど、そういう訳にもいかない。何故なら原作と違って、いま井上さんを攫いに来ている敵がウルキオラとは限らないし、一人だとも限らないからだ。

 いま井上さんを僕の目の届かないところに逃がしてしまうと、敵の増援が来た時に対応できなくなる可能性があるのだ。だから今は、重要人物である井上さんを手放すわけにはいかない。

 

 上記の考察から分かるかもしれないけど、僕は目の前の敵がウルキオラじゃないのではないかと疑っている。

 ウルキオラは虚化した黒崎一護君をすらも圧倒していたという話だけど、そこまでの凄みを目の前の敵からは感じられないのだ。

 

「どうしました? かかってこないのですか?」

 

 思考を巡らせてしていると、痺れを切らした破面が僕に話しかけてきた。

 

「僕が君を倒さなくても、増援の人が倒してくれればそれでいいしね。別にそんなに焦る必要はないでしょ」

 

 嘘だ。

 本当は敵の増援が来ない内にさっさと片付けてしまいたいが、それを敵に知られるわけにはいかないのだ。僕が増援の可能性を考えているか考えていないか、それを敵が気付いているか否かで、この護衛の成功確率が大きく変わってくる。

 

「では、こちらから行かせてもらいます」

 

 ――瞬間、男の姿が僕の霊覚で捉えられなくなった。

 

 

***

 

 

「成程、今のが響転(ソニード)か。確かに僕たちの瞬歩とは、少し違うようだね」

 

 破面の斬撃を受け止めた卯月が敵の能力を分析し始めた。

 

 死神の瞬歩と破面の響転。二つとも同じ高速歩法なのだが、その詳細は似て非なるものである。

 瞬歩と違って響転は相手の霊覚、または探査回路(ペスキス)をすり抜けることができるのだ。霊なる者が敵の動きを把握する際、使う器官は主に二つだ。

 その内一つは人間と同じ視覚。そしてもう一つは霊圧感知、すなわち霊覚(探査回路)である。

 因みに、東仙要はこの霊覚が非常に優れているため、盲目なのにも関わらず、隊長としてやってこれたのだ。

 

 その重要な二つの器官の内の一つが封じられるのだから、如何に響転が凶悪なものかお分かりいただけるだろう。

 

「初見で私の響転を防ぎますか。……では、これならどうでしょう?」

 

 また男の姿が掻き消えた。

 

 しかし、卯月の歩法の実力も二番隊の実質ナンバー2である。先ほどは初見だったために少し反応が遅れてしまったが、速さ自体は十分に目で追えるものだった。

 

 故に、卯月は先程よりも余裕を持って攻撃を防いだのだが、先程と違いが現れたのはここから後の事だった。

 

 ――男が二人に増えたのだ。

 

「っ、はあ!!」

 

 突如増えた敵に驚きながらも、卯月は敵の動きを見切り、順番に拳と足を放つことで対処する。

 すると、敵の片方はまるで何事も無かったかのように掻き消え、それを見た卯月は何が起こったのか思考を巡らせた。

 

「分身……?」

「【双児響転(ヘメロス・ソニード)】、それが今の技です。私の響転は十刃最速でして、それにステップを加えて仕上げた疑似的な分身のようなもの。まあ、手品の類のお遊びですよ。――第7十刃(セプティマ・エスパーダ)、ゾマリ・ルルー。以後お見知りおきを」

「僕も随分と嘗められたものだ。まさか戦いに遊びを持ち込まれるなんてね……。二番隊三席の蓮沼卯月だ。――じゃあ、少し付き合ってあげるよ」

「なっ!?」

 

 ――刹那、今度は卯月が増えた。

 

 その数は三人。先ほどのゾマリを上回る数の分身体が一斉に襲い掛かった。

 

「残念」

「っ!?」

 

 しかし、ゾマリの分身は二人じゃなかった。

 

「双児響転の分身数は、最大五体です」

 

 五体に増えたゾマリの分身体が次々と卯月の分身を切り裂き、遂に最後の一体に斬魄刀を突き刺した。

 

「!?」

 

 ――だが、その本体であるはずの身体は分身体と同じように掻き消えた。

 

「残念。僕の分身の最大数は十体だ。因みに、うちの隊長なら軽く二十体は作れるね」

 

 ゾマリの響転は十刃最速と自称するだけあって、確かに速い。

 だが、それでも砕蜂の瞬歩には遠く及ばなかった。故に、毎日砕蜂との修行をこなしている卯月からすれば、ゾマリの響転はそれほど脅威には映らなかったのだ。

 

 さらに数を増やした卯月の分身体が、次々とゾマリの分身を消滅させ、やがて最後に残った本体の腕を切り裂いた。

 

「ぐっ!」

「さて、そろそろ本番と行こうじゃないか。【誘え“睡蓮”】」

 

 遊びの終わりを告げるように、卯月は分身を本体に集束させ、己の斬魄刀を解放した。

 脇差ほどの刀身に三つの穴が開き、そこから煙があふれ出る。

 

「【睡蓮・珠砲】」

 

 刹那、卯月の周りを漂っていた煙が球状の結界に包まれ、一斉にゾマリに向かって放たれた。

 断界の左右にそびえ立つ拘流の壁の間隔は非常に狭い。故に、一度に多くの煙を敵の周辺に充満させることができるこの技ならば、戦闘を有利に進めることができると卯月は判断したのだ。

 

「【虚閃(セロ)】」

 

 しかし、それはゾマリが放った高濃度の霊力が打ち消し、そのまま卯月に向かって直進する。

 

「【縛道の六十八“天縫輪盾”】」

 

 十刃の虚閃は、卯月がこれまでに相手をしてきた最下級虚とは比べ物にならない程に、広範囲かつ威力も桁違いだったが、それに卯月も自身の得意な縛道で対応する。

 円形の盾はゾマリの虚閃を受け流した。元より、天縫輪盾は敵の攻撃を受け流すことを想定した縛道だったのだ。

 

 ――だが、ゾマリの狙いはそこではなかった。

 

「成程。確かに私は護廷十三隊を侮っていた様ですね。その証拠に、少なくとも歩法においては、あなたの方が私よりも秀でているようだ。――ただ、それだけでは戦いは決まりませんよ」

「!」

 

 虚閃が消えて縛道を解いた時、ゾマリは己の霊圧を上昇させていた。

 蟹股に開かれた足に、どういう原理かは分からないが、宙に浮かんだ斬魄刀。それだけ見ればふざけているように見えるかもしれないが、まるで座禅を組むかのように左右に投げ出された手が卯月に悪寒を感じさせた。

 

 この為の時間稼ぎこそが、ゾマリが虚閃を放った理由だったのだ。

 

「うっ!」

 

 攻撃を食らった訳でもないのに関わらず、卯月は顔をしかめながら、えずくように不快感を露わにする声を漏らした。

 

 その原因はゾマリにあった。あろうことか彼は突然、合掌しながら首を九十度に傾げるという奇行に出たのだ。その動きは明らかに人の関節の限界を越えており、それは卯月が不快感を持つには十分な理由だった。

 

「【鎮まれ“呪眼僧伽(ブルヘリア)”】」

「うわぁ……」

 

 瞬間、ゾマリの斬魄刀が渦巻き型に折り曲げられると共に、彼の霊圧がこれまでにない形で上昇した。

 

 帰刃。虚としての垣根を越えることにより、斬魄刀を得た破面の能力の内の一つだ。効果はその名の通り、斬魄刀に封じていた、破面の持つ本来の能力を引き出す力だ。それにより、使用者の霊圧は一時的にその質を変える。追加効果として、帰刃前についた傷の全てを回復するという能力まで持っている。

 故にゾマリからもそれに恥じない程の霊圧が発せられたのだが、それでも卯月は彼に嫌悪感を持たざるを得なかった。

 

 渦巻き型に折り曲げられた斬魄刀がゾマリの目の前で爆発すると、彼からまるで拘流のような半液体状の白い物質が溢れ出したのだ。ブニュブニュと音を立てながら増殖していくその物質はかなりグロテスクで、それは卯月に僅かな吐き気を促した。

 

 ――これってまさか、そういう精神攻撃?

 

 あまりの気持ち悪さに、そんな考えが卯月の頭を過った。

 

 数秒後、物質はゾマリを中心に集束し、その姿を露わにした。

 

「うっぷ……」

 

 これで吐き気も収まるかと思った卯月だったが、それは甘い考えで、吐き気は収まるどころか、強まる一方だった。

 

 今のゾマリの姿を一言で表現するなら、それは「眼」だった。

 身体は白く染め上げられ、下半身は蛸のような形をしていたのだが、彼の身体には無数の眼や顔が埋め込まれている。

 

 先程とはまたグロさのジャンルが違うが、その見た目はかなり強烈なものだった。

 

「それが帰刃(レスレクシオン)か。凄いな、同じ刀剣解放の筈なのに、始解とは強化倍率が大違いだ」

 

 自身に吐き気を止めるための回道を掛けながら卯月は口を開いた。

 帰刃でそれなら、ウルキオラが彼にしかできないという刀剣解放第二階層を使用したらと考えると、正直ゾッとした。

 

 ――今はそんなことよりも目の前の敵に集中だ。

 

 何とか強烈な吐き気から持ち直した卯月は自分に喝を入れ、斬魄刀を構えなおした。

 

 すると、ゾマリが徐に卯月に向かってその手を翳した。

 

「?」

 

 だが、いつまで経ってもゾマリの手掌から攻撃が放たれることはなかった。

 訝しげな視線を送る卯月を見て、ゾマリはゆっくりと話し始める。

 

「……どうしました? 攻撃を放つと直感したのになにも起こっていない。それが解せないと言いたげだ」

 

 とは言え、実際に卯月は攻撃を受けていないし、回道の要領でざっと自身の身体を見渡してみても、特に異常は見られない。

 

 しかし――

 

「残念、起こっていますよ既に。その左足は私達のものになりました」

「これはっ!?」

 

 ――既に事は起こっていたのだ。その証拠に、卯月の左足の甲には太陽のような紋章が刻まれていた。

 

「全てのものには支配権があります。部下は上官の支配下にあり、民衆は王の支配下にあり、雲は風の支配下にあり、月光は太陽の支配下にある。我が“呪眼僧伽”の能力は、その目で見つめたものの支配権を奪う能力。私はこの力を『(アモール)』と呼んでいます」

「ア、アモール?」

「愛の事です。同情しますよ。知恵が浅いと解せないことが多くてお辛いでしょう」

 

 ――元高校生に英語以外の外国語なんて分かるわけないじゃん……。そこはラブでいいだろ、ラブで。

 

 急に自分の知り得ない知識でマウントを取ってきたゾマリにイラついた卯月だったが、次に起こることを想像すれば、心を落ち着かせることは容易かった。

 

「解せなくともその身で味わえば解かる。さあ、左足よこちらへ」

 

 ゾマリが翳した左手をクイッと動かすと、卯月の左足も彼の声に従って一歩進む。

 

「なん……だと……!?」

 

 ――はずだった。

 

「何故です!? 何故、私の(アモール)が通じないのです!? さあ、左足よ動きなさい! 今度こそ動くのです!!」

 

 自分の切り札が通じないことに酷く動揺しながらも、ゾマリは再度卯月の左足に命じるのだが、依然として、卯月の左足はピクリとも動かなかった。

 

「態々ご高説ありがとう。お陰で術を解く時間が出来たよ」

「術を……解いた……!?」

 

 卯月が行ったことは簡単である。ゾマリが説明している間に睡蓮の煙を吸って術を解いた。ただそれだけだ。

 

「動揺してるね。まあ、同情ぐらいはしてあげるよ。知識が浅いと分からないことが多くて困るもんね」

「おのれ……!!」

 

 先程の意趣返しに、卯月はしてやったりと笑みを浮かべながら、自身の能力でゾマリにマウントを取った。

 

「とは言え、一々術を解くのは面倒だからね。対策はさせてもらうよ。【縛道の二十四“赤煙遁”】」

 

 地面に付けた卯月の掌から大量の桃色の煙が漏れ出る。瞬く間に二人の視界を遮った。ゾマリの術は、その目で見た物を支配する能力。故にその目を阻害してしまえば、術にはかからない。

 いくら卯月が能力を解除できるとはいえ、それには霊力を使用する。ゾマリの身体には無数の眼が埋め込まれている為、術に掛かる度に解除しているようでは、霊力切れを起こす可能性があるのだ。

 

 だが、これにはかなりのリスクを伴う。

 

「確かにこれでは私の(アモール)は無効化されてしまうでしょう。ただし、この状況であなたに私の響転を見切れますか?」

 

 ゾマリの言う通り、この状況では卯月からもゾマリの姿も見ることができない。動き出せばそこから煙が晴れていくので、問題ないように思えるが、この一秒未満の戦いの世界で初動が見えないというのは致命的だ。

 なら霊覚を使えばいいじゃないかと思うかもしれないが、それも間違いだ。先程も述べたように、破面の響転には敵の霊圧探知を掻い潜る能力がある。故にこの状況は卯月にも不利な状況なのだ。

 

『そういう君こそ、今僕がどこにいるのか分かるかな?』

「なにっ!?」

 

 いつの間にか、鬼道での会話に変わっていたことに気がついたゾマリは探査回路を使用し、卯月の居場所を突き止めようとしたのだが、いくら集中しても卯月を捉えることは出来なかった。

 

 卯月は赤煙遁を使ったあと、縛道の二十六“曲光”を使用して自身の姿を消し、霊圧を極限まで弱めていたのだ。

 しかし、それだけではゾマリの探査回路を逃れられる理由にはならない。何故なら霊なる者は死なない限り、例えどれだけ霊圧を弱めようとも微弱な霊力を発しているからだ。

 つまり集中さえしていれば、この近距離でゾマリが卯月を見失う筈がないのだ。

 

 では、何故このような状況に陥っているのか?

 

「この煙っ!?」

『気づいたようだね』

 

 そこで、赤煙遁だ。

 

 今、この鬼道を放っているのは卯月である。つまり、今この場では辺り一面に卯月の霊力が充満している状態なのである。

 故にこの煙の中ならば、卯月がゾマリの探査回路を掻い潜ることが可能だ。

 

 敵の能力の封殺と隠密行動。決して難易度の高くない鬼道で、卯月はここまでのことをやってのけたのだ。

 

「ですが、所詮は煙。高威力の霊力で吹き飛ばしてしまえば、何ら問題はありません」

 

 そう言いながらゾマリは自身の手掌に霊力を集束させる。虚閃の体勢だ。

 

『させると思う?』

 

 ――刹那、ゾマリの動きが止まった。

 

 卯月が攻撃をしたかと言えば、決してそうではない。その証拠に煙は不自然な流れを起こしていなかった。

 

 しかし次の瞬間、集束させていた筈の霊力は四散し、それと同時にゾマリの帰刃も解け、姿も元に戻っていくではないか。

 

「眠ったかな?」

 

 起動させていた術の全てを解き、姿を現した卯月がそう言った。

 

「これ、は……!?」

「へぇ、まだ喋れるんだ。感心感心。じゃあ、さっきは親切に説明してくれたことだし、僕もそれに応えよう。僕の斬魄刀“睡蓮”の能力は二つ。一つ目は術者が刀の三つ穴から発せられる煙を吸うことで、怪我や病気以外のあらゆる異常状態を完治させる能力。そしてもう一つが敵に煙を吸わせることで眠りに誘い、その際に全ての能力を解除する能力だ」

 

 先程の赤煙遁は二段構えではなく、桃色の煙に睡蓮の煙を紛れ込ませることでゾマリを眠らせ易くする、三段構えの戦法だったのだ。

 

「【隠眠(おんみん)】。それがさっき僕が使った一連の技の名前だよ。――尤も、もう聞いていないだろうけどね」

 

 卯月の視界には眠ったことで、倒れ伏せたゾマリの姿が映っていた。

 こうなれば他者からの手が加えられない限り、八時間は眠り続ける。

 

「やっぱり殺すしかないのか……」

 

 まるで、何かを押し殺すかのような重々しい声音で卯月は言った。

 

 破面は虚とは違う。虚は破面になる際に虚の限界を超えるという性質上、その姿は人型に近づく。そして、その力が強大であればあるほど、その変化はより濃くなる。それ故、十刃であるゾマリの姿は破面特有の身体にどこかにある砕けた仮面以外は完全に人の形をしており、それがどうしても卯月がゾマリを殺すことを是としなかった。

 

 一瞬、技術開発局に身柄を提供すれば、問題ないのではないかと思ったが、駄目だった。

 確かに、破面の身柄を提供すれば、研究熱心(マッド)な十二番隊隊長は大喜びするだろうが、それが現状かなり難しかった。

 大虚には同族を助ける為の、空間すらも断絶する強力な能力が備わっている。

 

 ――そう、反膜だ。

 

 あれが存在する限り、卯月は今すぐにでもゾマリを斬りつけるべきなのだ。こうして悩んで居る時間すらも、非常に綱渡りな状況なのである。

 

「くっそ……!!」

 

 依然気が進まない。しかし、卯月はその意志すらも握り潰すかのように斬魄刀を強く握り締めた。

 

 ――今見逃してしまったら、この破面は必ず護廷十三隊に立ち塞がる。

 

 ――それだけは絶対に駄目だ。

 

 ――藍染に奇襲した時にも決めた事じゃないか!

 

「はああああ!」

 

 迷いを撥ね除けるように声を張り上げながら、卯月はゾマリの首筋を斬りつけた。

 

「うっ!」

 

 瞬間、未来永劫忘れることはないであろう耐え難い感触が斬魄刀を通じて卯月の身体に伝わった。

 

「ほう、ゾマリを倒したか」

「!?」

 

 しかし、まだ完全に安全とは言い切れない。そう気持ちを切り替えようと深呼吸をした時、卯月は新たな霊圧を感知した。

 

 そしてその霊圧の持ち主が黒腔から姿を現した時、背筋が凍った。

 

 その男は不気味だった。まるで、死者のような白い肌に、目から頬の下まで伸びているタトゥーのような黒い紋様。感心している口ぶりなのに、一切変わることのない表情。そしてゾマリとは比べ物にならない程の強大な霊圧。

 藍染程ではないにしても、強大な力を持つ敵に戦慄する卯月だったが、そのお陰で一つ分かったことがあった。

 

 ――間違いない。この男がウルキオラだ。

 

 先程挙げた全ての特徴が、前世の友人の話と一致していた。

 

「なら、これでお相子だな」

 

 そう言った破面――ウルキオラは自分が出て来た黒腔に片手を突っ込み、何かを取り出した。

 

「そんなっ!?」

「間に合わなかったか……!?」

 

 ウルキオラが取り出したのは、先程尸魂界へ戻っていった筈の二人の死神だった。その無惨に切り刻まれた身体に僕と井上さんは動揺する。

 

「「ぐっ!」」

 

 ウルキオラに無造作に投げ捨てられた二人はその衝撃に耐えかね、声を漏らした。

 

 ――二人共虫の息だけど、まだ生きてる!

 

 そうと決まれば卯月が動くのは早かった。即座に斬魄刀を抜き、解放しようとする。

 

「次はお前だ。【虚閃】」

 

 だが、ウルキオラは卯月よりも早く動いていた。

 

 先程のゾマリよりも太く、そして速い閃光が卯月に襲いかかる。

 

「【縛道の八十一“断空”】」

「……ほう」

 

 鬼道によって自身の虚閃を受けきったことに、ウルキオラは感嘆の声を漏らす。

 

「井上さんは二人の治療をお願い。あれは僕が何とかするよ」

「うん!」

 

 それだけではなく、卯月はいつの間にか二人を俵持ちで抱え、織姫の近くに下ろしていた。

 

 破面に向き直った卯月は口を開く。

 

「悪いけど、そう簡単には奪わせはしないよ。彼女はウチの大切な戦力なんだ」

「成程、俺たちの狙いに気付くか。まあいい、なら実力行使で奪うまでだ」

 

 卯月が構えるのに対して、その破面は両手をポケットに突っ込んだままの状態から動こうとしない。

 

 完全に卯月を嘗めていた。否、ウルキオラは正確に理解しているのだ。今、自分の目の前に居る敵には、これくらいの力で十分だと。

 

 ――なら最初から手加減しなければよかったと後悔させてあげるよ!!

 

 心でそう呟きながら、卯月は破面に向かって猛スピードで動き出した。

 




 次回の投稿は作者の引っ越しのため、いつもより少し遅れます。

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