転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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 今回は少し短めです。


第二十六話

 戦闘が開始して数分が経過した時、状況は死神側に有利な展開に傾いていた。

 

 まず始めに勝利を収めたのが修兵だ。彼は己の顔を覆い尽くしている仮面を剥げば剥ぐ程その力を増すという能力をもった破面――フィンドールと交戦。しかし、隠密機動である卯月を倒すべく鍛え上げられた修兵の始解のトリッキーさに、フィンドールは全くついて来れなかった。

 

 次に吉良が赤い鳥人のような姿をした破面――アビラマと交戦。敵の高威力の攻撃にやや苦戦を強いられるも、建物などを巧みに使うことで攻撃を回避し、最終的には侘助でアビラマの翼を斬りつけることで決着がついた。

 

 その次に勝利を収めたのが弓親だ。彼は自らを最高に美しいと名乗るオカマの破面――シャルロッテと交戦。基本的な能力の差に苦戦するも、シャルロッテが外部からの視線をシャットアウトする結界を作り出したことで、弓親が十一番隊においては御法度であるという理由から、これまで滅多に使わなかった鬼道系斬魄刀――瑠璃色孔雀を解放し、敵の霊力を吸い取るという強力無比な力で勝利を収めた。

 

 ここまで概ね順調といった感じだが、実はそうではない。

 

「そろそろじゃの」

 

 四つの柱で行われていた戦いを見ていたバラガンが笑みを浮かべる。

 

 彼の視線の先には三メートル以上の巨体を持つ破面――ポウと斑目一角の姿があった。

 

 そして、斑目一角だけが未だに敵を倒せていなかった。

 

 

***

 

 

「かはっ!」

 

 敵の強烈な攻撃を受け、柱に打ち付けられた一角がその衝撃に耐えかね、息を漏らした。

 

「ナンダ、もう終わりか?」

 

 地面に倒れ伏した一角を見下ろしながら、ポウは残念そうに声を発した。

 

「はっ! 誰が終わりだって!?」

 

 だが、一角もこの程度では終わらない。戦いに生きる十一番隊の三席にしてみれば、強大な敵は彼の戦いをより楽しいものにしてくれるスパイスでしかないのだ。

 故に一角は笑顔を浮かべながら立ち上がった。

 

「止めとけ。お前はまだ何か力を隠してるポイが、それを使わない限りは俺には勝テナイ」

「笑わせんな。そんなもんあるかよ。あったとしても、てめえみたいな雑魚にゃあ使う暇なんか無えがな!!」

 

 実を言うと、一角は卍解が使える。その能力は時間が経つほど攻撃の威力が増すという単純なものだが、それ故火力だけで見れば、彼の斬魄刀を越えるものはそうそうないだろう。

 

 しかし、一角は卍解を使わない。その理由は護廷十三隊という組織の特色と、彼が尊敬して止まない上司、更木剣八にあった。

 近頃は実力者同士の戦いが多かったため忘れがちだが、そもそも卍解というものは習得するだけで尸魂界の歴史に名を残すと言われているほど、習得難易度が高いものなのだ。

 その力も始解とは比べ物にならない程強力で、剣八以外の隊長は全員この力を使える為、卍解を習得することが隊長昇格の為の一つの資格というというものが、所謂暗黙の了解となっている。

 

 それを過剰に意識しているのが一角だ。彼は卍解を使えることが他人にバレてしまえば、自分は隊長にされるのでないかと危惧している。

 とは言え、護廷十三隊の隊長はなろうと思ってなれる訳ではない誉れ高い役職だ。何故一角がそんな役職に就きたがらないかと言えば、その理由は彼の上司である剣八にあった。

 

 一角は流魂街出身で、当時も今と変わらず強い相手を求めて暴れ回っていたらしいが、それに終止符を打ったのが剣八だった。以来、一角は剣八に心酔するのだが、その際一角はこう思ったのだそうだ。

 

 ――一生この人について行こうと。

 

 隊長になってしまえば十一番隊から離れることになり、それは即ち更木剣八から離れることに繋がってしまう。それを嫌った一角は、いかなる場面でも、護廷十三隊の味方がいる場所では卍解は使わないと固く誓ったのだ。

 

「そうか。なら死ネ」

 

 だが、敵からしてみればそんなことは知ったことではない。

 ポウはその大きな拳を、脚を震わせながらも気丈に斬魄刀を構える一角に振り下ろした。

 

 

***

 

 

「これで、一本じゃの」

 

 それを見ていたバラガンも、漸くかといった感じで声を発した。

 

「何を言うておる?」

 

 しかし、その言葉は元柳斎によって遮られた。

 

「――先もあそこは大事な場所じゃと言ったじゃろう。なのにどうして予備の人員を配備していると思わない?」

 

「【天縫輪盾】」

 

 元柳斎の言葉と同時に何者かの鬼道がポウの拳を防いだ。

 

 

***

 

 

「ナニ……?」

「は、蓮沼ぁ!?」

 

 突然の外部からの干渉に驚いた二人が同時に辺りに意識を巡らすと、二人の頭上に卯月が立っていることに気がついた。

 

 この戦いにおいて、卯月は天界結柱を守る予備の人員としての役割を担っていた。

 何故卍解も使えて、他の四人よりも強い卯月が予備の人員なのかと言えば、それは彼が隠密機動だからということに他ならなかった。普段から白打や瞬歩の修練に努めた卯月は、多少の遅れなら瞬歩を駆使することで、十分戦いに間に合わせることができるのだ。

 

「大丈夫ですか、斑目三席?」

 

 地面へと降り立った卯月が一角の元へと駆け寄る。そして、すぐさま回道をかけようと手を翳そうとするのだが、その腕を一角に握られてしまった。

 

「余計なことしてんじゃねぇよ……! アイツは俺の獲物だ」

「だったら勝って下さい」

「っ!?」

「僕はあなたが負けそうになってるから救援に駆けつけたんです。勝てないのならそれに文句言わないで下さい」

「蓮沼……お前っ!!」

「僕、何か間違ってますか?」

 

 戦いを楽しむも楽しまないも、卍解をするもしないもそれは戦っている本人の自由だ。

 しかし、今回に限ってはそれは違う。一角が守っている天界結柱が壊されてしまうと、たちまち本物の空座町が姿を現してしまう。そうなれば藍染の目的である王鍵生成が早まってしまう。

 故に今回の戦いは、個人の矜持など捨ててでも絶対に勝たねばならない戦いなのだ。そんな状況で全力を出さずに負けるなど、もってのほかである。

 

「斑目三席は休んでいて下さい」

 

 卯月が手を翳すと、回復の結界が一角を閉じ込めた。結界自体は敵の攻撃を防ぐことを目的としているので、中からの攻撃にはそう強くはないが、それでも今の一角では破壊できないほどの防御力を持っていた。

 

「ここからは僕が引き受けます」

 

 最後にそれだけ告げると、卯月は自分よりも二倍は大きい破面に向き直った。

 

 

***

 

 

「ダレダ、お前?」

「二番隊三席の蓮沼卯月だ。後ろにいる人も同じ三席だけど、僕は彼ほど戦闘好きじゃないから、お手柔らかによろしく」

「そうか。なら先ずはこれくらいでドウダ?」

 

 そう言ってポウは、巨大な体躯から生み出される膂力を活用して、卯月に拳を振り下ろした。

 その拳は外見を裏切らない威力を孕んでおり、当たれば一溜まりもないだろう。

 

「遅いよ」

「ブェっ!」

 

 だが、その拳が卯月を捉えることはなかった。

 

 それどころか卯月はこの僅かな間にポウに急接近し、カウンターを打ち込んでいた。自分の一撃が強力なものの為に、ポウは大ダメージを受けてしまう。

 

「そんな力任せの大振りじゃあ、僕を捉えることはできないよ」

 

 確かにポウの拳は強力だ。当たれば卯月を一撃で下すことすらできるかもしれない。

 しかし、どんな攻撃も当たらなければ意味がない。隠密機動で長年白打の腕を磨いてきた卯月にとってみれば、ポウの一撃は脅威に映らなかったのだ。

 

「今のは中々の一撃ダッタ。ならこの本物のパンチはドウダ?」

 

 頬をさすりながら卯月に向き直ったポウは、返しの一撃を放つ。先程までとは違い、その拳には腰の回転などの力も加わっており、卯月を本気で倒しにかかっていることが察せられた。

 

「【波状弾】!」

 

 だが、この攻撃も卯月には当たらなかった。それどころか、カウンターに用いられた攻撃が先程よりも強力だった為、ポウは攻撃を受けた勢いで建物のレプリカへと吹き飛ばされてしまった。

 

 足や腰の力が加わったとは言え、所詮は型も流派も何もない我流の一撃だ。我流が駄目だとは言わないが、今のポウの一撃は、素人に毛が生えた程度のヤンキーパンチでしかない。

 そしてそれを卯月が見切れない筈がない。

 

「今のが本物のパンチ? 笑わさないでよ。その程度が本物なら、今頃二番隊は護廷十三隊最強を名乗れてるよ?」

「この虫けらガっ! なら見せてやる、これが最高のパンチだ!!」

 

 家のレプリカに衝突したことによってできた瓦礫を払いのけながら、ポウはゆっくりと立ち上がりながら怒りを露わにした。

 そして彼の身体の大きさと比べて、かなり小ぶりの斬魄刀を手に取り、目の前で水平に構える。

 

「【気吹け“巨腕鯨(カルデロン)”】」

 

 刹那、霊圧の上昇に比例して、彼の身体も大きくなっていく。

 

「やばっ!」

 

 その巨大化は留まることを知らず、このまま行けば卯月たちを飲み込みかねないというところまで行っていた。

 

「逃げますよ、斑目三席!」

「おい、放せ!!」

 

 すぐさま回復の結界を解き、一角を担いで走り出した卯月だったが、一角が暴れる所為で思ったよりも前に進めない。

 

「もう! 【縛道の三十七“吊星”】」

「っ!? もがががががががが!!」

 

 いつまで経っても落ち着く様子がない一角に痺れを切らした卯月が縛道を使って一角の動きを無理やり止めた。伸縮性に優れた吊星は一角に絡みつき、もがいても中々抜け出せない状態を作り出していた。

 

 それでもポウの巨大化は収まらず、それによって起こった爆風が辺りのレプリカを破壊していくのだが、一角がおとなしくなったのを確認した卯月が瞬歩を使ったことにより、なんとか巨大化の余波から免れた。

 

「ハァ……ハァ……てめぇ殺す気か!!」

 

 卯月が新たに作った回復の結界へと入れられた一角が怒鳴りつける。

 実はポウの巨大化から逃げる間、一角は動きどころか息すら止められていた状態だったのだ。

 

「す、すみません……。説教なら後で受け付けますから、今はアレに集中してもいいですか?」

 

 そう言いながら卯月が見上げた場所には、先程の十倍以上に巨大化したポウの姿があった。

 その姿はまるで鯨のようで、その証拠に首から腹にかけて畝ができていた。

 

 帰刃したことによって先程までの傷も完全に再生し、これで振り出しに戻ったという訳である。

 

「ほんとそれって反則だよね」

 

 どれだけ帰刃前に傷つけていたとしても、解号一つ唱えるだけで、部位欠損以外の全ての傷を再生しつつ、戦闘能力も上昇するのだからその凶悪さが理解できるだろう。

 

「ん? 虫ケラが何か言ってるガ、聞こえナイナ」

 

 身体が巨大になった為、ポウ耳の遥か下にいる卯月の声は聞き取れなかったようだ。

 

「フゥー、叩き潰すノモ面倒ダ」

 

 帰刃した影響で性格に変化が起きたのか、先程までの好戦的な感じは消え失せるどころか、それとは真逆の怠惰な印象を抱かした。

 

「ケドモソレモ仕方のナイコト」

 

 心底面倒そうなポウだったが、バラガンの従属官としての最低限の忠誠心は残っているようで、攻撃の為に腕を振り上げた。

 

「それがバラガン様ノ命令ヨ!」

 

 そして、大きめのテーブル一つ程の面積はありそうな巨大な拳が、卯月と一角に向けて振り下ろされた。

 

 しかし、その拳は一角を覆っていた回復の結界によって完全に防がれた。

 

 ――そして、そこに卯月の姿はなかった。

 

「ムっ!?」

 

 それに気づいた時、ポウは首筋にチクリとした感覚を覚えた。

 そこに目を向けてみれば、既に斬魄刀を振り終えた状態の卯月がポウの背面へと通り過ぎていた。

 

 自分の認識できない間に攻撃されたことに驚き、ポウは攻撃されたであろう場所に手をあてがってみたが――ポウの手に血は一切付着しなかった。

 

「ぽはははははははっ!! ナンダその攻撃は!? 痛くも痒くもナイヨ!」

 

 それにより精神的な余裕を取り戻したポウは声高らかに笑った。

 

「弱すぎて、アクビが出るネ」

 

 空中に静止している卯月に向かってポウの口が大きく開かれ、極大の霊力が圧縮されていく。虚閃の体勢だ。

 その大きさから、攻撃範囲から逃げることはほぼ不可能。

 

 「諦めたカ」とポウが思ったその時、卯月は縛道を発動するわけでもなく、瞬歩で移動するわけでもなく、ただ口を開いた。

 

「へぇ、欠伸か。それは良い傾向だね」

 

 ――刹那、ポウの圧縮された霊力が四散した。

 

「ナン……ダト……!?」

 

 技が発動できなかったことに動揺したポウが、原因であろう卯月を見た時、あることに気がついた。

 

「ソレハ……!?」

 

 ポウが見やすいように掲げられたら卯月の右手には三つの穴が空いた斬魄刀が握られて居り、そこには血が滴っていた。

 

「何で血が僕の斬魄刀に付いてるのって思ってるね? その答えは簡単さ。治したんだよ、他でもない僕が。だって痛みは睡眠の邪魔になるからね」

 

 睡蓮の能力の一つは、刀身に空けられた三つの穴から発せられる煙を体内に取り込んだ相手の全能力を無効化しつつ、眠りへと誘う能力だ。

 煙と聞いて勘違いするかもしれないが、別に睡蓮の煙は口や鼻からしか入らない訳ではない。それこそ傷口から菌のように侵入させることだって可能だ。

 

 つまり、先程卯月はポウの身体に浅い傷をつけ、そこから睡蓮の煙を侵入させることで、巨大化したポウの無力化を図ったのだ。

 

 そして、卯月の目論見通りポウの帰刃は解け、元の姿へと戻っていく。

 

「【誘え“睡蓮”】」

 

 卯月の声を合図にポウは地面に倒れ伏し、永遠の眠りへと誘われた。

 

 

***

 

 

「申し訳ありませんバラガン様! 奴等は我々が始末して参りますので、どうぞお座りになってお待ち下さい!」

 

 四つの柱に向かわせていた従属官が全て倒されたのを確認して、バラガンが重い腰を上げたところ、残った二人の従属官の内の一人であるジオ・ヴェガが先んじて頭を垂れた。それに合わせてもう一人の従属官であるニルゲも膝をつく。

 

「――誰を始末するだと?」

 

 しかし、突如現れた人物によってその返答は遮られる事となる。

 

「蓮沼達を始末するというのか。それとも我々全員か……。返答次第では私がお前から始末するぞ」

 

 そこに居たのは砕蜂と大前田の二人で、護廷十三隊最速の隠密機動の名に恥じない行動の早さだった。

 

「まあ、返答せずとも始末するがな」

 

 そう言った砕蜂が後ろ腰の斬魄刀を抜きはなった時が、戦闘開始の合図となった。

 

 ジオ・ヴェガと砕蜂がどちらからともなく動き出し、互いの斬魄刀を打ちつけ合ったのだ。

 また、大前田もただ待機している訳ではなく、それを確認すると、砕蜂と並ぶ形でバラガンの従属官一人であるニルゲと対峙した。

 

 そして、移動していたのは大前田だけではなかった。砕蜂とジオ・ヴェガの一合を皮切りに、元柳斎以外の護廷十三隊の面々が一斉に動き出した。

 

 冬獅郎と乱菊の十番隊と、狛村と射場の七番隊に雛森を加えた計五人は、互いに背を合わせながら、金髪褐色で女性の破面――ティア・ハリベルとその従属官――アパッチ、ミラローズ、スンスンと対峙した。

 

 それと同時に、京楽と浮竹の二人は気だるげな表情を浮かべた中年の男の破面――コヨーテ・スタークと勝ち気な表情を浮かべた少女の破面――リリネット・ジンジャーバックと対峙した。

 

「……さて、漸く本番かの」

 

 それらの一連の流れを見ていた元柳斎が口を開き、次の瞬間、霊子でできた足場に杖の姿をした斬魄刀を打ちつけた。

 

「かかれ!! 全霊を賭して、ここで叩き潰せ! 肉裂かれようと、骨の一片まで鉄壁とせよ!! 奴等に尸魂界の土を一歩たりとも踏ませてはならぬ!」

 

 元柳斎の声が空気を震わせ、この場にいる護廷十三隊全員の気持ちを引き締めた。

 




 この戦い、場面の移り変わりが激しいから非常に書くのが難しいです。
 基本的には原作と大きな変化がないところは飛ばそうと考えているんですが、苦戦を強いられてしていますので、次回以降の更新が遅れる可能性があるかもです……

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