転生した先が死後の世界で矛盾している件 作:あさうち
……私の出る幕あるのかな?
あと、今回後半の方に初めて三人称視点を入れてみました。なので違和感などがありましたらアドバイスなどをして頂けると嬉しいです。
護廷十三隊二番隊。そこは隊長が中央四十六室の下位組織として多種多様な任務に就く隠密機動の総司令官も兼任しているという理由から、隠密機動との結びつきがとても強い部隊である。
そして二番隊が司る隊花は翁草でその意味は何も求めない。その為、二番隊の隊長である砕蜂隊長を始め、多くの隊員は任務に忠実で真面目であることが多い。
僕の前世でも友達は彼女のことを四莫迦の一人だとか蔑称していたけれど、あまり詳しくない僕からすれば、彼の方がよっぽど莫迦に思える。
何故、急にこんな説明をしだしたかと言えば、話は簡単である。
今日、僕は近い将来お世話になるかも知れない二番隊の門を叩きに来たのだ。
「さあ、着いたよ蓮沼君。ここが二番隊隊舎だよ」
――藍染隊長と一緒に……。
結局あれから霊術院が休みである三日後、つまり今日に二番隊に交渉しに行く約束をして藍染隊長と別れたのだ。
「五番隊藍染隊長と真央霊術院六回生の蓮沼卯月君ですね? 話は聞いております。隊長の下へと案内しますので、付いて来て下さい」
事前に話は通っていたようで、変に詮索されることもなく、すんなりと通された。
道中、二番隊の隊士と隠密機動の人が修行している姿が目に入ったけど、圧巻だった。正拳突きに蹴り、どれをとっても鋭く、僕もここでお世話になることができたらあの技が身につくのかとワクワクした。
「気になるのかい?」
「はい、そうですね。できることなら今すぐあそこに混ざりたいぐらいですよ」
そのせいか、藍染隊長の言葉にも素直に反応してしまう。別に知られて困ることでもないけれど、我ながら警戒心が無さ過ぎると、一度気持ちを入れ直した。
「なら、許しを貰えるように頑張らないとね」
優しい声音で藍染隊長が呟く。……いや僕としては断られて普通に二番隊に入隊することがベストなんだけどね。
「ははっ、そうですね」
そんなことを言うはずもなく、愛想良く相槌を入れる。
「着きました」
修行風景に夢中になっていた所為か、隊首室までの道のりがとても短く感じた。
では、と去っていく案内してくれた死神にお礼を言ってから、僕は隊首室の扉にノックをした。
『入れ』
中から砕蜂隊長であろう女性の声が聞こえてくる。その声音は非常にはきはきとしていて、凛とした印象を僕に与えた。
「失礼します」
僕が先に入室して先に礼を済ます。藍染隊長も僕に続いた。普通なら藍染隊長が先に行くべきなんだろうけど、これから行われる話は僕の話だ。なら、藍染隊長に頼らず、先に行くのが通すべき筋だろう。
「真央霊術院六回生の蓮沼卯月です。本日はお忙しい中お時間を割いていただきありがとうございます。よろしくお願いします」
「僕からもお礼を言うよ、砕蜂隊長。今日は蓮沼君の為に時間を割いてくれてありがとう」
次いで自己紹介を済ます。砕蜂隊長は真面目な人柄だと藍染隊長が言っていたので、なるべく丁寧に言葉を選んだつもりだ。
下げていた頭を上げて砕蜂隊長を観察する。
艶やかな青みがかった黒髪を短めに切りそろえ、何やら布のようなもので巻かれた二房の髪を左右に垂らしている。
端正な顔立ちと鋭い目つきからは、真面目さが窺えたし、隠密機動らしいと思った。
「いや、いい。私も最近噂になっている巨大虚を倒したという院生が気になっていたからな。……それにしても、随分と女々しい顔をしているのだな」
「なっ!?」
急にそんなことを言われると思わなかったから、つい声を漏らしてしまった。……前世の時から結構気にしていることなのに。
それと、僕の隣でクスクスと笑っている藍染隊長には少しムカついた。おくびにも出さないけれど。
「いや、悪かった。忘れてくれ。先ずは立ち話も何だからな、そこに座ってくれ。話に移ろうではないか」
「はい、失礼します」
砕蜂隊長の指示に従い、僕と藍染隊長は腰を掛けた。
「既に知っているとは思うが、二番隊隊長兼隠密機動総司令の砕蜂だ。今日はよろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
「早速本題に入らせてもらうが、蓮沼。お前は五番隊に在籍しつつうちの隊で修行したいという話だったな?」
「はい、その通りです」
会話はハイペースで進んでいく。僕はそれを邪魔しないように最低限の相槌を打つことを心掛けた。
「結論から言わせて貰うと、それは構わない。お前のような将来有望な人材がこうして熱心なことはいいことだからな」
「はい、恐れいります」
どうやら、話は前向きに検討されているらしく、残念だと思ったけど、自身がこうして誉められることには嫌な気持ちはしなかった。
「それでは、砕蜂隊長。蓮沼君が来年から二番隊で修行を積むことは構わないということでいいかな?」
「待て、そう話を急くな」
最後に話を纏めようと口を開いた藍染隊長だったけど、それに砕蜂隊長は待ったをかけた。
「確かに構わないと言ったが、このまま他隊の人物の出入りすんなりと承諾するというのも癪だ。……だから、蓮沼。お前、少し戦っていけ」
「……はい?」
なにやら面倒なことになりそうである。
***
場所を二番隊の屋外修練場へと移し、僕はこれからの模擬戦に備えて準備体操をしている。辺りは戦いを一目見ようと赴いた二番隊の隊士の方々で賑わっていた。
目の前に対峙するのは楠木さんという僕の一つ上の先輩らしい。
この模擬戦は一応は僕の入団試験のようなものだけど、本当の目的は僕に興味を持った砕蜂隊長が僕の力を見るというところにある。所謂、出来レースだ。
最初は適当に手を抜いていれば、五番隊への入隊を回避できるのではないかと考えたけど、よくよく考えてみれば、僕程度が護廷十三隊の隊長二人の目を欺ける筈もなく、その野望は一瞬にして潰えた。
最悪の場合、藍染隊長には疑われて、尚且つ砕蜂隊長には嫌われるということになっていたかも知れない。……気づけて良かったよ。
だから、僕は少し方針を変えることにした。
――それは、五番隊への入隊を回避することではなく、
正直言って、僕がここから五番隊への入隊を回避できる可能性はほぼ無に等しいと思う。だけど、五番隊からの異動なら話は別だ。要は僕の力を砕蜂隊長に見せることができればいいのだ。
護廷十三隊はどの隊も所謂実力至上主義。生まれや身分に関係なく、力のあるものが要職に就くことができるし、有用な人材と判断される。
だから、この場で打てる僕の最善手は砕蜂隊長に僕が欲しいと思わせること――即ち、全力で先輩に勝ちに行くことだ。
「双方準備はいいか?」
凛とした砕蜂隊長の声が訓練場に響き渡る。
「はい、いつでも」
「僕も大丈夫です」
そして、僕と先輩もそれに首肯する。
「では、双方位置につけ」
僕は所定の位置へと歩みを進みながら、考えた作戦に穴がないか確認する。まあ、作戦と言えるほど大層なものじゃないんだけどね。
「これより、二番隊
掛け声に合わせて僕と先輩は同時に構える。
「始め!」
次の瞬間には、僕はもう先輩の懐へと侵入していた。
「なっ!?」
驚いている先輩だけどもう遅い。確かに、白打で打ち合いになっていれば、僕に勝ち目はなかっただろう。
だけど、僕が最初の一撃で勝負を終わらせると決めた時から、既にこの勝負は決まっていたのだ。
以前に僕は瞬歩と縛道と回道は学年で断トツの成績だと言ったけれど、これではあまりに抽象的だ。だから、僕に対する教師陣からの評価を足しておこうと思う。
前に教師達は僕をこう評した。
――瞬歩と縛道、それから回道の実力は上位席官並みだと。
故に、僕が純粋なスピード勝負に持ち込んだ時点で、席官でもない先輩に勝ち目はない。
とはいえ、これではあまりに味気ない。確かに、このままでも十分実力を示すことはできるけど、ここはもう一押しだ。
「【
「うぐっ!?」
刹那、僕が繰り出した拳に合わせて衝撃波が発生。衝撃波は先輩の鳩尾に突き刺さり、そのまま吹き飛ばした。
「それまで! 勝者、蓮沼卯月!!」
僕の勝利に見物に来ていた二番隊の人達がざわついた。恐らく、僕が勝ったことに驚いているのだろう。巨大虚の一件で多少は名前が知られた気になっていたけれど、どうやらそれは自惚れだったようだ。
すると、砕蜂隊長が僕に下にやってきた。
「……今の一撃はなんだ?」
もしかしなくても衝破閃のことだろう。ここ六日間の努力が報われたようで何よりである。僕は六日前に瞬閧を習得すると決めてから、先ずはその足がかりとして、白打に鬼道を乗せる練習を始めたのだ。
思わぬ所で出番が来たけど、狙い通りの食いつきに頬が吊り上がりそうになるのを堪える。
「白打で相手に攻撃する瞬間に、破道の一“
確かに僕は破道が苦手だけど、全くできないという訳ではない。一応三十番台までは習得している。……詠唱ありきだけど。
「……なるほど、白打の安定感に鬼道の爆発力を加えたというわけか。面白い」
気に入っていただけたようで何よりです。今回、僕が衝破閃を使ったのは、砕蜂隊長が既に瞬閧を習得しているのであれば、僕の瞬閧への適性を見抜いてもらうため。そして砕蜂隊長がまだ瞬閧を習得していないのならその足がかりを見つけてもらうためだ。この反応を見るにどうやら後者らしい。
正直、今の僕の白打じゃ、どれだけやっても瞬閧なんて習得できそうにない。それなら偶然を装って僕が砕蜂隊長にヒントを出し、それを元に砕蜂隊長が瞬閧を完成させ、そして白打の実力を上げた僕に教えてもらう。という方法が一番効率がいい。
「本来なら護廷十三隊入隊後という話だったが特別だ。蓮沼、明日からお前は好きな時に二番隊に来てもらっていい」
「……え?」
「それは本当かい、砕蜂隊長?」
「嘘を吐いてどうする?」
疑問を露わにした僕と藍染隊長だったけど、砕蜂隊長は飄々とした様子で受け流した。
……ていうか藍染隊長に関しては完全に演技だよね?
「やったじゃないか蓮沼君」
「はい! ありがとうございます! 砕蜂隊長!!」
だけど、今に限っては演技かどうかだなんてどうでもいい。僕は喜びを露わにし、笑顔でお礼を言った。
早速明日が楽しみだ。
こうして、突如行われた模擬戦は大成功という形に収まった。
「じゃあ、蓮沼君。これからもよろしくね」
「……はい」
それと共に、僕の五番隊への入隊がほぼ決定した瞬間でもあった。
前途は多難である。
***
――思ったより女々しい。
それが、砕蜂が卯月に対して抱いた最初の印象だった。院生にして巨大虚を倒したと聞いていたので、どんな偉丈夫かと思っていたのだが、拍子抜けしたのだ。
しかし、死神界では見た目と実力が伴っていないなんていうことはザラにある。もし伴っているのなら、十一番隊は真の意味で護廷十三隊最強の座についていたことだろう。
そして、場面は模擬戦へと移るのだが、圧巻だった。
砕蜂は今回の模擬戦で卯月に負けてもらい、胸を貸すつもりでいたのだ。とはいえ、卯月は院生にして巨大虚を倒したという実力者。並みの隊員では手も足も出ずに負けてしまう。
そう思った砕蜂は本来十三席の楠木を一つ年上の平隊員だと嘘をつき、模擬戦へと送り込んだのだが、結果は卯月の勝利という形で収まった。
故に、模擬戦を見ていた隊員はとても驚いていたし、自分も驚いた。
――果たして、この場でアイツの動きが見えた奴は私と藍染以外にいたのだろうか、と。
砕蜂が驚いた点は三つあった。
一つ目は瞬歩の実力。模擬戦で卯月が見せた瞬歩は間違いなく、上位席官に匹敵する速さと精度だった。
そして二つ目は能力のちぐはぐさだ。先にも言ったように瞬歩は上位席官に匹敵するほどの実力だった。にも関わらずだ。
――なんだ、あの甘い踏み込みは?
白打の精度がとても低かったのだ。いや、院生としてなら中の下ぐらいの実力はあるのだろうが、あの瞬歩を見てしまうと余計に低く見えてしまうのだ。
それだけならまだ良かった。確かに余り見られない能力の偏り方をしているが、別に有り得ないことではない。
砕蜂が最も驚いたのはもう一つのことだった。
そう、衝破閃だ。
『白打で相手に攻撃する瞬間に、破道の一“衝”を使うことで一撃の威力を高めました』
当の本人はまるで何のことでもないように淡々と述べていたが、あれはそんな一言で片付けられるような簡単なものではない。
――あれは、攻撃を当てるほんの一瞬の間に自身の鬼道を白打に編み込む高等技術だ。
きっと、血がにじむような努力をして来たに違いないと砕蜂は思った。本人の才能もあるのだろうがあれは一歩間違えれば、自身の身体を傷つけてしまう。そんな技だ。
だが、そんな不安定な技が砕蜂に光を差し込んだのもまた事実だ。
実は砕蜂は自身の成長に一種の行き詰まりのようなものを感じていたのだ。
四楓院夜一が尸魂界を追放されてからというもの、砕蜂は彼女を己自身の手で捕らえると誓って努力し、卍解をも習得して隊長の座へと登りつめたのだが、そこから成長が止まったのだ。
いや、確かに少しずつは成長している。毎日謙虚に修行は続けているし、それは砕蜂も自覚していた。だが、始解や卍解を習得した時のような爆発的な成長が見られなくなったのだ。
それもそうだ。卍解というものは死神の最終奥義だ。それを習得した以上、停滞するのは普通のことだし、別に悩む程のことではない。
だが、砕蜂はそれを物足りなく感じていたのだ。
そんな時に砕蜂は卯月と出会った。彼との出会いは砕蜂にとって所謂起爆剤のようなものとなったのだ。
そして今日、砕蜂は確信した。
――白打と鬼道の融合。あれを極めることができれば、自分は更なる高みに行ける筈だ、と。
盗みを働くようで罪悪感がないわけではなかった。寧ろそんな自分をとても情けなく思った。
故に砕蜂は誓った。
――必ず白打と鬼道の融合を習得し、それを卯月に伝授する事を。
その為には、先ず卯月には白打の腕を上げて貰わなくてはならない。だから、まだ院生の卯月が二番隊で修行することを許可した。
そして、自分は今まで以上に修行に取り組まなければならない。
先にも述べたようにあの技は危険だ。きっと過酷な修行になるだろう。
――だが、砕蜂の目はやる気に満ちていた。
「感謝するぞ。蓮沼卯月」
これで自分は更なる高みへ行き、そしてあの忌々しい四楓院夜一を見返すことができる。
不敵な笑みを浮かべた砕蜂は、自身の修行場所へと歩みを進めた。
瞬閧の云々は独自解釈です。本当に危険な技なのかどうかは知りません。
最後に、感想及び評価ありがとうございました。これからも頑張りますのでよろしくお願いします。
ではっ!