転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

64 / 82
 今回から二次侵攻が始まります。
 一次侵攻の時もそうでしたが、この二次侵攻では更に原作とは大きく対戦カードや結果が変わるので、破面篇の時のように色んな場所を転々としながら描写することになると思います。

 恐らくかなり長くなると思いますが、お付き合いして頂けたら幸いです。


第六十四話

 つい数秒前までは、敵の侵攻を受けたとは言え、まだ原型を留めていた瀞霊廷。

 皆が誇りを持って守護していたその場所が、一瞬にして敵の物に塗り変えられたという現実を、護挺十三隊はすぐに受け入れることができないでいた。

 

 そして、それを高みから見下ろす三人の滅却師の姿が。

 

「侵略、完了だ」

 

 その三人の内の一人、ユーハバッハは瀞霊廷が手中に収まる様を、しかとその目で見届けていた。

 

 卯月の見解通り、彼ら滅却師は瀞霊廷の中に居た。

 千年前の戦いに敗れて行き場を失った滅却師は、最も死神達の警戒が薄くなる瀞霊廷の影の中に霊子で空間を作り、そこで長い間力を蓄えていたのだ。

 ユーハバッハが築いた空間を影とするなら、瀞霊廷は光。相反する二つの世界は、決して今まで交わることはなかった。その世界の在り方から、ユーハバッハはこの影の世界を“見えざる帝国”と名付けた。

 

 そんな世界の王であるユーハバッハの一歩後ろに並んで控えているのは、彼の側近であるハッシュヴァルト。

 

 ――そして、先日ユーハバッハの後継者として任命された、石田雨竜だった。

 

 第一次侵攻で、雨竜は参戦していなかった。その理由は、現世組の仲間である一護達が、虚圏にネリエル達破面を助けに行く際に、滅却師である雨竜のことを気遣ったからなのだが、その彼がその翌日に敵組織に加入しているとは誰も考えなかっただろう。

 

 しかし、それは今まで共に戦ってきた戦友としての価値観から来るものだ。滅却師としての価値観から見た時、雨竜の加入は当然とも言える帰結だった。

 

 今まで、雨竜は自身のことを最後の滅却師と評して来たが、ユーハバッハもまた雨竜のことを滅却師の生き残りと評した。これだけ滅却師が居ることが判明した今も尚、ユーハバッハがそう評した理由は、雨竜と他の滅却師との相違点にある。

 

 それは、石田雨竜が混血統滅却師であるということだ。

 

 九年前、ユーハバッハが有する滅却師の力を再分配する能力“聖別”によって、全ての混血統滅却師は息絶えた。――黒崎一護の母、黒崎真咲も含めて。

 

 しかし、そんな中でも雨竜は生きていた。当然それには訳があり、その詳細は不明なのだが、ユーハバッハはそれを、雨竜に自分を超え得る何かがあるからではないかと考察し、彼を自らの後継者に指名した。

  

 ――全ては石田雨竜という一つの危険分子を抑圧する為に。

 

 滅却師としての価値観で見た時に雨竜が自然に映るのは、彼が見えざる帝国の一員になるところまでだ。

 ユーハバッハ以外の滅却師から見た時、石田雨竜などただのぽっと出の滅却師でしかない。そんな彼が次期皇帝として指名されたとなれば、間違いなく顰蹙を買う。弱みを握って蹴落とそうとする者、見定めようとする者が次々に現れることになるだろう。

 そしてそれは、彼に対する監視の目に他ならない。

 

 例え雨竜が見えざる帝国に対して敵意を持っていたとしても、こうして軍門に下った時点で何一つ身動きが取れなくなってしまったのだ。

 

「雨竜、お前は“聖帝頌歌(カイザー・ゲザング)”を知っているか?」

 

 雨竜の心の内など、実際に開いてみるまでは分からない。

 そんな中で敢えてユーハバッハは雨竜にこの問いかけをした。この問いに、字体通りの真意はない。滅却師として、この歌は知っていて当然の歌なのだから。

 

 この問いの真意は雨竜に歌わせることにある。

 もし、雨竜にユーハバッハに対する忠誠心があるのなら、この歌はユーハバッハを心の底から讃えるものに、敵対心があるのなら敵を讃えるという皮肉めいたものになるだろう。

 

「はい。封じられし滅却師の王は、九百年を経て鼓動を取り戻し、九十年を経て理知を取り戻し、九年を経て力を取り戻す」

 

 ユーハバッハに逆らうことのできない雨竜はこれに答える。淡々としたそのもの言いからは、心の内などとても察せそうにないが、それでも満足気に頷いたユーハバッハは解答を言い渡す。

 

「その歌には続きがある。封じられし滅却師の王は、九百年を経て鼓動を取り戻し、九十年を経て理知を取り戻し、九年を経て力を取り戻し――九日間を以て世界を取り戻す」

 

 鼓動も、理知も、まだ完全ではないものの戦える力も、今の彼には備わっている。

 

 ユーハバッハは、今一度見えざる帝国となった瀞霊廷を見下ろした。

 

 既に、領土は自身の手に納めた。

 

 ――ならば、残りは邪魔者を排除するのみだ。

 

「征くぞ。雨竜、ハッシュバルト」

 

 世界の終わる九日間が始まった。

 

 

***

 

 

 卯月の相手である雷を操る女滅却師――キャンディス・キャットニップは、両手に雷を固定化した剣を握り、斬りかかった。

 

 雷を冠する能力者だけあってその速力は中々のもので、身に雷を帯電させながら戦うその様は、瞬閧状態の夜一を彷彿とさせた。

 並みの死神なら、その動きを目に映すことすらなく絶命しているのだろうが、生憎今の彼女の相手は瞬神の孫弟子である。

 

 故に目で追えないなどと、そんな間抜けな話がある訳がなく、解放と共に斬魄刀を引き抜いた卯月はしかとキャンディスの一撃目を受け止めていた。

 続く右手による二撃目も……。

 

「【排斥】」

 

 縛道によって完璧に受け流した。

 発動の速度からして、今の連撃は読めていたのだろう。

 

「チっ!」

 

 攻撃を受け止められたその瞬間から、逃がすまいと自身に近寄ってくる睡蓮の煙を見て、深追いは禁物だと判断したキャンディスは体勢を立て直すべく、素早く後退した。

 

「【瞬閧・回天傀儡】」

 

 そして卯月も、瞬閧を発動して次の一合に備える。

 最初の位置に戻ったキャンディスは、好戦的な笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「へぇ、ヒョロい見た目してるわりにはやるじゃねぇか。リルの、てめえがぺぺやシャズを倒したって話は信じていいみたいだな」

「まあ、これでも一つの隊を任されている身だからね。そう簡単に負ける訳にはいかないよ」

 

 後ろに居るほたるに目を遣りながら、卯月は答えた。

 そしてほたるもまた、敵を前にしてわざわざ自分に視線を向けて来た卯月の意図を感じ取り、すぐに楠木が集め終わりつつある五番隊隊士の元へと向かった。

 

「ふーん。じゃあ、これならどうだ?」

 

 一先ず退屈することはなさそうだと、卯月の力量を認めたキャンディスは、先程攻撃に使用した雷の剣を持ち、大きく振りかぶって投擲した。

 

「【ガルヴァノジャベリン】!!」

 

 近距離が駄目なら、遠距離からということなのだろう。立て続けに投げ下ろされた二本の雷剣は、重力を味方に付けながら、卯月を殺さんと距離を詰めて行く。

 

「【縛道の六十八“天縫輪盾”】!」

 

 しかし、幾ら投擲で威力を増していると言っても、投げられた剣自体は四十番台の鬼道で受け流せる程度のものでしかない。故にこうして、発動する縛道の番号を上げてしまえば、これくらいの応用技は防げて当然のこと。

 

 そしてそれは、キャンディスにも分かっていた事だった。

 

 彼女は二本の剣を投擲した後、その行方を見ることもせずに次の攻撃へと移行していた。腰に携帯しているハート型のホルダーをコツンと叩くと、そこから彼女の能力を象ったようなギザギザの弓矢が顕現する。

 卯月が“ガルヴァノジャベリン”を受けきった頃には、既に矢はつがえられていた。

 

「【ガルヴァノブラスト】!!」

 

 放たれた矢は、キャンディスの正確な照準のもと、二本の剣を当てた結界の最も脆くなった場所へと吸い込まれていく。やがて、キャンディスの思い通りの軌跡を描いた神聖滅矢は、卯月の結界を打ち砕いた。

 

 結界を突破できたなら、次は術者だ。そうキャンディスはすぐさま次なる矢をつがえるのだが……。

 

「なにっ!?」

 

 破壊した結界のその先に、卯月の姿はなかった。

 天縫輪盾は、発動の際に結界の向こう側が見えなくなる縛道なので、卯月は自分がキャンディスの視界から外れるのを見計らって身を隠したのだろう。

 

 そう分析しながら、キャンディスは卯月の居場所を突き止めるべく霊覚を研ぎ澄ますのだが、結果から言えば、その必要はなかった。

 

「後ろか!!」

 

 何故なら、その時点で卯月は隠密行動から攻撃に移行する為に霊圧を強めていたのだから。

 

 回天傀儡の精密かつ素早い霊力操作を得て、初めて可能となる戦闘中の隠密行動。それによってキャンディスの背後に現れた卯月は早々に戦いを終わらせるべく、煙を吹き出す睡蓮を振るわんとしていた。

 

「その手は喰らうかよ!!」

 

 首筋に向けて放たれたその斬撃を、キャンディスは振り返ることなく前に屈むことで回避。その勢いのまま宙を蹴り、卯月との距離を取った。

 

「一発で対処されちゃったか……」

「たりめーだ! てめえの斬魄刀は一発喰らっただけでアウトだからな」

 

 互いの位置が逆になったところで、一つ言葉を交わす。

 

 もし、今の攻撃でキャンディスが僅かでも振り向く素振りを見せていたら、卯月の刀はキャンディスを掠め、その時点で勝敗は決していただろう。

 だが、キャンディスは実際に卯月の攻撃を躱していた。これはキャンディスにそれを可能とするほどの度胸と力が備わっているという証明に他ならない。

 

 卯月はこの攻防で、一筋縄ではいかないだろうという当初の自分の考えに確信を持った。

 

「そっか。――なら、こうしよっか」

「なっ!?」

 

 キャンディスの睡蓮に対する警戒はかなりのものだ。そのきらいは、卯月がこれまでに戦ったペペやシャズからも感じ取れていたのだが、キャンディスにはこれを掻い潜れるだけの力が備わっているので、このまま睡蓮で眠らせることに重きを置いた戦いをしても、戦況はいつまで経っても傾かないだろう。

 

 故に卯月はそんな流れを変えるべく一つ手を打ったのだが、それはキャンディスの驚愕を禁じ得ない策だった。

 

 

***

 

 

 一方その頃、“灼熱(The Heat)”の能力を持つ滅却師、バザード・ブラックことバズビーは、一次侵攻の時と同様に開戦直後から暴れ回っていた。元柳斎の炎をまともに喰らったことで、護廷十三隊からは既に死んだと思われていた彼だったが、この通り健在だった。

 今も彼が生きているのは、元柳斎の炎の威力を、彼自身が持つ炎で減衰したからだ。その時は始解状態だったとは言え、元柳斎の流刃若火は並みの卍解を上回る力を持っている。このことから、彼がかなりの実力者であるということは想像に難くなく、実際に彼が放った炎は、まだ塗り変えたばかりの世界を赤く染め上げていた。

 

「く、クソっ!?」

「通すな! 通すなー!!」

 

 警備から戦闘態勢に入った護廷十三隊隊士も、好き勝手暴れるバズビーにこれ以上好きにはさせまいと抜刀し、接近するが、バズビーが広範囲に放った炎の膜を越えられる者は居なかった。

 

 始解も習得できていない隊士が、これを越えるのは到底無理な話なのだが、あまりの呆気なさにバズビーは嘲笑を堪えきれなかった。

 

「ハッ、何が通すなだバカが。侵略は既に完了してんだよ。瀞霊廷は消えて無くなった。そんな中で俺らを通すも通さねぇもねぇだろうがよ」

 

 耳をほじりながら、バズビーはそう呆れ返った。

 

 確かに彼の言う通り、最早ここは瀞霊廷ではなく、滅却師達の領土だ。

 今の彼らの目的は、敵を殲滅することただ一つ。向かう先など、特にないのである。

 

「確かに、通すも通さねぇもないのかもな」

 

 故に、彼に話しかけた男も、彼の言い分を否定するようなことはしなかった。

 

「――だが、お前の炎は通らなかったぜ」

 

 その言葉を聞いたバズビーは、とっくに興味が失せていた、既に自分が焼き払った死神達に目を遣るのだが、そこにいた死神は一人残らず氷の障壁によって護られていた。

 

「……へえ? まさか俺の炎が氷で防がれるなんてな。面白れぇじゃねぇか、氷の隊長サンよう!」

 

 まさか防がれると思っていなかったバズビーは、好戦的な表情を浮かべながら、その氷を放った人物――日番谷冬獅郎に目を向けた。

 既に始解状態の冬獅郎の隣では、彼の副隊長である乱菊も控えている。

 

「……十番隊隊長、日番谷冬獅郎だ」

「星十字騎士団『H』! “灼熱”、バズビー! 俺達相性が良さそうじゃねぇか、随分とよぉ!」

「そうだな」

 

 バズビーは荒々しく、冬獅郎は冷静な言葉遣いで会話を進めていく。それぞれの能力を象ったかのようなその在り方は、既に戦いが勃発しているような錯覚さえ抱かせた。

 

「行くぜ!」

「こい」

 

 そして次の瞬間、炎と氷がぶつかり合った。

 

 

***

 

 

「まったく、どこに行ったのよグリムジョーは……」

 

 場所は変わって見えざる帝国となった瀞霊廷の西側。

 

 一次侵攻の後、西流魂街のはずれで夜を明かしたネリエルとグリムジョーは、探査回路によって戦いを嗅ぎつけ、戦場を駆け抜けていたのだが、見えざる帝国に入った途端、我先にと戦いを求めて先行したグリムジョーに、ネリエルは愚痴を溢していた。

 

 一次侵攻の際は援軍として来た為、敢えて戦力をバラけさせて戦った。しかし今回の侵攻では、隊長格の卍解も解禁されるので、善戦が望めるだろう。

 そう考えていたネリエルは戦況を鑑みて、自分達がどう動くか決めようとしていたのだが、グリムジョーによってそれは出鼻から挫かれることとなった。

 

 しかし、グリムジョーの性格や一次侵攻の時の彼の行動を考えれば、こうなることはある程度予測できた事だ。故にネリエルは決して焦ることなく、この戦いも一人で行動することを決めた。

 

「ちょうど敵もやって来たことだしね」

 

 そう言ったネリエルが視界に捉えたのは、自身に降り注ぐ無数の矢だった。

 

 すかさずネリエルは、自分に当たりそうな矢だけ虚閃によって打ち消したのだが、外れた残りの矢に、奇妙な光景を見た。

 

 牙を宿した獣の口のような形状をした鏃が、地面を食い千切ったのだ。

 

「随分と食い意地の張った矢ね……」

 

 ネリエル自身も、一瞬自分が何を言ったか分からなくなるような言葉だったが、そうとしか言えないのだから仕方がない。

 

 そもそも、本来注視すべきところはそこではない。

 矢が降って来た方向から大体の敵の位置を特定したネリエルは、そちらに視線を向ける。そこに居たのは、小柄な金髪の少女だった。

 

「チッ、デケー霊圧を感じたから来てみたが、やっぱり破面か。これじゃあ、腹の足しにならねぇじゃねーか。見た目は羊っぽくてうまそーなのによ……」

 

 少女は、その華奢な見た目からは想像もつかないような荒い口調で、物騒なことを宣った。

 

 しかし、別段驚くようなことではない。

 弱肉強食の虚圏で暮らすネリエルにとって、霊力を持つ者を食すことは、当たり前のことなのだから。虚の頃は勿論、破面となった後も、食事をそのまま自らの力に変えるアーロニーロ・アルルエリような者も居た。

 またネリエル自身も、敵の霊力による攻撃の威力を口から体内に取り込み、虚閃の威力を加算する重奏虚閃という技を持っている。

 

 そんな破面ならではの価値観を持つネリエルが考えるに、この少女もそれに似たような能力を持っているのだろうとあたりをつけた。

 

 そして、そんなネリエルの予想は的を射ていた。

 少女――リルトット・ランパードの能力は“食いしん坊(The Glutton)”。食した対象の持つ能力を、消化が終わるまで使用できる力を有している。

 

 しかし、それは何でもかんでも食べられるという訳ではない。彼女も滅却師である限り、虚の霊力を体内に取り込めば異常をきたす。能力によって口から摂取した場合にはある程度の軽減が望めるだろうが、少しでも量を誤れば、所謂食中毒のような症状を起こしたとしてもおかしくないのだ。

 腹の足しにならないというのは、そういうことである。

 

「どうやら、矢が食い意地を張ってるのは射手譲りみたいね」

「うまそーな見た目してる方が悪ぃんだよ」

「別に咎めたつもりはないわ。ただ、親近感が湧いたの。だってあなたの能力、私の技と少し似ていそうだもの」

「……その様子だと、オレの能力の見当はついてるみたいだな」

 

 鏃と短い会話。決して多くはない情報で能力の推測をやり遂げたネリエルに、リルトットは警戒を強める。

 

 今回の戦いで、滅却師を強敵たらしめる理由の一つに情報量の差がある。長い間影の外の様子を伺っていた滅却師に対し、影の内の存在にすら気付いていなかった護廷十三隊。その差は歴然だろう。

 故に、リルトットもそのアドバンテージを最大限利用するつもりだったのだが、まさかこんな早くに能力が看破されるとは思わなかった。

 

 答えを聞いた訳ではないので、ネリエルの推測が間違っているという可能性もあるが、それも自身の技と似ているというネリエルの発言から、極めて低いものだと察することができる。

 

「ネリエル・トゥ・オーデルシュバンクよ。似た者同士、仲良くできるといいわね」

「星十字騎士団『G』、リルトット・ランパードだ。似た者同士の情けだ。殺した後は食わないでいてやるよ」

 

 軽く言葉を交わした彼女達は、どちらからともなく武器を取り、戦い始めた。

 

 

***

 

 

「……始まったか」

 

 ある所では雷が落ち、ある所では霧が立ち込め、またある所では爆発が起きる。

 彼、山本元柳斎重國は一番隊隊首室だった場所から、外で起きている戦いを静観していた。

 この期に及んでじっとしているというのは、彼らしくない行動だ。実際、元柳斎自身も開戦と共に自らが前に出る予定だったのだが、その予定は早々に狂わされた。

 

 ――何故なら、既に敵はこの場に居るのだから。

 

「フンっ!」

 

 振り向きざまに斬魄刀を解放した元柳斎は、流刃若火の炎で柱を一つ焼き消した。

 消滅した柱のその後ろ。そこには一人の男の姿があった。男は性別のわりには長い、背中まで伸ばされた金髪を揺らしながら姿を現した。

 

「お主は確か……」

 

 その顔には見覚えがあった。

 一次侵攻で、目の前の男は戦闘には参加しなかったものの、常にユーハバッハの傍に控えていたので印象に残っている。

 そしてこの男は、一護の天鎖斬月を折った人物でもあった。

 

「見えざる帝国、皇帝補佐兼星十字騎士団最高位(グランドマスター)。ユーグラム・ハッシュヴァルト」

「ユーハバッハはどうした? 貴様は奴の側近じゃろう?」

 

 ハッシュバルトが名乗りを終えたところで、元柳斎は本題であるユーハバッハの所在について質問した。ハッシュバルト自身が言ったように、彼はユーハバッハの補佐である。そんな彼がユーハバッハの下を離れているというのは不自然だった。

 

「ここに陛下は居られません。そして私は陛下からの命を受け、ここに参りました。――あなたを含め、直ちに敵を殲滅せよ、とのことです」

「ほう……。側近に過ぎん貴様が儂を討つか」

 

 侮られたと思った元柳斎は、威嚇の意味も込めて霊圧を放出する。卍解は奪われてしまったが、それでも元柳斎の戦闘力は並みの隊長格を上回る。

 故に決して油断できる相手ではないのだが、今元柳斎の前にはハッシュヴァルト一人しか居なかった。

 

 しかし、そんな威圧を前にしても、ハッシュヴァルトは一歩も引かない。それどころか表情を一切変えることなく、元柳斎に相対していた。

 

「成程。お主だからこそ、ここに居るという訳か」

 

 その様を見て、元柳斎もまた考えを改めた。

 

 ハッシュヴァルトは、ユーハバッハの側近。つまりは滅却師のナンバー2だ。その戦闘力はユーハバッハの次に秀でているものと考えていいだろう。

 

 対する今の元柳斎の戦闘力は、滅却師で例えるなら星十字騎士団以上、ユーハバッハ未満と言ったところだろう。その彼にユーハバッハが相手するのは過剰戦力。だからと言って放っておけば、星十字騎士団は彼に殲滅されてしまう。

 だからこそ、ユーハバッハは元柳斎をハッシュヴァルトに任せたのだ。

 

 確かに、ユーハバッハは卍解を奪われた元柳斎を敵と認めていないのかも知れない。だが、ハッシュヴァルトは全身全霊を以て元柳斎を相手どろうとしていた。

 

「ならば、儂も加減無しで相手せねばならんのう。ユーハバッハに考えを改めさせる為にもな」

 

 ユーハバッハが、元柳斎を自分の相手に相応しくないとハッシュヴァルトをあてたのなら、彼を倒すことこそが何よりもの意趣返しだ。

 

 使命こそは瀞霊廷の防衛だが、今の元柳斎の心の持ちようは挑戦者のそれだった。

 

 久しく、忘れていた感情が元柳斎の闘志を燃え上がらせる。やがてその闘志は彼の斬魄刀から噴き出る炎に、目に見えて現れた。

 




山本元柳斎VSユーグラム・ハッシュヴァルト

砕蜂&大前田VSロバート・アキュトロン

平子&吉良VSジゼル・ジュエル

卯ノ花烈(八千流)……剣八との斬り合いの末死亡。

虎徹勇音……元四番隊隊舎にて待機。

卯月&ほたるVSキャンディス・キャットニップ

白哉&恋次VSナナナ・ナジャースクープ

狛村&射場VSミニーニャ・マカロン

京楽&伊勢VS石田雨竜

修兵&雛森VSニャルゾル・ワイゾル

冬獅郎&乱菊VSバザード・ブラック

更木剣八……卯ノ花との斬り合いを終えた後、やちるを捜索。

草鹿やちる……まあこの子はそもそも剣八のアレですし……。

一角&弓親VSグレミィ・トゥミュー

マユリ&ネム……アスキン・ナックルヴァ―ルと対峙するも、アスキンが離脱。

浮竹および十三番隊……神掛中の浮竹を十三番隊全員で護衛。

グリムジョー・ジャガージャックVSアスキン・ナックルヴァ―ル……マユリから逃げるも、その先でグリムジョーと出会ってしまった。

ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクVSリルトット・ランパード

浦原喜助……雪緒とリルカを連れて来る為、一時現世に帰還。

井上織姫……回復要員として四番隊と一緒。

茶渡泰虎……喜助に同行。

 原作と大きく流れが変わってしまい、全て描写しきれないと思うので、ここにまとめときます。

 一次侵攻の時に何も考えずに星十字騎士団倒しまくってしまったので、十三隊の相手が居なくなって焦った。お陰でニャルゾルや雨竜が戦うことになっちゃいました。
 それでも何とかやりくりできたので、助かりました。もしこれで足りなくなってたらエタるか数話前からやり直してたかもしれません。

 だからあれだけプロット作れと……。恐らくこの小説を書いて得た一番の教訓がこれですね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。