高町さんは甘えたい。   作:stan

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一話に纏めきれなかった‥己れの未熟さよ‥



ぼーなすとらっく。
高町さんは甘えたい。ぼーなすとらっく。「ハゲとデート」前


 

 

 

 私が隊長に告白して‥受けいれて貰った日から数日。

 デートとか行ってみたいなあ‥私から誘うべきなのだろうか、いや、やはりここは隊長に誘って貰いたいなあ‥。等と考えながら、

いつもの「なの散歩」をしていると、

食堂の隅に肌色が見えた。

 あの光り具合いは隊長だ。

私がその反射を見逃さず、目を向けると、そこにはやはり隊長がいた。

声を掛けようと近づくが、

 隊長は一人ではなかった。

私は声を思わず出掛けた言葉を呑み込んでしまう。

テーブルには隊長と、キューブ副隊長がいた。

 私は何故か、二人の死角に回り込み、息を潜める。

 二人の会話が漏れ聞こえてくる。

何を話しているのだろうか。

好奇心に勝てず、つい聞き耳を立ててしまう。

 

「なのスケと付き合う事にしたんだって?」

 

「耳が早いな‥」

 

「そりゃあたしにとって、大事な二人の事だしね‥無いと思うけど、もし、なのスケを泣かせるような真似をしたら、いくら隊長と言えども許さないからね?」

 

「そうだな‥せっかく選んで貰ったんだから‥目一杯幸せにしてやるさ‥」

 

「お熱いことで‥」

 

「脅しといて茶化すなよ‥」

 

「振った女のぼやき位、流しなよ‥」

 

「‥すまん」

 

「ごめん‥意地悪言ったね‥」

 

「‥すまん」

 

「2回も謝らないでよ‥」

 

「‥んじゃさ!なのスケのどこが好きなのか教えてよ!」

 

「‥マジで?」

 

「マジで」

 

「うーん‥そうだなあ‥」

 

ゴクリ‥!と、唾を飲み込む音が妙に大きく聞こえた。

 心拍数は上がりっぱなしだ。

 

「フェイトに訓練付けて欲しいと頼んできたときに、俺の仕事をアイツが代わりにやったことあっただろ?」

 

「‥ああ‥ありましたね‥」

 

「ああいう、友達の為に頑張る所とか‥なんか良いよな‥」

 

「確かにね‥あたしも急に手伝い頼まれて、戸惑ったけれど、あれであの子の事気に入ったんだよね」

 

「後、変に意地張るとことか‥その癖、結構すぐ泣くとことか‥時々、予想出来ない事も仕出かすし、なんか、気が付いたら、目を離せなくなってた‥うん。なんか可愛いんだよあいつ」

 

「‥そっか‥うん‥解るよ‥私もあの子、すごく可愛いし‥」

 

‥限界だ。

 そこで私は食堂を走り出る。

 

「‥あれ?」

 

「どうしたの?スバル?」

 

「うん。ティア‥今なのはさんが食堂から走り出てきたんだけど‥」

 

「けど‥何よ?」

 

「見間違いかもだけど、すんごいにやけてた」

 

「‥見間違いね」

 

◆◆◆

 

「‥行ったか」

 

「‥ふふ‥隊長。顔真っ赤」

 

「‥うるせ」

 

と、俺は俺の前で悪戯っぽく頬笑むキューブを睨み付ける。

高町が聞いているのをわかっていながら、妙な話を振って来たキューブを恨めし気に見ながら、俺は額に手をやる。確かに、キューブの言う通り、ひたすら熱い。

 

「で?何の狙いだったんだ?」

 

恨めし気に問い質すと、キューブは悪怯れることなく鋭利な言葉のナイフを投げてきた。

 

「どうせ隊長の事だから、なのスケに好きとか言ってないんでしょ?」

 

「‥うっ」

 

 ぐうの音も出ない言葉に咽から妙な息が漏れる。

 

 するとキューブは呆れたように溜め息をつく。

 

「あのね‥言葉にしなくても伝わってる‥なんてのは、男の甘えでしかないからね?」

 

「はい」

 

キューブのナイフのような尖った言葉に俺は小さく呻くように返事をするしかなかった。

 

「‥いいこと?甘えが許されるのは女だけなんだよ‥ハゲオヤジの甘えとかキモいだけだから‥ユーアンダスタン?」

 

「イエスマム」

 

 ちょっとキューブちゃん‥辛辣過ぎませんかね?

 俺‥ハゲちゃうんじゃないかな。‥もう手後れだった‥。

ドン!と、食堂のテーブルを叩き、キューブは俺を睨み付ける。

 

「なら直ぐに行動!どうせ、デートだってしてあげてないんでしょ?!」

 

「へいへい‥」

 

いつものキューブらしからぬ剣幕に俺も苦笑いしながら、腰を上げる。

 

「女を待たせていいのは良い男だけなんだからね‥」

 

その言葉には、何やら反論出来ない重みがあった。

 

‥ぐうの音も出ない。

 俺は急いで立ちあがり、高町を探しに、席を離れる。

 

「‥ふっ‥ま、隊長は良い男だけどね‥でも、時間切れ‥もう、待ってあげない‥」

 

私は隊長が去った後、一人呟くと、残っていたお茶を一気に煽る。

 

「今夜は呑むとするかな‥なのスケ‥幸せにね‥お姉さんのお節介はここまでなんだからね‥」

 

◆◆◆

 

「うー‥」

 

 部屋で私は鏡を見ながら、顔をマッサージしていた。

 にやけた顔が戻らないからだ。

 赤みも引かないし、どうしよう。

隊長とキューブ副隊長の会話が思い出そうとしてないのに、脳内で繰り返されてしまう。

その度に私の顔は熱くなり、口許は綻んでしまう。

 冷水で顔を洗おう!

 私は洗面室に駆け込み、冷たい水で顔を擦る。

 冷水の冷たさに頭も冷えて、少し落ち着いた気がする。

 まあ、まだ仕事が残っているので、もう一度、お化粧しないとだけど。

 私は顔を拭き、再度お化粧を施していく。

 うん。これなら何とか‥。

私は漸く落ち着いた自分の顔に安堵しつつ、残りの仕事を考える。あれとあれは今日中で‥

 

 

 

仕事のタスクを考えながら、私は油断してしまったのだ。

 相手は不意討ちが得意なあざといハゲだというのに。

 

(コンコン)

 

急に訪れたノックに私は何も考えずにドアを開けてしまった。

 

「‥はーい」

 

そこには‥ハゲがいた。

 落ち着いていた鼓動が再び早鐘を打ち出す。

 

「‥よお。急にすまんな‥」

 

 彼の気まずそうな、言葉に私の動きが止まる。

が、彼はそんな私にお構いなく‥

 

「その‥急なんだが‥今度のオフ‥一緒に出掛けないか?」

 

 ‥は?

 

 今度こそ、私の思考はフリーズした。

 

「‥まち?おーい?高町ー?」

‥ハッ。

隊長に肩を揺すられて、漸く私は再起動した。

 

「うん‥急過ぎたな‥すまん。また誘うわ‥」

 

 何を言い出すのだ、このハゲは。

 行く!行きたい!こんな短い単語が口から出てくれない。早くしないと、お預けになってしまう。

 

「ちぇりおっ!」

 

 私は何とか隊長の胸に拳を打ち込み、彼の言葉を止める。

 殴られた隊長は口をパクパクさせている私を見てキョトンとしている。

 

「‥勿論行くの!」

 

と、言葉を絞り出した。

 これだけの言葉を言うのに、酷く疲れた。

‥恋って大変だ。

 

「お、おうそうか‥」

 

と、隊長は肩で息をする私に心配そうに声を掛ける。

 

「‥じゃあ、今週末にな‥何処か行きたい所あるか?」

 

「ハーゲン!ハーゲンセール行きたいの!」

 

「バーゲンな‥ハゲのセールって何だよ‥鬘のセールか?OKんじゃ昼は向こうで食うとして‥朝10時位に駅前で良いか?」

 

「了解であります!」

 

と、私はドヤ顔で敬礼する。

 そして彼は部屋を立ち去った。

 全く‥彼は不意討ちばかりだ。

そこで私は気付く。

 急いで鏡を覗けば、やはりというか、顔は赤く染まり、緩みきっていた。

 そう。振り出しに戻っていた。

 私ははやてちゃんに午後の仕事に遅れる旨を伝える。

はあ‥今日は残業か‥。

 ‥恋って疲れるけど‥悪くない。

と、私は今の心地好い疲労感と幸福感が混ざりあった、複雑な心境をそう評した。

 

 

 

 

 

 

 

 




 完結後の蛇足読んでいただきありがとうございます。後編はそう時間掛けずに投稿するつもりでは、ありますが、気長に御待ちいただけますと、幸甚ですm(__)m

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